奇術師達のアルカディア   作:チャイマン

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揃い得ぬ道行①

 

「メリー。これから訪れる三人の内、一番危険なのは誰だと思う?」

 

「いえ、私の意見など……」

 

「ああ、どうでも良いかもね。ではクイズだと思って答えてみなさい。」

 

「……では僭越ながら。やはり最も危険なのはアノン様かと存じます。」

 

「へぇ、その心は?」

 

「一人で他世界から二人を連れて来たのは紛れもなくアノン様です。であればあの方が危険となるのは当然だと存じますが……」

 

「それはちょっと違うかもねぇ。むしろアノンに関しては危険でも何でもないと断言出来るから。」

 

「……左様でございますか。では、一体どなたが危険なのですか?」

 

「それはね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アノンの覇気が無い事に気づいたのは、その案内係を名乗る少女が現れてからであった。

……いや、二つ語弊があるな。

 

一つ、そもそもアノンは覇気のある男ではない。故に言い換えるならば、心ここに在らずといった所であろうか。

 

一つ、メリーは人ではない。見た目こそ人間に近いが、我輩に言わせれば構造が異なっている。人に似せ造られた存在である事は間違いない。

 

「貴女は、何故私の名前を知っているのですか?」

 

アノンが階段から降りて来たメリーにそう訊く。仮面の下の視線は見えぬが、その眼で貴様は本当に少女を捉えているのか、と聞きたくなる様子である。

 

「当館の主人は素晴らしく博識でございます。アノン様もベルズ様もレグルス様も、名前以外の様々な情報を主人から頂いております。」

 

少女の立ち振る舞いは、我輩を感心させる。気品を持つ、優雅であると言葉で表すと陳腐やも知れぬが、それ以外に適切な表現は無い。かなり格式高い家で育ったのか、まさか王族ではあるまいが。

 

「何故、貴様の様な人間が案内係などをしている?」

 

「……どういう意味でしょうか?」

 

衝動的に口走った質問であったが、案外見所は悪くなかった様だ、少女に焦りが見える。

 

「礼節を弁えておるのは良い。だがその気品を持って、使い走りをするのは不自然であろう。理由があれば知りたいものだが、それとも見て分からぬとでも思ったか?」

 

アノンは此方を一瞥し、そしてそのままそっぽを向く。レグルスはメリーの顔をしげしげと見、暫くしてから首を傾げた。

……冗談でも何でもなく、我輩が居らねば分からなかったのでは無いか?

 

「……素晴らしい洞察力でございますね、ベルズ様。ですが不自然という言葉は、此処では通用しないものと考えて頂いた方が良いかと存じます。」

 

「何だと?」

 

「此処は幻想協奏館、協奏とは調和を指します。泡沫(うたかた)の夢も強固な現実も、矛盾を許されながら協奏するのがこの館。

ですから、不自然という言葉は唱えるだけ無意味なのです。」

 

……言わんとする事は分かる。矛盾を飲み込み、現実としてあり続ける事で存在そのものを補強する。当然という言葉を無視した、我輩と同じような在り方である。

 

『話の腰を折るようで申し訳ありませんが、これから私達はどうすれば良いのでしょうか?』

 

隣から声を発すレグルス。そして思い出したかのように、行き場を失った刀がゆっくりと鎧の中に格納されていく。メリーはハッとしたように手を口に当てた。

 

「も、申し訳ありません、話に夢中になっておりました。

当館の主人は所用で出かけておりますので、主人がいらっしゃるまで当館でご自由にお過ごし下さい。」

 

周りを見渡すが、扉は我輩達が入って来た物とメリーが出てきたであろう物の二つしかない。という事は奥に何かしらあるのだろうか。

アノンが大仰に一礼する。

 

「お気遣い感謝します。因みに入ってはならない場所等はありますでしょうか?」

 

「特にはございません。では皆様、此方へどうぞ。」

 

そう言うと、メリーは階段を登り扉へと進んで行く。それに連れられ、我輩達も順に扉へと向かう。

そしてメリーは扉の前で立ち止まると、此方を振り返った。

 

「皆様、これは『開かずの扉』です。」

 

「開かずの扉?」

 

「作り手曰く『開く事に意義がある扉が、その意義を失えば芸術になる』そうです。」

 

……芸術かどうかは置いておいて、何故それを此処に設置したのだ?

どうやらこの館の主人は、我輩が思っている以上に独特な感性を持っているらしい。

 

『それではこの先へはどう進むのですか?』

 

「近づいて言葉を発せば、対応する場所へと移動する事が可能です。皆様もこの館に入る際に呟いたのではありませんか?」

 

という事は、入り口の扉も『開かずの扉』だったという訳か。あの時を思い出し、扉の上を見るとそこには文字が刻まれている。

 

「……順路は揃い得ぬ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

アノンがそう呟くと、既視感。一瞬にして全てが変わり、目の前に広がっていたのは小さな個室のような景色。

 

……そして、近くにいた筈のアノンとレグルスがいない。

成る程、順路は揃い得ぬとはそういう意味か。恐らく奴らも同じ様なことを思っているに違いない。

 

「ようこそいらっしゃいました。」

 

しかし突然声をかけられ、我輩は驚く。

驚いたのは声をかけられた事に、ではない。その声には聞き覚えがあった。

 

景色の中に溶け込んでいたかの様に、メリーが椅子に座っていた。そしてその前にはチェスのボードと、洋酒の入ったグラスが二つ。

 

「少しチェスを致しましょう、ベルズ様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……此処から一体、どういう展開が待っているのだ?

 

 

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