「ふははは、なかなかに美味ではないか!」
「おいしー」
「気に入ってもらえたならよかった」
二人は士郎の料理に舌鼓をうっていた。
そんなふたりを見て、士郎は満足気だった。
「それに、ここは霊脈があるな。工房もあるようだ。シロウの親は魔術師か?」
「えーっと……」
「ふん、まぁよい。料理に免じ聞かぬ」
返答に困る士郎にギルガメッシュは軽く笑い答える。
「家主はおらんのか?」
「じいさんは出かけてる。まぁ、いつもふらっと出かけてはふらっと帰ってくるような人だから」
「子供を一人にするとは、感心せんな」
「じいさんはじいさんで大変だからさ」
士郎が特に気にした雰囲気もないのでギルガメッシュはそのまま黙る。
恭介第一主義の彼にとっては士郎の親の気持ちがわからない。
子供を一人にするなど言語道断である。
「まぁ、そのうち帰って----------」
「ただいまー」
「ちょうど帰ってきたみたいだ」
士郎が言い終わる前にガラガラと扉の開く音と低い声が響く。
「ああ、士郎、今日はってアーチャー!? 士郎、早くそいつから離れるんだ!」
「え? じいさん、この人は」
「いいから離れるんだ!」
「ふん、雑種が。己の子の言葉にも耳を貸さぬとは……戦うというのであれば、無残に命を散らすが良い」
ギルガメッシュを見るなり戦闘態勢になる切嗣。
ギルガメッシュも宝物庫より武器を取り出し、身に黄金の鎧を纏う。
「けんか、だめっ!」
「命乞いしたな、雑種」
そしてそのまま宝物庫へと武器を戻した。
恭介を守るように抱きしめ再び座る。
しかし、警戒はとかないのか黄金の鎧は着たままだ。
「……戦闘の意思はないと?」
「恭介が止めなければ貴様は今頃地に伏していただろうな」
「…………」
ひとまず黙って切嗣も座る。
手には銃器を握ったままだ。
「えーと、とりあえずこっちがじいさんの衛宮切嗣、で、こっちがギルガメッシュ」
とりあえず両者にお互いを紹介する士郎。
たいした度胸の持ち主である。
「しかし、アーチャー、その可愛いらしい子供はどこからさらってきた?」
「…………なに?」
敵意を隠さずに切嗣はギルガメッシュに問いかける。
相手は油断ならない相手。
最悪、子供すらも盾に襲いかかってくると考えていた。
そんな切嗣の問いかけに、沈黙を維持していたギルガメッシュは反応する。
「雑種、いま、何といった?」
「その可愛らしい子供はどこからさらってきた?」
先程よりもさらってきたという部分を強調して切嗣が答える。
「雑種……いや、キリツグよ。貴様、わかっているではないか! そう、恭介は可愛い! 恭介に勝る子供などこの世に一人としているわけがない! いや、やはり他人目から見ても恭介は可愛いか! いやぁ、そうか、そうか! キリツグよ、貴様は見る目がある! ふはははは、ふーっはっはっは! どうだ、恭介と一緒に写真をとるか!? なに、お互い一児の親ではないか! 遠慮はいらん、さぁ! さぁ!」
切嗣の肩をバンバンと叩きながら詰め寄るギルガメッシュ。
その目にはもはや敵意などなく、また見下している感じも伝わらない。
そんなギルガメッシュをみて切嗣は彼の子供に対する気持ちを感じてしまう。
本当に大切に思っているのだと。
「(だれだ、こいつ)」
同時に、自身の知っている彼のと目の前にいる彼のイメージが全く噛み合わず、そのギャップに戸惑う。
目の前の男は本当にあのアーチャーなのだろうか。
「……アーチャー、その子がそんなに大事なのか?」
「愚問だな。この世に恭介よりも大切なものなどありはしない。我が子を思わずして何が親か」
「……そう、か」
まっすぐな視線に切嗣は武器をしまう。
見ると、ギルガメッシュはすでに鎧を脱いでいた。
「じいさん、酒持ってきたぞ」
「ん……そんな気を使わなくてもいいんだよ?」
いつのまにかコップと一升瓶を抱えて持ってきていた士郎。
その表情はどこか嬉しそうだ。
「じいさんが他人と話してるのなんてひさしぶりにみたしさ」
「それはいかんな。子供は親をみて育つ。子供に恥ずべき姿を見せるなど言語道断だ」
「アーチャー、君がそれを言うのか……」
先ほどのギルガメッシュの行動を思い起こし、切嗣は呆れたように口にした。
「なんだ、この酒は。安物ではないか。安物は安物でたまになら口にしても良いが、今は興が乗っている。今このようなものを口にしてはこの高まりもいっきに覚めるというもの……酒は我が提供してやろうではないか。泣いて感謝せよ」
ギルガメッシュは宝物庫から金のコップと霊酒を取り出す。
「この酒自体、貴様のようなものが口にできるものではないのだが、今日は特別だ」
「これは……僕が飲んでも大丈夫なものなのか?」
「ふん。ただの人のみで口にするのは過ぎた贅沢というだけだ。体に害はない。それどころかあらゆる病を癒し疲れを取る。ひと口にすれば寿命が1年伸びるとまで言われていたものだ」
遠慮がちに受け取る切嗣の目の前で、ギルガメッシュは一気に飲み干す。
それに続くように切嗣も酒を口にした。
酒も進み、二人はほろ酔い気分であった。
「いーや、士郎の方が可愛い!」
「馬鹿を言うな、恭介の方が可愛いに決まっておろう!」
「士郎!」
「恭介!」
「「ぐぬぬぬぬ……」」
そこにいたのはただの親バカ二人であった。
「じいさんたちは馬鹿なこと話してるな」
「あーい」
そんなふたりを見ながら士郎と恭介は遠い目をする。
「士郎は気立てもいい! 朝は起こしてくれるし、ご飯もうまい。健康も気遣ってくれる!」
「恭介は心優しく、美しい! そこにいるだけで人々を癒す! そもそもにそんなことを言っているようではシロウも家政婦もかわらぬではないかっ!」
「なっ、聞き捨てならないな! 僕は心の底から士郎を愛している」
「我はそれ以上に恭介を愛している!」
「「ぐぬぬぬ……」」
第三者からはどうでもいい、二人にとっては重大な問題で二人はもめていた。
「そもそもに、貴様には聖杯の器との子供がおっただろうに! アレはどうしたのだ、アレは!」
「…………」
ギルガメッシュの言葉に切嗣は言葉を詰まらせる。
「どうしてそれを?」
「我を誰だと思っている? 大方、前回の聖杯戦争時に貴様と前回の器のものを元に作成されたホムンクルスであろう。生まれながらにしての聖杯の器、といったところか」
「なんども迎えに入ってるんだけどね。どうも妨害されてるらしく会えないんだ」
「なに諦めてるのだ馬鹿者が。子供のためならどのようなこともする。それが親であろう」
「……そう簡単なことじゃないんだよ。」
「ふん、興が覚めた。我と恭介は帰る」
二人はそのまま部屋を後にした。
「……イリヤ」
切嗣は誰に言うわけでもなく小さく呟いた。
キリツグ、なかなか話せるやつよ。
だが、いるであろう娘への対応、あれは気に食わん。
子のためならばどんなことでもするのが親というものであろう。
だが、何より気に入らないのは親が子に会おうとしているにもかかわらずそれを妨害する雑種だ。
ちょうどよい酔い醒ましだ。
行ってくるとするか……