奇術師達のアルカディア   作:チャイマン

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揃い得ぬ道行④

 

我輩は様々な事を語った。

我等が足を運んできた世界について、我等が出会った人々について、我輩は話せるだけの事を話した。

 

また、メリーも様々な事を語った。

幻想協奏館について、そこに住む者達について。彼女は至極楽しそうに会話をした。

 

曰く、この幻想協奏館を創り上げた女性の名はオスカー。一人でこの世界と館を支配し、他の世界からこの世界に移り住む様に勧誘を行なっている、と。

 

曰く、幻想協奏館は対立する全てを収める力を持つ。抑圧するのではなく、それすらも含んだ上で幻想協奏館としての在り方が確立されている、と。

 

曰く、昔からオスカーはアノンの事を知っていた。だが顔馴染みでは無く、メリーも我輩とレグルスについてはつい先程知ったばかりだった、と。

 

「別にそこまで内情を話す必要はないと思うが……」

 

「そうなのですか?」

 

話してみてよく分かったが、つまりこの少女は箱入り娘であるらしい。物事の丁度良い塩梅と言うものを知らぬ故、世間を知らぬ様に見えていたのかも知れぬ。

 

だがこの世界は、その丁度良い塩梅というものが存在しない世界である。極論でさえも受け入れてしまうこの世界は、つまりあらゆるものが平等に扱われているという事になるのであろう。

 

「それで、我輩はいつまで此処で貴様と話しておらねばならんのだ?」

 

「……それが、実はオスカー様はいらっしゃるのですが、少し時間を空けて伺って欲しいとの事でしたので……」

 

メリーはばつが悪そうにそう言った。要はオスカーは出掛けていた訳ではなく、時間稼ぎをする為の適当な理由付けとしてこの館を見せたという訳だろうか。

 

しかし我輩の聞きたい事はそんな事では無い。我輩はもう一度問いを投げかける。

 

「どれくらい待てば良いか、と聞いておるのだ。細かい事はどうでも良いが、せめて質問には明確な答えを返して貰おうか。」

 

「……そうですね、いずれレグルス様がこの部屋を訪れます。それからの訪問でも構いませんでしょうか?」

 

我輩は返事の代わりに首を縦に振る。どうせアノンは勝手に向かうから構わないと考えているのだろうか、まぁその考えは間違っていないが。

問題はレグルスの方だ。奴は興味があればどんな事にも首を突っ込む性質、果たして到着は何時になるのか想像もつかぬ。

 

そしてメリーの手には、何処から取り出したのかオセロの用意。期待しているのであろう少女の顔を、我輩は直視しない。だがその無言の主張が我輩には聞こえる。

 

……どちらにせよ今の我輩には、早くレグルスが来るよう祈る事しか出来ない。恨むぞ、顔も知らぬオスカーよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アノン、貴方はこの状況をあの二人にどう説明するつもり?」

 

足元にまるで残骸の様に散らばる、無惨に砕かれた鎧と白い煙の中に舞い散る黒い影を眺めながら、彼女は私に問います。

 

「そのまま伝えるだけですが、何か問題でもありますか?」

 

「無いなら一々質問なんてする訳がないでしょう?」

 

まぁご尤もなのですが、それを知った様に言われるのも何だか違う気がします。もどかしいと言いますか面倒と言いますか……

 

「主題をぼかさないで下さい、貴女は何を気にしていらっしゃるのですか?」

 

「さっき言った通り、どう伝えるつもりなのかを気にしているの。だって最悪の場合は彼ら二人と本気(・・・・・・・)で剣を交える可能性もある(・・・・・・・・・・・・)

それが分からない貴方ではないでしょう?」

 

「当然分かっていますよ。そして言葉を返す様ですが、それが分からない貴女では無いですよね?」

 

彼女は私を睨みます。面倒ですね、本当に。

 

「本気で彼らに剣を振れるの?」

 

「もう、貴女とも話す事はありません。消えるか黙るか出ていくか、お好きなものを選んで下さい。」

 

そして沈黙と共に、彼女は消えて行きます。

全くもって無駄な時間。床に落ちたオスカーの右腕をちらりと見、私は目を閉じます。

来るべき時はそう遠くない、私も覚悟をしなければならないかもしれませんね。

 

 

 


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