七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~    作:HAL1993

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第29話~集会~

 オリバー達は放課後までに何度も友人間で話し合った。ルネとどう付き合っていくのかを。

 もちろん彼がいない間にだ。ルネもオリバー達にべったりというわけではない。むしろ多忙で多彩な学生であるので休み時間でも忙しく動き回っていた。

 

 特に今日はキンバリーにかけられた古い呪文を破ったのである。その点について呪文学教授のギルクリストと長い話し合いを設けていたようだ。

 

 術式の内容、それを防ぐための追加処置についてギルクリストに報告し、校舎にかけられた呪文は彼女の手で更新されたのである。

 

 その間に授業に姿を見せていたのは彼の自動人形(オートマトン)だった。それもあくまで彼の自己申告がなければその正体は分からなかったわけだが。

 

 そして放課後。オリバー達の前にルネが現れた。逃げる間もない。最後の授業が終わった教室前の廊下で彼はにこにこといつものように微笑んで待っていた。

 

「さあ、では行きましょうか」

 

 そう杖を一振りすると転移門が現れる。宇宙を呼び出したかのような神秘的な壁である。

 

 オリバー達は諦めの表情で転移門へと入っていった。到着先は昨夜の円形闘技場(コロシアム)である。

 ほぼあの惨劇のままの状態だ。崩れた壁や座席はそのまま。天井に描かれた血文字も変わっていない。

 ただ客席には修復が入っていた。全てに。つまりそれだけ人を呼ぶということか。オリバー達はじっとルネを見つめる。

 

「ではどうぞお待ちください。食事も用意させていただきますので」

 

 彼らの意図を問うような眼差しに微笑むばかりのルネはそう言うと客席の方へオリバー達を案内した。席まで連れていくと「では準備がありますので」と姿を消す。

 他にどうしようもなく彼らが着席すると目の前に食事の乗ったプレートが現れた。内容はパン、肉料理、サラダ、チーズ、スープ、ジュースといった手軽なものである。空腹が気になる時間帯であることも重なり、すぐにでも手を伸ばしたくなるものだった。

 

 ナナオとカティは嬉しそうに手をつけ始める。オリバー達も諦めたように食事を始めた。

 

 席はオリバー達が座ってしばらくした後に満員になる。周囲を見渡すと、そこにいたのは昨夜の被害者ばかりではなかった。むしろ関係のない生徒達ばかりだ。上級生、下級生問わずである。

 

 中には生徒会のメンバーの姿もあった。彼らにも食事が出されていたが、誰一人として口にしていない。この辺りはルネに対する明確なスタンスの違いだろう。同じように昨夜の被害者達も食事に手をつけていなかった。

 

 しばらくしてルネが指定した時間になる。すると静かに会場内の照明が弱くなった。

 真っ暗にはならない。そんな絶妙な光の加減によって薄暗くなった闘技場の中央で一気に炎が燃え上がった。その赤々と燃える大火の中からルネが現れる。

 

 拍手はなかった。しかし注目は集める。ルネは大勢の観客達に会釈と、手を振りながら話し始めた。当然のように無言で扱った拡声呪文による声量である。

 

「こんばんは、キンバリーのみなさん。今夜はお集まりいただきありがとうございます。私はルネ=サリヴァーン。今朝の新聞をお読みになった方ならもちろんご存じかと思いますが、念のために自己紹介をさせていただきます。

 といっても長い話にはなりません。周りをご覧いただければ分かることですから。今、みなさんに集まっていただいているこの円形闘技場(コロシアム)をここまで破壊したのが私です。そして昨夜ここに集まっていた二百人以上の生徒達を倒し、Mr.(ミスター)アンドリューズに重傷を負わせたのがこの私なのです」

 

 自らの手柄を話す彼に拍手が送られる。ただの礼儀ではなく、それは本気の称賛の拍手だった。

 しかも少しではない。被害者と生徒会関係者以外の生徒はほとんどがルネに拍手を送っていた。惜しみなく。

 

 オリバー達の隣に座っている女生徒も感心したように拍手している。一年生だが、よく知らない同級生だ。少なくとも昨夜の被害者ではないようだった。

 

「おいおい」「本気か?」

 

 ガイ、ピートは大きな拍手の音に驚いた。ブーイングはない。昨夜の被害者達は押し黙って状況を見つめていた。

 この光景に面食らうガイ達だが、オリバー、ミシェーラはそれほど驚いていない。

 

「・・・・・・確かに彼のやったことは恐ろしいことだ。しかし、それを評価しない人物がいないわけでもない」

「彼の実力、能力に憧れる生徒達は大勢いるのです。彼らにとっては昨夜のできごともルネのトロフィーの一つなのでしょう。もしあたくしも無関係であれば、拍手はしなかったかもしれませんが、彼の強さは認めたことでしょう」

 

 それがキンバリーの現実である。二人はそう言った。

 現にルネは評価されている。どれだけ自分達が悪い印象を抱こうとも結果はこれなのだ。

 

 ルネは大勢の拍手に応えつつ話を続けた。

 

「ありがとうございます。ありがとう。さて、今夜みなさんをここに呼んだのはただ自慢をするためだけではありません。私の今後について話したいと思います。だからこそ、私のキンバリー生としての生活が始まったこの場所を選んだのです」

 

 破壊された施設をぐるりと見渡し、嬉しそうな笑みを隠そうともしない。

 

「お話ししたいことは二つあります。まず一つ目です。これはお知らせです。来週から毎日の放課後と休日に私を教師役にした勉強会が始まります。もちろん学校側の許可は得ていますので、場所は迷宮内だけではなく教室でも行いますよ。

 名前は魔導倶楽部です。人数制限はありますが、参加者に対して資格や制限は設けませんので、ぜひともお気軽にご参加ください。共に魔道を歩んでいきましょう」

 

 そう言い終えた瞬間に観客達の手元にパンフレットが現れた。高級紙に「魔道倶楽部へようこそ!」と楽しげな字体で書かれている。

 ページをめくるとまず目に飛び込んでくるのは「参加費無料」の宣伝文と「一緒に魔法を学んでいきましょう」というスローガンだった。

 そこから教師であるルネの実績や専門分野についての解説が入り、各分野の勉強会の解説が始まる。基本的なものから、研究設備を必要とするようなものまで多岐にわたっていた。

 

「扱う科目は呪文学、魔法剣、錬金術、魔道工学を現段階では予定しております。それぞれの科目に不安を抱えている方はぜひともご参加ください。基本的に参加人数分の私の自動人形(オートマトン)が対応する個別の勉強会の形式を考えていますが、課題によっては多人数の講義形式になることもあるでしょう。また参加者同士の交流も積極的に考えていますのでよろしくお願いします。

 ちなみに参加費などはありません。魔法に取り組みたいという意思をお持ちでしたら大歓迎です。参加費はありません。大切なことなので重ねて言いました」

 

 パンフレットを読む観客へルネはそう説明する。つまりはルネが主催する勉強会の案内である。パンフレットに書かれた趣旨を鵜呑みにするのなら、ルネが参加者へ彼の知識や技術を無償で教えるという内容だった。

 

 どういうつもりなのか。この場にいる生徒達の全員がそう思った。キンバリーにおいても友人間や先輩、後輩の間で勉強会を開くことは珍しくもないが、見ず知らずの生徒達を集めることは滅多にない。そういう馴れ合いを嫌う雰囲気があるからだ。

 

 しかしルネはそんなことを気にする素振りも見せない。時間と場所、そして教材を用意して大勢の生徒達と一緒に学んでいきたいと言っているのだ。しかも無料で。

 

 本来ルネの能力を考えれば授業料を取ってもおかしくはないはずなのだ。しかし魔道倶楽部ではそれらを要求しない。ただ魔法を学びたいという思いがあれば良いというのだ。

 

 スローガンである「一緒に魔法を学んでいきましょう」の通りに。

 

 それはあまりキンバリー的ではなかった。慈善事業を思わせるような発言に多くのキンバリー生は眉を顰めた。

 その反応はルネには予想内だったようだ。にこにこと微笑んでいつもの調子で話を続ける。

 

「どうやら不審に思われているようですね。どうしてそんなサービスを、と。サービス。確かにこの言葉が合っているのかもしれません。みなさんに何の対価も求めず、ただ私だけが負担するのですから。そんな善意はキンバリーらしくないと。ではみなさんにも理解してもらえるよう私も話しましょう」

 

 優しさに触れたことのない孤児を相手にするかのようにルネは丁寧だ。彼らに理解してもらうために言葉を重ねていく。なるべく彼らに寄り添った形で。 

 

「そう、全ては私のためなのです。何故なら私は魔法が大好きなのだから。魔道の発展は何よりも望みます。私が魔道倶楽部を開催するのは、この活動が魔道の発展に繋がると確信しているからです。つまりは全て私が大好きなもののために行われます。魔道が発展するのなら、私はどんな負担も惜しみません。

 と説明してもいいのですが。どうやらまだキンバリーらしくないようですね。ではみなさんのためにももっとキンバリーらしい説明をしましょうか。

 ──つまりこれは私の役目なのです。並外れて優秀な私の能力をみなさんに還元するための。何故ならキンバリーの九割は愚図だからです。もちろんこの場にいる方々もほとんどがそうでしょう」

 

 君達は愚図である。そう言い放った。これが最良の言葉遣いであると言わんばかりに。

 

 ざわつく会場を落ち着かせることもせずにルネは続けた。

 

「しかし、私は違います。私は残りの一割なのですから。だから私にはみなさんを導いていく義務があります。それを果たしているだけなのですから、どうぞ不安がらずにお気軽にご参加ください」

 

 さも落ち着かせるような優しい声音だったが、内容は侮辱そのものである。小馬鹿にしていた。

 

 もちろん喧嘩っ早いキンバリー生は迷宮内というルール無用の環境下ということもあり、ルネの挑発に対して杖で応えようと立ち上がったが。

 

 瞬間、彼らは座らされた。ルネが無言で操った力によって席に座らざるを得なくなる。指一本すら動かすことを許してくれない圧倒的な力だ。

 もちろん彼らは抵抗した。領域魔法や体を流れる魔力に頼ってどうにかこの拘束を解こうと努力したが。

 

 その結果は伴わない。この強大な力は複雑さも兼ね備えており、そう簡単には放してくれないのだ。ただ苦悶する大勢の生徒達の顔が並ぶばかりである。

 

 ルネの発言に感情的になった生徒達には上級生も混ざっていたが、彼らでさえ何もできなかった。

 この状況が彼の話の証明のようなものである。ここにいる誰よりも。少なくとも彼に敵意を抱いた誰よりもルネは優れているのだと。

 

 そしてその優秀な人物が無償でその技術を教えてくれる。彼への評価は別にしても、その価値は計り知れないものだった。

 

「ちなみに愚図という発言は私の本意というよりは校長先生のご意見です。私にみなさんを馬鹿にするつもりはありませんのでご安心ください。ただ私は魔法を愛しているだけなのですから」

 

 ルネが操る力が反抗的な生徒達の首にかかる。みしりと皮膚が押された。

 握られている。彼の力に捕まった生徒達は全員がそう感じた。ばたばたと慌てた抵抗も静かになる。

 

「しかし校長先生は入学式の際にはほとんど毎年同じようなことを仰っています。私達の時には『君達の九割は魔法界に大した益をもたらすこともない愚図』と。先輩方の入学式の際にも同じようなスピーチをされていたかと思いますがいかがでしょうか。

 私はそんな状況を憂いて、少しでも校長先生が仰るところの愚図を減らそうと思ったのです。八割にでも七割にでもなってくれればこの学校のためになりますし、それはつまりは魔道への貢献になるのですから。これこそが魔道倶楽部の目的なのです。

 どうでしょう。少しはキンバリー的な話になりましたか?」

 

 ルネは力を解いて挑発に乗った生徒達を自由にした。彼らは絞められかけた首を擦りながら席に着く。

 流石にここから反撃するような無作法者はいなかったようだ。周囲の目もあるからだろうか。大人しく敗けを認め、不快そうに席に座り直した。

 

 そんな反応を眺めたルネは満足そうに話を纏める。

 

「私の意図を勘ぐりたい方は今の発言で納得いただけましたでしょうか。私のありもしないような意図を考えても構いませんが、一つだけはっきりとしていることがあります。それは来週から私達の魔道倶楽部が始まるということです。

 活動の妨害以外の参加者の意図を問うつもりはありません。今日の課題に躓いた方など、お気軽にご参加ください。参加予約についてはパンフレット記載の日時に指定の教室で行います。また当日参加も、人数の上限はありますが可能となっていますのでひとまずは軽い気持ちでお越しください」

 

 そう締め括ると一息吐き、もう一つの話を始めた。

 

「では二つ目の話をしましょうか。この話は魔道倶楽部の裏の意図を勘ぐらせるものかもしれませんが、どうか素直にお聞きください。私はこの課外活動の他にもう一つの組織を作ろうと思っています」

 

 観客席の生徒達の手元にまた別のパンフレットが現れた。魔道倶楽部のそれと同じような高級紙にはこう書かれていた。「不死鳥の団 入団案内」と。

 

「不死鳥の団は私を団長とする魔法使いの相互支援組織です。資金などは魔道倶楽部と同じく全て私が負担しますが、あくまで勉強会である魔道倶楽部とは違い、活動の趣旨は魔道の研究をより深く、互いに協力しながら行える環境作りとなっています」

 

 ルネの魔法でパンフレットはめくられ、待遇面について書かれたページを見せた。

 

「入団していただきましたらまず個人の工房を用意させていただきます。もちろん研究費、設備や物品についてもです。その他に必要な技術がありましたら私がお手伝いさせていただきます」

 

 パンフレットには工房の一例の図柄が描かれていたが、広々とした快適そうな空間だった。備えつけられた設備も質の良さそうなものであり、魔法使いにとっては理想的な環境といえるだろう。

 生活スペースに関しても記載があったが、デザインも調度品もどれも上等なものだった。一般の魔法使いではどれも用意できない代物だ。

 

 これだけでも注目に値するが、研究費の援助についても目が離せない。サリヴァーン一族の膨大な富による潤沢な支援、また一族が世界に広げた流通網を利用した豊富な研究材料の迅速な確保、そして稀代の魔法使いと謳われるルネからの技術提供もまた宣伝文句である。

 

 これらは魔道倶楽部とは比べものにならない、より本格的な研究支援だ。

 

 多くの魔法使いにとって支援者はある意味では能力よりも必要な存在である。どれだけ優れた才能があっても予算が確保できずに研究が頓挫することは珍しくないからだ。例えここキンバリーであっても。

 

 連合内の魔道に関する予算の多くがキンバリーへの研究支援や寄付として割かれるが、それらも無限というわけではない。

 多額の寄付金も有力教授の研究費へ優先され、生徒達に降りてくる頃には少額になっているのだ。更にそれらを大勢の生徒達で取り合うのだから思った予算が手に入らないことなんて日常なのである。

 

 しかし不死鳥の団に入れば状況は変わる。サリヴァーン一族は世界の財貨の三割を有しているのだ。そんな大金持ちの支援者を得ることになるのである。

 

 先ほどまで殺気だっていた上級生達ですら息を呑んだ。ルネへの見方が変わったからである。生意気な下級生から有力な支援者へと。

 

 そんな目の色の変化は舞台上では意外とよく分かった。目の色が変わるという言葉の意味をルネは体感する。

 

「入団者は私が声をかけた方のみとなっています。魔道倶楽部とは違って可能な限り全員参加とはいきません。こちらは勉強会とは違い、私と共に深く魔道を研究していただける方を募集したいと思っていますので。どういった方に声をかけるのかといえば、まあ、私が気に入った方とでも申しましょうか。つまりは私の派閥なのです」

 

 そして、人数を絞ると言った後に悪戯っぽく笑みを浮かべた。

 

「ただ私の目に触れる機会が多くなればスカウトの機会も増えるかもしれませんね。先ほど申し上げた魔道倶楽部の裏の意図というやつです」

 

 つまり魔道倶楽部に参加すれば不死鳥の団への入団機会が手に入るかもしれない。充実した研究支援の数々はどんな魔法使いにとっても魅力的だ。例えそれを与えてくれる魔法使いが気に入らないとしてもである。

 

 会場のざわめきをルネは止めようともしない。魔道倶楽部の価値が一気に上がった証拠なのだから。

 そんな現金な彼らにルネは微笑みながら言葉を付け加えた。

 

「不純な話かもしれませんが、不死鳥の団へとはいるためのステップアップとして魔道倶楽部を見ていただいても構いません。私もこの勉強会を一つの機会として利用したいと思っていますので。

 この人を助けたい、支援したいと思わせてくれる方と出会える場ですね。人数は限らせていただきますが、なるべく大勢の方を団員にしたいと思っていますので。

 ただしあくまで魔道倶楽部は勉強会であることを忘れないでください。最も大切なのはその日の課題に取り組むことなのですから。先ほど申し上げた通りに参加の意図は問いませんが、妨害目的の参加だけは認めません。私へのアピールはあくまで副産物であり、主な目的はみなさんが抱える課題の解決なのですから。

 例え不死鳥の団への入団が叶わなくてもみなさんに損をさせるつもりはありません。貴重な勉強の場として活用ください。私も手を抜いた活動をするつもりはありません」

 

 釘を刺すように勉強に励むことを強調した。魔道倶楽部も不死鳥の団も、待遇の差はあれどどちらも勉強をすることが主目的なのだから。

 

「もちろん魔道倶楽部に参加しない方にも不死鳥の団への勧誘はします。あくまで機会を増やすだけであって条件ではないのですから。

 また勉強会である魔道倶楽部とは違い、不死鳥の団は私の派閥として運営していくつもりですので、私を団長として認めていただけることも入団条件に入ります。だからこそ私も団員達に手厚い支援をするのです」

 

 勉強会はまさに彼が言った通りのサービスであり、不死鳥の団は自身の派閥である。ルネはその点を強調した。時派閥だからこそ多くの支援があるのだと。

 

「では本日の集会は以上で終了とさせていただきます。みなさま、今夜はお時間をいただきありがとうございました。スカウトの方は明日からでも行いますので、その際にもどうかお時間をいただけるようお願いします。

 また質問も受け付けておりますので、こちらも明日以降お願いします。校舎、迷宮内問わず私を見かけたらお気軽に声をかけてください」

 

 ルネはそうして集会を終わらせた。彼が闘技場から出ると集まった生徒達も各々感想を口にしながら退席していく。

 魔道倶楽部のパンフレットも、不死鳥の団のパンフレットも誰一人として捨てなかった。それぞれが思う価値があり、それらはただ放り捨てる紙屑の価値ではなかったのである。

 

 オリバー達も退席する大勢の生徒達の中にあった。既に彼らはルネとの関係性を話し合って決めており、その決断が今夜の話で揺らぐことはなかったものの感想はそれぞれ持ち合わせていた。

 

「どういうつもりなんだ、あいつ」

 

 ガイが真っ先にそう言った。オリバーが丁寧に解説する。

 

「ただ魔法が好きだというルネの言葉を信じれば、自身の資産や能力を大勢の生徒に還元したいということだろう。魔道倶楽部が勉強会で、不死鳥の団が支援団体ということだな。彼の言う通りだ。だがもしも裏の意図を考えれば、自分の影響力を広げるための下準備だろう」

 

 彼の解説にミシェーラも頷く。

 

「あたくしも同感ですわ、オリバー。ただ彼が派閥に興味を持っているという点は意外でしたが。そういったものは作らないか、関心がないと思っていましたので」

「確かに。その辺りの意図は分からないな。今後派閥を大きくしていきたいのか、それとも純粋に魔法を研究していく一派を作りたいのか。パンフレットを読むと、後者よりのような気もするが」

 

 不死鳥の団のパンフレットによると、今後の展望として組織の拡大はそこまで考えていないようだった。あくまで支援組織であり、数を限った活動をしていく方針を掲げていた。

 派閥を広げ、キンバリーでの多数派を狙うつもりはなさそうである。少なくとも今のところは。

 普段のルネの態度からも権力欲は微塵も感じなかったので違和感はない。

 

「それで。どうするんだ、あいつが声をかけてきたら」

 

 ピートが尋ねる。率直な質問だった。そしてそれは彼らのルネとの関係への答えでもある。

 まずはオリバーが答えた。

 

「もし声をかけられたとしても、俺は不死鳥の団には参加しない。ただ勉強会の方には関心がある。何かしら行き詰まった時には力になってくれるだろうからな」

 

 近づかず、また離れもしないという答えだ。

 これは彼の真の目的のためでもある。ルネの支援で自身の能力が向上することには強い関心があるものの、その傘下に入るつもりはないのだ。

 オリバー自身が集団の長でもあるし、反キンバリーを掲げる自身とキンバリー側の魔法使いであるルネとは相性が悪すぎることもある。必要以上に近づいて真意が露見しては元も子もない。

 

 以前からルネとの距離を見直す機会を伺っていたが、良いタイミングだった。もちろんその辺りのことには触れず、あくまで今回のトラブルの答えとして話している。

 

「あたくしの考えもオリバーと同じですわ。ただ魔道倶楽部への参加はオリバーよりも控えるかもしれませんが」

 

 ミシェーラも付かず離れずという形を維持するつもりだった。ルネの実力や彼が出した結果は認めるものの、やはりやり方を問題視しているからだ。それらを総合した答えである。

 

「俺はどっちにも参加しねェぞ。あいつの助けを借りるくらいなら自分で何とかする」

 

 ガイははっきりと持論を述べた。複雑な感情をルネに抱く面々の中で彼はあからさまにルネを嫌っていたのだ。

 元々それほど気が合う方ではなかったこともあるのだろう。ルネがカティやアンドリューズの心身を傷つけたことがどうしても許せなかったのである。

 それらが結果を得たことも。どうしても彼には認められなかったのだ。

 

 ピートは少し考え、口を開いた。

 

「ボクは魔道倶楽部の方には参加する。でも不死鳥の団については分からない」

 

 彼もルネの所業を見て絶句した方ではあるが、しかし彼のやったことがここキンバリーにおいて結果を出した点は認めていた。

 またルネが実力者である点もだ。その強さを少しでも自力にすることができれば。それらを加味したのがこの結論である。

 

「拙者は機会をもらえるのなら、どちらにも加わりたいでござる。あの御仁の実力は本物ゆえ」

 

 ナナオはそう答えた。彼女は以前ルネから既に声をかけられていたのだ。そのことはもう仲間内の話し合いで触れており、今夜の集会がなくともナナオはルネに師事するつもりだったのである。

 

 もちろん彼女にも真意はある。決して口にしてはいないが、オリバーとの決闘だ。そればかりである。そのことばかりがナナオの脳裏に浮かんでは消えていくのだ。

 どうしてもオリバーを忘れられないナナオはルネに助けを求めたのである。

 

 カティは最後に答えた。

 

「私も──どっちにも参加する」

 

 マルコの事件、アンドリューズの件でカティは今まで培ってきた自身の価値観に挑むこととなったが、その答えがこれだった。

 ルネはマルコに施された術式を利用し、彼の心を利用して発話までたどり着いた。また自分達の安全のために大勢の生徒達を傷つけた。

 

 入学前の自分だったら絶対に許せない話だ。カティは思った。

 今ももちろん許しているわけではないが。しかし、彼がやったことで何がもたらされたか。

 

 マルコの生存と自身の自由だ。念願の結果を手に入れられたのだ。キンバリーでは何よりも尊ばれるものだ。

 それに真っ先に自分に手を差し伸べてくれたのはルネである。キンバリーの現実を知った今、彼女にその手を取らないつもりはなかった。

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