幻想協奏館、館長室。
その中心に設置された、天板が大理石の大きな円卓。
そこに座るのは四人と一つ。
『……なんだかワクワクしますね!』
円卓の質感を確かめるように触る者。その心中をさらりと述べる、機械鎧レグルス。
「否定はせんが、言う程でも無かろうに。」
腕を組みながらそう話す功労者。ただ静かにその場を
「……」
ベルズとレグルスの間の席に座る少女。無言でアノンを見つめる、案内係メリー。
「皆さんお待ちかねだ。段取りは出来てるのかい、アノン?」
円卓のおよそ中心。紫色の水晶の中で座りながら声を上げる、館長オスカー。
「当然…‥というか貴女にアノンと呼ばれると癪なので、奇術師と呼んでくれませんか?」
そして最後の一人。不機嫌そうに、だが既に諦めたような様子の男、奇術師アノン。
「嫌だね!というか別に良いだろう?どうせ呼んで減るものじゃないしねぇ。」
「……さて、それではお話ししましょうか。」
オスカーの態度に辟易した様に、アノンはその軽口を無視して口を開く。
「ではまずはベルズが知りたがっていた『動機』ですが、これは単純。
オスカーに手を下したのは『私にとってオスカーは看過できない存在だったから。』
メリー……さんについても同様です。」
『質問です!』
言い終わるや否や、レグルスがびしりと手を挙げる。驚いたメリーが少し後退り、申し訳無さそうにレグルスの挙げた手が少しずつ降りていく。
『何故、館長殿を殺……いえ、命を奪わなかったのですか?
そして私達はアノン殿がそうなさったのだと勘違いして敵対した訳ですが、どうしてそれを説明して下さらなかったのですか?』
「それについては私の方から説明しよう。構わないね、アノン?」
手を挙げたまま話すレグルスに反応したのはオスカー。水晶の中から声が聞こえ、一気にその場の注目を集める。
「どうぞ。」
「まず一つ目の疑問だが……私が今置かれているこの状態。これは封印だ。」
「封印?」
ベルズが首を傾げる。レグルスとメリーも同様に首を傾げ、動かないのはアノンだけ。
「やっぱり知らないんだね。兎も角、私はこの石の中に封じられているって訳。原理は知らないけどね。
私にしてみれば、これは四肢をもがれた状態と変わらない。
それなら生かしておいた方がメリットがある……かもしれないだろう?」
『あるのですか?』
言葉を詰まらせたオスカーに追い討ちをかけるレグルス。少しの間、流れる沈黙。アノンは口を開かない。
「さぁねぇ……?だけどまぁ、説明しなかったのはもっと単純だろうね。
どの道メリーは狙うんだ。お前達がそれで敵対したなら、私が生きているかどうかなんて重要じゃないだろう?」
オスカーがそう言い終えると、メリーが石を手に取った。そして静かに涙を流しながら、それを撫で始める。
アノンを睨みつけるベルズ。いつもなら顔を背けるアノンは、それを受け止めるように顔を動かす事はない。
「……まぁ、この子にとっては重要らしいね。良かった良かった。」
「アノン、肝心な所をぼかすな。」
アノンを睨みつけたままの状態で、ベルズは口を開く。
「何故、オスカーとメリーは貴様にとって看過出来ぬ存在なのか。そこを詳しく話せと言っている。」
核心を突くようなその言葉。ベルズが、レグルスが、メリーが、アノンの言葉を待つ様に三者三様の表情で彼を見つめる。
長く続く沈黙。それでもベルズ達はただアノンの返答を待ち続ける。そして静かにアノンはこう呟いた。
「……それは私と彼女達が
「後継者?」
アノンが姿勢を正す。それはこれから話す内容が、彼にとっても重要である事の証左。
「正直、ここまで来ても
そして知ればもう、引き返す事は出来ません。本当にそれでも良いのですか?」
その問いに、沈黙が訪れる事はない。
「……貴様は言ったな。我輩達の行いは『理想郷に至る道のりを妨げる』と。
ならば、我輩達には知る必要と義務がある。」
『ベルズ卿の言う通りです!その為に我々は此処までやってきたのですから!』
ベルズ、そしてレグルス。
理想郷を目指す奇術師と道を共にしてきた二人の意思は固い。
彼等の強い決意を感じたのだろうか、アノンも決意を固めたように息を吐く。
「……そうですか、それでは話しましょう。
後継者について。魔女について。そして、私の成り立ちについて。
この私が知る限りの事を、お教えしましょう。」
それは彼が知る真実。
そしてここは彼らがそれを知る事になる、一つの収束点。
いわば、結論ありきの物語。