奇術師達のアルカディア   作:チャイマン

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芯なる願望②

 

願望、其々が持つ理想の姿。

往々にして、人は悪い出来事に対する印象が強く残りがちです!

不幸で、気に食わない事があって、思い通りに行かないと感じて、ですから人は理想を追い求めるのでしょう!

そしてそれは思いが強い程素晴らしい!

 

ですが、理想というのは届かぬからこそ価値があるものです。

届いてしまった理想は色褪せて行き、見返してみれば大した事は無かったと思ってしまう。

ましてや叶う事が分かっている理想など、価値があろう筈もありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燦々と輝く太陽!美しき青空!そして活気あふれる街並み!素晴らしい、と大声で叫んでしまいたくなる衝動を抑えます。目立たぬ事は旅路の基本、アノン殿が日頃からよく言っている事です。

 

本日は自由行動、私が見たい物を見る事が可能です。決まったのは先程で、ベルズ卿が一人市街に消えていった後でした。苦笑しながらアノン殿が個人行動を提案したのです。

 

「直感に任せても見つけられる物はあるでしょうし、いっそそうしませんか?」

 

『構いませんよ!』

 

かくして、私は目的地を目指しています。入り組んだ路地を右へ、左へ、右へ。何処に繋がっているかは検討もつきませんが、目的地はただ一つ。よく目立つ建造物ですから、遠ざからなければ問題はありません!

 

道の角を曲がると、不意に現れたのは大通り。皆さん、女神像の方を向いて祈っておられます。老若男女、この場にいる誰もが一心に祈る光景。なんともこの国の方々は敬虔でいらっしゃるようです。となると、皆さんが祈っておられる方角へ進んでも目的地には着きそうです。

 

そう、目的地とはその女神像の足元にある神殿。立地的に少し高い場所にあるのでしょうか、此処からでもその全容が見て取れます。とても荘厳な作りで、私の世界の建造物とは大きく趣きが異なっています。一体中はどんな作りになっているのでしょうか。とても興味深いですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩き始めて二十三分と数秒。少々勾配がきつい坂もありましたが、苦になる事もなく歩き続けて神殿は目と鼻の先と言った所ですね。後ろを振り返ると、私が追い抜いて来た息も絶え絶えな参拝者の背後に、街並みが広がっています。

 

……しかしその風景に少し、違和感を覚えます。何かがおかしい、しかし何がおかしいのか分からない。昔であれば再起動してエラーを処理しなければならなかったのでしょうが、私はその疑問を思考領域から外して心の奥に仕舞い込みます。こういう疑問はアノン殿に解決して頂くのが早いと、私達はよく知っています。

 

「ちょっと、そこの君。」

 

背中から声をかけられました。呼ばれた方を振り返るとそこには鎧を着た男性が一人、胸のところには紋章がついています。神殿の方からいらっしゃったのでしょうか。

 

「神殿に入るなら、鎧を脱いで貰わなければならない。其方に預け入れの施設があるからそこで……」

 

話しぶりからするに、神殿の警備を務めていらっしゃる方のようです。そしてどうやら私は相手から鎧を着た男性に見えている様ですね。全身機械ですから、中身さえ見なければ確かに本質とはかけ離れてはいないと言えます。

 

『あの。申し訳ありませんが、これは着脱出来る鎧ではありません。そういった場合はどうすれば宜しいのですか?』

 

実際は着脱が可能です。しかし脱いだ所で中身も機械、また鎧を脱いでくれと言われてしまっては敵いません。

 

「着脱出来ないって、何ふざけた事を……?あぁ、つまりそういう事か。」

 

『そういう事、とは?』

 

なるほど、と頷く男性につい聞き返してしまいます。実は脱げない鎧を着た別の方がいらっしゃった、という事でもあったのでしょうか?

 

ご愁傷様(・・・・)って事だろ?だが心配はいらない、この国で祈っていれば脱げない鎧だって脱げる様になるさ。だがまぁ、今日の所は神殿に入るのは諦めてくれ。」

 

……よく分かりませんが、とりあえず神殿には入れなさそうですね。残念ではありますが、気持ちを切り替えて少しでも情報を集めなければなりません。

 

『はぁ。祈り……というのはこの国の皆さんがしていらっしゃる物ですよね。何か作法や決まりはあるのですか?』

 

男性は少し考えてから答えます。

 

「特に無いが……強いて言うなら心から祈る事だな。それでも願いが叶わなければ、案外切羽詰まってないとも考えられるかもな。とにかく、心のままに祈ればいい。」

 

『では何時、どれだけ祈れば良いのですか?』

 

私が言葉を言い終えると、男性は突然笑い始めます。周りの方々の注目が集まりますが、私には何が笑えるのかさっぱり分かりません。

 

「おかしな事を言う人だな!何時ってのは周りを見てればその内分かるから気にしなくて良いにしても、どれだけって事はないだろう!祈りなんだから叶うまで、当然だろう?」

 

『……なるほど、了解しました!』

 

私は神殿に背を向け、来た道を戻ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、神殿に入るか入らないかは問題ではありませんでした。無論入れたに越した事はありませんが、色々と測定させて頂いたので最低目標は達成出来ました。が……

 

[この国の人間……数十万人。

この国の文明レベル……中世。

この国の人々の経済格差……有り。

国内に怪しげな気配、流れ……無し。]

 

[神殿内の人間……数万と数千人。

神殿内に怪しげな気配、流れ……無し。

そして神の存在……測定不能(エラー)。]

 

想像以上に普通で、分からない事が多すぎます。やはり機を待つしかないのでしょうか?その辺りはアノン殿に聞くしかなさそうです。

 

まぁ、待つのは苦手ではありません。

ベルズ卿がこの国の酒を制覇するまでには、転機があると良いのですが。

 

 

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