《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」 作:やーなん
今回もアンケートを新たに設置するので、前回の結果は前話でご確認ください!!
では、本編どうぞ!!
「……可哀想に」
私が催眠魔法の安寧の中で微睡んでいた時、その声を聴いた。
揺り籠のような心地よさに、自分が自分でない有様を遠くから他人事のように見ていた時。
私の心は大いなる闇の中へと投じられていた。
私は、気づくと抱きしめられていた。
漠然とした巨大なる暗黒が、私の精神を包み込んでいた。
恐怖は無い。人が夜に眠るように、無防備に。
赤子が母に抱きしめられて、揺られるように。
私は、大いなるかの御方の腕に抱きしめられていた。
「人は誰しも、悪を行う。
規範の中で、してはいけないことを正当化する。
誰も見ていない、誰も通らない赤信号を進む。法定速度を超えて車のスピードを出す。テスト中にコッソリ他人の回答を盗み見る。道端にごみを捨てる。ふとした拍子に学校や会社をズル休みする」
それらは、誰もが行うほんのちょっとの、無意識に行う悪さ、であるらしい。
その例えは、私には理解できなかった。
「法に裁かれず、見逃され、或いは知られぬままに埋もれていく悪事がある。
────その全てを、私は見ている」
暗闇に、赤い双眸が開かれる。
その眼は、奈落だ。人のあらゆる罪と悪に通じる、果てしない底なしの沼だ。
「悪、その全てを知る私は、すなわち人間を全知する者である。
我が盟友が人類の粋を知り尽くし全能なのであれば、私は全ての悪を知る者」
全知と、全能。故に大いなるかの二柱に死角なし。
私は今その大いなる慈悲に触れられていた。
「我が名はリェーサセッタ。この世のあらゆる邪悪と悪逆を司る者。
我が子の寵愛に預かりし者よ、お前の境遇を憐れもう」
私の閉ざされた心の中に、苦痛と恐怖が蘇る。
私は、平和な村で平穏に生きていたはずだった。
その安寧が破られ、大勢の盗賊が大挙して押し寄せて来た。
父と母の悲鳴、友人たちの泣き叫ぶ声、知り合いが助けを呼び命乞いをする。
私は逃げた。無意識に全てを見捨てる選択をした。
その最悪の選択は、最悪の結果を齎した。
或いは単純に、その時死ぬよりもずっと。
魔王に魅入られると言う、死すら許されない地獄へと。
罪悪感が去来し、胸が張り裂けそうになる。
正気ではいられないような、全てを投げ出して叫び出したいような悲しみが満ち溢れる。
両手の爪で全身を掻きむしり、泣き叫べばどれだけ楽だろうか。
だが、かの御方はお優しく、残酷だった。
「そのお前の苦しみと悲しみを、取り去ってあげよう」
私の中から、両親の、友人の、知人の死をも悲しむ気持ちが消えていく。
人間が長い時間と共に乗り越えなければならない苦しみが、奪われていく。
なんて、酷いことをするのだろう。
これでは、どうしても前を向かないといけないじゃないか。
あの時の誰かを憎む気持ちも、恨む気持ちも、今の私には存在しないのだ。
「そう、今のお前の状態は健全ではない。
ヒトは時に誰かを恨み、憎まなければならない。
大声で泣いて叫び、気持ちの整理を付けなければならないのだ」
だが、と闇に浮かぶ双眸は言った。
「時間がそれを許さない場合もある。
何時まで経っても、立ち直れない者もいる。
お前もまた、立ち止まることを許されない運命の持ち主だ」
私に掛けられた催眠と言う揺り籠が解かれる。
私は、大いなる御方に慈愛を受けたと言う記憶と共に、微睡みから抜け出していく。
「お前の行く道筋が、我が愉悦を満たすものであることを期待しているぞ」
そして私は、魔王様の前にて意識が覚醒した。
§§§
異形の師匠たちに痛めつけられるようにして鍛えられる日々が終わったのは、唐突だった。
私は帝都の新設する学校に入学することが決まったのだ。
私にとって学校なんて、金持ちか貴族の行く場所という認識だった。
だけどメアリース様の恩寵の下では、誰もが一定水準の教養を得ないといけないらしい。
為政者にとっては民衆が頭良くなっても困るだけだと思うけど、私に勉強を教えてくれた四天王のバンブスさんは、多様性こそが文明の発展に貢献するのだと言っていた。
学校での勉強は、私が教わったことの焼き直しだったけど、見知らぬ大勢の同年代の人たちと一緒に授業を受けるのは楽しかった。
新しく作られた寮での生活は新鮮だったし、同室の子とも仲良くなれた。
だけど私は、すぐに自分の傲慢さに気づかされた。
私は、あらかじめバンブスさんたちに教育を受けていた。
私はみんなより一歩先に進んでいて、勉強をして自分の才能が磨かれていくのが楽しかった。
だけど、他の皆はそうじゃなかった。
この学校に通うのは、元々は帝国の市民権さえないスラムの人たちだ。
文字さえ書ける人が大人でさえ稀だった。
私は、彼らの中では恵まれている方だったのだ。
私のクラスメイトには、親どころか保護者にさえ恵まれている人も少ない。寮に入れさせて、学校そのものが保護者みたいなものだ。
そもそも、この学校はそういった孤児に食べ物と住む場所を与える名目のようなものだと、バンブスさんに教わった。
ヒトは衣食住が満たされ余裕が出来ると、或いは全く余裕がなくて抑圧されると自由を求める、らしい。そう習った。
自由を求める人たちに言わせると、こうした徹底的に管理された社会を嫌うらしいけど、その人たちは本当に彼らの現状を見て言っているのだろうか。
メアリース様に慈悲を賜らなければ、腐った残飯を漁ったり盗みをしないと明日も生きれるかわからないのに。
かの御方の慈悲はタダじゃないけど、彼らが真っ当に生きて社会に貢献できれば自然と返せるものらしい。
全能の御方にとって、私たちに課す借金は社会を健全に回す口実に過ぎないのだ。
話は逸れたけど、そんな彼らにとって私は恵まれた人間らしかった。
きっと面と向かって言われても、言い返せないと思う。
私は、自然と孤立していた。
彼らを、責めるつもりはなかった。
私は所詮よそ者で、彼らには元々路上で生きる者の矜持や連帯感があった。
きっと、私が理解力が乏しい子に声をかけて分からないところを教えてあげようとしても、上から目線にしか見えないんだろう。
だから私は、放課後に独りで訓練場で剣技の型を練習する日々が続いた。
そんなある日に、私はバンブスさんに皇帝陛下とお会いすることになった。
陛下は私より小柄だけど凛々しくて、可愛らしい御方だった。
これで私より二つ上の年齢だというのだから信じられない。
こんな御方にこの国すべての重責を背負わせていただなんて、私は憤りを感じた。
この方を支える為なら全てを捧げても惜しくはないだろう。もし魔王様に拾っていただくことがなかったら、そうしていたかもしれない。そもそも出会うことさえなかっただろうけど。
陛下はこんな私に親しくしてくださった。恐れ多くも、私に姉がいれば陛下みたいな御方が良かったと思う。
この国の至宝である聖剣に触れさせていただいた時、私は何となく運命を悟った。
私がいた村の司祭様の話では、世界樹には意思があり、勇者の持つ聖剣は持ち主を選ぶ、と。
おとぎ話だと、思っていた。子供を喜ばせるためだけの英雄譚だと。
でもそれが、真実だと私は悟った。
それから、陛下とはお互いのことを話した。
陛下は閉塞的で鬱屈したこの国の現状を嘆いておられた。
頻発する内戦、敵国からの圧力、国民の貧困、そして帝位の重責。
話していてわかった。彼女は多くのことを、憎んでいた。
いつ裏切るかわからない諸侯、好き勝手なことばかり言う敵国、いつ底を尽きるかわからない食糧事情。
魔王様に服従したことをきっかけに、帝国の忠誠心を試すことを考えていて、近く従わない諸侯を処断すると決めている、と。
帝都の影響力の少ない領地では、魔王に従うのは帝国に非ず、と反旗を翻す準備を整えているらしい。
バカな人たち。素直に魔王様に従っていれば、生きていられたのに。
魔王様の配下は、大いなる御二柱の統べる数万の世界から無尽蔵に補充される。
常に同数の戦力をぶつけられ、疲弊され、磨り潰される。
真正面から戦っても、魔王様には絶対に勝てないのだ。
だから、この帝国をお救いになられたのも、魔王様の気まぐれなのだ。
私の時と同じで。そう思うと、なぜか胸が締め付けられるように感じた。
そんな時に、帝国の領内に敵軍が迫っていると報告があった。
私は卑しくも心のどこかでチャンスだと、思ってしまった。
魔王様に期待をかけられるだけの自分が怖かった。
何もあの御方に返せていない自分が惨めだった。
幸いにも、皇帝陛下もご一緒してくださる。こんなに心強いことはなかった。
私が自分の幼さに後悔するのはすぐのことだった。
帝国軍が敵軍を迎え撃つのは、国境沿いの砦だった。
歴史ある砦らしく、戦争本来の目的で使うのはおよそ200年振りだという。
これまで、お互いの国は全面戦争を避けていた。
なぜならリスクが大きすぎたからだ。聖樹教国は精強な軍隊を持つが、それは広大な帝国をすべて治めるには圧倒的に数が足らない。
帝国は世界樹奪取を国是と掲げていたがとっくに形骸化しており、侵攻して支配下に置いても統治し続ける体力が無かった。
聖樹教国は適度に飴を与えていれば、帝国が侵略に本腰を入れないことを理解していた。
そうして、200年近い膠着状態が続いた。
魔王様がこうして、すべての前提をひっくり返すまで。
魔王様が憎いだなんて、それに服従した帝国に裁きをだなんて、馬鹿らしい。
そうやって明確な敵を作らないと、相手の国内の不安の行き場が無いのは分かりきっていた。
もはやこの世界に世界樹の恩恵は無い。世界樹の根元の三国はいずれ今あるケーキの取り分を奪い合うことになる。
その前に、共通の敵を作って見た目だけでも団結したほうが賢い選択だったのだろう。
その先鋒が、長年敵対していた私の祖国だったというだけだ。
砦の中は、陛下が現れると恐縮したように敬礼を返したが、彼女は戦時中だと言って仕事に集中させた。
「敵の全容は?」
「伝令でお伝えした通り、敵軍は約三千。
先ほど宣戦布告が通達されました。使者は、聖騎士メドラウド卿」
「聖樹教国のベテラン勇者だな。強敵だ」
皇帝陛下は、砦の責任者からそれを聞いて腕を組んで難しい顔になった。
私の祖国には、勇者の素質を持つ英雄に聖騎士の称号を与える制度がある。
現在では10人ほど居て、いずれも一騎当千の猛者だとか。
メドラウド卿はその中でも一番の年上で、年齢は三十代後半。最盛期は終わっているが、熟練した技の持ち主らしい。
経験豊富で、今回の戦いに適した人物なのだろう。
「魔王様からの援軍は?」
「到着が遅れているそうです」
「ふん、そうか。楽はさせて貰えんらしい」
皇帝陛下はそれだけで察したのだろう、魔王軍を取り仕切るホームホームさんが遅れるなんてことがありえない、と。
まずは独力でどれだけやれるか、やってみろということだ。
「報告!! 敵方、進軍を開始しました!!」
「大砲を撃って相手の出方を見ろ」
陛下は伝令を受けて冷静に命令を下した。
すぐに、砦に取り付けられている大砲が敵軍に火を噴いた。
相手は驚いたことだろう。
こちらの大砲の射程は、従来の常識の二倍を誇っている。命中精度も旧式と比べ物にならない。
そんな新型大砲に滅多打ちにされ、敵軍は早くも壊乱し始めた。
これがメアリース様の恩恵から得られた叡智により作られた大砲の威力である。
だけど、私も、皇帝陛下も、これで終わるとは思っていなかった。
「て、敵軍から物凄い速度で単騎駆けです!!
あ、あれは聖騎士メドラウド卿!!」
「言われんでもわかっている」
私の方からも見える、生身なのに馬に騎乗しているかのような速度で砦に向かってきているのが、勇者メドラウド卿。
時として戦術や戦略を、単独でひっくり返す。それが勇者という理不尽な存在だ。
「結界装置の準備をしろ、強烈なのが来るぞ!!」
皇帝陛下の命令に、はい!! っと兵士たちが大急ぎで準備をする。
その魔法機械も、この世界の常識ではありえない代物だ。
結界が作動するのとほぼ同時に、メドラウド卿が疾走しながら聖剣を横薙ぎに振るった。
私は、目の前が上下に分かたれるような錯覚を受けた。
砦ごと両断するかのような一撃に、結界装置が悲鳴を上げてショートする。
中位魔法を数十発耐える結界装置が、一撃で整備工場行きに確定した。
「私が出よう」
おそらく、皇帝陛下はこうなることは分かっていたのだろう。
一度深く息を吐いて、意を決したようにそう言った。
周囲から、祈るような視線を受けていたのもあるのだろう。
勇者を倒せるのも、また勇者のみ。
帝国の聖剣はただの一振り。故にこの国の至宝なのだ。
私は思った。この御方を、ここで失うわけにはいかない、と。
「皇帝陛下、ここは私にお任せください」
「……良いのか?」
陛下の視線が、私に突き刺さる。
「勿論、その為にお供いたしました」
「そうか。実はお前に期待していた。
浅ましく卑しい女だと、笑うがいい。私は皇帝として敬われるような人間ではないのだ」
「もう時間がありません。
ならば陛下、今後はお名前をお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「……ああ、だから生きて帰ってきてくれ」
陛下の懇願するような声を背に、私は砦の城壁から飛び降りた。
それと同時に、メドラウド卿の第二撃を鞘から引き抜いた聖剣で弾いた。
重いッ!?
ただの一太刀でわかる、素質に胡坐をかいただけではないとわかる、鍛えられた一撃だった。
「まさか、このような少女が、帝国の勇者だと!?」
相対したメドラウド卿は、私を見てひどく驚いた様子だった。
「小娘だから、刃を向けられぬと仰りますか?」
「……これは、失礼した。戦場で武器を持ったのなら、女子供もない。
邪悪な魔王の尖兵として戦うというのなら、是非も無し」
多分、この人は普段はとても良い人なんだと思う。
戦場に私のような子供が出てこない為に戦っていて、礼儀正しく誠実な人だとも思う。
だけど、敵なんだ。
ただそれだけがどうしようもない、現実なんだ。
「せめて苦しまぬように、斬り捨ててくれよう」
「舐めるな、老いぼれ!!」
こうして、私と彼の戦いは始まった。
意外だと思うかもしれないけど、最初は私の方が優勢だった。
「むッ、見たこともない剣技、面妖な!!」
私の剣の師匠は、魔王四天王である“赤鬼”エンズ。
武術には柔と剛があるように、この世界の剣術は剛が主流だ。
対して、師匠の流派は柔に当たる。きっと彼にはやりにくいことこの上ないだろう。
私は彼の攻撃を捌き、躱し、受け流す。
隙を見て、反撃して一撃必殺を狙う。
相手の目が慣れるのが先か、私が彼を斬り殺すのが先か。
「猪口才な!! 小手先でこの私を倒せると思うてか!!」
実をいうと、私はまだ師匠に一本も取れていない。
免許皆伝なんて夢のまた夢だ。
いや、言い訳なんて止そう。
「きゃあ!?」
私の技はほどなくして破られた。
これは相手の方が上手だったのもあるが、単純に技量の差が大きかった。
私は無様に吹っ飛ばされて、尻もちをついた。
私の手にした聖剣が、どすっと私の背後に刺さった。
「その未熟さで、我が前に現れた愚を呪うがいい」
トドメと言わんばかりに、大上段の構えでメドラウド卿は聖剣を振り上げた。
唐竹の一撃、まさしく痛みを感じるまでもなく私は死ぬだろう。
私は、死を覚悟しようとした。
「────ほう」
だが、その寸前で、その声を聞いてしまった。
「居るではないか。
この我に挑むに足る、心技体を極めた勇者が」
メドラウド卿の渾身の一撃を、手の甲で受け止め笑う、かの御方が。
かの者は、女神の化身にして代行者。
────魔王、アテル。
「お、とう、さま……」
来てくれた、助けに来てくれた、という歓喜が私の胸に満ちる。
「貴様は、魔王ッ!!」
あれほど理知的で悲しみに満ちていたメドラウド卿の表情に、怒りが浮かんだ。
咄嗟に距離をとるメドラウド卿を尻目に、魔王様は彼の一撃を受けた手の甲を見て笑っていた。
強固な竜の鱗を、皮を切り裂き、血が滴っていた。
「この世界、思ったよりは退屈せずに済みそうだ。
スズよ、よくぞ戦った。だがあとは下がっていろ」
魔王様は私の頭を撫でると、凶暴な笑みを浮かべて勇者の前に立ちはだかった。
次回、居ないだろうと思ってた普通にかっこいい勇者が現れて、魔王様ご満悦の回。
私が書くこのシリーズで、実はまだ魔王が明確に戦っている描写は書いたことが無いんですよね。
盛り上がるシーンなので、誰の視点でこの戦いを読みたいか、アンケート取ります。ご協力くださると幸いです!!
一番不安なのは、作者が次回を盛り上げられるように書けるかというところですがね!!
魔王様の戦い、誰の視点で見たい?
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魔王様の視点
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勇者スズの視点
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三人称視点
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敵勇者の視点