誕生の幕開け
異世界、それは架空の世界。
私達は架空の世界を考え、それに想いを馳せる事でその世界を観測している。
しかし架空の世界に生きる彼らが、観測されている事を知覚しているかどうかを証明する術はない。
また、私達が観測されているかどうかについても証明する術はない。
観る者は観られ、観られる者は観ている。それすらも疑えば、一体どの立ち位置に私達はいるのだろうか。
「ついに……」「どんな方……」
「きっと……」「いや……」
「静粛に!王の御言葉である!」
城のテラスから、鉄の装備に身を包んだ騎士が声を上げる。波の如く
そして、ついにその時がやって来る。
王冠を着けた男、この国の王たる者が騎士の近くに近づき、手に何かを添えた。
「……皆よ、遂にこの時がやってきた。」
曰く、この世界に絶望が舞い降りた。
そして誰もが、恐怖した。
曰く、この世界に希望が生まれ落ちた。
そして誰もが、期待した。
曰く、この世界はやがて救われる事となる。
そして誰もが、喜悦した。
曰く。
「──此処に
曰く、英雄が魔王を討ち滅ぼさんと。
そして誰もが、喝采を上げる。彼の者に祝福を、彼の者に栄光を。
王の間にて、剣を携える一人。その喧騒を聞きながら思うのみ。
「終わらせてみせる、私が……。」
駐屯所にて、鎧を着ける一人。その喧騒を聞きながら眠るのみ。
「……。」
教会にて、願いを捧げる一人。その喧騒を聞きながら祈るのみ。
「我等の旅路に祝福を、どうか……。」
王の間にて、杖を携える一人。その喧騒を聞きながら恐るのみ。
「私は……やり遂げて見せます……!」
そして宿屋の屋上。屋根の上に喝采を上げぬ三人。その喧騒を眺めながら語るのみ。
『本当に、大変な騒ぎですね!』
機械鎧・レグルス。終末の担い手にして心持つ機械。
「しかし実に良い時期に来たものだな。」
亡国の王・ベルズ。不滅の護り手にして命無き怨霊。
「偶然ですけれどね。いつもこんな風に上手くは行きませんよ。」
奇術師・アノン。軽薄な観測者にして世を渡る奇術師。
境遇も在り方も、その全てが異なる三人は笑い合う。
『ですが、良い旅になりそうですね!』
「無論である。戻らぬ時に後悔を残さぬ様にするのは当然だ。」
「また分かりにくい言い回しですねぇ。まぁ何でも良いですが、得る物がある事を望みましょう。」
全ての思惑が絡み合い、交差する。
結果に待つのは如何なるものか。それは誰にも分からない。