奇術師達のアルカディア   作:チャイマン

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過去を想う②

 

異世界、つまり異なる世界。

一言で表してはいるが、その在り方は非常に多岐に渡る。何せ私たちが住む世界でなければ、それは異世界と呼称されるのだから。

勇者が現れ、魔王を倒すような世界。

脅威など何もなく、ただ平和なだけの世界。

袋小路に突き当たり、終わりを待つだけの世界。

 

広がる世界の総数は、今や誰にも分からない。

どれも正しく異世界で、そして全てが等しい価値を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジック?」

 

「マジックですよマジック。ご存知ありませんか?」

 

「……。」

 

人骨と男は顔を見合わせる。つまるところ、人骨は目の前の男が何を言っているのか理解出来ず、また男は目の前の存在がマジックを知らないであろう事を理解したといった具合であった。尤も、こうした経験は男にとって初めてのものでは無かったが。

 

「マジックというのはですね……」

 

刹那、人骨が拳を放ち空間が(えぐ)れる。轟音が鳴り響き、大地が削れた。流水の如き動きから放たれた一撃は、その直線上にあった物を残骸に変えるには十分な威力だったと窺い知れる。

 

その力こそ魔力。世界の法則を無視し、力学に囚われる事のない力。しかし実際には魔力が世界の理を壊す事はない。そこには『魔法』という別の理が存在するだけである。世界の理が私達が知り得る以上に強固で頑強であるという情報は、この場においては無用の長物だろう。

 

また、この世界の『魔法』には特色がある。彼等はこうした力学を無視する力を『魔法』と大まかに定義した為、魔力間の細かな違いを特色による物だと扱っている。実際には起源が異なっていたり、そもそも『魔法』にまで至っていない物をそう誤認していたりと様々な問題があるが、それを彼等が知る由は無い。

 

「こういうものを言うのですよ。」

 

閑話休題。人骨から見て右前方から淡々と話す声が聞こえる。(ひるがえ)るマントの影に、その男の姿が見える。つまりその拳は空を衝き、男の身体を捉えてはいなかったという事になる。頭蓋は声に反応する様にゆっくりと声の方向を向き直り、そしてまた沈黙が辺りを満たす。

 

(……何故、当たらぬ?)

 

虚となった心の中で、人骨は静かに疑問を覚える。この人外は自身の拳の性質を知っている。その上で瞬間的な動作で避けられるような代物では無い事も、また知っていた。ならば、これは何を意味するか。

 

そもそもありとあらゆる『魔法』の行使には、知覚という前提を必要とする。こうした理由から、『魔法』が常時発動しているという状態は存在し得ない。前もって行使した物であっても、それには必ず持続時間というものが存在する。『魔法』を以って結界を張っても、それが一日以上持続する事はまず無い。つまり、男が『魔法』を使う暇は無かったということになる。ということは──

 

「無意味である。」

 

そう、人骨は結論付けた。

 

「……なんですって?」

 

「無意味である、と言った。我輩が貴様のした事について推理する事も、貴様と我輩が拳を交える事も、貴様が我輩に何か為そうとする事も、全て無意味で無駄である。」

 

そう、無意味。

 

「何せ、我輩は不滅(・・)である故。」

 

その死者の名はベルズ。

かつてこの地で栄えた王国『ベルベット』の最後の王であり、この地にて遥かなる時を縛られし怨霊の名である。

 

 

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