《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」 作:やーなん
作者が確認した中で、最高は六位でした。
お気に入りも信じられないほどの勢いで増えていって、戦慄してます。
読者の皆様におかれましては、これからも拙作をご愛読くださると幸いです!!
それでは、本編どうぞ!!
魔王様が聖騎士率いる軍団を全滅させた数日後、私は魔王様に謁見を願い出ていた。
「それで、用件はなんだ。ジークリンデ」
心なしか、先の戦い以降の魔王様は機嫌が良さそうであった。
「我が国内の、不穏分子の掃討を奏上したく参りました」
「ほう」
玉座に頬杖をついてこちらを見下ろす魔王様に、緊張が強まる。
「つきましては、魔王様の配下にて粛清を行う対象をリストアップしました。
是非とも目を通して頂ければ……」
「ジークリンデよ」
「……はい」
魔王様は、地鳴りのような重低音の声を幾分優しげにしながら、こう私に告げた。
「ならん」
その答えを、予想しなかった訳ではない。
「我は魔王である、だがこの国の皇帝ではない。それはお前の仕事だ」
自分はお前たちを支配しているが、それとこれとは別だ、という解釈で私は受け取った。
おそらくその認識で良いはずだ。
「お言葉ですが魔王様。我が国民はメアリース様の庇護の対象になったのでは?」
「確かに。だがその対象は、この帝都周辺に限られる。
お前は未だ自分の呼びかけに応じない臣下を裏切者だとして、我に粛清を願い出たのではないか?」
返す言葉が無いとは、このことだった。
「ですが、民に罪は無い」
「聖樹教国の人民にも、帝都以外の人間どもにも罪など無い。
いや、罪を犯さぬ人間などおらぬよ。我が神たる母がそれを証明している」
「そう言うことを言っているのではありません!!」
思わず、声を荒げてしまった。
だが私はこの国の皇帝だ。保身など今更意味も無し、機嫌を損なうとしても言わねばならなかった。
「連中は水面下で結束し、他国と通じて我らを脅かそうとしているのですよ!!」
「好きにさせればいい。今滅ぼそうが、最後に滅ぼそうが、同じことだ」
……大丈夫だ、冷静になれ。
こんなことで逆上しても意味は無い。
「その結果、この帝都に攻め入られたとしてもですか?」
「ほう、言うではないか」
魔王様にとって、女神の決定は自分の意思よりも重い。
そのルールを逆手に取らせてもらう。
「だが、それもまた同じことだ。
至高なるメアリース様は死後の転生をも司る。
人間と言う生き物は、死に希望を求める為に死後の幻想を抱いた。
故に、“人間”の女神たるメアリース様の最終目標は完全無欠の楽園の創造。
あの御方はその試行錯誤を幾星霜と繰り返しておられる。
お前たちもメアリース様の為に働ければ死後に平穏な世界へと導かれるだろう」
だから、魔王様がこの世界に現れた時に最初に言った言葉は嘘ではないのだろう。
「それで、この世界が滅んだ後、テーマパークとやらが出来るのですか?」
「……言うな」
魔王様も、顔を逸らした。
テーマパークとやらがどういうモノかは知らないが、想像するに娯楽施設の類らしい。
我々の紡いだ歴史の上に、娯楽施設が出来るのか……。
流石の魔王様も、その現実を痛ましいと思ってらっしゃるようだった。
そうか、あんなのが我らの神なのか……。
なぜだろうか、目の前がうるんできた……。
「はぁ、まあ良かろう。
我が戯れが招いたことだ。ならば寛容さを示してやってもよい」
「望外の慈悲を賜り、言葉もございません」
泣くな私、あの至高の御方は偉大な造物主なんだ。
この世界の歴史や、我らの先祖代々の積み重ねが、娯楽施設以下なんてことはないのだ。
そう、ないのだ。……うう……ぐすッ。
…………
…………
………………
「お見苦しいところをお見せしました」
「よい、あの御方は歯に衣着せぬ物言いをしないのだ。
……もう少し取り繕えば、人気も多少マシになるだろうに」
魔王様の愚痴も、聞かないことにした。
「勘違いはしておらぬだろうが、なにもメアリース様はテーマパークを作る為にこの世界を滅ぼす訳ではない。
この世界にテーマパークが出来るのは、結果論に過ぎない」
と、魔王様は何の慰めにもならない言葉を口にした。
「え、そうなのですか?」
「……あの御方は誤解されやすいのだ」
もう私も、魔王様も、この話題には触れたくなかった。
そんなグダグダになったこの会話も、ようやく前に進もうとしていた。
「まあ、メアリース様の庇護下に置いた者を戦火に晒す訳にもいくまい。
……ふむ、いいだろう。我が配下を自由にしてもよい。
その代わり、条件がある」
「はい、それはなんでしょうか」
私は何とか譲歩を引き出せ、内心ホッとしたのだが。
「ホームホーム」
「はい、ここに」
魔王の影のように、人造の女が現れる。
「お前は帝都の整備と管理に専念し、四天王を退け」
「了解いたしました。後任は誰にしましょうか?」
「そこにおるではないか」
二人の視線が、私に集中する。
嫌な予感が背筋を伝った。魔王様が笑っている。
「新たなる四天王、“魔人総司令”ジークリンデよ。
我が配下の指揮権を全て委任する。国民を助けたくば、自分でやるのだ」
「帝都のことは我々にお任せください。
皇帝陛下は思う存分にその辣腕を振るいくださいませ」
魔王様が、私に告げる。ホームホーム殿が外堀を固める。
私は、表情が引きつるのを禁じ得なかった。
「か、彼らが新参の私の台頭に納得するとは思えません!!」
あんな異形のケダモノどもを指揮するなど、御免被る!!
「気にする必要は無い、あれは戦場の暴虐の為に人権を捨てた者どもだ。いくらでも補充が利く、好きなだけ使い潰せ。
連中に、上の指示に異を唱える権利など無いのだ」
「それでも何かを言ってきたのなら、私に申し付け下さい。即座に地獄行きにしますので」
ああ、分かっていたがあの連中の扱いなんてその程度なのか。
ここまで言われてしまっては、私に否とは言えない。
「……その大任、仰せ仕りました」
「うむ、存分に悪の帝国を演じてやれ」
悪の帝国、か。
私は、自分の国の状況を思い浮かべ、否定できないなと思うほかなかった。
§§§
「一先ず、四天王就任おめでとうございます」
接してみて、わかった。
デーモン種という偏見を抜きにすれば、このバンブス殿はひどく真面目で優秀だった。
「魔王様の戯れには困ったものです」
「そうでしょうか、私は反対ではありません。あなたには素質がある」
私は疑問に思って、こう返した。
「……素質? 不満は無いのですか?」
「ありませんとも、妥当な人事だ」
妥当、と来たか。
「もう既に聞いているかもしれませんが、これは試練なのです。
この世界の人間に課せられた、世界の存亡を賭けた戦いです」
バンブス殿は眼鏡の淵に指を当てる。
光の反射で、彼の両目が見えなくなる。
「私には至高なるメアリース様に並び立つ、邪悪の女神様が課す試練だとしか」
「具体的に説明するなら、大いなる御二柱はこの世界を滅ぼすと決められました。その理由は、矮小なる我らには与り知らぬこと。
しかし、御二柱は慈悲を示しなされる。
即ち、自らが遣わした破壊と邪悪の化身たる魔王様を討ち果たすことが出来れば、その世界に価値有りとして存続を許されるのです」
改めて聞けば、酷い話もあったものだ。
我々には、あの魔王様に挑み打ち勝つことでしか、救いは無かったのだ。
「……不可能なのでは?」
「いえ、僅か数%ですが、本当に存続を許された事例もあります。
尤も、貴女が不快感を抱くのも理解できる。
御二柱に仕える我々神官にも、この世界の住人に苦痛を与えるだけだと、否定的な者も少なくない」
悪魔の神官は、見透かすように私を見やった。
「ですが、邪悪の女神リェーサセッタ様は数多の邪悪を赦し罰する御方。
魔王様の配下とは、基本的に平和な世界では生きられない社会不適合者ばかり。
そんな連中に居場所を与えるのも、リェーサセッタ様の権能なのです。
ええ、あなた達にとっては気の毒な話ですが」
「…………」
さしずめ、この世界は今、地獄なのか。
いや、真実そうなのだろう。魔王と、邪悪を赦された悪鬼の跋扈する、この世界は地獄なのだ。
「ですが考えても見てください、貴女は選ばれたのです。
この国を平定したところで、滅びが確定していては意味も無い。
それを分かっていて、魔王様は貴女を四天王に任命した。
この世界を滅ぼすも、救いの道を示す試練にするのも、貴女の匙加減次第だ」
……確かに、その通りだ。
結局のところ、勇者も人間だ。
徹底的な焦土作戦を決行すれば、相手方にこちらに抵抗する体力は無くなる。
滅ぼすなら、魔王様に頼らずとも幾らでも手はある。
なにせこちらには、無尽蔵の兵力と優れた兵器がある。
「ほら、ね。あなたには素質がある。
想像するだけでほら、楽しいでしょう?」
私は、バンブス殿が何を言っているのか分からなかった。
だがふと、窓を見てみると、反射した私の顔が映った。
──とても、とても愉快そうに笑っていた。
「どうせ滅ぼすのです。あなたに従わない諸侯など、無視すればよかった。
なのにあなたは、連中の粛清を選んだ。
国民を言い訳にするのはお止めなさい。──憎いのでしょう? 今あなたを止める者はおらず、また実行する権限がある」
ぽん、といつもクソ真面目そうな固い表情をしているバンブス殿が、私の肩に手を置いた。
彼は今、悪魔らしくとても生き生きした笑顔だった。
「……そうだ、私はあいつらが大嫌いだった。
いつ裏切るかもわからない、あいつらの機嫌を窺う日々が大嫌いだった。
そして今、魔王様を恐れて日和見を貫いている。その裏で、他国と通じるという裏切りを働いている」
なんだ、最初から赦す必要も無いじゃないか。
今から連中が、どんな命乞いをするのか……楽しみだ。
私はなんて馬鹿なことを考えていたんだろう。
魔王様に頼んであの連中を粛清してもらおうだなんて。
……あいつらは、私が八つ裂きにしないと気が済まない。
「私は最初から、貴女を見込んでいましたよ。
“次の仕事先”でも、是非ともご一緒しましょう」
私は逸る気持ちを抑えきれず、既に踵を返してバンブス殿の言葉は耳に入っていなかった。
魔王様の四天王になると言うのは、そう言うことだと言うのに。
§§§
「居るのは分かっている、何用だ。スズよ」
退屈そうに目を瞑っている魔王が、目を開く。
扉を少しだけ開けて、謁見の間の様子を伺っていたのはスズだった。
「魔王様、少しよろしいでしょうか」
普通に気づかれて、恐る恐る出てきたスズは魔王の御前にて跪く。
「なんだ? 言ってみろ」
「あ、あの、お近くに寄ってもよろしいですか?」
「お前が今更私に対して無礼なことなどあるまい」
魔王の許可が出たが、スズは警戒する子猫のようにちょこちょこと、彼に近づいた。
そして。
「ひ、ヒール!!」
彼女は魔王に覚えたての回復魔法を唱えた。
その健気な行動に、くくく、と魔王は遠雷のような笑い声を漏らした。
「も、申し訳ございません。
でも、魔王様が私を庇って出来た傷をそのままにしておくなんて、私が許せなくて、それで」
「よい、許す」
しどろもどろになって言い訳をするスズに、魔王は身じろぎもせずにそう言い放つ。
「あ、あの、どうして敵の攻撃を避けないのですか?」
「説明するのは難しいな。……あとで、携帯ゲーム機を持ってきてやろう。
それを最後までやってみるといい。回避率が高い、回復魔法で全回復する、そんな魔王は興醒めだとわかるだろう」
「そ、そんな、魔王様にこれ以上貰うわけには……」
「なぜ、遠慮する。そんなにも不満か?」
「そんなことはありません!!」
ぶんぶん、とスズは首を振った。
そして、彼女はしょんぼりしながらこう言った。
「バンブスさんが言ってました、子供なんだから甘えてもいいんだ、と。
でも、私、本当のお父さんとお母さんにもあんまり甘えた記憶が無いんです。
いえ違いますね、寮で同室の子が、ご両親との思い出を教えてくれたんですけど、そんな普通のことが、私はできてなかったんです」
俯いて、ぽつりぽつりと言葉を言葉を漏らすスズを、魔王は目を瞑って黙って聞いていた。
「お前の気持ちも、理解できる。
我ら魔王の一族は神たる母の愛に甘えてばかりだ。
それに少しでも報いるために、我ら一族は母に尽くしている。
それを疑問に思ったことなどない。だが、時々思うのだ、このままで良いものか、と」
だが、魔王は知っていた。
そうして、大いなる二柱の下から巣立とうとした、一族の弟の末路を。
自分もまた、管理される側に過ぎないと思い知ったその出来事を。
「お前を見て、我も母のように何かを与えてもよいのだと、そう考えた」
「……立派な考えだと思います」
「笑ってくれてもよい、これでも前世はお前と同じ、ただの人間だったのだ。
何百年とこの仕事を続けているうちに、子供の甘やかし方も忘れてしまった。確か息子も居たはずだった」
竜人は表情が分かりにくい。
スズはなんと返せば良いかわからなかった。
「ハーレ兄ぃ*1のように、道化の真似事で笑わせられればよいのだが、そのような
だから……」
魔王は、少しためらった後に、こう言った。
「お前が、甘え方を覚えてくるのだ。
そして、実践して見せよ。子供のお前は、それが許される」
「は、はい!!」
スズは顔を真っ赤にしながら、大きな声で返事をした。
「あと、ジークリンデを気にかけてやれ。
あれも皇帝となって、親の愛を失った子供だ。
何もできなくとも、必要な時に傍にいてやるのも救いになるものだ」
「わかりました。しばらくはジークのお供をさせて貰います」
「よきに計らえ。学校は気にするな、お前ならすぐに後れを取り戻すだろう」
はい、と元気よく返事して、スズは謁見の間から出て行った。
それを見届け、魔王は肩の力を抜いた。
「……ふぅ。なあ、お母ん、こんなかんじなんかね?」
全ての悪を見通すかの女神は、魔王の不器用さを可笑しそうに笑って見ていた。と、化身たる彼は感じた。
不器用な魔王様、ようやくデレるの巻き。
この後の展開はどうしようか、悩んでいます。
短編なんで、さっさと終わりにすべきなんでしょうが、想定以上の伸びに作者の欲が出てしまいます。
本当に仕事の合間に思い付いただけの話だったのに。
他の作品も更新したかったのですが、この調子では月末まで無理そうかなー。
それでは、また次回!!