迅斗は久しぶりにモタスポ同好会の仲間に会うため、多神湖畔に訪れていた。
【PM1:00 多神湖畔】
南方面に車を走らせること30分…ここは絶景スポットの
弐香後峠と比べて路面は整備されており、一見走りやすそうに見えるが、行く先々は入り組んでいて、見通しの悪い箇所もあるなど走り屋にとっては攻め甲斐のある場所と専らの噂だ。
弐香後に入り浸っていた俺たちを見かねて、先輩が気分転換とレベルアップを目的にここを教えてくれた。
湖近くの駐車場に車を駐めると、見覚えのあるEK9とそのドライバーが近づいてきた。
照
「お~っす、ジント!」
照…俺の幼馴染みの1人で走り屋仲間。
恐れを知らないコーナーへの突っ込みっぷりは、猪突猛進という言葉が相応しい。
2年前は親との確執や車を故障させてしまったことで、走り屋に対して迷いを見せていたが、今は1から車のノウハウを学ぶ為に専門学校に入り、両親とも和解してよくやっているようだ。
迅斗
「あれ、照だけか?」
照
「あぁ、今日来られんのは俺だけでさ…舞依も忙しいみたいなんだよなぁ。」
舞依…今日ここには来てないが、照と同じく幼馴染みの走り屋仲間だ。
学生時代から輝かせていた抜群の運動神経は、車の運転にも大きく繋がっていて、癖があると言われたFD3Sを短期間で乗りこなす程のウデを持つ。
大学やバイトに勤しむ傍ら、現在はサーキットによく赴いて、更なるステップアップを目指している。
照
「最近俺もサーキット行ってて、プロ出身のコーチとよく走りに出てんだよ。
…で、舞依のヤツさ、話じゃ近い内に
迅斗
「はは…まあ、あんなキレた走りするくらいだし、プロ側から目をつけられても可笑しい話じゃないよな。」
照
「それに俺の見る限りじゃ、コーチとも仲良くやってそうなんだよな~。
舞依がコーチと話してるとこよく見るけど、そん時のアイツの顔…楽しそうに笑ってるんだ。」
迅斗
「それも可笑しくはないだろ…俺たちはもう21だし、そういう事があっても…。」
照
「いやさ、何か俺らだけ置いてけぼり食らってそうでさ…。」
迅斗
「それも人生だよ。
俺たちは、これから先酸いも甘いも噛み分けて生きていくんだ。
こうして走り屋やってるのも、永遠にとは限らないからな。」
2年という長いような短いような時間で、俺たちは少し変わっていた。
俺は、多事にかまけて思うように好きなことに時間が割けなかった。
照だって、2年前と比べて常日頃走ってるわけではないだろうし。
でも…気のせいか?
俺の方だけあれから時間が止まっているように感じるのは…。
照
「――さーてと!
ここでいつまでもくっちゃべるのも何だし、いっちょ走ろうぜ。
こういうモヤモヤは走りで吹っ飛ばすに限る!」
迅斗
「…だな。」
変わったことがどうあれ、今は仲間に会えた貴重な時だ。
今日この時間を大切にしなければ…!
俺たちは各々の車に乗り出し、道路に入っていく。
照
「よーし、いきなり全開でいくぜ!」
まだ道路に入って間もないのに、照のEK9はけたたましい排気音と共に加速する。
負けじと俺もアクセルを踏んでEK9についていく。
照
「いい感じだぜ…!
高回転域に入った時にくる、この喧しさはVTECの特権だよな。」
まさか照がここまで上手くなってるとは…鋭い突っ込みは相変わらずだが、それでいて車の負担を最小限に抑えたコーナリング。
照ってこんな走りをするタイプだったっけ…?
とにかくこっちも続かなきゃな。
ついていく事だけを考えるんだ!
迫るコーナーを幾度と抜け、照のラインをなぞるように走っていく。
とてもじゃないけど前には出られそうにない。
俺は仲間の成長ぶりに喜びを感じるその反面、心の奥底で焦りを抱いていた。
この前のBRZの時もそうだったが、俺はあれから“成長”しているのだろうか…。
他のことで手つかずなのを言い訳に、このままでいいと思っているんじゃないか?
――わからない。俺の求める走り屋って一体なんだっけ。
気がつくと、俺たちはすでに峠を1周しており、そろぞれ路肩に車を停めていた。
ここは弐香呉と違って気が遠くなる程の長距離ではなく、1周にかかる時間は案外短い。
ましてや集中して走っていれば、もう回ってきたのかと感じるレベルだ。
照
「へへ…どうよ?しばらく見ない間に、俺とシビック少しはマシになったろ?」
迅斗
「チューンしてたのはSNSで見てたから知ってたけど、まさかこんな速くなってるとは想像以上だよ。
ついていくだけで精一杯だったし。」
照
「あれから俺もさ、車ともよく向き合って、本格的に速くなっていこうって決めたんだ。
今の内か…確かに照の言うとおり、走り屋というのは、周りからすれば危険でくだらない事なんだ。
だけど気がつけば俺も、そんな世界に足を踏み入れたが為に、深淵ってレベルに向かおうとしてる。
誰よりも速くないたい…
走り始めたばかりの頃は、バイクで言うツーリング感覚で楽しんでいたけれど、いざこうして誰かと競うように走っていると、長く自分の奥底にあった闘争心が自然と芽生えてくるようになった。
あの夜、BRZに出会った時から…。
迅斗
「――おかしくなってきたかな。」
照
「あ、何がおかしくなってきたんだ?」
迅斗
「あ、ああ…実はさ。」
俺は数日前にあった出来事を照に話した。
照
「ふーん、BRZにねぇ…。
そりゃま、ブランクがあったにせよ、走り慣れたコースで、しかも似たようなスペックの車に呆気なくやられんのは悔しいよな。」
迅斗
「なんだか分からないけど、あれからヤケに意識するようになったんだ。
これも走り屋の性ってやつなのかな?」
照
「…かもな。
んな話訊いたら、俺もそいつが気になってきたよ。
時代の流れなのか、走り屋の数も減ってきて、誰かと競うなんてことも少なくなったからな…。」
BRZの話をしてから、照のやる気はさらに上がってきている。
俺もこうしちゃいられない…久しぶりに車と関われる時間が出来たんだ。
その間に、今までのブランクや照たちとの差を埋めていかないと…!
…さっき走っていた時もそうだったけど、正直な話…俺、焦ってるのか?
【同時刻 東北エリア】
地元の走り屋A
「いや~負けた負けた!
相変わらずオキさんの突っ込み尋常じゃね~っすよ。」
地元の走り屋B
「普通に考えでも行けそうにねどご、スパッと行げんだがらな~。」
オキと呼ばれる男
「ま~な、経験上お前らがあり得ないと思ってる事でも、こっちは余裕でこなせるもんなんだよ。
今の走りならお前らもあと5、6年走ってりゃ次第に身につけるハズだぞ。」
地元の走り屋B
「5、6年がぁ~、俺らもオキさんみでに結婚しても峠走ってりゃいいんだげんと…。」
そんな談笑を終えると、2人の走り屋は挨拶を交わして去っていった。
オキと呼ばれる男
「…ふぅ~、ここでも弟子とか持っちまうと、地味に気遣っちまうもんだな。」
ひと息いれようとドリンクホルダーにあった飲み物を取り出すと、スマホの着信音が鳴る。
オキと呼ばれる男
「ケイんとこからか。
…はい、もしもし。
ああ…問題ねーよ、ホームページ更新してるだろ。
そっか、もうそんな時期か。
今期はパスしても構わねーんだけどな。
…え?あの人が?
…分かった、とりあえず決まったらそっちに連絡いれるわ。
おう、お疲れ。」
そう告げると、スマホをしまうや否や車に乗り出した。
オキと呼ばれる男
(いろいろと面倒になりそうだが、少しの間里帰りすんのも悪くねえかな。)
つづく。