100年戦争の革命浪漫譚   作:紅乃 晴@小説アカ

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第六話 オエンベリ基地奪還作戦(1)

 

 

 

「革命者として、アンタは何を為す?」

 

 

ジャーナリストでもあり、政治経済の暗部にも深く広い人脈を有する男、カイ・シデンは軍の極秘通信サーバーを経由して連絡を寄越してきたマクシミリアン・テルミドールにそう問いただした。

 

彼の名は、今じゃ政治界隈じゃ知らない者はいないほど強大なものとなってしまっている。理由は単純で、テルミドールがアデレードで人質にする政府高官だ。最も、革命者である彼からすれば、彼らは人質という土俵にすら上がらない存在でしかない。アデレードの政府高官を利用した政治的な取引をテルミドールは望んでいない。

 

彼らは〝手段〟ではなく〝目的〟に過ぎないわけだ。

 

一年戦争から今日まで生き延びる強かさを持ち、持ち前の洞察力と推論でそこまで見切っているカイだからこそ、テルミドール自身が秘匿通信で連絡をよこしたのだから、カイの確信的な疑問にテルミドールは小さく笑った。

 

 

「ジオンと同じく、独立を目指すか。あるいはエゥーゴ、ティターズのように権力内での主導権を争うか。あるいは……」

 

「シャアのように地球に住む人々を粛清する、とか?」

 

 

その推論に上乗せする形でテルミドールは嘯く。ならば人類を大地から引き剥がす叡智を与えてみせろ、と。シャアはそれが出来ないと人類に絶望したのだから、アクシズ落としまで手を出してしまったのだ。

 

 

「あいつは……あの男は、それほど強い男じゃなかった。せいぜい誰かと添い遂げて幸せに暮らして、そして死ぬべき男だった。ジオンだとか、遺児だとか、ニュータイプだとかでもてはやされて、便利のいい時の人になって死んでいった大馬鹿野郎に過ぎんよ」

 

 

シャア……キャスバル・レム・ダイクンには、そんな大役を務める器など元から無かったのだとテルミドールは話す。シャアがシャアたらしめた所以は、彼の生まれと歴史の歯車の噛み合わせが具現化した結果でしかない。その具現化した偶像にジオンも連邦も地球もコロニーも待望を勝手に抱いて、勝手に押し付けて、シャアという〝組織を束ねるのに適した偶像〟を作り上げた。

 

その偶像を失った彼の姿は、雲の上のような人格者ではない。もっとリアリティとエゴイズムにまみれた、単なる人間に過ぎない、と。

 

 

「……古くから彼を知っているような言い草だな?テルミドール」

 

「古い友人…とでも言っておこう。アムロ・レイも。そして奴も」

 

 

テルミドールはそう言って目を細めた。はっきり言えば、彼らとは一年戦争からの付き合いだ。出会いはソロモン。悲劇の始まりの地で、彼らは出逢った。本当に、単なる偶然で、偶発的で、運命的に。

 

そのまますれ違ったまま、数年が過ぎたのちに始まったグリプス戦役。その時は、シャアとアムロと敵対する立場となっていた。死闘に次ぐ死闘。シャアとアムロ、僅かにだが心を通わせ、戦友となっていた二人の時間は長くは続かなかった。

 

今になって、テルミドールはあの瞬間を悔いる。シャアという男が、結局のところクワトロすら演じられなくなって逃げ出したのだ。それを引き止める責が自分にもあったのではないか、と。

 

アクシズ落としの時、シャアはテルミドールに問いかけた。

 

人類を空に上げるには地球に住む者たちを粛清し、罪を償わせ、地球に対して人類は贖罪をしなければならない。だからこそ、アクシズ落としという業をシャア・アズナブルが背負おうと言うのに、それを何故止めるのか、と。

 

 

「さて、我々の目的はそんな目先の話ではないのさ。カイ・シデン」

 

 

そう、シャアにも言った言葉だ。人類の粛清と地球への贖罪は結果の先にある事象に過ぎない。それを目的にした段階で、シャア自身のやり方は破綻している、と。

 

 

「地球連邦政府のスキャンダル……あるいは土台の解体……要は内部構造の解体が最終目的ってところかな?」

 

 

カイの着眼点は中々に良いところではあるが、それが今地球が抱える問題点の一つでしかない。

 

氷河の一角でしかない問題を解決したところで、地球と政治が抱える問題の根本的な解決には至らない。まずは悪性の腫瘍を取り除く外科的手術が必要だとテルミドールは続けた。

 

 

「政府は大きくなりすぎた。それもそうだろう。一年戦争でジオンに勝利した地球軍はその手を宇宙に広げた結果、こぼれ落ちた範囲で争いが頻発。結果的に管理が杜撰となった上、シャアのアクシズ落としまで許す失態を犯した」

 

 

旧世紀の政治闘争でもままあったことだ。手広く世界を支配しようなんて考えるから辻褄が合わなくなって、その帳尻合わせのためにどこかが無法地帯になる。彼らは支配者が捨てた武器を拾って決起し、それを打ち倒そうと足掻く。そうやって複雑に支配私欲が絡んだ世界は歴史を繰り返してきた。

 

宇宙世紀に入って百年経って人類が得た教訓があるとするなら、「人は歴史から何も学ばない」という愚かな点くらいだろう。

 

 

「ゆえに、地球はやり直すきっかけが必要なのさ。一年戦争で負った全ての間違いを正すためのやり直しをね」

 

 

スタート時点から何もかもが間違っていた。そうテルミドールは言葉を紡ぐ。闘争と反発、抑圧と弾圧、それに抵抗する武力と新たなる思考。スタート地点は宇宙移民ではない。争いが起点になって、今日の宇宙世紀は形作られているのだから。

 

 

「グリプス戦役も、第一次、第二次ネオジオン戦争も……アクシズ落としも。そのやり方を間違えていたんです。簡単言えば誰もが急ぎすぎた。インテリも、陰謀屋も皆んな皆んな」

 

 

間違っていた。なにもかもを。人類に叡智を与える以前の話だ。何もかも間違った上で正そうというのだ。それも間違った手段で。そんなことをしても何も得はしないというのに。

 

 

「数世紀経て、人類はやっと宇宙に居住権を手にしたのです。ならば、人類すべてが宇宙に上がるというならば、その倍、それよりも多くの時を有するという覚悟を持たなければならない」

 

 

シャアにも、そしてアムロにも、その時間と戦う覚悟がなかったとテルミドールは断言する。

 

時間という刻を支配できるなんていうニュータイプの幻影に魅せられた結果、数世紀かけて宇宙へと進出した人類の過去を飛び越えて、人は宇宙へ上がれる……などという幻想に取り込まれた。その結果が、一年戦争や、アクシズ落としという副産物を生んだのだ。

 

その時間と向き合う存在こそが、人類を導くに値する王だとテルミドールは呟く。

 

 

「今回の革命は、そのための土壌作りに過ぎない。人類種が急きすぎた結果、自らを裁き、地球というゆりかごを牢獄にしないためにも」

 

 

きっかけは全てに通ずる。

問題は何を起点に進めていくかだ。

 

 

「宇宙世紀の歴史は、血濡れた事柄から始まっていった。だからこそ……その咎を清算するところから始まるのだ。人類種が穏やかな壊死を迎える前に」

 

 

カイはテルミドールの言葉を黙って聞いていた。しばらく、すっかり冷めたコーヒーが入るマグカップが乗るテーブルを指で叩いた彼は、テルミドールを見つめながらこう言った。

 

 

「アンタは昔から変わらないな……」

 

 

テルミドールは困ったように笑って肩をすくめ、こう答えた。

 

 

「カイさん。今の俺はマクシミリアン・テルミドールだ。それ以下にも、それ以上にもなるつもりはないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

対オルカ部隊として再編されたキルケー部隊のパイロット、レーン・エイムはフライトユニットをパージしたオデュッセウスガンダムのコクピットの中でため息を吐いた。

 

 

「ペネロペーをこのような作戦に使用することになるなんてな……」

 

 

現在、オーストラリア南部のララガナ島という船では侵入できない浅瀬を経由し、ノーザンテリトリー州へと上陸したMS部隊は、潜水用オプションを取り外して陸路での移動を余儀なくされていた。フライトユニットは後方のニューギニア基地内にあり、作戦が進行すればICBMの発射装置から放たれ、大気圏外からのアプローチを行う手筈となっている。

 

ただし、それはオルカによって占拠されたオエンベリ基地の奪還が成功したらの話だ。他の水陸用MS部隊も別方向からアプローチはしているが、陸路での移動距離ならレーンがいるキルケー部隊の方が早く範囲内に侵入できるはずだ。

 

 

「仕方がない、エイム中尉。我々の目的はオエンベリを足掛かりにし、オーストラリア拠点の奪還なのだ。まずは最初の課題をクリアするしかあるまい」

 

 

キルケー部隊に配置されることになったのは、ロンド・ベルから出向してきたエースパイロットの3人、通称「ロンド・ベルの三連星」だ。隊長であるナイジェル・ギャレットの言葉に、レーンはムッとした表情で通信に応じる。

 

 

「ペネロペーユニットを外したオデュッセウスなど、単なる陸戦兵器と何ら変わりないではありませんか」

 

 

ペーネロペーはあのミノフスキー・クラフトが搭載された巨大ユニットがあるからこそ生かされる機体でもあると、レーンは豪語する。それを外されたオデュッセウスであれば、性能は確かに高いがトライスターが乗るジェスタ後期モデルと大差はない。

 

不貞腐れた新兵の言い分に、ナイジェルの後ろにいるワッツ・ステップニーが快活な笑い声をあげて言葉を続けた。

 

 

「制空権が奪われてるのさ。輸送隊もゲタも使えないとするなら、こういった作戦になるのも……」

 

 

最中、レッドアラートがコクピットに表示される。そんなバカなとレーンはあたりを見回した。まだ基地の索敵範囲の外のはずだ。守備に徹する敵がこんな場所にいるはずがない。そう自分に言い聞かせるものの、事態はより悪い方向への転がってゆく。

 

 

「ミノフスキー粒子が散布された!?気付かれた!!」

 

「各機、戦闘隊列!こちらは地上戦だ!航空戦力に注意!」

 

 

陸戦仕様の各機が戦闘態勢に移行しようとする中、索敵を行なっていたダリル・マッギネスが引き攣ったような声で応答する。

 

 

「いえ、隊長。こいつは……」

 

『あは、ダーリンが言った通り本当に地を這って敵が来たわね』

 

 

その声は誰に聞こえたのか。山間を抜ける形で陸路を進んでいた4機の前に巨大な影が立ちはだかった。黒と赤の配色が施された巨大な人形MS……全長は40Mに達するそれは、当時の巨大全高を持つオデュッセウスすら見上げるほどのものだった。

 

 

「サイコ……ガンダム……!!」

 

 

ティターズの産んだ狂気のニュータイプ専用MSが、四機の前に立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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