この作品に登場する一部地名、団体名は全て架空のものです。
実際の運転では交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
燻り
走り屋…世間一般で見れば、それは車に乗って暴走紛いの運転をさせる者たちを指すだろう。
だが、走り屋の世界には、ただ車を走らせる事だけでなく、人間が人それぞれ個性があるように走り屋にも様々な個性が存在する。
単純にスピードを求める者――
仲間たちと切磋琢磨し合う者――
己の可能性を信じて走り抜く者――
亡き友の意志を継いで走る者――
頂点を目指してひた走る者――
これは、そんな個性を持った走り屋たちが織り成す物語の続きである――。
【PM11:40 弐香呉峠】
迅斗
「…さすがにこんな時間まで走ってる人はいないか。」
明日は走り屋仲間と久しぶりに峠で会う…少し生じたブランクを埋めなければと、ホームコースとも言える
多忙だった中で時間を設けて、独り走り込んでいると、気がつけば夜更けだった。
とりあえず勘は取り戻せたかな?
――これ以上詰めた所で、今更どうにもならないだろうし、この1周で終わりにするか。
しばらく淡々と走っていると、背後から車の気配を察知し、ふとルームミラーに視線を送る。
ぼんやりと映るヘッドライトが、少しずつ大きくなっていく。
そんなに張りつかなくてもいいだろ…抜きたければ抜k…
ハザードランプのスイッチに手をやろうとした刹那、相手のヘッドライトがチカチカと点滅したのを見逃さなかった。
パッシング…要するにナメられてるってやつだよな、俺。
あまり乗り気じゃないが、そこまでされたらこのまま素通りさせるのも後味悪いよな。
俺は愛車…86のハンドルを握りしめて、バトルの態勢に入る。
こういう展開も久しぶりだからどこまで行けるか分からないが、やるだけやってやる…!
やはりバトルになると、後ろから来る圧力も手伝って、見慣れた景色でもどこか違うように感じる。
とにかく冷静に、1つ1つのコーナーを無理のないアプローチでクリアしていく。
幾度かコーナーを抜けたが、背後のヘッドライトは一向に小さくならない。
これでも
相手は互角…いや、それ以上に攻め込んでるのか?
どちらにせよ俺が劣勢気味だというのが、今の状態でよく分かる。
差は全くない、というか相手の方が迫ってきている。
あまりタイヤに負担はかけたくないし、ここで降りるのも手だけど、ナメられておいて絶対に前は譲りたくないという本能が、俺の手足を動かしている。
そうだ…走り屋ってのは、挑まれたら意地でも負けたくないって性分の生き物なんだよな。
ここまでムキになってるのも、全ては仲間やライバルと出会ったあの頃の影響だ。
もしかすると後ろを走ってるのは、俺の知ってる車じゃないのか…?
そう考えていると、背後にいた車は忽ち86の右側に並んでいた。
迅斗
「しまった…!」
この先は、ややキツい右コーナー…相手が突っ込み勝負に出ると予想し、俺はタイヤの負担を覚悟の上でギリギリのブレーキングに入る。
内側に入らせまいとステアを右に切るが、一歩及ばず、ラインの優先権を相手に与えてしまった。
ここで俺は、相手の車を視認する。
迅斗
「BRZ…群馬ナンバー。」
この辺じゃ見かけない、おまけに他県のナンバー…その割にはこの峠を知ってるような走りだ。
さっきの追い抜きは、決して無茶なものではない。
行けるという確信があってこその動きだった。
くっ…まさかこんな所で抜かれるなんて、とにかく今は食いついてチャンスを窺わなきゃ…感心するのはまだ後だ!
相手に迫ろうと、俺はベストラインを意識して走る。
しかし、腕か車の差…もしくはその両方なのか、次第に前方を走るBRZとの距離が開いていく。
突っ込みでも立ち上がりでも、相手の方が一歩上なのか…!?
今まで自信のあったコーナー勝負で詰められないなんて。
次の左コーナーは、BRZより少し遅らせたブレーキングで進入していく。
迅斗
「ここで離されるわけには…!」
すると、コーナーを抜けた矢先、俺の目に映る景色は、真っ直ぐではなく右側に寄っていることに気づく。
86の右タイヤは路肩の砂地に入ってしまい、そこから伝わる振動が車内に響いていく。
加速のタイミングを失い、俺は徐々に小さくなっていくBRZのテールランプを見つめて、そのまま路肩に車を停めた。
迅斗
「はぁ~~
また悪い癖が出てしまった…。」
少しはマシになったと思っていたドライビングだったが、こうも熱くなってしまうのは全く変わらないな。
得意なコースで呆気なくやられてしまうと、こんなにも屈辱感を強く味わってしまうものなんだな…。
走り屋として、俺もまだ未熟なレベルなんだと思い知らされたバトルだった。
迅斗
「一体、なんだったんだ?
あのBRZは…。」
相手の正体が気になる傍ら、俺は麓を目指して再び車を走らせるのだった…。
つづく。