《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」   作:やーなん

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魔王「こいつらかわええなぁ」

 

 

 今でも、思い出す。

 

「我が神たる母よ、至高なるメアリース様よ!! 

 見てください、我が管理下にあるこの世界の発展度合いを!!」

 

 その弟の名は、なんと言うたかな。

 忘れてもうたわ。

 

 だけどぉ、あいつの育て上げた世界の美しさは覚えとる。

 メアリース様の定める基準で、文明レベル95。

 科学も魔法も極まり、核融合炉やワープ技術はこの世界で既に時代遅れ。

 

 時間も空間も操り、全ての住人が不老不死に足を踏み入れていた。

 人類の想像する楽園、その世界はそう表現するほかなかったんやな。

 

「大いなる御二柱よ、私は、彼らと共に貴女方の庇護下から巣立ちます!!」

 

 それは、本来なら立派な事の筈だったんや。

 子はいつか、親から巣立つ。

 メアリース様やお母んに守られずとも、生きていける文明なら独り立ちは祝福すべきことだった。

 

「そして、御二柱の産まれた“聖地”に参拝し、彼らが観測した“門”へと至るでしょう。

 その先にある、我らも知らぬ未知を求めて!!」

 

 多分やけど、その世界の連中は、それぐらいしかやることが無かったんやろ。

 既に多くの事を極めつくし、未知とは無縁の文明を築いた。

 

 だが、それは神々の逆鱗に触れることやった。

 

 じゅッ、と一瞬だった。

 

「え……?」

 

 あれほど栄えていた、あらゆる極みに達した文明が、メアリース様の手によって消え去っとった。

 そこに残ったのは、宇宙の塵ぐらいなもんや。

 これから神々によって、新たな世界が創造されると言われてもおかしくは無かった。

 

「なぜ、なぜなのです、母よ、メアリース様!! 

 彼らはあんなにも美しく、健全に発展したと言うのに!!」

「リネン、流石に彼を殺すのが私では忍びないわ」

「そうね。悪かったわ。ごめんね」

 

 ぶちり、と大いなる我らの母が、わての弟を握りつぶした。

 

 わては、いや、わてだけじゃない。

 全ての兄弟たちが、魔王の一族がそれを見ていた。

 

 見せしめのように、或いは警告のように。

 

「……危なかった(・・・・・)

「ええ、もう少しで“あの御方”の怒りに触れるところだった」

 

 わてらは、バカではない。そんな風に造られとらん。

 わてらは理解した。この世には、偉大なる御二柱さえ恐怖する何者かが“聖地”におわすのだと。

 

 数万もの世界を統治し、神々のおわす神域において最上位に位置する神格の御二柱でさえ、ひれ伏すしかない“何か”が居ると。

 

「お前たちに言っておく。あの“門”の先は、瓦礫とゴミしかない。

 聖地とは名ばかりだ。そこに行くこと、見ること、知ること、まかりならん」

 

 息子を縊り殺したお母んが、わてらに言った。

 

「どうしても行くのなら、私達を巻き込まないで。

 ……いや、“あれ”にそんな言い訳が通じるわけないか。やっぱり禁止で」

「次からは、決してあそこに行くなんて考えないように産み出すほかないわね」

 

 だから、それは、警告だったんや。

 あらゆる邪悪を赦すお母んでさえ、踏み入れてはいけない禁忌の中の禁忌。

 それに触れる者、たとえ息子やろうと赦す訳にはいかないと。

 

 だけど、気になるやん? 

 ダメだと言われたら、どうしても見たくなる。

 カエサルだかカリギュラだかって名前の効果らしいな。

 

 だから、わては聞いてみたんよ。

 お母ん達に聞けない雰囲気やし、我ら魔王一族の長、序列一位。

 わてらの中で唯一、御二柱に意見することが許され、“マスターロード”の称号を持ち、そう名乗っとる我らの大兄に。

 

「アテル、神域の神々も、人間と同じなんだよ。

 火を司る神を、火を扱う職業だと考えてみよう。

 彼らは一つの国に大勢いる。それらの役職が集まった場所を、神々の領域だと考えればいい」

 

 恐らく、全てを知っとる“マスターロード”大兄は穏やかに言った。

 

「そうなると、我らの母やメアリース様は複数の町を束ねる“領主”に当たる。

 今、神々の領域はそんな複数の“領主”の群雄割拠になっている。

 つまり、国が乱れている状況だ。戦国時代だね」

 

 大兄は冗談めかして言う。もう、わては気づいていた。

 神々の世界を国と例えたんなら、唯一絶対に必要なピースが欠けとるもんな。

 

 そう、“王”と言う、頂点が。

 

「たとえ話をしよう、アテル。

 クトゥルフ神話を知っているかい? 

 もしこの世に、ニャルラトホテプとヨグソトース、そしてアザトースが本当に居たら怖いよね? そんな真実が有ったら、恐ろしいよね? 

 だから、この話はこれで終わりだ。二度と、蒸し返してはいけないよ?」

 

 ほな、SAN値チェックや。

 わて、知らん方が良いことを知ってもうた。

 

 唯一お母んたちに意見できる大兄が、その行動を支持した時点でお察しやがな。

 

 ところで、クトゥルフ神話の最高神アザトースの異名は知っとるか? 

 

 ────魔王、や。

 

 わては、まさかここまで自分が矮小な存在だとは思っとらんかったわ。

 この話は、他の兄弟たちも聞いとった。

 せやからハーレ兄ぃは愉快そうに笑っとったわ。自分らが道化やと気づいたんやから。

 

 わてらは、魔王という悪役を演じるだけの駒やねん。

 別に、それは必要なことをしとるんやから、不満やない。

 

 せやけど、どうしても思ってしまうんよ。

 このままで良いんか、ってな。親不孝な息子やろ? 

 

 わての行動次第で、弟を助けられたんじゃないんか? 

 そう、思ってまうんや。

 

 まあ無理やと思うけど。即断即決はメアリース様のモットーやし。

 多分わてもぷちっとされると思うけど。

 というか、お母んの視線を感じる。大兄も苦笑いしとるし、これ以上は聞かん方がええやろ。潮時や。

 

 ただまあ、わてらにとって御二柱は絶対やった。

 あんな、あんな怯えた姿(・・・・)、見たくなかったわ。

 

 せやから、お母んたちを絶対視するのはその時以来止めたんや。

 

 偶に、居もしない神に縋った挙句、殺し合い争い合う人間を見てると、笑いがこみ上げてしまうんよ。

 こいつら、可愛いな(・・・・)ってな。

 

 

 ほな、今も下らんことで争い合っとる馬鹿どもがおるで? 

 

 

 

 §§§

 

 

 聖樹教国、その評議会。

 

「聖騎士メドラウド卿、先日は先走った挙句に兵を失い逃げ帰ってきた一件についての審議を行う」

 

 議長が嫌みったらしく、壇上から私に告げた。

 

 この国は、美しい国だった。

 それは誰にでも誇れることだった。

 だが、樹木が人知れず根腐れしているように、歴史あるこの国も腐敗というものが存在する。

 

 基本的に、勇者の素質がある者は王族に連なる家系の者だ。

 それが貴族となり、昨今の統治の体制を確立した。

 

 だがそれは、同時に利権や派閥を生み出すことになった。

 聖騎士は十二席で満員だが、私を含めて十人にしか居ないのもそれが理由だ。

 勇者は国防の要であるのと同時に、輩出した家の発言力にも直結する。

 

 これはどの国でも言えることだが、我が国は特に貴族の権威が強い。

 聖樹教との癒着も強く、この場の連中も神官の位階を持っている者も多い。

 

 この国は貴族が利権を独占して、そのおこぼれで庶民は潤っていた。

 決定的な格差こそあれ、

 それでも国は回っていた時は、問題なかったのだ。

 

「帝国は、完全に魔王の手先となった。

 あのお飾りの皇帝は、魔王に魂を売り魔物の一員となってその軍勢を率いて自分の血族を滅ぼしたそうだ。

 帝国から離反を打診している諸侯からの情報だ」

「あの魔物どもは、敵国を皆殺しにすると宣言した。

 真っ先に我らが狙いの的となろう。我々に、今戦いをする余裕などないと言うのに」

「そして連中を調子づかせたのはメドラウド卿、そなたの失態があったからではないのかね?」

「先走るにしても連中に打撃を与えていれば、こんなことにはならなかったかもしれんな」

 

 本当に、好き勝手言ってくれる。

 軍を再編成し、辞令を待って動けばそれだけ余裕が無くなる。

 私が先走った。それはいい、そう言うことにして軍を動かしたのだから。

 失敗したのも私の責任だ。それを責任転嫁するつもりもない。

 

 だが分かっているのか、こいつらは。

 お前たちが必死になって食料を確保したのは庶民なら誰でも知っている。

 あの時、私が民意に従い出撃しなければ、不満の矛先はこの連中に向かっただろうことは明白だ。

 暴動になって真っ先に襲撃されるのは、政治屋であるこの連中だろうに。

 

 そうなれば、私は民たちを斬らねばならなくなる。

 そんな本末転倒、あってはならない。

 

 私の敗北で、王都の人々は意気消沈している。今は暴動すら起きる気配もないほどだ。

 それほどまでに、魔王は強かった。

 

 そもそも、この連中に軍権は無いのだから、私の責任云々を責められる筋合いはない。

 こいつらが言いたいことは、そんなことではない。

 

「問題なのは、聖剣をひと振り失ったことだ」

「聖剣は持ち主を選ぶ。他人の聖剣を持ってきても意味など無い。

 新たな聖剣が必要だが、精霊様はなんと仰るか……」

「当然、予備など無い。あの精霊の機嫌を窺うしかないのか」

「代々受け継がれてきた聖剣の損失、これがどれほどの大事か理解しているのか、メドラウド卿!!」

 

 勿論、それは分かっている。

 しかし全治数か月の怪我を押して召喚されたと言うのに、やってることは責任の押し付け合いとは。

 

「我らが聖樹教において、聖剣は至上の祭具でもある。

 それを先走った挙句、魔王に奪われたメドラウド卿は破門が妥当でしょう」

「然り、だがこれまでの功績を考慮し、追放までは勘弁致しましょう」

「聖剣が無くとも、戦うことはできますからな」

 

 追放は無し、だと。笑わせる。

 破門された時点で、この国に居場所など無い。

 妻は実家からの指示で離婚させられるだろうし、娘とは二度と会えない可能性も高い。

 私はただただ、妻と娘が心配だった。

 

 

「────ほう、これは愉快だ」

 

 だが、その時、議場に忘れもしないあの重低音の声が響いた。

 

「な、何者だ!! ここを歴史ある評議会と知っての狼藉か!!」

「この、この声は、ひいぃ!?」

 

 評議会の老人どもが、恐怖に表情を引きつらせる。

 議場の空間が歪み、壁の一部が消失していた。

 消えた壁の先は、王城の謁見の間のような場所だった。

 

 そして、その奥の玉座に座するは、忘れもしないあの顔。

 

 ──魔王アテル。

 

「先ほどから四の五の囀っておるが、貴様らは自分の利権の確保や回復がしたいのだろう? 

 ほれ、我が直接顔を見せてやったぞ。我を倒し、世界樹の復活の望む者は我に挑め。

 ほらどうした、約束された豊穣が目の前にあるぞ」

 

 私は即座に駆けだそうとしたが、奴に散々痛めつけられた体は床に倒れ伏すのみだった。

 

「……なんだ、口だけか。

 口だけの者が、命を懸けて戦った者の名誉を奪い、辱め、貶める。

 実に下らん。実に不愉快。お前たちに、価値無し」

「ひぃぃ!? 誰か、聖騎士を呼べ!!」

 

 議場から逃げ出そうとした議員を、魔王は指差す。

 バリバリ、と石にヒビが入る音と共に、その議員は石と化していた。

 

「その無様さ、歴史ある評議会とやらに永遠に晒すといい」

「わ、我らは神に仕える神官だぞ!? 

 我らに手を出せば、貴様に神罰が下されるはずだ!!」

「では試してみようか」

 

 またもう一人、議員が石になった。

 体が動かない、惨劇を前に呻き声しか出せない。

 

「お前たちの神が何かは知らぬが、我もまた神たる我が母の命によってこの世界を滅ぼさんとしている。

 なんなら、我が母からお前たちの神に聞いてもらおうか? 

 この我が天罰に値するのか、真に罰せられるのは誰か」

「……お、お赦しをぉぉぉ!?」

 

 次に魔王に赦しを乞うた議員は、まるで雑巾のように捩じられ、議場を血の雨で染めた。

 

「お前たちは、玩具(オモチャ)だ」

 

 魔王が、怯えて震えている老人たちに声を掛ける。

 

「いつでも殺せる、いつでも滅ぼせる。

 だが、その男は特にお気に入りのオモチャだ。

 お前たちは我から、遊び道具を取り上げるつもりか? 

 ────なら、この国(オモチャ箱)は要らんな」

 

 魔王の掌に、膨大な魔力が凝縮される。

 国ひとつ滅ぼすことなど容易い密度の火球が、こちらに放たれようとしていた。

 

「て、て、撤回します!! 

 メドラウド卿の破門を撤回しますぅ!!」

 

 議長は無様に、命乞いをするようにそう叫んだ。

 

「おやおや、おやおや、評議会は多数決ではなかったか?」

 

 超濃度の火球を指先で弄び、魔王はその無様な人間を嘲弄する。

 

「そう、そうだ、メドラウド卿は勇敢に戦った!!」

「そんな彼を罰する道理などない!!」

「彼はこの国を代表する勇者なのだ!!」

 

 死に瀕し、国の存亡を突きつけられた老人たちが、豚の喚き声のように叫んでいた。

 

「……見るに堪えぬ貴様らを、皆殺しにするのは容易い。

 だが、お前たちが居なくなると他国との交渉にも遅延が生じよう。

 それでは私の元に、勇者(オモチャ)が届かない。それは退屈だ。

 そうだ、お前たちのような愚鈍な怠け者どもを勤勉にする呪いを掛けようか」

 

 魔王は火球を消し、邪悪な波動を議員たちに浴びせた。

 彼らの額に、焼けるように蛇の紋章が刻まれた。

 

「三年だ。三年で、お前たちはその呪いの蛇が全身に達し、死に至らしめる。

 それまでに精々、我が元に勇者を送りつけることだ」

 

 愚か者たちに死の宣告を突きつけた魔王は、どこか親し気に私に目を向けた。

 

「破門は撤回だそうだ。礼は要らぬよ。

 だが、そうだな。貴様にも、やる気を出させてやろう」

 

 その瞬間、私の全身に痛みとは別の何かが走った。

 魔王は、目の前の空間を歪ませ、その中に手を突っ込んだ。

 

「え、なに、ここどこ!? き、きゃあ!?」

 

 空間の歪みから引きずり出されたのは、なんと、私の娘だった。

 魔王の腕が娘の胴を鷲掴みにしている。

 その気になれば、水風船の如く容易く握りつぶせるのだろう。

 

「さあ、父親に顔をみせておやり」

「パパッ、パパ!! 助けて、助けて!! ごほッ、ごほごほッ」

 

 手足をじたばたさせながら、儚い抵抗をする娘が咳き込んだ。

 

「この娘を返してほしくば、再び数多の悪路を踏破し、また我が前に至るがいい。

 お前が真の勇者ならば、何も難しいことはあるまい?」

ま、まおおおおおおおうううううううううぅぅぅ!! 

「楽しみに、待っておるぞ」

 

 私の絶叫は空しく、空間の歪みが閉じていく。

 歪みが消えた後には、元の議場の壁だけが残されていた。

 

 私は、痛みを忘れたように立ち上がった。

 

「おい」

「ひ、ひぃいい!?」

 

 私の顔を見た議員の一人が、怯えたように震えた。

 

「貴様らの同胞が手に掛けられ、貴様らにも死の呪いが掛けられた。

 貴様らがあの魔王に生かされた理由を理解しているのなら、さっさと王に己らのすべきことをしろ」

 

 はて、私の声はこんな恐ろしいものだったか。

 そんなことも、今の私には気にする余裕はなかった。

 

 私の気迫に、議員たちはほうほうの体で議場から出ていく。

 そんな彼らの姿を見届けると、私は膝から崩れ落ちた。

 

「リース、リースぅ!!」

 

 聖樹の神(・・・・)の名から取った娘の名前を呼びながら、私は悔しさと無力さに打ち震えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 




なお、娘ちゃんはこの後手厚く看病される模様。
これは発破かけないといつまでも足を引っ張り合ってるな、と判断した魔王であった。
ちなみに、魔王様はドラクエのオマージュみたいな行動しているのはわかりましたか?
勇者の剣を魔剣にするとか、まんま11のあのシーンですよ。

ちなみに、この小説、冒頭にもちらっとでたマスターロードが主人公になる予定でした。
まあそれはまた別の機会になるとは思います。

明日から、再び仕事が始まるので連続更新もここまででしょう。
長い休みでした、でも有意義な休みでありました。

とりあえず、次回の更新は未定なので、アンケートでも取っておきましょう。
感想も下さると、幸いです。
ではまた次回!!

次回はどんな話が良いですか?

  • 魔王様と勇者スズのお話
  • 女神二柱のやらかし録
  • 魔王様の姉(クソガキ)襲来!
  • 他の勇者たちの動向とか
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