Mix Days ~Everybody Needs Somebody~   作:炉心

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どんな内容であれ、結果が出るのが人生。

喜びや感謝は素直に伝えるのが『吉』である。





Scherzando Mix ~じょいふる~

 

 

(……勝った! 俺は勝ったぞ!)

 

 長きに亘る辛く厳しい戦い。それに勝利した者の魂の奥底よりの叫びは、たとえ声に出さなくとも全世界に響き渡したいほどに熱いものだった。

 

「見事、全教科赤点回避。やったぜ」

 

 結果の送られてきた中間テストの成績表のデータを確認し、紘汰は小さくガッツポーズをとる。そして、昼休みに入ったばかりの教室のそこかしこでも紘汰ほどではないにしろ安堵や喜びの声を上げているクラスメイト達がチラホラと見かけられた。

 

「來栖くん、随分と嬉しそうだね。そんなにテスト結果が良かったとか?」

 

「お、おう。まあな」

 

 不意に横から声をかけられ、思わず少しどもる。

 

「ボチボチってとこかな。明石さんはどうだった? テスト結果」

 

「私もまずまずってとこかな? 悪くはなかった」

 

 フランクな様子で話しかけてきたのは紘汰の隣の席に座っているクラスメイトである明石さん。明るい黄色のメッシュを入れた短めの髪に幾つものピアスを付けたサバサバした雰囲気の少女で、その雰囲気もあってかクラスの男子連中以外では現状で紘汰が一番話す回数の多いクラスの女子でもある。

 

(明石さん。多分、DJ活動に興味がある……つーか、確実に活動する気なんだろうな~)

 

 何度かの会話からDJ活動をするつもりらしいことが伺い知れており、自身もこの学校で音楽活動をするつもりの紘汰としてはもう少しいろいろと話してみたい相手でもあった。

 

(と言うか、俺的に結構好みのタイプなんだよな)

 

 流石に口に出して言えるような段階ではないが、ちょっと気になっていたりはする。クラスの男子連中の中でも結構人気があるようなので、下手に口に出すと後が怖いのもあるのだが。

 

「最初の中間テストとは言え、お互いに赤点にならなくて良かったよね。いろいろと活動ができなくなるし」

 

「それな」

 

 紘汰達が通う陽葉学園は非常に自由な校風で、音楽や芸術関係にも力を入れているし学生のその手の活動も推進している。だが、その自由度の高さ分だけ学生の成績に対する評価もシビアだ。赤点を取ればもれなく学内での各種活動禁止の勧告を受けることになる。

 

「――おっ、と。しまった。こっちから話しかけたのにゴメン。少し行くところがあるのを忘れてた」

 

「ああ、いいよ。俺もそろそろ昼飯を食べに行くつもりだったし」

 

「そっか。5限目は移動教室だし、食べ過ぎで昼寝なんかして遅れないようにしなよ」

 

「忠告感謝。明石さんもな」

 

 笑顔で紘汰との軽い掛け合いを済ませて颯爽と教室から出て行った明石さんの後姿を見送ると、紘汰もスマホ片手に急いで購買へと行くことにした。

 

(さ~て。さっさと購買行かないとな。報告もあるし)

 

 スマホに着信していたメール。

 

《結果報告すること! 北校舎裏のベンチで》

 

 送信者からの当然の権利の要求を受け、義務を果たす必要があった。

 

「ホント、赤点じゃなくて良かったぜ」

 

 目も当てられない事態にならなくて済んだことに安堵し、スキップとはいかなくても思わず鼻歌を口ずさんでしまうような気分の紘汰だった。

 

 

              ☆     ☆     ☆

 

 

「では、発表します。ドゥルルルルルルルゥ」

 

「いや、そうゆうのはいいから。さっさと教えなさいよ」

 

「あり? ノリが悪くね?」

 

 ちょいと小気味いい演出を踏まえつつも勿体ぶった様子で発表しようとした紘汰だったのだが、そこへ浴びせられる冷静なツッコみに肩透かしをくらう。

 

「お昼休みの時間は有限な上に短いの。無駄なことにわたしの貴重な時間を使わせないで」

 

「やれやれ。むにはエンターテイナーとしての心構えがなってないぜ。どんな時でも人生は楽しくいかないと損だと――」

 

「さっさと教えて」

 

「……サーセン」

 

(ヤッベェ。赤点回避で調子に乗り過ぎた)

 

 能面にみたいな笑顔を浮かべたむにからのマグマも瞬間凍結できそうな冷たい視線を受け、紘汰は即座に態度を改めることにする。

 

「え~と。とりあえず、無事に赤点は回避できました。ホント、マジでサンキュー。ありがとうございます」

 

 スマホの画面にテスト結果のデータをコピーしたものを表示し、それをむにが見えるように差し出しながら深々と頭を下げる。

 

 正直言って成績そのものは贔屓目に見えても高成績とは言い難く、とても人様にお見せできるようなそれではないのだが、それでも協力してくれた相手には包み隠さず晒すのが信義と言うもの。

 

「むにが予想していた通り今回のテストは中学の頃の復習が中心の出題だったけど、それでも数学はマジで助けてもらってなかったらヤバかった。他の教科も一緒に勉強していたおかげで何とかなった部分も多かったしな」

 

「ふ~ん。まあ、このむにちゃんが勉強の協力をしたんだからね。赤点回避は当然でしょ」

 

「マジで感謝。いや~、ありがとう。ホント、ありがとう。大事なことなので2度で言います」

 

 自分のおかげで紘汰が赤点回避できたことに気を良くした様子のむにに対し、一時的に見事な太鼓持ちと化す紘汰。人間褒めそやされれば嬉しいもので、むにも紘汰からの感謝の言葉に更に得意気に「そうでしょ、そうでしょ」と言って相槌を打っている。

 

「……よかった」

 

 そんな中で一瞬だけ呟かれた小さな声。安堵したようなその声を、紘汰はあえて聞こえなかったことにした。

 

「俺のバラ色の高校生活を邪魔する障害も見事突破したし、これで心置きなくいろいろとできるな。もし高校入学後の初っ端の中間テストで赤点とか取っちまってたら、また親に禁止令をくらうとこだったからな」

 

「禁止令?」

 

「そう、音楽禁止令。正式名はキレた俺の母親による『勉強しろ! とにかく勉強しろ! 勉強以外完全禁止!』令」

 

「思い出したわ。なんか去年は一時的にそんな感じになってるって言ってたわね」

 

「そう。あれは辛く苦しい時代だった。俺にとっての暗黒時代。光のない地下労働施設で酷使されるような日々。自由を奪われ、何一つ許されずに弾圧され続ける(勉強漬けの)毎日」

 

「原因はあんたでしょ? 確か、成績が壊滅的にマズい状態だったはずよね」

 

「だが、もう俺は解放されたのだ! 自由を得た俺を止められる者などいない。いや、止められるつもりもない。俺は俺のやりたいことをする!」

 

 過去の悲しくも耐えるしかなかった日々を思い返し、それを乗り越えた先にある希望に満ちた今と未来に向けて力強く息巻いてみせる紘汰。若干むにが呆れた顔をして見てきている気がするが、そんなことは一切気にしない。

 

「忙しくなるぜ~。やる気出てきたー」

 

「何? そう言えば前から何かするみたいなことは言ってたけど、何かするつもりなの?」

 

「ふっふっふっ。いろいろとな。盛大な野望があるんだよなぁ、これが」

 

 格好をつけたいのか、意味深な風を装っている紘汰だが、内心のウキウキを隠し切れずに微妙に顔がにやけている。

 

(紘汰の言っている『何か』って、多分だけど音楽関係の何かよね? バンドとか? 仲が良い先輩がしていて、それにすごく憧れてるとか言っていたし)

 

 中学の時から紘汰から時折聞かされていた話。何をするかの詳細までは聞いていないし、あまり聞きたいとも思わなかった話。

 

(でも、それを始めるってことは……)

 

 高校生ともなれば中学生時代とは比較にならないほどに行動の自由度が上がる。新しい出会いもあるだろうし、交友関係もより一層広がるだろう。そして何より、新しいことを始めるともなれば当然ながら紘汰がこれからの高校生活で過ごす時間の比重はそちらが中心になっていくことに間違いはないだろう。

 

(わたしは……)

 

「それで。いろいろと楽しそうなのはいいけど、その為に勉強に協力したわたしに紘汰は一体何をしてくれるのかしら?」

 

 あまり歓迎できかねる考えが浮かび、むには堪らず口を開く。

 

「あれ? 前にカレーを奢ったじゃん」

 

「何言ってるのよ。あれは紘汰が“ど~しても”わたしと一緒にカレーが食べたいって言うから付き合ってあげただけじゃない」

 

「そーでした」

 

(あっ。わたし、また嫌な言い方しちゃってる)

 

「う~ん、確かにな~。どうすっかな~」

 

 すぐに自分の物言いに後悔するむにだが、言われた方の紘汰は特に気にもしていない様子で何やら考え込んでいる。

 

「なぁ、むに。ちょいと真剣な話をしていいか?」

 

「な、なによ?」

 

 不意に真剣な顔と雰囲気になった紘汰から見詰められ、思わずむには佇まいを正してしまう。

 

(え? な、何? 何なの? 急にこんな真面目な顔しちゃって。何を言うつもり?)

 

 微妙に混乱。あと、むにちゃん体温急上昇中。

 

「正直に言わせてくれ。実は俺……」

 

 少し口を開いたところで言い淀む紘汰。その様子にむには言いようのない焦燥感を覚える。

 

(『実は俺』? 『実は俺』って何よ? まさか変なことを――)

 

「スマン! 今はお金がほとんど無い。てか、普通に今月ピ~ンチ。ちょー金欠モード。いやー、まいちゃうよね。あははははっ」

 

「……だから?」

 

 むにちゃん体温急降下中。あと、紘汰へ向けた視線の温度も氷点下レベルに急低下。残念ながら紘汰は気づいていないようだが。

 

「だから、勉強のお礼に何かを盛大に奢るのはちょっと無理っす。月末と来月初めにちょっと知り合いのところでバイトさせてもらえる予定なんで、それ以降ならなんとか……」

 

「来月とか、随分と先のことを言うのね」

 

「わかってる。確かに来月は先過ぎだよな。なので……頼む! 何かお金がかからない方向でして欲しいことない? 買い物の荷物持ちでも、パシリでも、ゲームの超地味レベリングでも大抵のことは何でもするからさ」

 

 これがデジャヴュと呼ばれるものなのか。むには先週くらいに見た記憶のある平身低頭なお願い姿勢をした紘汰へと呆れ気味の視線を送る。

 

(何でも……。何でもするってことはたとえば……。――って、何を意味深に考えてんのよ! わたしは!)

 

 紘汰の発言に深い意味などあるわけはなく。そんなことは当然ながら理解しているむにではあるが、それでも思わずいろいろと人様には言えないような乙女の妄想をしてしまう。そして、そんな妄想をした己自身への盛大なノリツッコみを脳内で繰り広げる。

 

「ま、まあいいけど」

 

「お! マジで! よっしゃー! むにさんアリガトウゴザイマース! んじゃあ、どうする? 何する? とりあえず、肩でもお揉みしましょうか?」

 

 むにの温情ある返答に笑顔全開となった紘汰は、両手の掌をワキワキさせながらあからさまなごますり職人と化す。

 

「セクハラ。通報するわよ」

 

「ひどっ!! 純粋に感謝の気持ちを実行に移そうとしただけなのに」

 

「純粋な感謝? ホントに~? なんか紘汰の目が少しだけイヤらしかった気がするんだけど?」

 

「ちょいちょいちょい。ちょちょいのチョイ待ち。心外だぞ。むには俺がそんな奴だと思ってんの!? 肩揉み託けてむにの華奢で繊細な鎖骨の形を指でなぞってうっとりするとか、うなじの日焼けしていない白い肌をじっくり舐めるように眺めるとか、髪とかに鼻をバレないように近づけて女の子特有の甘い香りをクンカクンカするとか――俺がそんな変態的なことをする奴だとでも?」

 

「いや、思ってないから」

 

「そうか。そうだよな。むにはそんな風に人を見るようなことはしないよな」

 

「思ってなかったけど、むしろ今さっきの紘汰のマニアック過ぎる発言を聞いて微妙に『思い直す必要があるかも?』って思い始めたところなんだけど」

 

「――え? い、いやだな~むにさん。今さっき言ったのはジョークだよ。紘汰くん流の場を和ませるためのジョーク発言。なんつーの? エスニックジョークとかそんな感じに分類されるやつ。ちょっと解り辛かったかな~。いや~、すまそんすまそん」

 

「…………」

 

「……すいません。調子に乗って変なことを言いました。ふざけ過ぎました。若さゆえの過ちってやつなんです。反省してます。ごめんなさい。むにさんが不快に思ったのなら本気で謝りますので。謝りますので。どうか。ど~か、穏便に済ませてください。ってか、マジで通報しないで! お願い!」

 

 完全に生ゴミでも見るかのようなむにの視線に流石に茶化せる状況ではないと悟った紘汰だが、更に無言のままでスマホを取り出すむにを見て一気に心臓が止まりそうになった。怒涛の如き謝罪と反省の言葉を繰り返し、頭を下げ、最後には必死さのあまり若干涙声で悲壮感すら漂う感じでもって許しを懇願する始末。最近は頭を下げる機会が妙に多い気がするが、今回のこれは今までのそれとは違う。下手したら紘汰の今後の人生がかかっている。

 

「紘汰」

 

「はい! なんでございましょう!」

 

 むにの声に最早脊髄反射の如き即時反応を見せる紘汰。下げていた頭を振り上げ、むにへと向けた顔はきっと蜘蛛の糸を掴もうとするカンダタが浮かべていたものと同類のもの。

 

「わたし――っと、誰よ?」

 

 何かを言いかけたむにだったが、タイミング悪くかかってきたスマホの着信によって中断。画面を見て「ママ?」と呟くと、紘汰に断りを入れるとベンチから腰を上げて少し距離をとってから電話に応じる。

 

(むにのママさん? こんな時間に電話とか珍しいな)

 

 むにとはそれなりに一緒にいることの多い紘汰だが、仕事が忙しいらしいむにの母親から真っ昼間に電話がかかってきたのを見たのは初めてだった。

 

「――うん。うん。わかった。じゃあ、ママ。またあとでね」

 

 数分ほどの会話を終えて通話を切ったスマホから耳を離し、一拍置いて紘汰の方を向きなおしたむには先程までとは随分違う表情を浮かべていた。

 

 具体的には、

 

(ママさんのことで何か良いことあったのかな?)

 

 と、紘汰が容易に察することができるレベルで表情の端々から嬉しそうな気配が滲み出ている感じ。

 

「紘汰。寛大で優しいむにちゃんに感謝することね。わたしはただの失言にグチグチと文句を言ったり責めたりはしないわ」

 

「それはありがたい。むにの寛大さに感謝だな」

 

「そうよ。感謝しなさい」

 

 機嫌が良いのならばそれに越したことはない。天の助けとなったむにママに紘汰は心の中で本気の感謝をしておく。

 

「それで勉強のお礼の件だけど……どうしようかしら? 特に今はして欲しいこととか……あっ、でも、日曜日に……いや、でもあれは……」

 

「何? 日曜になんかあんの? どっか行くつもりだったとか?」

 

「……そうよ。でも、そもそもわたし一人で行くつもりだったし。多分、紘汰は興味がないことだろうし」

 

 歯切れの悪いむにの物言いだが、口出すということは少なくとも一緒に行くのが嫌だというわけではない――と、紘汰は都合のいい解釈をすることにする。

 

「おいおい、むにさんや。悲しいこと言うなよ。お礼なんだから、それがどんなことでもちゃんと付き合うぜ俺は。てか、そもそもお礼とか関係なしに、友達が興味あるって言うところに一緒に行くのにいちいち文句を言ったりはしないから」

 

「…………そう」

 

(あれ? なんか変な反応だな?)

 

 返答に微妙な間があったかと思うと、むには何故か不思議な表情でもって紘汰を見てきている。

 

(喜んでる? 呆れてる? 怒って……はないよな?)

 

 女の子と言う生き物はどうしてこうも時々どう表現していいのかわからない類の表情のするのか――そんな疑問を抱きながらも、「何か余計なことでも言っちまったかな?」と我が身を振り返ってみる紘汰だが、特に思い当たる節が無い。

 

「――まあ、いいか」

 

「なんだよ? なにが『まあ、いいか』なんだよ? 俺っち、気になるんだけど?」

 

「別になんでもないわよ。こっちの話。――で、次の日曜日は時間あるの? あるのならちょっと付き合いなさいよ」

 

 何か自己完結した様子のむにが一転して強気な態度になったことで、紘汰としてはもうお手上げ状態で応じるしかない。

 

(考えてもしゃーねーか)

 

「どうするのよ?」

 

 それに、さっさと返答をしないと折角好転したむにの機嫌がまた悪くなりかねない。

 

「お供させていただこう。特に予定も無かったからな。そんじゃまあ、とりあえず俺はてるてる坊主を大量に用意しておくわ」

 

「てるてる坊主? なんでそんなものがいるのよ?」

 

「晴れるように。土日の天気が曇り時々雨だったし」

 

 今朝見た週間天気予報ではそうだった。梅雨の季節。対抗するには昔ながらの願掛けしかない。

 

「マイナス800ポイント」

 

「なんでっ!?」

 

 唐突な謎のマイナス評価。しかも結構高め(?)の数字に思わず紘汰の叫びが飛ぶ。

 

「空気の読めてない情報で折角のいい気分が台無しになったから」

 

「それは流石に理不尽過ぎじゃないっすか!?」

 

「なによー。文句あるの? 更にマイナスになるわよ?」

 

「えっと……すんません」

 

 むにの妙にノリノリな様子でのワガママお姫様モードになにも言えなくなる。

 

(女子って、時々妙に逆らい辛い状態になるよな。それもいきなり)

 

 その後、「で、どこ行くの?」「秘密」「何かする感じ?」「秘密」といったやりとりを延々と繰り返しながら昼休みが終わるまでをダラダラと過ごした結果、5限目が移動教室だったことを完全に失念していた紘汰は見事授業に遅刻することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆skit☆☆

 

「その唐揚げ美味そう。一個ちょーだい」

 

「嫌よ。自分で買いなさいよ」

 

「お金がないです! だから購買オリジナル販売の安くてデカいパンしか買えません! うまいからいいけどね!」

 

「金欠なんだったら、購買で買わずにお弁当にすればいいんじゃないの? そうすれば好きなおかずを入れられるでしょ」

 

「むにさんや。無理言わないでおくれやす。俺にお弁当なんか作れるわけがないじゃろが」

 

「なんで自分で、なのよ。お母さんにでも頼んで作って貰えばいいじゃない。中学の時は作って貰ってたでしょ」

 

「それがこの春から仕事が忙しくなったらしくて、朝早くから仕事に行くことが増えてさ。おかげで『高校生になったんだから自分のお弁当くらいは自分で作れ。自分のことは自分でしろ』って言われた。酷くね?」

 

「それは仕事なんだし仕方ないでしょ。むしろ、頑張ってみたら?」

 

「え~、でもな~。まあ、料理できる系の男子ってのも多少憧れはするけどさ」

 

「最近は俳優とか芸人でも料理好きを公言している人も多いし、いいんじゃない?」

 

「むにはどうよ? 料理できる系の男子。どう思う?」

 

「あたしはどっちでも……。料理ができるに越したことはないと思うけど」

 

「確かに。今度チャレンジしてみるか。でも……俺が唐揚げを食べたいのは今なんだよな~」

 

「三日坊主にならないことね。それから……一個だけだからね」

 

「何!? くれんの――ッ、アガッゴォッ!? うぐ…むぐ…ごっくん……ふ~。って、いきなり口に突っ込んでくるなよ!」

 

「え? 文句? むにちゃんがわざわざ食べさせてあげたのに文句? 感謝の言葉じゃなくて?」

 

「いや、動物の餌付けじゃないんだからさ。普通に渡してくれよ。普通に」

 

「紘汰。感謝の言葉は(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)?」

 

「え~と、むにさん。俺の話聞いてます?」

 

紘汰(﹅﹅﹅)ァ?」

 

「イエス! むに様! 唐揚げを食べさせていただきまして、ありがとーございまーす」

 

 

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