ルーデル閣下による異世界でのコミー殲滅戦 作：広島風お好み焼き
人生とは何があるかは分からないとはよく言ったものだが､しかし､ここまで分からない事があるのだろうか？
目の前には､修道女｡それが､自分に向かってドロドロしたもののつがれたスプーンを差し出している｡さらにその態度は幼児に対するそれーハンナちゃん､おまんまよーなのである｡
なるほど何かしらの事情で介護が必要になったというなら修道女にスプーンを差し出される､それ自体はないではないのかもしれない｡しかるに､態度の原因は？
と､そこで彼女ー彼ーは周囲に違和感を感じる｡壁の材質である｡なんだって､この施設の設計者はレンガ壁なんぞを使っているのだ？しかも照明はガス灯と来た｡
懐かしさすら感じるそれらは､しかし､病人ー怪我人かもしれないがーを治療する施設には無用の長物でもある｡
更には体の様子もどうやらおかしい｡無くなったはずの左足の感覚が戻ってきているし､やけに首の座りが悪い気もする｡
このあたりを考えるとこの施設の正体は病院で間違いないのかも知れないが､この時代錯誤な景観の説明にはなっていない｡
取り敢えず周囲の環境を確認してみるか､と窓へ目を向ける｡そこには私と私にスプーンを差し出す修道女の姿がーー
見当たらない？
窓の反射に映っているのは修道女とそれに抱かれる赤ん坊だけ｡私､ハンス･ウルリッヒ･ルーデルの姿はどこにもない｡
しかも､気のせいであって欲しいのだが､私が視線を動かすとこの幼子の目も動いている｡
いやまさか､そんなはずは､という思いのままに右手を挙げる｡
窓に映った赤子はそれに対応して左手を挙げた｡
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうも皆さん､御機嫌よう｡しがない帝国の孤児､ターニャ･デグレチャフだ｡
神を名乗るクソッタレの存在Xに転生させられてから早8年｡
ここまでに得られた情報を鑑みるに､この世界は最悪だ｡最悪極まりない｡
出生地は､西暦世界で言うドイツ帝国｡しかも周辺国全てと係争地を抱えていやがる｡唯一救いとも言えるのは中央帝国と化しているのに単一民族国家であることか。
更に悪い事にこのドイツ帝国､変なところでリベラルだ｡看護師では無く看護婦と呼ぶくせに､徴兵対象は男女平等ときた｡しかも､魔導士に至っては年齢の下限すら定められていない｡
･･･こんな世界にぶち込まれて､その元凶に感謝しろと？･･････あれは本気でそう思っているのか？
あんなものが高次元存在として振舞っており､人類がその一挙手一投足に振り回されざるを得ない､という事実には怖気が走るが､､､今は､目の前の難題に集中せねばなるまい｡
だが､この身は20世紀前半の孤児｡まともな教育など望むべくも無く､このままいけば良くて単純労働者として生涯を終えるか､悪ければ敗戦間近に動員､その後戦死もしくは慰み者といったところだろうか｡
これらの事態はなんとしても避けたいが､しかしどうするか｡
まず､もうすぐ起こるであろう世界大戦｡どうにかしてこれを切り抜けねばなるまい｡
最も避けたいのは敗者として迎える大戦末期にて若年動員される事である｡
数ヶ月の促成栽培でー末期が極まってくると訓練を受けられるかすら怪しいー前線に投入され使いつぶされる未来が目に見える｡これだけは､なんとしても避けねばならない｡
これを避けるには早めに軍に入隊､その後出来る限り地位を上げ後方勤務を目指すのが良いだろう｡
しかし問題は一点｡どこに齢2桁もいかない子供を入隊させる軍隊が存在するのだろうか？しかも､今は多少の国境紛争はあるにせよ平時なのである｡
というか､末期であろうと現在の年齢では多分入隊は出来ない｡そもそも､8歳やそこらのガキが軍隊で役に立つハズが無いではないか｡
どこかに都合よく年齢制限の無い兵科が無いものか､とそこまで考え､はたと気が付く｡自分はついさっき､それを愚痴っていたではないか｡しかも､この身にはあの存在Xが渡してくれやがった魔法の才がある｡
正直､軍に入隊とかしたくない｡出来ればもっと平和で文明的な職にありつきたい｡しかし､他に道が無いのである｡
事ここに至っては､せめてなるべく早く後方勤務に移れるよう願うばかりだ｡
モスクワが燃えるまで､あと4年