ガチャ
アルバイトから帰った僕は、疲れていたが気分は上々だった。
「おかえり。お疲れ様。」
いつものように彼女が出迎えてくれる。
「ご飯、できてるから、手洗って席について。」
「ありがとう。」
お礼を言って洗面所に。
手を洗ってリビングへ向かう。
パーン
リビングに入ってきた僕に向かって、クラッカーが鳴らされる。
そして彼女は満面の笑みを浮かべて言う。
「誕生日、おめでとう。」
テーブルの上には豪華な料理が並べられている。
唐揚げ、ハンバーグ、サラダ、カボチャスープ、お酒。
まさに「よりどりみどり」というやつだ。
そして、僕の座る椅子には30㎝四方のプレゼントボックスが置いてある。
そう、今日は僕の誕生日。
一年に一度、僕が主役になれる日だ。
「ありがとう。」
僕は彼女にそう言って、プレゼントボックスを手に取り、箱の代わりに椅子に座る。
「開けてもいい?」
僕はワクワク顔でそう尋ねた。
一体この中には何が入っているんだろう。
手はもう箱の封を解き始めている。
「駄目よ。」
「……え?」
彼女の予想外の言葉に、僕の手が止まる。
彼女は続ける。
「それは、絶対に開けては駄目。」
…どうやら今年の誕生日は、いつもと一味違うらしい。
「えっと…」
困惑した僕は、そこから先を続けられない。
「何?」
彼女はそんな僕に、平然と疑問符を返す。
それがあまりに自然だから、自分の方が間違ってるんじゃないかと錯覚してしまう。
しかし、おかしいのは間違いなく彼女だ。
だから追求することにした。
「今日ってさ、僕の誕生日だよね?」
僕がそう言うと、彼女はにこりと笑って、
「ええ、そうよ。23才の誕生日おめでとう。」
「ありがとう。こんなに豪華な食事まで用意してもらって、本当にうれしいよ。それで、この箱の中には誕生日プレゼントが入ってるんだよね?」
「ええ、そうよ。今のあなたに一番必要な物が入っているわ。」
「僕に一番必要な物?ちょっと検討がつかないけど、君が選んでくれたものなんだから、きっと素晴らしいものなんだろうね。」
「ええ、そうね。自信はあるわ。」
「そうかそうか。これは中を見るのが楽しみだ。開けてもいい?」
「駄目よ。」
う~ん、やっぱり駄目か。
「どうして開けちゃ駄目なの?」
気になったから聞いてみた。
「ごめんなさい、それは言えないの。」
「なんで?」
「ごめんなさい、それも言えないの。」
彼女は申し訳無さそうだ。
でもやっぱり気になるから追求する。
「この中に入ってるものは、なにかしらの法律に引っ掛かるようなものなの?」
「いいえ、そんな事はないわ。」
「じゃあ、化学薬品とか爆弾とかの危ないものなの?」
「私が、そんなものを誕生日プレゼントとして彼氏に贈るようなクレイジーな女に見える?」
「見えない。でもちょっとその可能性が浮上してきてる。」
「私のプレゼントはそんな危険物じゃないわ。」
どうやらこれは危険物ではないらしい。
しかしそうなると尚更訳が分からない。
どうして彼女は僕にこれの中身を見せたくないのだろう。
よし、アプローチを変えてみよう。
「脅されてるの?」
彼女の動機から探るというアプローチだ。
果たしてうまくいくかどうか。
「え?あ、は、ハハ、そんな訳ないじゃない。」
彼女の目が未だかつてないぐらい泳いでいる。
あとなんか凄い冷や汗かいてるし、手も震えてる。
だが、まあ、彼女が違うと言うのなら違うのだろう。
「あはは、だよね。脅されてる訳ないよね。ごめんね、変な質問して。」
「あ、いや、その、うん。大丈夫よ。気にしないで。」
「脅されてないのなら、人質でも取られてるの?」
「ひゃふ?!」
彼女の口から聞いたこと無い言語が飛び出した。
あと冷や汗が増えた。
「アハハハハ、そ、そそそそんなわけ、ななななないじゃない。」
「汗凄いけど、大丈夫?水飲めば?」
「え?あ、そうね。そそそそうするわ」
なんか彼女の滑舌がえらいことになってるけど、違うというなら違うのだろう。
彼女は席を立ち、キッチンへと歩いて…あ
ドガッ
「キャッ」
彼女がこけた。
生まれたての小鹿みたいに足が震えてたから大丈夫かな~と思ってたけど案の定こけた。
「大丈夫?」
僕は彼女に手を差し伸べた。
「あ、ごめん、ありがとう。」
彼女はそう言い、僕の手を取って立ち上がった。
「…あれ?」
「え?な、なに?」
僕が呟くと、彼女はおどおどしつつそう言った。
僕は今、あることに気が付いた。
そしてきっとこれこそが、彼女の様子がおかしい理由に違いない。
早速確認してみよう。
「もしかして、髪型変えた?」
「髪型?…ああ!そうね!ちょっと変えてみたのよ!どう?似合ってる?」
「うん。よく似合ってる。」
「ありがと。」
「ごめんね、気付かなくて。こんなんじゃ彼氏失格だよね。」
「そんなことはないわ。気にしないで。」
「そう言ってくれるとありがたい。所で一つ聞いてもいい?」
「なにかしら?」
「昨日は坊主頭だったのに、この24時間でどうやってセミロングまで伸ばしたの?」
「えっ」
一度は落ち着いた目の泳ぎが再び戻ってきた。
僕は追求する。
「それはウィッグかな?でも坊主頭にした次の日にウィッグつけてるっていうのは中々に不自然だよね?」
「…気が変わったのよ。」
「ほう?そりゃまたどうして?」
「友達に馬鹿にされたのよ。『坊主頭なんて可笑しい』って」
「その友達っていうのは誰?」
「誰でもいいでしょ。」
「その友達に坊主頭を見せたのは初めてだったの?」
「ええ、そうよ。」
「君、ここ数年はずっと坊主頭だったじゃん。」
「え…ひ、久し振りに会ったのよ。」
「君はこれまでもたくさんの人に似たようなこと言われてたけど、坊主頭を辞めることはしなかったじゃん。」
「…嫌気が差してきたのよ。あの髪型にこだわりなんてそんなに無かったし。」
OK。確認作業は殆ど済んだ。これが最終確認だ。
「こだわりがない?だろうね。だって君、坊主頭にしたことないもん。」
「…え?」
「お前誰だよ。彼女を何処へやった?」
「わ…私はここにいるじゃない。」
「とぼけるのも大概にしろよ。お前、変身能力持ちだろ?」
「…?!」
そいつの顔色から察するに、図星らしい。
じゃあ今彼女はどこに?
こいつ知ってるかな?
「大人しく彼女の居場所を吐けば、命は取らないよ。」
「……ない」
「え?なんだって?」
「言えないのよ!」
「どうして?」
「…弟が…人質に…」
そいつは今にも泣き出しそうな顔でそう言った。
いや、泣き出しそうというか、既に少し涙を流している。
「あなたを殺さないと、弟が死ぬの。」
「…じゃあなんで殺さない?」
「だって…あなた…みんなのヒーローなのに…」
「…」
なるほど。
どうやらこいつにはこいつで理由があるらしい。
仕方ない。
纏めて解決しようか。
「おい、変身能力持ち。」
「…なに?」
「俺は優しいから、お前の弟のことも助けてやる。だから彼女がどこにいるか言え。」
「…町外れの…病院…」
「わかった。お前は適当な奴に化けて逃げろ。じゃあな。」
「え、待って」
変身能力持ちが俺を呼び止めたが、構わず玄関から外にでる。
そして、跳ぶ。
出来るだけ早く、彼女を助けるために跳ぶ。
屋根の上を跳ねて、彼女の元へ。
跳躍能力持ちの俺には、そのぐらいしか出来ないし。
「…よし、こいつにしよう。」
新聞の、農家さんが写っている写真。
農家のおじさんの顔の部分だけちぎり取って、食べる。
ゴギメキゴリリ
音を立てて、私の顔の骨格が形を変える。
やがて音は止んだ。
鏡が無いので確認は出来ないからわからないが、恐らくあの写真のおじさんと同じ顔になっている筈だ。
ベランダに出た。
ここはマンションの4階なので、地面までは遠い。
でも玄関から逃げても殺されるだろうし、こうやって裏をかいて逃げるしか
バン
ドサッ
お粗末様でした。
え?結局プレゼントボックスには何が入ってたんだって?
カメラです。あとマイク。