100年戦争の革命浪漫譚   作:紅乃 晴@小説アカ

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第三話 マフティー奪取

 

 

 

ペーネロペーから解放されたガウマンを空中で受け取ったハサウェイは、安堵する間も無く驚愕に晒されることとなった。

 

ガウマンを回収し、ここからが地獄だと覚悟した時。頭上にいた二機のグスタフ・カールの脳天から股下へとビームが迸り、前触れなく爆散したのがきっかけだった。

 

上を見るまでもなく感じるプレッシャー。単なる連邦の兵士ではない。ハサウェイはそのプレッシャーを知っていた。宇宙で、アクシズ落下の最中に感じたベテランパイロットたちが放っていたプレッシャーと酷似していたのだ。

 

恐れるように目を見開いて上を見上げる。そこには、三機のバイアランがスラスターの光を連れて空中を滑空していたのだ。

 

こちらと同じように、意表をつかれたレーン・エイムのペーネロペーも応戦に機体を弾かせるが、全くと言っていいほど相手になっていない。弄ばれている以前の問題だ。三機のバイアランが巧みに機動を取っては、ミノフスキークラフトさえ積んだペーネロペーを弄んでいる。

 

その光景に呆気に取られていると、もう一つのプレッシャーが前触れなくマフティーになる決意を固めたハサウェイの前に降り立った。

 

 

「アナハイムの道楽に付き合う義理はないが、利用できるものは利用しなくては……勝てる戦いも勝てない、か」

 

「ガンダム……だと……!?」

 

 

秘密裏にアナハイムからクスィーガンダムを受け取ったハサウェイは、目の前にいる二つのカメラアイとブレードアンテナを持つ機体に目を奪われる。ガウマンに気付かされるまで、手が止まってしまうほど精錬されたその機体は、ライブラリーのどこにも載っていない機体で、機体照合をかける暇もなく、ハサウェイが駆るクスィーは謎のガンダムから攻撃を受けた。

 

 

「見たこともない機体だ……!あれは一体何だ!?」

 

 

彼の驚きも無理はなかった。

 

目の前に現れたのは宇宙世紀0083には計画が破棄されたはずの計画、それも計画初期段階で開発された幻の試作0号機ガンダムだった。

 

機体名、試作0号機、ガンダムブロッサム。

 

開花を意味するその機体は、失われたガンダム開発計画の中で生み出された全てのガンダムの原点とも言える機体ではあったが、性能が十全に機能した機体とは言い難い代物であった。当時のアナハイムが持つ技術を惜しげもなく投じられたブロッサムは、その技術力に傾倒した結果、操作性が劣悪なものと化していたのだ。

 

機体コンセプトは他のGPシリーズに引き継がれたまま、開発計画の破棄とともに廃棄倉庫の奥底に眠っていたところを、体の良い機体を探していたアルベルト・ビストによって発見され、極秘裏に持ち出されたのち、アナハイムの秘密工場にてクワック・サルヴァー率いる技術チームによって改造が施されたのちに蘇ったのだ。

 

無論、時代遅れとなった装備類は全て見直され、大型ビームライフルも取り回しの都合上、標準サイズのライフルへと換装されている。機体のコンセプトはビームライフル、シールド、サーベルとシンプルなものに仕上がっているが、その機動性や運動性は現行のガンダムタイプとも引けを取らない化け物に仕上がっていた。

 

 

「君がその機体に乗ることは分かっていたさ、ハサウェイ!」

 

 

戸惑いを隠せないハサウェイに追撃をかけながら、コクピットに座るマクシミリアン・テルミドールはフットペダルを踏み込み、一気に距離を縮めた。

 

 

「マフティーが世界を浄化すると言うなら、シャアの言った通り、全人類にその叡智を授けてみせろよ!!」

 

「貴様……マクシミリアン・テルミドールか!!」

 

 

肩部に備わる大型のビームサーベルを引き抜いて応戦するハサウェイは、ブロッサムから放たれるプレッシャーを感じ、その機体に乗る人物のイメージを受け取っていた。

 

間違いない。

 

今、目の前にいるのは自分からマフティーという存在を奪おうとする存在、オルカのマクシミリアン・テルミドールであると。

 

 

「結局は武力でしか事を示せない……過ちを正すと言うならば、その行いを自ら裁いて、贖罪しなければならない!!」

 

「はん!そのガンダムをイコンにできるほど、高徳なものではあるまいよ!!」

 

 

ビームサーベルで切り結びながら、感応波で互いを感じ取るハサウェイとテルミドール。ハサウェイのマフティーらしい言い分を、テルミドールは鼻で笑い飛ばした。

 

 

「結局、お前たちオルカも武力でしか行動を示さないくせに!!」

 

「方法を教えてくれと求めているのは貴様だ、マフティー!暴力でしか解決できないと言う結論に至った貴様に、それ以外を言ったところで!!」

 

「それ以外にこの世界を正す術がないから!!」

 

「なら、貴様が政治を指揮すればいい!シャアもアムロも人の上に立つことから本質的に逃げた人間なのだから!!」

 

 

また、そんな夢物語を語る!!ハサウェイの怒りは頂点に達していた。そんな言葉を平然と語れるから、大人は地球を平気で潰しもするのだ!そんな嫌悪感が、ハサウェイを突き動かす原動力になってしまっていた。

 

 

「そんな夢物語など……!!」

 

「逃げないという覚悟と曲げない信念を持てば、世界は変えられるはずだ!!」

 

 

アムロも、シャアも、これまでガンダムに深く関わってきた者たちは皆それぞれの反骨精神を持って戦いと向き合ってきた。だが、結果的にその精神が人を導くという道から人を遠ざけて、ガンダムという機体を戦争に多大なる影響を及ぼすマシーンにしかしてこなかった。

 

テルミドールは言う。ハサウェイがそのジンクスを破壊する人間になるべきなのだと。

 

 

「地球を食い物にする政治家が気に食わないと言うなら、そうならない政治家に貴様がなればいい!!クリーンな行いをすれば、おのずと地球は!!」

 

 

そこで思念が途切れて、再びクスィーとブロッサムのビームサーベルが激突する。激しい空中戦繰り広げるさらに上空では、ペーネロペーが三機のバイアランを相手取って戦いを挑まされていた。

 

 

「また訳の分からないガンダムが増えて!!だが、このペネロペーの敵ではない!!」

 

「ええい、羽付きのガンダムか!!アナハイムの強欲の権化が偉そうに!!」

 

 

言葉では立派だがなぁ!コクピットの中で息を呑んだミスターJは、Kの操るバイアランと卓越したコンビネーションを発揮し、機体性能では十二分に勝るペーネロペーを徐々に追い詰めていった。苦し紛れに構えようとしたビームライフルは横合いから刺されたミセスMからの援護射撃によって吹き飛ばされ、レーンの持てる手札は徐々に削り取られてゆく。

 

ええい、サイコミュの設定もまだ微調整レベルだというのに。そんな弱音を吐いたところで、敵が手加減をしてくれるわけもなく、三機の連携に右往左往し始めた瞬間、真上から踏みつけられたペーネロペーは、姿勢を大きく崩した。

 

ミノフスキークラフトがあると言っても、それはただ浮遊する力場を作る作用を持つユニットでしかない。スラスターで姿勢制御をしたレーンの目の前には、至近距離に接近したバイアランのモノアイが揺らめていていた。

 

 

「う、うわぁああ!?」

 

 

咄嗟にバルカンを放つが、その合間を縫ってJのバイアランによるコクピット蹴りが炸裂。一瞬で意識を持っていかれたレーンのペーネロペーは、糸が切れた人形のように海面に叩きつけられ、そのまま沈んだ。

 

 

「たった少しの時間で結果が出れば、人は戦争などしないのさ、マフティー・ナビーユ・エリン!!」

 

 

完全なる実力差からの勝負が決したペーネロペー戦と同じように、ハサウェイの駆るクスィーも苦境に立たされつつあった。ビームサーベルの根本から両断され、コクピットにブロッサムの拳が叩きつけられる。

 

 

「がっ……」

 

 

凄まじい衝撃がハサウェイを襲い、隣でシートに捕まっていたガウマンは吹き飛ばされ、全天周囲型モニターに頭を打って伸びてしまった。

 

 

「その短絡的な思考が革命などと……笑わせる!!」

 

「それでも、なんとでもなるはずだ!!」

 

「世界を良くする覚悟もない男が口にする言葉か!!」

 

 

失ったビームサーベルを捨て、シールドから発せられるIフィールドでブロッサムの刃をなんとか凌ぐ。眩いプラズマの光に目を細めながら、ハサウェイは歯を食いしばっててるに叫んだ。

 

 

「それでも、マフティー・ナビーユ・エリンが人類の罪を粛清する!!」

 

「それは一人前の男のセリフだ!!貴様らの行いは癇癪を起こす子供だ!!その行動のどこに正義がある!!この革命のどこに勝者と敗者がいるというのだ!!」

 

 

シールドを蹴り上げられ、ついでビームサーベルが閃く。クスィーの構えていた盾は腕ごと切り落とされ、海面に落下していく。

 

ハサウェイが、あのアクシズ落下の中で何を感じたのか。ニュータイプであったクェスとの交流が、ハサウェイの何を変えたのか。シャアの生き様や、アムロの在り方。その全てが彼に何をもたらしたのか。

 

だが、少なくとも。

 

そう言ったイメージに影響を受けた男の子を、もてはやすことくらい誰にもできる。マフティーという神輿は、そんな存在にしかなれない。

 

その程度の存在にしか。

 

 

「なんだ、こいつは……!!」

 

「威圧で人を屈服させても、待っているのは反乱と動乱なのだぞ、ハサウェイ」

 

 

そんな優しい声が、ハサウェイの思考に届いたような気がした。次の瞬間、ブロッサムのシールドごと叩きつけられた衝撃で、ハサウェイはひどく浸透し、意識を手放すことになる。

 

沈黙したクスィーの手を取って、迎えのゲタに乗ったブロッサムの中で、テルミドールは呟いた。

 

 

「最初から間違っていたのさ。シャアも、ジオンも、連邦も、何もかもが……」

 

 

間違ったまま宇宙世紀になって、間違ったまま戦争になって、間違ったまま今のところまで来てしまった。

 

シャアの言葉を借りるならば、まさに人類は自分の手で自分を裁いて、自然や地球に対して贖罪をしなければならないのだと。

 

だからこそ、そんな言葉に踊らされたハサウェイを、テルミドールは否定する。

 

 

「ああ、否定してやるよ。その否定が間違っているとしても……俺は貴様を……マフティーを……いや……ハサウェイ・ノア、貴様を俺は否定する」

 

 

 

静かになったオーストラリア沖合で起こった事件。本来ならば、クスィーガンダムに乗り込むマフティーによって為される動乱の狼煙となる日であった今日。

 

マフティー・ナビーユ・エリンは、歴史の表舞台に立つことなく、その存在が奪われてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

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