100年戦争の革命浪漫譚   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十一話 革命者たちの園で

 

 

薄暗い作戦室の中、壁一面に映し出されたホログラムが、赤い光を放っていた。

 

それは戦況図ではなく、ほとんどが制圧済みの領域を示す「結果報告」に近いものであり、オーストラリア大陸の大半が赤く塗りつぶされ、その中心にあるアデレードだけが、まるで心臓のように点滅していた。

 

「マフティー・ナビーユ・エリンが率いた組織は、すでに過去の遺物となった」

 

低く、落ち着いた声が室内に響いた。

 

「諸君も知っての通り、この呪われた地は、我々ORCAの支配下に落ち、すでに二ヶ月という時が流れた」

 

その言葉に、誰も反応しなかった。

祝福も、達成感もない。

ただ、事実だけがそこにあった。

 

「やりすぎだな、テルミドール」

 

壁にもたれかかっていた男が、肩をすくめながら言う。声色は軽いが、その目は戦況図から離れていなかった。

 

「すまんな。完璧主義者なんだ」

 

テルミドールは、机の上の資料を指先で揃えながら答える。

 

「中途半端に壊すくらいなら、徹底的にやった方が後腐れがない。そうだろう?」

 

「まぁ、いい。そろそろタイミングもある」

 

男が、椅子をきしませながら言った。

 

「クローズド・プランを開始しよう」

 

その言葉が発せられた瞬間、室内の空気がわずかに変わる。冗談や軽口の許されない、計画の核心に触れる言葉だった。

 

「そのことなんだが……少し、待てないか?」

 

テルミドールは、ゆっくりと顔を上げた。

 

「ノブリス・オブリージュのことか?」

 

「あぁ。強いだけの阿呆でもないようだ。試す価値くらいはあるだろう。……状況はすでに手遅れだが、同時に緩慢だ」

 

テルミドールは、戦況図を眺めたまま言う。

 

「今さら焦ることもあるまいよ」

 

彼の指先が、アデレードの表示に触れた。

 

「地球連邦軍は、地上部隊の実働戦力の七割を失った。月からの増援にも招集がかかっているという」

 

新たなデータが表示される。撃沈された艦艇の一覧、失われた部隊、未帰還の機体。

 

「つまり、地球本土の本隊はもう動かせない。動かせるのは、残りカスか、政治的に見捨てられた部隊だけだ」

 

別の画面に、オエンベリの表示が映る。

 

「ロンド・ベルのラー・カイラムも降りたらしい。あそこは連中にとって、最後の象徴だ。状況から見るに、地球連邦軍の過半は、すでに機能停止状態と言える」

 

誰かが低く笑った。

 

テルミドールは、机の端を軽く叩いた。

 

「だから、最後にひと押しして、わかりやすい拠り所を奪ってやればいい」

 

彼の指先が、再びアデレードを指す。

 

「それで、賢そうな妥協が頭をよぎり出すさ。……もとより、停滞と保守を望む者は、そういう生き物だ。成功者であれば特にな」

 

地球というゆりかごは、成功者にとっての楽園。そうあるべきと盲信するものたちにとって、この戦いは終末のファンファーレであろうが、同時に未来にかける福音でもある。

 

「成功した者ほど、失うことを恐れる。だから恐怖を見せれば、必ず動く」

 

「結局はそこか。まったく……恐怖政治だな」

 

「政治なんて高尚なものじゃないさ」

 

テルミドールは首を振った。

その声には、怒りも熱もなかった。

ただ、確信だけがあった。

 

「体で覚えさせるんだ。このままでは、自分たちが殺される側になるとな」

 

沈黙が落ちる。

 

「……で、アデレードか」

 

「あとは、あの都市に哀れな走狗を迎えるだけだ。奴らに本懐を遂げさせる。それで、クローズド・プランは第一段階を遂げる」

 

ホログラムに、別の表示が浮かぶ。

 

そこには〝アデレード〟とは全く異なる場所が映し出されていた。ここを必死に目指す彼らにはわからないだろう。

 

この戦いそのものが〝陽動〟であるということに。

 

「地球の重力に魂を引かれた連中は、恐怖と畏怖によって宇宙へ目を向けるだろう。そして、新たな新天地に向けて前に進み始める。それが、俺たちの役目だ」

 

しばし、誰も口を開かなかった。

 

「で、分担はどうする?」

 

「アデレードが俺だ」

 

テルミドールは即答した。

 

「残りは、貴様に託す」

 

「……勝てるものか」

 

男は小さく笑う。

 

「相手は、かつてのコロニーレーザーを止めた連中だぞ」

 

その言葉には、ロンド・ベルと共に地球に降りたという厄介な相手への、本能的な警戒があった。

 

テルミドールは、ほんの少しだけ口元を緩める。

 

「まぁ、そうだろうな」

 

短い沈黙。

 

「……その時は、俺が死ぬだけの話だ」

 

 

 

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