奇術師達のアルカディア   作:チャイマン

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来訪者は共に
夜空を想う①


 

願い。

誰かを救い、誰かに救われたいという願い。

全てを壊し尽くしたいという願い。

ただ幸せに生きたいという願い。

 

いずれにせよ、願いが持つは一つの方向。

選ぶのではなく、選ばれる事こそが願望。

故に人々は祈る、神に、星に。

そこに、真理は一つ。

 

祈りの為に願うのではなく。

ただ、願いの為に祈ること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある異世界、街並みの中。

物陰に人の気配。

 

「此処は……」

 

シルクハットとスーツを身に纏い、杖を携える男。アノンは散乱する金属片を踏み散らしながら、建物の影から現れる。不気味な静寂の中に足音だけが広がっていく。

 

「……何だ、この世界は?」

 

そしてそれに追従する様に現れたもう一つの人影。只ならぬ様子を醸し出すその存在は、黒々しい波動に身を包む亡骸。金属片が骨と擦れ、妙な音を奏でる。

 

彼らの目の前に広がるのは未来都市。ビル群が立ち並び、その間を縫うように車両走行用空中道路(見知らぬ何か)が回路のように貼り巡らされている。しかし、彼らの目を奪ったのはそこではない。

 

「廃れていますね……」

 

そう、廃れている。ビル群に光は無く、道路に車は無く、飛翔体が空を飛ぶ事も無い。アノン達が踏んだ金属片の様なものがそこら中に散らばり、砕かれたガラスが放置されている所を見るに、この都市を管理する者が長くいないであろう事は彼らにも明白だった。

 

「アノン、我輩はまだ世界を渡った経験が少ない故に一つ聞いておきたい。こうした世界に巡り会うのは良くある事なのか?」

 

ベルズはアノンの背中を見ながら質問した。それに対し、アノンは振り返らず答える。

 

「……貴方の言う『こうした世界』が何を指しているかによります。

『文明が高度に発展した世界』を指すなら頻繁ではありませんが経験はありますし、『人がいない世界』は稀ではありますが未経験ではありません。」

 

「ならば……」

 

その瞬間、アノンはくるりと振り向いた。そしてベルズの鼻先に杖の先端を向けて続ける。

 

「落ち着いて下さい、問題は『人が排された世界』である場合です。此処まで文明を発展させてきた人類が一人もいない。経験則ですがこういう場合には……」

 

一瞬の間。アノンが杖を下げ、元の方向を向き直る。静寂と残骸のみが広がる空間を見据え、アノンは杖を構えた。

 

「最大級の警戒を。人を退け得る強敵か難題か、どちらが襲ってくるか分かりません。」

 

ベルズから黒い波動が迸る。互いに警戒態勢に入った次の瞬間。

 

「ッ!!」

 

アノン達の目の前で鳴り響いたのは巨大な爆音。まるで大地が沈んだかの様にずっしりとした重低音。静寂は地面と共に砕かれ、土埃と砂煙が金属片と共に辺りを舞う。

 

刹那、音もなくベルズが拳を放つ。激しい衝撃、そして轟音が遅れてやってくる。風圧で視界が明瞭になると同時に、放たれた拳は金属製の物体に弾かれ虚空を貫いた。

 

「……!」

 

目の前に現れたのは、金の刀。そしてそれを持つ銀と赤色の機械人形。武者鎧を彷彿とさせつつも、先進的であるという事を表す無駄のないフォルム。ベルズは勿論、アノンでさえも驚きを隠せずその場で静止する。

 

『ストップ、攻撃の停止を求めます。』

 

明瞭なトーンで響く機械音声。少し遅れてベルズはアノンの方を振り返る。アノンが構えた杖を地面へ投げ捨てると、ベルズも観念した様に拳を引き、少し距離を取る。

 

『感謝します、来訪者の皆様。私はレグルス、この世界最後の生き残り(・・・・・・・・・・・)です。まずは現状から説明させて頂いても宜しいでしょうか?』

 

これこそが物語の始まり。神出鬼没、世界を旅する旅芸人。不死不朽、亡びた国の王者。そして機々械々、結末を担った兵器の初めての遭遇であった。

 

 


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