奇術師達のアルカディア   作:チャイマン

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夜空を想う②

 

静寂のみが広がる都市を、星灯りが照らす。そんな静寂を足音で破りながら動くのは二人と一体。来訪者であるアノンとベルズは自身を最後の生き残りと名乗る、レグルスの後ろに着いて進んでいく。

 

『最初に結論から申し上げますと、この世界に私以外の人類・動く機械は存在しません。私が全て滅ぼしました。』

 

歩きながらレグルスは独特の機械音声でそう発した。アノン達の方はちらりと見たきり、そのまま前を注視して進んで行く。

 

「……何故、滅ぼしたのですか?」

 

『何故。それは上位存在からの命令でした。私は他者を滅ぼす為に生み出された自律兵器。私は命令を実行し、そして世界から人類と機械は消失しました。

何時。249年158日10時間34分前、それが彼らが滅び去った時間です。私が命令を受理してからおよそ半年後の出来事でした。

何処。この星における全ての場所です。私の生命探知、視界共有を利用すれば全ての場所を把握するのは容易い事でした。貴方達を見つけたのもそうした機能のおかげです。』

 

ただ無慈悲に言葉が述べられる。そこに感情は無く、情報としての意味のみを持った言葉。目の前の存在が世界を滅ぼしたと言われても、疑問すら抱き得ない程の圧倒的な気配。

 

「我輩達に刃を向けぬのは貴様の意思か?それとも単純に命令の対象外だからか?」

 

『理由。端的に言えば前者です。上位存在の命令ゆえに私は全てを滅ぼしました。その時点で命令は遂行されましたので、現在の私は自身の意思で行動しています。』

 

レグルスが語り終えると、沈黙が訪れる。語り終えた訳ではなく、彼らにも問いが無くなった訳では無い。ただ静かさが充満した故に、彼らの口は噤まれる。

 

しばらく無言で歩くだけの時間が続く。周りには破壊された機械が辺りに散乱している。立ち向かう様に止まった物、逃げ出そうと背を向けた物、そして一目見ただけでは其れとは分からぬ程に粉砕された物。それを見ても、二人は言葉を発さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

数刻が経った。都市部からは随分と離れたが、金属質の何かが地面の代替であるかの様に地を覆っている。その様な大地にアノンは疑問を抱きつつも、足音と共に響く金属音の中に問いを霧散させていく。

 

突然、レグルスがその平野で歩みを止める。アノンとベルズもつられるようにして足を止めた。

 

「……で、長々と歩かせて貴様は一体何処に連れて来たかったというのだ?」

 

『此処です。私にとっては意味があり、他者にとっては意味がない場所。貴方達にとってはどうでしょうか。』

 

そう言い、レグルスは足元を指さす。そこには小さな金属の柱が残骸の様に立っていた。そして横たわる様に置かれていたのは刀。

 

アノンもベルズも、それが何なのかを一瞬で理解する。金属製の残骸には仰々しく、こう刻まれていた。

 

 

 

      来訪者アズマ

      此処に眠る

 

 

 

「来訪者、アズマ……」

 

『凡そ130年前の事です。来訪者アズマはこの地に現れ、心を私に授けました。』

 

「来訪者とは、何だ?」

 

ベルズがそう聞くと、レグルスは淡々と答える。

 

『来訪者、それは異世界からの迷い人、或いは宇宙(ソラ)からの到達者。共通するのはこの地に起源を持たぬ点。私がこの地を滅ぼしたのですから、この地に現れた新たな生命は全て来訪者です。』

 

アノンとベルズは顔を見合わせる。彼らにとって異世界は来訪する場所。無論来訪者という呼ばれ方は間違っていないが、来訪した時点で場所を特定され、しかもたった一体の機械に滅ぼされた世界などというのは未経験、イレギュラーの集合体の様な状態下だった。

 

『そして来訪者アズマ、彼は私が最後に滅ぼした存在であり、私が私という自己を得る切っ掛けとなった人物です。』

 

「どうしてこの場所に私たちを案内したのですか?」

 

『理由。一つは来訪者という意味を正しく捉えて頂く為。私が千の言葉を以って貴方方に説明をするよりも、一つの事実に言葉を少し加える方が的確で早いと判断しました。もう一つは……』

 

少しの間が空く。ノイズの様な機械音声が鳴り、レグルスは続けた。

 

『アズマという存在を、ただ知って欲しかった。私だけが知るのではなく、来訪者である貴方達に。アズマという存在はただの情報でしかありませんが、滅ぼす事しか出来ない私が残す事の出来た最後の記録です。故に彼を遺す為の墓標を作りました。』

 

アノンにはそう話す機械人形が、決して殺戮兵器には見えなかった。彼がアズマの事について話す時、そこには感情が込められていた。心を私に授けた、とレグルスは言っていた。冗談でも何でもなく、機械の彼の身体には心が宿っていたのだろうと、彼は心の中で確信する。

 

「それで、貴方はこれからどうするのですか?」

 

『……自分にも分かりかねますが、アズマの墓を守ってゆきます。これからも貴方方の様に訪れる来訪者の墓を作る使命が残されていますので。』

 

「……ん?」

 

間の抜けた様な声を上げるベルズ。それをアノンは手で制止する。

 

「では一つ頼んでも構いませんか?」

 

『私に出来ることであれば。』

 

間を空ける事はしない。すぐにアノンはこう言った。

 

「少し、戦いましょう。」

 

 

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