《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」 作:やーなん
ジークが魔王様の四天王になって、まず彼女がしたのはプロパガンダだった。
魔王軍は最終的に全部滅ぼす為、そういった手段は必要としない。
その対象は、まずは都民に対してだ。
結局のところ、魔王軍にとって帝国は他人なのだ。
魔王様の気分一つで、乱暴狼藉など思いのままである。
帝国は今、他国の軍隊に占領されているのと同じで、喉元に刃を突き付けられている状況なのだ。
帝都の人々がいくら管理されていても、そんな不安が心の奥底に沈殿していた。
だからジークはまず帝都に自分が魔王四天王に就任したと触れ回った。
つまり、帝国は魔王様の直属の部下、身内になったと喧伝したのだ。
そうして、人々の不安を払拭したのである。
次の対象は、諸侯だった。
魔王に占拠された帝都を遠巻きに見ているだけだった諸侯に、最終通告を発した。
帝都に馳せ参じて潔く魔王様の軍門に下るか、裏切り者としてケダモノの餌食となるか。
期限は、ほんの一週間。それを過ぎて来ない者は粛清の対象となる。
そして、最後は他国だった。
国内を平定次第、魔王様の命によって敵は一人残らず皆殺しにするのだと。
「ジーク、どうかご無理はなさらないでください」
彼女は、血相を変えて会いに来る諸侯たちを冷たい目で見ていた。
それをひとりひとり、あらかじめ用意しておいた文章で今後について通告した。
彼らは恐怖で真っ青だったけど、新しい技術や食料の支援などを提示されると、ただただ頭を下げて皇帝陛下に従った。
ジークは期限を一週間としたが、帝国は広大だ。
諸侯の中にはトラブルもあってか数日遅れてやって来た者も居た。
だが、ジークは寛大さを示してそれを許した。
多分、演出なんだと思う。他の諸侯と会議の最中だったし。
だからギリギリの期限で諸侯を集めたんだ。
だから、ジークは決して、帝都に参上しなかった諸侯は決して許さなかった。
本当の期限は、帝都に集った彼らとの話し合いが終わるまでだった。
会議が終わると、ジークは裏切者の粛清を宣言。
諸侯の、およそ全体の三割の粛清が始まった。
最初の対象は、アーベン家。
それを聞いた時、私はこの世の無情を悟った。
連日会議をしていた諸侯も、この宣言を聞いて誰もが顔を強張らせた。
ジークの皇帝としての覚悟を、貴族たちに示そうとした。
私は、その姿が痛々しくて見ていられなかった。
帝都に集まった貴族たちは、少なくとも今のところ裏切る心配は無いように思えた。
だから、気を遣った彼らは少しづつジークに兵隊を出して、粛清の協力を願い出たのを受け入れたのだと思う。
本来、行軍には時間が掛かる。
アーベン家の領地は帝都からも離れている。
通常であれば一か月は掛かる見込みだが、ジークは輸送用の車両を複数台用意させた。
車両で歩兵を輸送して先行し、アーベン家に用件を伝える。後は騎兵などの後続を待つと言う手筈だ。
これは、デモンストレーション。
ジークの覚悟と、諸侯の兵士たちに魔王軍の恐ろしさを知らしめる為の通過儀礼。
だから、最低限の歩兵だけで充分なのに、後続を待った。
「陛下、どうやら魔法通信によって領地から援軍を要請しているようです」
従軍神官である、バンブスさんがジークに報告した。
この世界にも、通信技術と言うモノが存在する。と言っても、かなり原始的な魔法を用いた代物で、自由に会話なんて出来ないけど。
アーベン家の屋敷の前に陣取った私たちを見て、アーベン家の連中は慌てふためいたのだろう。来るとしてももっと時間が掛かると思っていたはずだ。
「バンブス殿、アーベン卿たちは逃げ出していないな?」
「はい、あらかじめ陛下の魔力の周波数と波形を測定しておりましたので。
近似値を魔法探知で発見するのは容易です」
人間の魔力には色々と個性があり、指紋と同じように同じ物はまず見つからないそうだ。
それを用いた探査魔法は、アーベン家の屋敷に居る人間の数も赤裸々に暴いてしまった。
今あの屋敷に居るのは、使用人と僅かな警護の者達だけだ。
本当に、後続すら待つ必要などなかった。
……最初から交渉の余地なんて無いんだから。
もしかしたら、ジークは躊躇っているのかもしれない。
私は、そんな彼女に近くに侍っていることしかできなかった。
自軍の後続と、あちらの援軍が到着するのはほぼ同時だった。
いざ、両者がぶつかり合おうとした時、相手側の使者が現れた。
「お久しゅうございます、ジークリンデ
そう言って、現れたのは甲冑を纏った老騎士だった。
「カールか。懐かしいな、私が皇帝に選ばれて以来か」
「お嬢様がご立派に勤めを果たされておられると聞いて、じいは安心しておりました」
「ならば、これも皇帝としての務めだ。
あの屋敷に住まう豚を二匹我が前に連れて来い。そうすれば、余計な手出しはしないと誓おう。
あの屋敷には、顔見知りも多いのでな」
そう、アーベン家はジークの生家。
あの屋敷の主は、──彼女の両親なのだ。
「お嬢様、あんな二人でも、我が主なのです」
「そうか。それもよかろう。
お前に、これから巻き起こるこの世の地獄を見せたくはなかったのだ」
ジークは少しだけ目を伏せ、こう言った。
「帝国の皇帝として、魔王四天王として。
カール、お前に決闘を申し込む」
「……分かりました、その申し出を受け入れましょう」
その言葉に、老騎士も覚悟を決めたようだった。
「ジーク、いえ陛下。その決闘、代理として私が戦いましょう」
「良いのか?」
「あなただけに、重荷を背負わせるわけにはまいりませんから」
「……そうか、恩に着る」
そして私とカールさんは、両者の陣の中心で相対した。
「その剣の輝き、記憶とは大分違いますが聖剣のそれ。
どうやら、この老兵にも暇を頂く時がきたようですな」
「ジークの事は、任せてください」
「……あとは、お頼み申す。お嬢様は、寂しがり屋なので」
彼は強かった。
ジークの剣技の指南役だったと、後から聞いた。
そして私は数合打ち合って、魔王様に頂いた魔剣で彼を斬り捨てた。
きっと、これで良かったんだ。
私は彼の遺体を辱められないように、自陣に持ち帰った。
「カール、お前にだけはこれからの私を見てほしくは無かった」
ジークは魔法の炎で彼の遺体を葬ると、目を伏せた。
「スズ、お前には嫌な役目をやらせてしまった」
「いいえ、ジークはこれから、もっと嫌な役目をしますから」
「そうだったな。さて、仕事を始めるか」
そう言って、ジークは魔王様から授かった魔杖を掲げた。
召喚魔法を行使する、マジックアイテムだ。
「魔王陛下から全軍を与った四天王として命ずる。
魔性の軍勢よ、我が非道を血で彩れ」
魔王城で待機していた、魔王様の配下たちが召喚ゲートを通じて現れる。
異形、異様、この世界では伝承にしかいない種族の人々が、今か今かと待ちわびている。
「どうも皇帝陛下、エンズと申します。
四天王の末席として前線指揮を担当しとります」
その中で、一人の鬼人が前に出てジークに挨拶をした。
彼こそ、四天王の一人。私の剣の師匠、“赤鬼”エンズ。
「同じ四天王ですが、戦うことしか能はありやせん。戦場で好きに使ってくだせぇ」
「師匠、ご無沙汰してます」
「おおスズか!! 今日は共に斬りこむぞ。どれだけお前が技を物にしたか、見てやろう!!」
「すみません、今は皇帝陛下の御側に居させてください」
私はただ頭を下げた。
それを見たジークは淡々とこう言った。
「あの屋敷の住人だけは手を出すな。全員引きずり出して来い。
残りは降伏した者以外は好きにしろ」
「了解しました、まあ降伏させる隙なんてやりませんがね」
「細かいことは任せる」
「任せてくだせぇ」
ジークから了解を取り、師匠は同胞たちに振り返る。
「聞いての通りだ、いつも通り楽しもうぜ!!」
師匠の言葉に、異形の群が呼応する。
士気の低下とは無縁の、戦場の暴虐を楽しむことしか頭にない連中が、ケダモノのように敵軍に襲い掛かった。
「こ、こんなの戦争じゃない」
自陣の兵士が、目の前の惨状を見て震えた声でそう言った。
今回の粛清に参陣した各領地の兵士たちが、言葉を失っている。
毒の扱いに長けた魔術師が、毒霧の魔法で敵軍の戦力を削る。
怯んだ敵陣に、師匠が突っ込む。それに続く屈強な種族の面々。
我も我もと、野獣のように獲物を貪らんと、死さえ恐れず突撃していく。
毒にやられ、考えなしに突撃してくる魔の軍勢に恐怖し、人間の軍隊はあっさりと蹂躙された。
これは、殺し合いではなかった。一方的な虐殺だった。
程なくして、彼らは僅かな犠牲を出しつつもアーベン家の屋敷に雪崩れ込む。
そうして、師匠たちは屋敷の住人を全員引きずって戻って来た。
「すいやせん、衛兵が抵抗したんで斬りました」
「構わない、彼らは職責を全うしただけだ」
そして血まみれの師匠たちに労いの言葉を掛けて、一か所に集められた屋敷の住人達を見やる。
「陛下、こいつ戦闘のどさくさに紛れて逃げようとしてましたぜ。
まあ、俺たちがあっさりと皆殺しにしちまったから、そんな暇なかったみてぇだが!!」
アーベン卿とその妻を連れて来たオークが笑ってそう言った。
ジークの視線が、更に冷たいものになった。
「お久しぶりです、父上、母上」
「じ、ジーク、これは何のつもりだ!?」
「なんで私たちがこんな目に遭わないといけないの!?」
アーベン夫妻に声を掛けたジークは、先ほどのカールさんに向けた感情とは真逆だった。
喚く二人に、ジークは無理やり張り付けたような笑みを浮かべて、こう言った。
「何を仰っているんです、二人とも。
私は帝都に来てくださいとお願いしたでしょう?
来なかった者は、粛清すると、手紙でもお伝え申し上げましたよね?」
「ふざけるな!! 魔王に支配された帝都に来いなどと、死にに行くようなものではないか!!」
「私が魔王様の四天王に就任し、帝都の安全は保障されたというのにですか?」
「そんな話鵜呑みに出来るか!! 諸侯を集めて皆殺しにするつもりだったのだろう!!」
親子の会話は、まるで嚙み合っていなかった。
「お願いジーク、助けて頂戴!!
私達、親子じゃない!!」
「そうですね、母上。私たちは親子だ。
心を鬼にして屋敷を攻めた私にも、親子の情くらいはある。お二人は助けて差し上げましょう」
ジークは潰れた饅頭みたいな歪な泣き笑いを浮かべた。
その言葉に、二人がホッとした様子だったのも束の間。
「お前たち、誰かなぶり殺しの得意な者が居たら名乗り出ろ」
ジークが、魔の軍勢に問いかける。
すると、自分は元拷問官だ、尋問官だった、異端審問官だった、と大勢が手を挙げた。
その面々が、ぞろぞろと二人の前に現れる。
「な、これはどういうことだ、ジーク!!」
「助けるって、言ったじゃない!?」
悲鳴を上げる二人に、ジークはこてんと首を傾げた。
「はて、私の言うことを何一つ信じてくれなかったお二人が、なぜ私の助けてやると言う言葉を信じたのですか?」
もう二人の姿は見えない。
拷問に長けた者達が、二人を取り囲んだからだ。
「ですが勿論、私は嘘を吐きませんとも。
至高なるメアリース様は、前世が不幸ならば来世はそれを考慮して下さるそうだ。
……お前たち、我が両親に至上の不幸をくれて差し上げろ」
「分かりました!! では生きたまま、延々と苦痛の責め苦を味わわせて御覧に入れましょう!!
陛下のご親族を、殺すのはあまりにも痛ましいので!!」
元拷問官のデーモン種が、自信満々に胸を叩いた。
「……任せる」
途端、冷めた表情になってジークは踵を返した。
私は彼女の後ろについて、背後から聞こえるこの世のものとは思えない悲鳴から目を逸らした。
「お、お嬢様、なんてことを……」
ただ、老いた屋敷のメイドだけが去り行く彼女の背中に涙していた。
§§§
翌日、兵士たちは自陣に響き渡る悲鳴と絶叫に悩まされながらも、撤収の準備を行う。
私は、行軍の邪魔だと、もはや元が誰か分別もつかなくなった両親を斬り捨てるジークを後ろで見ていた。
「言った通り、助けて差し上げましたよ。父上、母上」
少し残念そうにしている元拷問官たちを尻目に、ジークは野営のテントに戻った。
「……うッ、ううッ」
だが、幕を閉めたところで、彼女は膝を突いた。
「わ、わたしはッ、殺した、実の、実の親を!!」
あんな親でも、ジークはその手に掛けたことにショックを受けたようだった。
私はただただ、彼女の側に居て抱きしめ、慰めることしかできなかった。
ジークは、涙ながらに胸中を吐き出した。
歴代の皇帝はみんな、最終的に処刑や暗殺をされている。
ジークの帝政に不備が有れば、周囲がそれを許さない。
彼女の両親は、連座で処刑されることを恐れ、ジークから距離を置いた。
幾ら手紙を出しても、返事は来ない。
ようやく来たと思ったら、もう手紙は出すな、と言われる有様。
幼い頃は優しかったのに、と嘆くジーク。
……私は、彼女に何もできなかった。
「失礼します陛下、出立のご準備が完了しました……おや」
そこに、撤収の準備を終えたバンブスさんが幕内にやってきた。
彼は空気を読んで、無言でその場を去った。
しばらく、彼女を抱きしめていると、思う存分泣いて泣き止んだ彼女はこう言った。
「済まないところを見せた。
あんな二人、永遠に苦しんでいれば良いと思った。
だけど、昨日は眠れなかった。怖くなったんだ。私が命令して、ああなった」
ジークの脳裏には、もうあの見るに堪えない姿になった両親の姿が思い起こされているのだろうか。
「行こう、皆が待っている」
私は頷いた。
外に出ると、バンブスさんが待っていた。
「恐れながら陛下。お気になされる必要はありませんよ」
悪魔族の神官が、神妙にこう言った。
「幼子をかどわかし欲望のままに辱め殺した男と、親の虐待に耐えかねて刃物を持ち身を守るために殺すのとでは、誰が同列に語りましょうか?
戦場で、命令を受けた兵士が敵兵を殺すのは罪ですか? だとすれば、兵士と言う職業は成り立ちませぬ。
普段、子を虐待している親ほど、子が逆上すると殺されると喚き立てるもの。自分が人を殺されるに値することをしていると自覚しているからこそ、なおのこと」
それは、彼なりの慰めの言葉であった。
「我が主上、邪悪と悪逆の女神は親殺しという禁忌も、時と場合によってはお赦しになられる。
なぜ子には親である権利に縛られ、逆らうことは許されないと抑圧されるのでしょうか。その資格も無いくせに。
親の資格無き者がいつまでも上位にいる。そんな道理は在りますまい」
そう言ってから、彼は優秀な神官らしい徳のある優し気な笑みを浮かべた。
「良ければ、その重荷を我が主上の慈愛にて癒して差し上げましょうか」
その為に、彼は此処にいる。
邪悪の女神の従軍神官たる彼は、戦場と言う苦痛に満ちた場所に、殺しの罪悪感に苛まれる者を救うために派遣されるのだ。
「いや、必要ない」
だが、ジークは首を横に振った。
「この罪業を背負わなければ、これから魔王の四天王を名乗れない」
「そうですか、我が主上はいつでもその慈愛にて苦痛を癒してくださいます。
どうしても耐えきれなくなったら、言ってください」
そう言ったバンブスさんは、本当に悪魔種とは思えないほど神官らしかった。
「スズも、ありがとう。
君が私の側に居てくれて、本当に救われているよ」
その言葉に、私も少しだけ気が晴れた気分だった。
今回は勇者ちゃん視点の、皇帝ちゃんのお話でした。勿論、作者は殺人を肯定しているわけではありません。親って時々理不尽だよねってお話です。
次回は、場所は変わって、この間ボロボロにやられた聖騎士の彼の話にしようと思ってます。
それではまた、次回!!