100年戦争の革命浪漫譚   作:紅乃 晴@小説アカ

5 / 13
第四話 ようこそ、高貴なる者たちよ

 

 

「ケネス!!あのガンダムはどうなったの!?」

 

 

オエンベリの司令室でようやくまとまった「謎の武装勢力襲撃事件」の詳細報告書を読んでいたケネスのもとに、血相を欠いた様子のギギが飛びこんできた。おそらくそろそろ来るだろうと踏んでいたケネスの予想通りで、彼女の焦り具合もまた当然と言えた。

 

 

「ギギ、レーンが遭遇したガンダム……どう思う?」

 

「わからないよ!それよりも……」

 

「やはり、あの機体にはハサウェイが乗っていたのだな?」

 

 

その言葉でギギが息を呑む。やはり、か。ケネスは贅沢な椅子に体を預ける。ハイジャック事件の身のこなしといい、彼の感性の鋭さは目を見張るものはあったが、同時に危うさと危険も感じていた。

 

マフティーと無関係というなら、目の前にいるギギと同じよう、あの手この手を使って自身の手元に置いておきたいほどの逸材であったし、彼ならば停滞した連邦軍内で開発された最新鋭MSを十全に扱えるとも思っていた。

 

 

「ギギ、君を女神としてキルケー部隊の側においたのは間違いではなかったと言うわけか」

 

「……私をマフティーのスパイとして拘束するつもり?」

 

「まさか。君はハサウェイとは個人的な関わりだった。マフティーという組織の人間なら、もっとしがらみや配慮といった警戒心がある。だが、君は純粋すぎるんだよ。ギギ・アンダルシア」

 

 

警戒心をあらわにしたギギにケネスは本心で答えた。彼女の様子や纏う気配も魅力的ではあるが、ケネスには情思のような邪心はなく、純粋に彼女が呼び込む運命のようなものが今後の自分達、ひいてはキルケー部隊の未来を左右すると感じられたからだ。

 

ケネスの本心に気づいて警戒心を解いたギギは、青ざめた表情のままソファに腰を下ろして熟考する。

 

 

「……あの機体に、仮にハサウェイが乗っていたとしても。彼を連れ去った誰かの思惑が全くわからない。たしかにマフティーのやり方は正しくないとは思うけど……あの敵の意味がよくわからない」

 

「そうか……」

 

 

たしかにそうだな、とケネスも同意見だった。オエンベリの司令となってマフティーの殲滅を命じられた彼にとって、その敵組織を連れ去る謎の勢力など、謎を纏った何かにしか感じられない。

 

彼らの目的はなんだ?なぜマフティーを連れ去り、地球連邦軍と敵対する必要があった?反抗組織であるマフティーを粛清するなどという馬鹿げた目標を掲げる組織だというなら、連邦軍とわざわざ敵対する必要もあるまい。

 

ケネスは報告資料の一部に目を落とす。そこには、襲撃時の唯一の生き残りでもあるレーン・エイムの報告が記されていた。

 

彼の乗るペーネロペー以外、グスタフ・カールも随伴したベースジャバー部隊も残らず撃墜されている。それもほとんどがコクピット部を的確に破壊されているという有様で、パイロットの生存は絶望的だった。

 

レーンが生き残れたのは、ペーネロペーの性能もあるだろうが、彼自身の運も良かったのだと思う。大きく戦力が削がれのは痛いが、最新鋭機がスクラップにならずに戻って来れたことはケネスにとっては僥倖であった。

 

 

(レーンは前戦争の亡霊だとかほざいてきたな。ティターンズ時代の試作MS。それに、データにないガンダム。マフティーを語る他勢力とは考えられない。ならば……)

 

「彼らはマフティーを乗っ取ろうとしてるのよ!」

 

 

思考を巡らせていたケネスをよそに、ギギはソファから立ち上がって気が付いたように声を上げた。いきなり立ち上がった彼女に目をむくケネスなど気にしない様子で、パズルのピースがはまったと言わんばかりの様子を見せるギギは、言葉を連ねた。

 

 

「そうよ、きっとそうに違いないわ!だって、それくらいしか理由がないもの。マフティーなんていう組織を襲うなんて!」

 

「ギギ、仮に彼らがマフティーを乗っ取ったとしても、そこにどんな理由があるというんだ?」

 

「決まってるわ」

 

 

ケネスの懐疑的な目に、ギギは全くぶれない確信めいた目を走らせて頷く。

 

 

「もっと……怖いことをするつもりなのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆらゆらと光が最初に目に入った。覚醒と同時に湧き上がってくる痛みに顔をしかめる。どうやら椅子に座らされているようで、後ろに回された手には手錠がはめられ身動きは取れない。あたりはコンクリートの壁で囲われていて窓はなかった。

 

揺らめく灯りは旧時代の白熱球で、ぼんやりとした明かりが自分の周りだけを照らしている。素早く状況確認はできたが、それで何かできるわけでもない。着ていたはずのノーマルスーツは脱がされていて、安物のシャツとズボンに着替えさせられていたところを見ると、自分はかなりの間意識を失っていたようだ。

 

それが、クスィーに搭乗していたときに受けた衝撃のせいか、それともその後に投与された薬物のせいか。鈍い痛みに悩まされる頭では、どちらか判断することはできなかった。

 

 

「お目覚めかな?ハサウェイ・ノア」

 

 

白熱球の光によって生まれる影の中から、声が響いた。ハッと顔を上げると、影の中からゆったりとした歩幅で壮麗な老人が姿を見せた。

 

 

「あなたは……クワック・サルヴァー」

 

 

ハサウェイは、現れた人物を見て目を見開いた。クワック・サルヴァーとは面識があったからだ。ハサウェイが第二次ネオジオン戦争で負った傷を癒すために地球に降りたときに、クワック・サルヴァーと名乗る老人と出会っていた。

 

それをきっかけに、ハサウェイがマフティーという組織と、その思想を知るきっかけにもなったこともあるのだが、まさか彼が自分たちを襲う側に回るとは考えもしていなかった。

 

 

「……どういうおつもりですか。貴方が、僕をマフティーに引き込んだというのに」

 

「ああ、君ならばマフティーにとって有益な存在となれるだろうと確信があったからね。たが、事態はそんな悠長なことを言ってる場合ではなくなったのさ」

 

 

後ろに手を組んでそう言った老人は他者を老いても磨きが掛かったカリスマ性と人を惹きつける魅力を持っていた。ハサウェイもその魅力に引き寄せられた一人と言えよう。彼が後援したマフティーという組織に加わった若者の多くも、クワック・サルヴァーが語った思想やマフティーの在り方に共感し、未来に希望を持つ者がほとんどだ。

 

そんな彼が焦っている?ハサウェイは余裕さと笑みを浮かべる老人の中から漏れ出るそんな気配を僅かに感じ取っていた。

 

 

「連邦議会は着々とアデレードでの会議の準備を進めている。連邦政府の一握りのエリートによって地球という星を完全に支配しようとする野望のためにな」

 

「だから!それを防ぐためにマフティーは……!!」

 

「君たちの組織力で抵抗したところで地球連邦政府の意向を挫くことなど……ましてや、彼らの地球征服という野望を打ち砕くなどできやしまいよ」

 

 

なんだって……!?ハサウェイは混乱した。その野望や野心をどうにかするためにマフティーという組織は生まれたはずだ。彼はそれを後援したというのに、その思想を語り多くの若者を引き込んだというのに、その本人がマフティーが掲げる目的が達成できないと諦めるなんて。

 

混乱を隠せないハサウェイを見て、クワック・サルヴァーは改めて声を正した。

 

 

「マフティーという組織力では彼らにとっての単なる活性化剤に過ぎないということだよ。ハサウェイ・ノア君。いくらマフティーを名乗ってオーストラリアでテロ活動をしても、それは連邦政府の団結力をより強め、一握りのエリートが地球に住むという土台を確固たるものにする行いに過ぎん」

 

「僕らの活動が、地球圏の特権階級の者たちにとって都合が良いと……いうのですか」

 

「察しが早くて助かるよ、さすがはあの艦長の息子さんだ」

 

 

すでにその構図が出来上がっている以上、マフティーという組織を維持しても地球連邦政府の都合の良い存在でしかない。故に、クワック・サルヴァーは大きな方針の転換を決意したのだ。

 

 

「だからこそ、私はマフティーを上回る力と武力を持って政府組織に恐怖を植え付ける必要性を感じた」

 

「……恐怖?」

 

「彼らが地球という星を支配しようと目論むのは、ひとえに恐怖心からなのだよ。恐怖は人の視野を狭め、そして保守的な思考に切り替えてゆく。地球連邦政府は恐れているのさ。一年戦争やアクシズ落としを行う宇宙に住まう人々をな」

 

「……マクシミリアン・テルミドール」

 

 

そう、その通りだ。ハサウェイが口ずさんだ名前を聞いた老人はニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「彼は私が用意した「革命者」だ。マフティー・ナビーユ・エリンが「予言の王」と据え置くなら、彼はマフティーが予言した未来を覆すために立った革命家さ」

 

「革命……」

 

「君にできるかな?革命のためにオーストラリアに住むすべての人を殺すことが」

 

 

その衝撃的な言葉にハサウェイは息を呑む。

 

反抗組織と、革命者は明確に違う。それはクワック・サルヴァーが兼ねてから言い続けてきた言葉だった。反抗組織は相応に巻き込まれる人々のことや、ゲリラ的なテロリズムに対して配慮を行う。むろん、そう言った人道的な配慮を信仰心や狂気的な組織秩序でマスキングする組織もあるだろうが、少なからずそう言った配慮に悩まされる側面はあるし、それで市民から反感を買えば、目標と掲げる反体制力の活動すら危ぶまれる。

 

だが、革命は違う。

 

彼らはテロリズムなどという生優しい言葉使わない。王座に座る者を引き摺り下ろし、断頭台にかけて、首を刎ねる。そうやって王座に就くのが革命者だ。彼は配慮などしない。目的は王座に座る者の抹殺なのだから。

 

 

「君たちのマフティーにはそれができない。だが、マクシミリアン・テルミドールにはそれが出来る。それを可能にする覚悟と準備がある」

 

 

地球連邦政府と交渉?そんなもの鼻からするつもりはない。彼らの野望を打ち砕くために、マクシミリアン・テルミドールは手を血に染めて革命を起こす覚悟を持っているのだから。

 

 

「オーストラリアを……アデレードを火の海にするつもりなのですか!!」

 

 

唯一ある扉から入ってくる人影を一瞥するハサウェイは、最後にクワック・サルヴァーへそう声を荒げる。だが、彼はそんなことなど気にも留めずに、ハサウェイに微笑んだ。

 

 

「……ハサウェイ・ノア。その後の世界を統べる予言の王である君が、それを背負うことも、目撃する必要もないのだよ」

 

 

次の瞬間、頭から被された黒い布袋によってハサウェイの視界は再び暗闇へと落ちてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙世紀0105年5月。

 

反地球連邦組織マフティーによる粛清行為に同調する地球圏の住人たちにとって、そしてそれを政治的な駒として扱おうとした地球連邦政府。多くの人にとって、それは突然の出来事であった。

 

第二次ネオジオン戦争後、仮想敵国が居なくなった地球連邦軍は武力、精度ともに消極的な立ち位置に追い込まれている最中。

 

突如としてオーストラリアに展開される地球連邦軍各基地を所属不明のモビルスーツが襲撃。

 

ダーウィン。

 

アリス・スプリングス。

 

トリントン。

 

オエンベリ。

 

ヒューエンデン。

 

ポートモレスビー。

 

メルボルン。

 

オーストラリア大陸に連なる地球連邦政府の勢力圏は瞬く間のうちに制圧され、大陸に波及していた地球連邦政府の統制力は大きく揺るがされた。抵抗した地球連邦軍の兵力は、強力なモビルスーツとORCAの前に惨憺たる敗北を喫した。

 

そして、反地球連邦組織であったマフティーを吸収したという声明を発した革命者「マクシミリアン・テルミドール」の名で、ニューギニア方面へ逃げおおせた地球連邦政府高官、ならびに、包囲されたアデレードに取り残された特権階級の政府関係者、地球連邦政府へ、ごく短い声明が発信される。

 

 

To(高貴なる) nobles.(者たちよ)

(高貴なる者たちよ)

 

Welcome(穢れた) to(地上) the() earth.(ようこそ)

(汚れた地上へようこそ)

 

 

 

それは、地球というゆりかごを我が物にしようと画策していた地球連邦政府への明確な宣戦であった。

 

地球連邦政府ならびに連邦軍は狂気の反勢力に対することを余儀なくされ、マフティーら勢力を楽観視していた人々は自分たちが置かれている状況に初めて気がついたように、ただ現れた敵に恐怖するしかなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。