奇術師達のアルカディア   作:チャイマン

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真なる願望②

 

今まで様々な物を見てきましたが、人間が相反する在り方をしている事に気がついたのはいつ頃だったでしょうか?

価値観という曖昧な基準は世界を経る毎に移り変わり、全てを受け入れる事は不可能に違いありません!

理解し得ぬ物も、その中には無数にあったように感じます!

 

一方で、私は無知でした。

死が救いになる事もありますし、生が拷問になる事もあるのでしょう。嘗て壊し尽くしたあの命の中にも、或いは救われた者がいたのかもしれません。

しかし主観を除けば私はただの殺戮者です。そこだけは事実で、変わりようはありません。

 

私に祈るべき願いなどありません。殺戮者が都合よく何かを望むなど、きっと烏滸(おこ)がましいでしょうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アノン殿が神殿へと向かうと、いよいよ私は手持ち無沙汰になってしまいました。ベルズ卿の様に酒を嗜む機能は持ち合わせておらず、剣を振るう相手もこの世界にはいる気配がありません。平和です。

 

『退屈ですね……』

 

戦乱を求めている訳ではありませんが、やはり役目がないと落ち着きません。性分というのは中々変えられない物です。

 

……そういえば昨日、ベルズ卿に意識が向いていて伝え忘れた事がありました。神殿に向かう途中の景色、その違和感。時間もありますし、アノン殿を迎えに行きつつ少し考えても良さそうですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神殿の前に辿り着き、(くだん)の場所であの時と同じ様に風景を眺めます。ええ、やはり違和感が拭えません。暫く眺めていれば何か発見があるでしょうか?

 

……国の端の方に、活気のないエリアがありますね。恐らくあれがアノン殿の言っていたスラムでしょう。広さとしては国全体の数%程でしょうか?

にしても市街地のすぐ側にあるのに警戒されている様子がありません。人々が流出する恐れがあると思いますが、どう対策しているのでしょうか?

 

少し違和感を……あ、いえ。私が気になっていたのはこの事ではありません。気を取られる事のない様に、もう少ししっかりと見てみます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……むぅ。』

 

小一時間ほど眺めてみましたが、成果はありません。此処まで来ると違和感に対する気持ち悪さは何処かへ失せ、好奇心だけが心の中で渦巻いています。端的に言えば……こう、もやっとします。

 

「おや、レグルスではありませんか。」

 

突然、聞き覚えのある声が聞こえます。なんと素晴らしいタイミングでしょうか!

 

『アノン殿!』

 

最初からこの方に聞けば早かったのかもしれませんが、この際そんな事を悔やむ必要はないでしょう!

 

『一つお聞きしたい事があったのです!この風景に違和感を持っているのですが、何がおかしいのか私には分かりません!』

 

ですから力をお貸し下さい、と捲し立てる様に伝えます。つい感情が乗ってしまいました。どうやら自身の想像以上に、この違和感について執着していた様です。

 

「……成る程。因みに違和感というのはどの様な物ですか?」

 

『と仰いますと?』

 

アノン殿が杖を指します。その先にはこの国、エンテイルの街並みが広がっています。

 

「何かが足りない、何かが多い、見覚えがない様な気がする、歪んで見える。風景の違和感ですから、その辺りを確かめておきたいのです。直感で構いませんよ。」

 

直感……と来ましたか。機械である私には少し難しい質問ですが、この景色を長く眺めてきたのは紛れもなく私です。少し考え、私は答えを導き出します。

 

『……そうですね、何かが足りないと思います。自信はありませんが。』

 

「ふむ……」

 

そう呟き、アノン殿も景色を眺めます。風がそよぎ街を巡り、穏やかに流れる時の中で蠢く違和感が、私には見えません。

 

「正解です、レグルス。この国にはあって然るべきものが無い、つまりは足りません。」

 

数分後、アノン殿がそう仰います。そう、これこそがアノン殿の強さ。不可思議の塊の様な方ですが、違和感や謎を解き明かす事については群を抜いていらっしゃいます。

 

「足りないのは()です。言い換えるならば、この国には墓地がない。郊外にもありませんし、何より死の気配というものがありません。」

 

……成る程、分からない訳です。全てが終わった後の、まるで墓場の様な世界に住んでいた私には、難し過ぎた設問だったかもしれません。ですがそれはそれで、新たな疑問が浮上して来ます。

 

『……皆さん不死身という事ですか?』

 

「それはないでしょうね。この世界が何年続いてきたのかは分かりませんが、不死身になり得るのならこの程度の人口で済むはずがありません。」

 

『では、一体どういう事なのでしょう?』

 

「死の痕跡が残らない……何の為に?いえ、誰かの為に?それとも偶然でしょうか?」

 

そう。アノン殿を以ってしても、このように問題が解決しない事もあります。解明という行為は何とも難しく、異なる世界がそれだけかけ離れていることを指し示していると言えましょう。

 

「……お手上げです。これは神様に伺った方が良いかもしれませんね。」

 

アノン殿は意味深な事を呟き、道を歩き出します。

 

「戻りますよ、レグルス。」

 

『了解しました。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墓地……そういえば、ベルズ卿は気付いていてもおかしくなさそうですが、あの方は今何をなさっているのでしょうか?

 

 

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