七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~ 作:HAL1993
魔法剣の授業後、オリバーは誰よりも先に教室を出て行った。その後をナナオが追う。
ルネはどうにかして二人を呼び止めたかったのだが、それよりも先にガーランドから居残るように言われてしまったため教師の指示の方を優先することになった。
広い教室内で魔法剣の教師と向き合うルネ。ガーランドは腕を組み、教室から誰もいなくなるのを待つ。
そして最後の生徒が退室ししばらくした後に教師は口を開いた。
「ふむ。
「ありがとうございます先生」
会話のきっかけだったのだろうが、それは確かにガーランドの本心だ。
彼も初心者への指導をしつつ二人の戦いややり取りに耳を傾けていたが、どちらの杖剣の扱いが一年生のものとは思えなかった。特にルネである。
「君のお
「本当に十五歳ですよ。
ルネの意味深な口調にガーランドは関心を抱いた。
「ほう、なるほど何か秘密があるようだな。君は杖剣だけでなく魔法にも長けているそうだし、何かあるのだろう。何せ君はその年齢であのギルクリスト先生も認める魔法の使い手だ。そこで一つ尋ねたいんだが」
しかし彼は自身の目的を優先させ生徒に質問する。
「先ほどの
そう尋ねた。
流石の剣聖ガーランドも指導をしつつ試合をしながら小声で話し合う生徒の会話の内容まで聞き取ることはできない。
彼とて自分の魔法が破壊されたことに疑問を抱いていたのだ。
「生徒の前でこう言うのもあれだが、私は魔法剣以外はからっきしでね。特に魔法の理論的な分野になると学生時代の苦悩を思い出して嫌になるんだ」
冗談を交えつつ不明なことを正直に告白する。ルネは優しく微笑み、質問した。
「あの二人には尋ねられないのですか?」
「彼らもどうしてああなったのか分かっていないんだろう? それくらいは私にも分かるさ。特に
ルネはどうしようかと首を左右に一度ずつ傾けながら考えた後、正直に魔法剣の教師に状況説明を始める。
二人が殺意の下に同調し、古い魔法が発動したことだ。
その古い魔法によってガーランドの不殺の魔法が砕け、その上で研磨の魔法がかかり杖剣に刃が戻った点を説明する。
「ふむふむ。なるほどなるほど。その古い魔法も、魔法使いの同調も正直全く習った覚えもないが」
ガーランドは堂々とそう言ってのけた後に尋ねた。
「それで。どうしてあの二人が同調したと君は考える? 本来なら殺意を抱いただけでは起こらない現象なのだろう。となると二人には何かあると考えているな?」
じっとルネを見つめる教師の目は無知ではあるものの馬鹿の眼差しではなかった。
しかし事実をそのまま答えるわけにはいかない。
彼が魔法使いとしての自分を尊重してくれることを期待しつつ、隠している内容があることを隠さずにルネは答えた。
「その点はまだ不明です。しかし起きた事象を考えると、古い魔法が起こったとしか考えられないのです」
「……ふむ、そうか。では今後同じことが起こると思うか?」
ルネの期待通りガーランドは詳しく尋ねなかった。
きっと何か考えがあることは読み取っただろうが、キンバリーの教師らしくそこは引き下がってくれた。そもそも自分でもよく分からないことなのだから詳しく問い詰めようもなかっただろうが。
しかし今後の授業のために再現性があるかどうかは訊いた。
ルネはここは正直に答える。
「今回の件は
「そうか。分かった。君の意見は参考にしよう。それともう一つ君に頼みたいことがあるのだが」
「はい」
教師からの依頼だ。素直に聞く。
「
「はい」
「先ほどの立ち合いでは彼女の意思の確認もできなかったし、彼女の剣も読み取るに読み取れなかったから今日の放課後に君と
「かしこまりました。では
「そうだ。よろしく頼む」
突然の課外活動になるが特にルネに予定はないので問題はなかった。何か教員との約束もないし、マルコの件も何かあれば少し遅れる旨を伝えれば良いだけである。
「ありがとう
ルネは一礼して教室を出ようとしたが、ふと気になったことがあったので一度開けた扉を閉めた。
彼はくるりを体の向きを変え、教師と対面すると一つガーランドに尋ねる。
「ガーランド先生、一つ質問をよろしいでしょうか」
「ん? ああ、構わない。答えよう」
質問があることに意外そうにしつつもガーランドは生徒の言葉を待った。
ルネは杖剣を抜かず、ナナオと同調した際にオリバーが見せた構えを真似る。
「はい。
そう尋ねるとガーランドは腕を組んで考えた。
「確かにあの構えは基幹三流派のどれにも該当しないな。少なくとも正統なものではない我流だろうが──」
考えているうちに一つ思い至るものがあったのか彼から表情が消える。
「そういえば、あの人の構えもそうだったが……だからといって彼のがそうであるとは限らないし、そんなはずはないな」
独り言を口走るガーランドを見るルネの眼差しが魔法使いのそれに変わった。真実を見極めるものである。
「何か心当たりがあるのでしょうか?」
「ん、ああ。いや、何でもない。おそらく不意に出た構えなのだろう。特に流派に沿った構えではないと思う」
気さくで人間味あるガーランドが無表情でそう答えた。
嘘を吐くのが苦手だから、本音を隠す時には表情がなくなってしまうのだろうとルネは思った。
気になる。ガーランドが何に思い至ったのか。
「そうですか。ありがとうございました。質問は以上です」
しかし、自分もガーランドに嘘を吐いたのだ。気になるのは事実だが、自身にそれを追求する権利はないとルネは感じ引き下がった。
ルネが「それでは失礼します先生」と言い教室を出た後で、ガーランドは次の授業の準備をしつつも考えが止まなかった。
「……まさか、まさかな」
彼の脳裏にあるのはあの先輩の姿だ。しかし、もうあの後姿を見ることはもうないのだ。
きっと勘違いに違いない。
ルネに嘘を言ったことに後ろめたさはあったが、彼もそうだったのだからお相子だろうと思うし、これを教えるのは彼のためにならない。
なまじ彼が優秀な分だけ何か妙なものに突き当たるかもしれない。
ガーランドはそう思い、このことを忘れることにした。
ルネが魔法剣の教室を出るとその姿は消え、呪文学の教室の前に現れる。
ちょうど教室に入ろうとするガイの真後ろだった。
「どうも」
ルネがそう声をかけると「うひゃあ!」とガイが叫んでぎょっとした様子で振り返る。
「え、あ。る、ルネか? いつの間に戻ったんだ」
「つい先ほどです」
にっこり笑う美少年を見下ろす長身のガイ。彼の前からミシェーラ達が顔を覗かせた。ガイの奇声に驚いてもいるが、戻っていたルネの姿にも驚いている。
魔法剣の教室からここまでそこまで長い移動をしていないが、誰かが走ってくる様子もなければ涼しげなルネにそんな感じもない。
「あれ、走るのも早いんだね。それともそんなに長い話じゃなかったの?」
カティの質問にルネは教室の最前列の席を指さす。長机の真ん中の席だ。
「あそこを見ていてくださいね」
ん? と彼女らが疑問に思った瞬間、既に彼はそこに着席していた。ガタンと椅子を動かし、静かに腰かけている。
「あれ?」
カティが振り返るとそこにルネの姿はない。
慌てて再度席の方を見ようとすると
「これで疑問は解けましたか?」
音もなく目の前にルネが立っていた。
驚いて硬直するカティ達だが、ミシェーラが辛うじて正気を取り戻して尋ねる。
「もしかして、瞬間移動ですの?」
ミシェーラの隣に瞬間移動し、頷いて答えた。
「その通りです。私は好きな場所に、瞬時に移動することができるのですよ。このようにね」
彼女が横を見る間もなく再び彼の姿が最前列の席に戻る。
「便利でしょう?」
そしてカティの横に現れ、自慢そうに言った。
彼女ら以外の生徒達も目を丸くしてルネの瞬間移動を見つめている。
カティ達だけでなく彼らにも聞こえるようにルネは解説した。
「その場にいながら瞬時に全てを感知することのできる『
そう言うが誰にもルネの瞬間移動は理解されなかった。
瞬間移動という概念は以前からある。誰もが思うものだ。「一瞬であそこに行けたらいいな」と。
しかし考えばかりがあり、それをなし得た魔法使いは誰一人としていなかった。
どうやって見えもしない場所に移動するのか、そもそもどうやって違う場所へと移動したら良いのか。
そんな疑問や難題ばかりが浮かび、結局のところ無理であると大勢の魔法使い達は匙を投げ、箒を使うなり足で移動するなりで我慢してきたのである。
今、この魔法使いの少年を除いて。
ルネは呆然と自分を見つめる同級生達の視線を気分良く受け止めた。己の才能を認める眼差しである。気分が悪くなるはずがなかった。
しかし、彼らの中に一人だけ全く自分を見ない生徒がいた。
ナナオだ。
どこか上の空な様子で黒板をじっと見つめるばかり。
そういえば彼女とオリバーは既に着席している。ナナオはやや中央近くの席に。オリバーは教室の片隅に目立たぬように。
ミシェーラ達がたった今教室に着いたばかりだというのに。
どうやら足早に教室を出て行った後であの二人の間で何かあったらしい。
ルネは無音でナナオの隣に現れた。
「どうも
「……うむ、ルネ。何か用にござるか?」
「ええ、実はガーランド先生から伝言がありまして」
そう言うと向き直り、話を聞く姿勢を取った。
「あの御仁が……なんでござるか?」
「今後の君に対する授業方針を考えたいそうで、放課後に先ほど授業を行った教室に来てほしいとのことです。そこで私と試合をしてもらいたいそうで──これで約束を守ることができます。よろしくお願いしますね
自身との試合を提案してもナナオの表情は晴れなかった。
理由は何となく分かる。
オリバーが教室から逃げるように出て、その後を追ったナナオという構図を考えれば。
そして授業終わり寸前のわくわくしたナナオの顔を思い出せば。
どうやらオリバーにこっぴどく振られたらしい。おおかた彼女は受けてもらえるだろうという見込みで再戦を望み、彼にそれを断られたのだろう。ナナオの様子を見るに拒絶に近い反応をされたようだ。
自分との試合で少しでも落ち込んだ表情が和らいでくれることを期待したが、全く効果はなかった。
ルネはやや残念そうにしながらもナナオに手を差し出し、握手を求める。彼女は上の空でその手を取り握手をした。
「よろしくにござる、ルネ」
そんな無気力なナナオを心配してかカティがその隣に座った。ルネはカティとは反対側の隣席に腰かける。
ミシェーラは三人の前の席に座り、ガイは彼女の右隣だ。ピートは左隣に座った。
全員が着席したタイミングで呪文学の教授が入ってくる。落ち着いた色のローブの老女だ。見た目は六十代くらいに見えるが、実年齢はもっと上である。
千年を生きる至高の魔女フランシス=ギルクリスト教授。その異名は偽りではなく、魔法剣を普及させるのに役立ったバダウェルよりもずっと以前からその実力を魔法界に轟かせていた文字通りの魔女である。
ルネはこの人物を古典芸術に近い存在であると以前から思っていた。
古いというだけではなく、長く世の中に残っているのはそれだけの価値があり、そして実際に素晴らしい内容なのである。
また彼女は古典が新たな芸術分野を嘲笑うように杖剣を嫌っていた。
教室に入った彼女はまず生徒達の腰に下げられた杖剣を見て落胆した様子で口を開く。
「呪文学の担当教授のフランシス=ギルクリストです。あなた達とは卒業するまで長い付き合いになるでしょう。その出会いに口にするのもあれですが、あなた達のありようには心底失望します」
古典の評論家が口にする侮蔑がたっぷり含まれた批評のようにギルクリストは指摘する。
「その杖剣です。神秘に触れることのできぬ哀れな普通人ならいざ知らず、どうして我々がそんなものに頼らなければならないのでしょうか。私達は魔法使いなのです。ゆえに頼るべきは不格好な鉄のかたまりではなく、この杖のみでしょうに」
「し、失礼ですが先生」
その意見に異を唱えたのが意外なことにカティだった。ぎょっとした様子でガイが振り返ってカティを見やる。
彼と同じように他の生徒達もざわつく。挑発的な態度を取ったのは教師が先だがそれに応えるのか、と言いたげだった。
しかしカティはそんな教室の雰囲気とは関係なく、ただ納得いかない様子でその不満を隠そうともせずに挙手する。
ギルクリストはカティを見て指名した。
「聞きましょう。あなたの名前は?」
「カティ=アールトです」
「そうですか。よろしい
「は、はい。先生は『不格好な鉄のかたまり』と仰いますが、その……私の見た限りではギルクリスト先生以外の先生方は全員杖剣を腰に下げています。それに何より校長先生は杖剣の名手として有名だとか。先生はその全員を批判されるのでしょうか」
その挑戦的な問いに教室はざわめきを通り越して静まり返った。
ギルクリストの反応を恐れてだ。
ただ生徒達の反応と違いギルクリストは非常に落ち着いていた。淡々とカティの質問に回答する。
「ええ、あなたの言う通りです
むしろ自身の反応に怯える他の生徒達を叱責するようにギルクリストは言った。
「もちろんただの老害の戯言ではありません。私が杖剣を批判するには根拠があります。あなた達が納得するようにそれをお伝えしましょう」
こほんと咳払いをし、ギルクリストは話を始める。
杖剣が魔法使いを堕落させたのだと、ある種の妖精が鉄を嫌うように呪文学の教授は「不格好な鉄のかたまり」を嫌悪していた。その感情が言葉に宿る。
「そもそも我々が流浪の時代だった頃の護身術に過ぎなかった魔法剣ですが、実際にここまで広まったのはあのバダウェルとかいう恥晒しの敗死によるものです。『普通人の剣士には呪文で対抗できない』と杖剣が広まりました。
ではそれでどうなったと思いますか? 魔法使い同士での殺傷事件が激増したのですよ。これは杖のみであった時代よりもずっと増加しています。残念なことに不格好な鉄のかたまりを帯びたことで、魔法使いの不意に沸き起こった怒りに即応してくれる凶器がどれほど危険なのか、それこそ普通人の襲撃より、自らの怒りも制御できない魔法使いや殺意を抱いた魔法使いの方がずっと危険であることが証明されてしまったわけです。
ではすぐに杖剣を捨てれば良いだけのことに思えますが、そうも簡単にはいきません──そこの生徒。名前と、あなたの考える杖剣をすぐに捨てることのできない理由を述べなさい」
ギルクリストが指名したのはオリバーである。
彼がぼーっとしていることを教師は見抜いたようだった。
きっとナナオの再戦希望を断ったこと、そして
後悔に集中し、授業を疎かにしたためにギルクリストはやや厳しめな口調でオリバーを指名したが。
「……オリバー=ホーンです。理由は杖剣が必要悪として社会に定着したからです。杖剣を持った魔法使いの暴漢の対処に杖剣は必要となり、また自衛面でも同じ理由から杖剣が手放せなくなっているからです」
立ち上がったオリバーの答えにギルクリストは概ね満足げにしつつも、指摘する点は指摘した。先ほどの宣言通りに。
「必要悪とは良い返答でした。しかし授業に向かう姿勢は正すように。問いに答えられたからといってその点の評価は変わりませんよ」
オリバーが非礼を詫びるように会釈し着席するとギルクリストは話を続けた。
「必要悪を覆すのは簡単なことではありません。しかしだからこそ、私はかつての時代を振り返り、あの時期の理想を思い出さなければならないのですよ。古きあの時代を生きた魔法使いとして、それが私の役割なのです。どれだけ老害と詰られようとも、我々は魔法使いなのですから」
ここで言葉を区切り、ギルクリストは腰から杖を抜く。
「魔法使いであるがゆえに私の主張は単純です。
そう結論づけたが、生徒達の反応を見て教師は言葉を続けた。
納得する顔は少なく、疑問視する顔が多かったからだ。
毎年のことである。ギルクリストは去年も近しいやり取りを新入生達と行い、そしてこれを見せていた。
「なるほど。『それができないから杖剣に頼るのではないか』と。そう言いたいようですね。では一つ手本を見せましょう」
彼女の周りに突如輪郭が浮かび上がる。
透明化を解除して現れたのは護衛の
特徴的なのは顔にある六つの眼球だ。ただガラス製のように見えるそれはルネには高度な感覚器官であるとすぐに見て取れた。
「
近接戦闘用の高度な
その動きだけで性能の高さが分かった。下手な魔法使いが作った
しかしこの十体、六十の瞳は周囲を逃すことなく見守り、主ギルクリストを守るように直立不動で待機していた。
暴漢にしろ突発的な破壊行為にしろ、何か異変があれば彼らが素早く対処するだろう。
「魔法使いであれば至近距離での戦闘でも自衛でも、この
自作の
「もし人形風情では護衛に足りないと思うのでしたらどうぞ試しに斬りかかってみなさい。腕の一本でも斬り落とせたなら私の持論にも修正の余地が生まれるでしょう」
そう言われても彼らは動けなかった。
教員だから逆らうのではなく、見るだけで高性能と分かる十体の
一人を除いては。
「では挑戦してもよろしいでしょうか」
オリバーはナナオがまた挙手するのではないかと冷や冷やしていたが、今回手を挙げたのは一人だけだった。
一つだけ挙がった手は生徒達の視線を集める。
その小柄な手の主はルネであった。
「
かつて彼を神の如く例えたギルクリストは立ち上がったルネの腰にある杖剣を見て残念そうな表情を浮かべる。
彼女にとってルネほどの杖使いが杖剣にも手を出しているのはむしろ怠慢のように感じていた。
ここまでの杖、呪文への深い理解がありながらどうしてそんなものにまで手を出すのか。常々そう思っていた。
まるで嫉妬する少女のような歯がゆさであるとギルクリストは恥じつつも杖剣を抜いたルネを見つめる。
「はい、先生の仰る通りです。しかし私の哲学は先生のお考えよりもずっと古く、老害であるのです」
彼の手にする杖剣はオリバー達の一般的な杖剣どころかナナオの刀よりも長い。
普通人の使う
その構えは彼自身が説明した初期魔法剣のものだった。そしてその時代はギルクリストが語る理想よりも遥か昔。
初期魔法剣の哲学は、とにかく生き残るためには何だって使うというもの。魔法だろうが剣術だろうが必要ならばどれだけでも利用する。
魔法全般に長けているルネを象徴しているかのような哲学だった。彼はきっとそこに惹かれたのだろう。
その古い考えに、自分よりもずっと古い哲学にギルクリストは思わずくすりと笑ってしまった。
「ええ。確かに。あなたの言う通りですね。では試してみなさい」
彼女が呪文と共に杖を振ると教室内の長机と椅子が浮かび上がる。
場所を作るためだ。生徒達が座った椅子と教材を乗せた机が二人の周りに空中の観客席のように並ぶ。
ルネは杖をしまった。呪文を使うのは今回は意味がないと思ったからである。
やるなら杖剣のみ。
そう思いつつも、ルネは力を使い宙に浮かぶ長机の一つをギルクリストに向けて投げた。上に乗っていた教科書などは生徒の膝の上に飛び移る。
誰かが「きゃあ!」と攻撃に悲鳴を上げたが、不意打ちで主めがけて高速で投げつけられた長机は
その隙にルネは素早く駆け出す。杖剣に刃を無言で戻した。
そして宙を蹴り、十体の