奇術師達のアルカディア   作:チャイマン

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幕間・知識の刷新

 

魔女。

無法にして無秩序の権化。

容易く世界を渡り、あらゆる事を為し、そして秩序に混乱を齎しながら去ってゆく。

 

前提として、魔女は一人では無い。

私も複数人存在する事は知っているが、関わった事はなかった。

今思えば幸運な事だ。後継者とは言え、他の魔女に出会えばどうなるか保証はない。

 

魔女達は結果主義者だ。

何故なら、どんな過程も等価だから。

あらゆる事を為す為に労力は要らず、全ての過程は「容易い」行為に過ぎない。

無論、時間ですらあれを縛る事は出来ない。そもそもそんな物、あの存在は掃き捨てる程に持っている。

 

魔女達は快楽主義者だ。

何故なら、殆どの結果は等価だから。

あらゆる事を為せるが故に、得られる結果の殆どが「当然の」事でしかない。

 

だからこそ、あれは欲しいと思った物に固執し、切望する。得難いのは結果ではなく、「動機」である事をよく理解しているから。

 

そして後継者。

魔女より力を受け継いだ者。

例えば「曖昧」や「混沌」。その力は凡そ一つの名称で表せる。

 

私が知る限りだと、少なくとも私とアノンを含めて三人以上。

魔女それぞれに後継者がいるのならば、十数人いてもおかしくは無い。

 

一方で、後継者の在り方は十人十色だ。

それはあくまで力を継承した、という一点で括られた存在。つまり、戦闘能力や行動原理はそれぞれ違うという事を否定しない。

だから十人十色、場合によっては先の例の様に後継者同士が剣を交える事もあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本題はここから先に述べる事だ。

 

魔女は結果主義で快楽主義なのは、前述した通り。

だからこそ、根本的に魔女が後継者を取る事は不自然極まりない行為にあたる。

 

なにせそれは酷く画一的だ。結果も快楽も、当然価値観の数だけ存在する。

なのに、後継者は当然のように魔女それぞれに対応するように存在する。

つまりそれは魔女が行動原理を差し置いて為すべき事、という事になる。

 

その推論は凡そ合っている。

肝要なのは為すという事。つまり魔女にとって重要なのは「後継者」ではなく「後継する」という行為そのものだ。

何故ならそうしなければ、魔女は魔女たり得ないから。

 

魔女は後継を行う事で、後継者に与えた力とは逆方向の力に特化した存在となる。

それまでは「完全無欠の何か」、そしてそこからは「限りなく完全無欠に近い魔女」と定義される。

そう、魔女は不完全故に魔女なのだ。

 

何故を追求するなら、魔女はどうして自分から不完全になるのか。その程度だろう。

だがそんなものは考えるまでも無い。知っての通り、完全で不自由が無い事はつまらない。ならば理由を問うまでも無く、あれは楽しむ為にそうしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

付け加えるならば、魔女の後継者は魔女の実子ではない。言うまでもなかっただろうか?

魔女は何処かの世界から後継者を見繕い、そして育て上げる。

 

(さら)う?

その表現には少し語弊がある。

後継者の側がそれを了承していなければ、どちらにせよ後継は行われない。

というより、了承しないような存在はそもそも後継者に選ばれる事はない。

力を求め、ただ魔女の目的の為に生まれたのが後継者と呼ばれる存在だ。

 

では、果たして後継者は無意味な存在なのかというと、別にそういう訳でも無い。

魔女と後継者は利用し合っている存在だと分かっていても、普通に仲は良い。

 

或いはその中から次代の魔女が輩出される場合もあるだろうが、それはそう高い確率の話ではない。

魔女は永く生きる、故に後継者が魔女の全てを真に後継する日など来はしない。

何を勘違いしたのか、現役の魔女を打倒して成り上がろうとした愚か者の末路が、輩出率の低さに拍車をかけているのは間違いないだろうがね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんなものか。分かったかい、メリー?」

 

私の知る限りの知識は伝えた。石の中からその聞き手を見る。

 

「分かりました!」

 

そう言いながら少女、メリーはニコニコと私を見つめている……何だか知らないがこの子、幼児退行を起こしてないか?

仮にそうなら、原因の奴には今度文句を言っておく事にしよう。

 

「では何か質問をしてみると良い。知ろうとする努力もまた、お前には必要だからね。」

 

「質問、ですか……」

 

予想外といった風に少し考えるメリー。こういう所を治して貰いたいが、これがメリーの持ち味だとも言える。だから敢えて指摘するつもりはない。

少ししてから、彼女は問いを投げてきた。

 

「私は何と呼ばれるべきなのでしょうか?」

 

前言撤回。突拍子も無い事には弱いのに、こう突拍子も無い質問をしてくるとはやり手だねぇ。可愛いがやはり少し改善して貰おう。

それはそれとして。

 

「……と言うと?」

 

「魔女に対して後継者があるのは分かりました。ですが後継者に対しての後継者である私はどう呼ばれるべきなのか、気になりまして……」

 

なるほど、と腑に落ちた。

確かに私は魔女ではなく後継者だ。そして今まで後継者が後継者を取ったという話は聞いたことが無い。

つまり、当然の如く呼び名も無い。

 

「まぁ正確な呼び名はないね。弟子か、愛しの我が子って所でいいんじゃないか?」

 

そう言うと一層ニコニコするメリー。まぁ、泣いているよりは笑っている方が良いね。

 

「……私も自由主義者だから、ガミガミ言うのは性に合わないんだ。

でもまぁ、こうして機会を得たんだ。お前にはしっかりと幻想協奏館を運営して貰うから、覚悟するように。」

 

「勿論、オスカー様がいらっしゃるなら何でもやってみせます!」

 

小さな愛し子はそう言うと胸を張る。

……まぁ時間は相応にあるんだ。少しずつ、この子には館長に相応しい存在に成長していって貰おう。

 

そうして、私は遠くに意識を向ける。

別の世界へと旅立った三人。

恐らくだが奴らとはまだ繋がりがある。

だがそれも、言葉を聞いたり話したりするだけの間柄。

 

それでも私は最後に騙されたんだ、そこだけは根に持ってやろう。だからその旅路が精々波乱に満ち溢れているように、私は期待する事にするよ。

 

 


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