奇術師達のアルカディア   作:チャイマン

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勇者の路
誕生の幕開け


 

異世界、それは架空の世界。

私達は架空の世界を考え、それに想いを馳せる事でその世界を観測している。

しかし架空の世界に生きる彼らが、観測されている事を知覚しているかどうかを証明する術はない。

また、私達が観測されているかどうかについても証明する術はない。

 

観る者は観られ、観られる者は観ている。それすらも疑えば、一体どの立ち位置に私達はいるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついに……」「どんな方……」

「きっと……」「いや……」

 

(そびえ)え立つ城、そして城下町で(ざわ)めく群衆。大きな武器を担ぐ男性、恰幅の良い商人、赤子を抱えた女性、手に木の棒を持った子供、裏路地からひっそりと顔を出す浮浪者。この国の全ての人々が、城の方をじっと見上げながら言葉を交わす。

 

「静粛に!王の御言葉である!」

 

城のテラスから、鉄の装備に身を包んだ騎士が声を上げる。波の如く伝播(でんぱ)し、一瞬で広がる静寂。城の警護を行う兵士達は市民の暴走を警戒しつつも、何処か浮ついた様子でいる。

 

そして、ついにその時がやって来る。

王冠を着けた男、この国の王たる者が騎士の近くに近づき、手に何かを添えた。

 

「……皆よ、遂にこの時がやってきた。」

 

曰く、この世界に絶望が舞い降りた。

そして誰もが、恐怖した。

曰く、この世界に希望が生まれ落ちた。

そして誰もが、期待した。

曰く、この世界はやがて救われる事となる。

そして誰もが、喜悦した。

曰く。

 

「──此処に勇者(・・)の誕生を宣言する!」

 

曰く、英雄が魔王を討ち滅ぼさんと。

そして誰もが、喝采を上げる。彼の者に祝福を、彼の者に栄光を。

 

 

 

 

 

 

 

 

王の間にて、剣を携える一人。その喧騒を聞きながら思うのみ。

 

「終わらせてみせる、私が……。」

 

 

駐屯所にて、鎧を着ける一人。その喧騒を聞きながら眠るのみ。

 

「……。」

 

 

教会にて、願いを捧げる一人。その喧騒を聞きながら祈るのみ。

 

「我等の旅路に祝福を、どうか……。」

 

 

王の間にて、杖を携える一人。その喧騒を聞きながら恐るのみ。

 

「私は……やり遂げて見せます……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして宿屋の屋上。屋根の上に喝采を上げぬ三人。その喧騒を眺めながら語るのみ。

 

『本当に、大変な騒ぎですね!』

 

機械鎧・レグルス。終末の担い手にして心持つ機械。

 

「しかし実に良い時期に来たものだな。」

 

亡国の王・ベルズ。不滅の護り手にして命無き怨霊。

 

「偶然ですけれどね。いつもこんな風に上手くは行きませんよ。」

 

奇術師・アノン。軽薄な観測者にして世を渡る奇術師。

 

境遇も在り方も、その全てが異なる三人は笑い合う。

 

『ですが、良い旅になりそうですね!』

 

「無論である。戻らぬ時に後悔を残さぬ様にするのは当然だ。」

 

「また分かりにくい言い回しですねぇ。まぁ何でも良いですが、得る物がある事を望みましょう。」

 

全ての思惑が絡み合い、交差する。

結果に待つのは如何なるものか。それは誰にも分からない。

 

 


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