100年戦争の革命浪漫譚   作:紅乃 晴@小説アカ

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序章.百年戦争の救世主と革命者

 

 

 

 

 

 

「君はマフティー・ナビーユ・エリンのことを好きじゃないのかな?」

 

 

浜辺で仲間を待っていたハサウェイは、突然話しかけられた相手に驚きを隠せないでいた。驚愕する表情をなんとか押し殺して、混乱するなと自分に言い聞かせ、語りかけてきた相手を注意深く観察する。

 

スーツ姿である時点でこの近辺に住む現地民ではない。整った顔立ちで、この強い日差しの中でも日焼けをしていないところを見ると、地球連邦の関係者か、それに準ずる何かだと結論をつける。

 

警戒心を持っているハサウェイを察したのか、話しかけてした相手は「おっと」と声を出すと胸ポケットから手帳型のケースを取り出し、それを開いて見せてきた。

 

ケース内に収められている身分証は一目で連邦軍のものだと理解できてしまって、ハサウェイの警戒心は一気に跳ね上がった。

 

 

「失礼、私はこういうものだ。最近は海岸線のゴミ掃除とかに駆り出されている海岸警備隊だよ」

 

 

噂では聞いたことがある。

 

第二次ネオジオン戦争以降、目立った武力交渉がなくなった地球軍は、あまりある戦力を持て余すようになったのだと。オエンベリの軍事基地のように機能する部隊もいるだろうが、その大半は飼い殺し状態であり、役立たずになったパイロットや宇宙艦隊のクルーたちは日夜、地球の海洋汚染に対する清掃作業を行っていると。

 

語りかけてきた相手は、そんな海洋清掃を行う地球軍人の隊を率いる人間であるようだ。

 

 

「なぜ、貴方のような人がここに?」

 

「知っての通り、ここは島国でね。基地自体も海からはさほど離れていない。本来ならゴミ掃除を命じられている私がこのような場所に来るのはお門違いなのだが」

 

 

そう申し訳なくいう彼は、ケースから二枚の写真データを取り出してハサウェイに見せた。それは、大気圏内でハサウェイや地球政府高官を乗せたシャトルを襲撃したハイジャック犯たちが使用したポッドの残骸や、飛び去った接舷用の機体の影が捉えられたものだった。

 

 

「あのマフティーと名乗るハイジャック犯のコンテナが見つかりましてね。今は事情聴取で忙しいマン・ハンターのお偉いさんに話をしにきたわけだよ」

 

 

まぁ、事情聴取や高官の相手に、近々行われるアデレード会議までの準備や送迎でピリピリしていたので写真を見せる間も無く放り出されたのだがね、と彼は困ったように笑う。その仕草の一つ一つをハサウェイは注意深く観察していた。

 

 

「一仕事終えて迎えの者を待っていた時、君を見かけた。シャトルの中でハイジャック犯相手に大立ち回りをした君を、ね」

 

 

チラリとハサウェイは海を一瞥した。青い海には誰もおらず、それはまだ〝彼〟への迎えが来ていないことを示していた。ここで迂闊な言葉を選べば最悪拘束とあり得る。だが、ハサウェイには何か疑問があった。理詰めの疑問ではなく、ニュータイプ的な……感覚的な疑問が。

 

 

「……待ちぼうけのフリをしてサボりでもしてるのですか?」

 

「はははっ、まさか。これでも税金で働いている身分なのでね。そう言った真似はただでさえ地に落ちている連邦軍の評価を下げる原因にしかならんよ」

 

「マフティーはそういう評価を下される腐敗した軍をも浄化しようと動いているのではないのですか?」

 

 

思わずそう言ってしまったハサウェイに、彼は「マフティーとはそんなに高徳的な組織だったのかな?」と疑問をぶつけるように言った。

 

 

「彼らが本物のジャンヌ・ダルクならまだ良いのかもしれないな。彼女は戦場に立ちながら旗を持って祖国の兵たちを鼓舞した英雄だ。だが、マフティーは旗ではなく武器を手に訴えかけている。地球の汚染を広げているのは地球に住む人々だと言ってね」

 

 

神の声を聞く預言者などと言われてきたジャンヌ・ダルクとマフティーが似ているなんて思えないと男は言う。良いところで思想が違う敵に立ち向かう勇気と無謀さくらいではないかとも。

 

 

「民衆はそれを面白がってもてはやしているだけだ。熱しやすく冷めやすいのが彼らの本質。その存在が自分たちの生活に害を及ぼさなければ道楽としか捉えないものだ」

 

「それは……!」

 

 

身構えたハサウェイを、男は鋭い視線で黙らせる。ゾワリとハサウェイの感覚が男の正体を掴んだような気がした。

 

 

「マフティーが真に地球人への革新を求めるというなら、武器を取るなどというミクロな行いは初めから破綻している。そんな真似をしても民衆の本当の心は動かせれない。人は誠意を前にしてようやく誠意を示せる」

 

 

故に、人はジャンヌ・ダルクという存在を失っても敵に勝つことができたのだから。そう言った男に、ハサウェイは確信が持てた。この男は、自分を「マフティー・ナビーユ・エリン」だと弁えて話かけてきたのだと。

 

そして、この男が純粋な地球連邦の軍人ではないと言うことも。

 

 

「貴方は一体……」

 

 

そうつぶやくハサウェイは湾に到着した迎えの貸船にも気づいていなかった。

 

男は貸船を一瞥してから、小さく笑ってハサウェイ見て、こう言った。

 

 

「ようやく出会えたな、マフティー・ナビーユ・エリン。……私はマクシミリアン・テルミドール。君と同じく、人類の革新を信じて行動を起こすものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は、宇宙世紀0105年。

 

のちにマフティー動乱と呼ばれる時代の節目に、本来存在しないはずの組織が現れていた。

 

革命者、マクシミリアン・テルミドールが率いる反体制組織「ORCA旅団」。響きは悪くないと思ったのは、同志たちがその考えに賛同してくれた時だった。

 

グリプス戦役、第一次ネオジオン戦争、そしてシャアの繰り広げた第二次ネオジオン戦争と、アクシズの隕石落とし。数々の戦場を渡り歩いてきたからこそ、この組織を作り出す土壌と力を持てたのだと思う。

 

合流した構成員に囲われる形で、マフティーという組織の冠に祭り上げられたハサウェイと共に、俺はマフティーが根城とする沖合の廃船へとやってきていた。

 

中はなかなかにしっかりとしていて、マフティーという組織がどう言った後ろ盾を持つのか察するには充分なほどであった。

 

 

「まさか、連邦軍の閑職に回された人が反体制組織の親玉だなんて誰も思いませんよ」

 

 

簡単なプレハブの中に設けられた応接室に通された俺は、ハサウェイと眼鏡をかけた彼の側近的な構成員の間を行き来するような視線を見せてから肩をすくめる。

 

 

「だろうね。だが、その方が都合が良かった。連邦軍基地の司令官なんぞにされたら身動きなど取れず仕舞いだったからな。この仕事なら適当な休職届さえ出せばどうにでも誤魔化せるものだ」

 

 

特に海洋汚染の清掃に回されるような奴らは軍内部でも扱いの難しい者たちばかりだ。爪弾き者に異端者、一匹狼にすぐ暴力沙汰を起こす奴、金銭感覚が一年戦争時代から止まってる博打狂いなど様々。俺は過去の経歴から連邦内でも扱いがめんどくさいらしく、体よく閑職の指揮官として放り込まれたと言ったところだった。

 

願ってもないことでもあったが、連邦内部が大きな戦争を経てどれほど歪な保守的体制になっているのかよくわかる構図だった。言うことを聞く凡兵を足元に置き、言うことを聞かない奴や厄介な奴は端に追いやる。組織が大きくなればなるほど、よくあることでもあった。

 

こちらとしては好都合ではあったが。

 

 

「反体制組織ORCA……貴方たちの目的はなんですか?」

 

 

ORCAを率いる「マクシミリアン・テルミドール」相手にズカズカと言ってくる眼鏡をかけた構成員の少年。まったく隠そうとしない嫌悪感と警戒心を感じて、俺は小さく笑ってしまった。

 

 

「単刀直入だな、少年。その好奇心は認めるが、探りを入れるタイミングというものを探らなければならない。彼のようにね」

 

 

そう言って俺はハサウェイを見る。彼はじっとこちらを見ていた。まるで動きが悠久的な植物を観察するように、その目はひどく冷静でどんな些細な変化も見逃さない強い意志を感じられた。

 

 

「別段、隠し事をするわけじゃない。君たち、マフティーがしようとしていることこそ、本来の我々の(目的)なのだから」

 

 

そう。別に何かを隠しているわけでもないし、今世間を騒がせているマフティーという組織を白昼の元へ引きずり出すようなつもりもない。

 

ただ、単純に彼らの在り方が、俺が率いるORCAと被っていたから。故に俺はハサウェイやマフティーの人間に会う必要があったのだ。

 

 

「咎……?」

 

「マフティーという組織がマフティーたらしめる所以。オエンベリは君たちが行動を起こす以前に反体制的な思想の坩堝だったわけさ」

 

 

大気圏突破直後に行われたハイジャック事件。その犯人は自分をマフティー・エリンと名乗っていたが、事実は異なる。彼らは単に金欲しさと卑しさでその名を使った盗賊にすぎない。だが、そう言った者たちが今の地球には溢れている。とくに、オエンベリはひどいものだ。マン・ハンターの監視に抗うように反政府を掲げるゲリラはそこら中を跋扈している上に、彼らは利益や目先の資金のために平気でマフティーの名を語るのだ。

 

人類の革新を求めるお題目を立てたマフティーという組織は、そう言った短絡的で利益を優先するようなゲリラ組織にとって恰好の隠れ蓑になっているのだ。

 

そんな副作用を彼らが求めていなかったことは重々承知している。故にマクシミリアン・テルミドールはハサウェイをリーダーとするマフティーと交渉をしにきたのだから。

 

 

「私の目的は単純だ。……我がORCAにマフティーの咎を明け渡して欲しい」

 

 

俺の言葉を理解できなかったのか、眼鏡の構成員は呆気なく取られたような顔をしていたが、ハサウェイだけは俺の言葉の本質を理解していたようだ。

 

 

「……どういう意味だ」

 

 

申し訳ない程度に出されたミネラルウォーターを一口飲む。チャポリと波打ったペットボトルに入る水を眺めてから、俺は言葉を続ける。

 

 

「血濡れた宇宙世紀が始まり100年。そう、100年も経った。一年戦争、グリプス戦役、ネオジオン戦争……そしてアクシズ落とし。たった100年でどれほどの人が死んだ?旧時代の世界大戦の数倍近くが、半世紀にも満たない20年余りの時間で失われている」

 

 

宇宙世紀は100年と言う節目を迎えたと言うのに、人々はそれを祝うわけでもなく、ただ漫然に今の生活を維持することに必死なのだ。あれほどの犠牲を支払った戦いの歴史は、人々から宇宙という名のフロンティアへ憧れるような心を奪い去ってしまったのかもしれない。

 

 

「マフティー、物事をもっと本質的に見つめるべきなのだ。君たちの行いは〝間違っている〟と心のどこかでは認められているはずなんだ」

 

「貴様……!!」

 

 

本質を突いた俺の言葉に眼鏡の構成員が立ち上がり、懐にしまっている何かに手をかけたが、その行動をハサウェイは手で制した。

 

 

「待ってくれ!!……それと、マフティーを明け渡すという言葉にどう言った意味があるというのだ」

 

 

なるほど、そこまで嫌悪感をハサウェイが持っていないことは予測通りだったな。俺は苛立った様子の構成員を横目で見ながら、注意深くハサウェイに言葉を紡ぐ。

 

 

「その咎を背負うべきは我々だと言っているのさ。マフティー・ナビーユ・エリン。君には文字通り、正当な預言者の王になってもらいたい」

 

「……なにを言ってるんだ?」

 

「思ったことはないか?こんな武力に頼った方法よりも別の方法があるなら教えてくれ、と」

 

 

途端、ハサウェイの顔が苦々しいものとなった。なんだ、わかっているじゃないか。だったら話は早く済む。トン、と俺はミネラルウォーターが置かれる机に指を置く。

 

 

「あるのさ、その別の方法が……簡単な話だ。君が地球を統べる王になれば良い」

 

 

にこやかに言った俺の言葉に、ハサウェイは信じられないと言った目を向けた。なにを言っているんだ?と目で訴えかけてくるハサウェイの声を代弁するように、眼鏡の構成員が悲鳴のような声をあげる。

 

 

「馬鹿げてる!そんな話など!!」

 

 

馬鹿げている?そんなことを俺は言ったか?

 

 

「地球に住む人々を宇宙に導くなら指導者が必要だ。その指導者はどうやってその地位に上り詰める?武力か?シャアと同じように隕石落としでもして地球政府を揺さぶるか?いいや、無理だ。そんな真似をして素直になれるほど地球政府は単純なものではない」

 

「だから、僕らは武器を手にして……!」

 

「連邦の凝り固まった血族の高官どもを殺して回っていると正当化するか?そんなもの、ただ政府からの恨みを買うだけの所業に過ぎないよ」

 

 

だから、マフティーのやり方は間違ってるなんて思うし、その真実から目を逸らしてしまう悪循環に陥っているのだ。覚悟や迷いを捨て去るなんて、そんなもの思考停止以外の何物でもない。

 

 

「つまり、貴方のいうマフティーを明け渡すという意味は、汚れ役を買うということなのですか?」

 

 

しばらく沈黙していたハサウェイは、まるで確認するのかのように俺にそう言った。ニヤリと思わずほくそ笑む。やはり彼こそが「預言者の王」に相応しいと、改めて実感する。

 

 

「……鋭いな。さすがは、ブライト艦長の息子さんだ」

 

「……父を知っているのですか?」

 

「ああ……敵でもあり、仲間でもあり、同僚だった時期もあった」

 

 

グリプス戦役では敵。第一次ネオジオン戦争では不運な接触から敵ではあったものの、最終局面では味方として彼の指揮下に入った。

 

第二次ネオジオン戦争は、俺はもともとロンドベルの下部隊の指揮官だったし、アクシズ落としの戦場ではブライトがアクシズ内に核を仕掛けるまでの護衛を任されていた。

 

結局、俺にはアクシス落としを止めることはできなかったし、多くの悲しみを生み出す戦争を止めることすらできなかったただ一人の軍人でしかない。

 

だが、目の前にいるハサウェイ・ノアは俺にはない確固たる資格を有する人物だ。

 

 

「君という存在はターニングポイントなんだよ、ハサウェイ。君にしかできない。君だからこそできるんだ」

 

 

シャアもアムロも、君のお父さんもできなかったことを。

 

 

「我がORCAはその準備がある。すでに手筈は整えている。アデレードで高官を虐殺し、連邦の政治体制をズタズタに引き裂く。そして君がカリスマ的存在として立つのだ。かつて、サイド3で立ち上がったジオンの父、ジオン・ズム・ダイクンのように」

 

 

それこそが、俺がオルカを立ち上げた真の目的であり、これから先に待つ地球圏の動乱を防ぐ唯一の手段だと確信できているから。

 

 

「君には我が反体制組織ORCAが切り開いた血路を歩んでもらう」

 

 

そう告げて、俺はハサウェイに手を差し出した。俺は強制はしない。ただ、彼が選ぶことを待つだけだ。だが、この手を……ハサウェイが……いや、マフティー・ナビーユ・エリンが手に取ったのなら。

 

 

「頷けば、君はもうマフティー・ナビーユ・エリンに戻ることはない。永遠にな」

 

 

歴史は、確実に変わるのだから。

 

 

 

 

 

 

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