不滅。
不朽であり、生者にとっての不死。
これを探し求める者は数あれど、終ぞ手にする者は現れず。
物語であればかぐや姫が残した不老不死の薬を時の帝は手に入れたが、それは富士の山に投げ入れられた。
曰く「彼女が居ない世界を生きる意味はない」と。
そう。不滅である事は、人に益など
ただ終わるという機会を犠牲に、無限の機会を得るだけである。
「我が名はベルズ、不滅にして不朽の王者。故に小細工を弄すは無意味と知れ。」
今は昔の話である。とある地にベルベットという王国があった。この国は一つの血筋である王を継承し続けていたが、その誰もが善政を敷く素晴らしい王であった。故にその国は栄え続け、平和であり続けながら未来永劫有り続けるのだと誰もが考えていた。
しかし、永遠などありはしなかった。ベルベットは正体不明の侵略者に攻撃され、その栄華の歴史に幕を閉じる事となる。ところが国は亡べども、その国の王の意志は滅びる事なく存続した。侵略者を裁き、ベルベットの地を守護し、そしてその歴史を誰しもが忘れる事の無いように、と。
かくして、悪霊『ベルズ』は誕生した。
「不滅であるから、私が何をしようとも無駄に終わる。戦っても自身が負ける事はない。だから無駄だと、そう言いたいのですか?」
「分かっているなら疾く失せよ。此処は我等の地、侵す者は
そう言い切ると、黒々しい波紋がベルズから溢れる。この世ならざる異形の力が、他者に見えるほどの形を得る。憎悪、絶望といったベルズの持つ感情がその力を増幅させる。
「では、こうしましょう。私が貴方に勝ったら、私の言う事を一つ聞いて頂きます。負けたら私はこの地を去りましょう。」
朗らかに男はそう提案する。しかしその瞬間、黒々とした波紋が大きくうねり、空間を飲み込む。そうして生まれた黒に覆われた世界で、ベルズと男は対峙する。
「忠告はした。逃げれば追いはしなかったが、無駄口を叩くのならば消え失せろ。そして、自身の稚拙な判断を後悔しながら死ぬが良い!」
「……想定とは少し異なりますが、まぁ良いでしょう。約束、忘れないで下さいね?」
最早手遅れとなった状況で、男は最後にそう言った。
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「……とまぁ、そんな事があった訳です。」
『ふむ、それは興味深い!それで続きはどうなったのですか?』
とある宿屋の一室。黒く染め上げたスーツにマントを羽織った男と、銀と赤で彩飾された鎧の形をした機械が話をしている。そして──
「……我輩が此処にいる事が答えである。」
亡国の王、ベルズ。全身を覆い隠すような大きさのローブに身を包んだその王は、居心地が悪そうにそう答えた。
『まぁ、ベルズ卿がアノン殿に実力で負けたという事はないでしょう!大方、アノン殿の手品で煙に巻かれたというところではないですか?』
「普通に酷くないですか、その評価。」
「……が、否定はしないか。」
「まぁ事実ですから。あと十戦やれば、十戦とも私が負けるでしょう。手品というのはタネが明かされるまでが勝負ですので。」
『しかし勝ちは勝ちです!誇っても良いでしょうね!』
「遠慮しておきます。再戦を申し込まれても面倒でしょう?」
冗談を交えた会話を繰り広げながら、アノンは過去を想う。そして、現在に目を向ける。そしてこれからの計画をゆっくりと立て始める。
「再戦など申し込まん。が、代わりにだ。」
ベルズはアノンを指し、口を開く。
「何です?」
「酒を持って来い。今日はそのような気分である故。」
「……ええ、仰せのままに。」
亡国の王、ベルズ。世界を旅する男と共に旅をする者。これはその切っ掛けの物語。