七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~ 作:HAL1993
オリバーは諦観の宿った眼差しで隣の少女を見た。サムライ少女である。
トロール騒ぎで共闘した他の生徒達とは離れ離れになったが、どうしてだか彼女とオリバーは隣り合ってしまったのだ。
そしてサムライ少女はオリバーととにかく話をしたがった。
慣れない異国に来てようやく知り合いらしいものができたからと最初オリバーは思ったが、一切会話を緩める気がないのを見てどうやらこれが彼女の素であると半ば諦めてサムライ少女の会話に付き合っていた。
「いやあ、しかし先ほどの御仁のまじないは見事であった。サリバーン殿だったか。拙者もああいうふうに指をぱちんと鳴らすだけで術が使えるようになるのであろうか」
そう言いながら自分の指をぱちりぱちりと鳴らしているサムライ少女にオリバーは答えた。
「それは無理だろう。
それに原理的にも俺達が扱う呪文未満の魔法行使や領域魔法とも違っているらしい。この学校で呪文学を担当しているフランシス=ギルクリスト先生が以前分析したところによると、
オリバーが言い淀むとサムライ少女はきょとんとした顔で彼を覗き込んだ。
「まるで、なんでござるか?」
オリバーは言って良いのか悪いのかと悩みながらも、フランシス=ギルクリストによる分析の結論をそのまま引用した。
「『かつてこの世界にいたという神はこのように力を使っていたのかもしれない』……呪文学の権威がこう評価するほどの技能だ。これを真似しようとするよりは自分でできる技能を磨いた方が良い」
「むむ……拙者もよく分からぬが、凄まじく才能に溢れた使い手ということであろうか」
「そういうことだ。ああ、そろそろ静かにした方が良いな。ほら、大講堂の入り口が見えて……」
入学式が行われる大講堂が見えてきたのでオリバーはそちらを指さすと、ちょうど入り口の端で立っていたルネ=サリヴァーンに指を向けてしまった。
最後尾に並んでいるはずのルネである。
一瞬きょとんとしたオリバーだったが、先ほどのルネの自己紹介を思い出す。最後尾に並んでいるのは本人ではなく
「おお。噂をすればサリバーン殿にござる。いやしかし、なにゆえ拙者達の前におられるのか」
「俺たちの後ろにいるのは
「ほお、からくり人形のようなものでござるか。いやしかし遠目でござるが、全く区別がつかぬな」
「俺も近くで機械音を聞くまで後ろに並んでいる
振り返ると、ルネ本人が見えた段階で
そして姿を隠すようにローブのフードを深めに被った途端に跡形もなくその場から消え去る。音もなくいなくなったために気づいたのは彼を凝視していたオリバーとサムライ少女だけだった。
「おお! いなくなったでござる。風よりも早くどこぞへと駆けて行ったのでござるか」
オリバーの視線を追って
「いや。瞬間移動の類か、何か別の魔法かもしれないが、とにかく走ったとかではなく魔法でこの場からいなくなったんだ」
「ほお。まるで仙人のごとき術。拙者も勉学や魔法の鍛錬に励めばああいった術もいずれ使えるようになるのでござるか?」
「残念だが指を鳴らして魔法を使おうとするのと同じくらい無理だろう。なにせ俺も初めて見る魔法だ。彼の著作はほぼ目を通しているんだが、瞬間移動の話は全く見たことがない。本人が使っているのだから理論化していない技術ではないはずなんだがな」
「むうう。誠にござるか。あの御仁の魔法については分からぬことが多いのでござるな」
残念そうにするサムライ少女に対しオリバーは肩をすくめて言った。
「魔法使いが自身の持つ神秘の知識の全てを論文にして発表しているわけではないからな。特に彼に関してはそう言えそうだ」
オリバー達が話す先でルネは新入生の列を先導する教員に一礼すると、その教員の指示に従って新入生達の先頭に立つ。
まるで上級生のように落ち着いたルネは同級生達を後ろに真っ先に大講堂へと入っていった。
キンバリー魔法学校の校風は成果主義と自由主義である。
とにかく成果を出せ、そのための自由はある。ただし自己責任で。
恫喝じみた警句を除けば校長の挨拶の内容は要するにそういうことだった。
エスメラルダ校長は
義母自身も上手く口に言えないようだったのでルネはどう判断するか困ったが、本人を見て彼は義母の言葉に納得した。
確かにエスメラルダ校長は女性としてかなり美しいが、どこか不安定さも感じられる。美しさや威圧的な覇気や厳しさに圧倒されるが、それに隠された不安定さだ。天秤の傾き。それは外見ではなく中身のことだ。
魂か。肉体と霊体に関しては極めつつあるルネだが、魂に関する分野については未だ表面に触れている程度に過ぎないと自覚していた。
この点から校長は実に興味深いのだが、今のところルネはその好奇心を胸の奥深くに縛りつけておくことにした。
ルネは自身の力を評価しているものの、今ここでキンバリーの魔女を敵に回すようなことはしたくない。
それは即ち現代における魔法という価値観への挑戦である。
ルネとしては未来永劫この価値観が絶対であるとは決して思っていないが、今彼女らを挑発することが自身にとって何の利益もないことはよく分かっている。
「虎は死して皮を残す。君達は虎になれ。さもなければ──ここでは骨すら残りはしない」
新入生の九割が愚図であると断言し、残りの一割を目指すよう叱咤激励する校長の演説がここで終わったことを確信したルネは盛大な拍手を彼女に送った。
パチパチパチ
しかし手を叩く音は1つしかない。ルネはくるりと周りを確認したが、誰もが校長の演説に慄いていたのか、または彼女自身の気迫に圧されたのか手を握り締めて壇上の彼女を見上げるばかりだった。それか興味がなかったか。
パチパチパチパチパチパチ
大講堂の中でルネはあからさまに浮いてしまったが、それで拍手を止めることはなく、演説に礼を尽くすのに適度なタイミングで手を叩くことを切り上げた。
そんな彼を校長は無感情な瞳で見つめる。が、わざわざその拍手を止めるつもりはなかったようだ。
ルネが自発的に拍手を終えると彼女は話を続けた。
「私からは以上だ。ここでの生活についての詳しい説明は式典の最後に担当教諭が行うが──今までの内容について質問があればここで受けつける」
拍手もしない相手から質問が出るとは校長も思っていなかったのだろう。彼女に視線は主にルネに注がれていた。
かといってルネの方で特に尋ねたいことはない。そういったことは入学前に学校側に確認済みであったからだ。
工房での
ルネの沈黙は恐怖ではなく無問題の現れである。彼は首を横に振り、それを確認した校長は話を進めようとしたが、彼女は奇襲を受けた。
「校長殿! ひとつ宜しいか!」
迷いのないはつらつとした声音。どうやらその人物も恐怖を受けて固まっていたわけではないようだ。発言のタイミングを見計らっていただけなのか、ルネが振り返るとサムライ少女がまっすぐ右手を上げていた。
「許す。何だ」
思わぬ発言ではあったろうが校長に動揺した様子は見られない。すぐに発言が促された。ルネはサムライ少女が何を言うのかとわくわくする。
彼女は精一杯背伸びをして何かのジェスチャーを見せようとしているようだった。しかしそれにしては彼女の背は低く、また位置も遠い。壇上からでは他の生徒の頭ばかりでよく見えないだろう。
ルネは考え、手で空を切る動作によって魔力を呼び寄せるとそれを用いてサムライ少女を持ち上げた。
「おおおッ! 巨人に掴まれたでござるか!? 拙者、浮いてござる!」
サムライ少女は慌てた様子で足をばたつかせる。その姿にくすりとルネの口元に笑みが浮かんだ。
「サリヴァーンか」
校長は一言そう述べた。しかしそれ以上何も言われなかったためにルネはそのまま持ち上げ続け、更に校長に見えやすい位置まで引き寄せた。
大人しくルネの力に摘ままれ、ふわふわと移動するサムライ少女が彼と目が合う。
「おお、これも貴殿のまじないでござるか? サリバーン殿」
「ああ。それで何だ?」
ルネに返事をさせず、校長が代わりに短く肯定しサムライ少女に質問を再度促す。
「うむ。そうでござった。頭が痛い時は、こう! ここのツボをぐりぐりーっとするのが良いでござるよ!」
サムライ少女は曲げた中指の関節を自分の側頭部に押しつけ、ぐりぐりとそれを動かした。
大講堂の中が静まり返る。
校長の演説や迫力に慄いたのとはまた違った意味で。しん、と困惑で静まり返った。
一方ルネはサムライ少女の面白さに笑みをこぼしそうになったが、校長が全くの無感情でサムライ少女を見つめていたので何とか堪える。
「……それは質問か?」
「いや、注進でござった。先刻から何やら辛そうに見えたもので」
ふうん。ルネはそう思った。
他の生徒は「何をバカバカしいことを」と思っているだろうが、サムライ少女の発言で何となく校長の雰囲気が変わったのをルネは察したからだ。
気になったルネだが、最前列にいる自分と校長の間までサムライ少女を移動させたので校長の顔が今はよく見えない。
彼は力を使い少しサムライ少女の位置をずらして、じっと校長の顔を見つめたが……。
「サリヴァーン」
今度は警告代わりの一言を校長からもらうことになった。
これはまずい点だったか。ルネは噴出しそうになった好奇心を抑える。しかしサムライ少女の言葉が事実であることは覚えておいた。
ルネは特に謝罪もせず再度力を使い校長の前にサムライ少女を移動させる。
彼女は彼女で、にこにこしながら自分のツボを押し続けていた。
その邪気のない笑顔を数秒見つめてから、校長は再度「サリヴァーン」と呼ぶ。意図を察し、ルネは手で空を切り、彼女を先ほどまで立っていた位置に戻した。
サムライ少女は言うだけで満足したようだ。校長は特に彼女から教わったツボを押す仕草もせずに「他になければ式典を進める」とだけ言った。
一方サムライ少女は隣に並ぶオリバーに説教を受けているようだ。ルネが魔力を使って彼らの声を拾うと「君、馬鹿だろう!」と小声で怒られていた。サムライ少女の方は気にも留めていないようだったが。
「ではここからは歓迎の宴とする。そう肩肘を張らずとも良い」
サムライ少女のおかげか新入生への警告が終わったからか、やや落ち着いた和らいだ口調で校長は腰から杖剣を一本抜くと、それを掲げた。
そのタイミングでルネも体に魔力を満たした。足先から頭の先までたっぷりと力を全身に流す。
ようやくか。大講堂に入ってから、ずっと天井が気になって気になってしかたなかったのである。
「会場は上だ。まずは着席願おう」
校長の魔法によって新入生達が体の重みを失い、天井へ放り上げられる直前にルネは自分の意志で上昇気流のように素早く天井へ飛び上がった。すぐに彼はくるりと身軽そうに体勢を変え、同時に逆さ呪文の影響で
「うわ!」「うおお!」
視線の先には叫びながら天井へ落ちてくる新入生達。その中から先ほどのトロール騒ぎの面子を探る。オリバー、サムライ少女、ミシェーラ、魔法農家の少年、普通人出身の少年。見つけた。
トロール騒ぎで足を怪我した少女はルネが負傷を治したものの念のため医務室に連れていかれていたので今この場にはいない。
怪我はしていないのだからいずれ来るだろうか。それとも心が参っているから医務室で休むのか。
どちらもあり得たので椅子だけは用意しておくことにした。
ルネは獲物を引き寄せる蜘蛛のように一瞬で彼らを魔力で捉えると、更に力を使って一番見晴らしの良さそうな中央のテーブル席へ誘導する。自らもその席へ飛び込んだ。
ガタン! と全員が着席したのを確認すると校長は杖剣を下ろし、「私語解禁。好きに食べ、飲み、今日から学友となる相手と語り合うが良い」と無礼講の合図を述べた。
その瞬間に既に天井で待ち構えていた二年生達が一斉に杖を振り上げ、呪文を唱えるとジュースのボトルが宙を飛び交って新入生のグラスにそれぞれ中身を注いでいく。
「おらー!
「ひとまず校長の話は全部忘れて! 全部嘘じゃないけど、一年生から危ない目に遭うなんてまずないから! 皆が安全に過ごせるように私達先輩だって頑張るんだからね!」
先ほどの校長の脅しとは打って変わり、先輩方はむしろそれを払拭するかのように明るい声で新入生達に話しかけていった。
「皆さま、入学おめでとうございます。これからぜひともよろしくお願いします」
ルネも先輩達に負けずに明るく声を上げて指を鳴らし、テーブルの上の料理を魔法で手早く取り分けた。魔法で動かされた食器の類が勝手に料理を野菜から肉料理までバランスよく皿の上に乗せ、席の面々の目の前に置かれる。
そして面々の手の中にジュースが入ったグラスが飛び込む。
「この明るい雰囲気に合わせ、まず乾杯をしましょうか」
ルネが高々とグラスを掲げた。
あっという間のできごとに全員が困惑するが、とりあえずルネの言うようにそれぞれグラスを掲げる。サムライ少女のようにルネの明るさに乗って高くグラスを上げたり、眼鏡の普通人出身の少年のように小さく上げたりと個性が見られる中でルネは一口ジュースを飲む。
「先ほどは皆さま大変でしたね。そして先ほども言いましたが、あなた方の力になれずに申し訳ない」
そしてグラスをテーブルに置き、テーブルのメンバーの顔をそれぞれ眺めながらトロール騒ぎを労った。
「いや、
オリバーの問いにルネは頷いて答える。
「ええ。私が魔法で引き寄せました。突然のことでまだ皆さまびっくりされているかもしれませんね。
確かにこの大講堂の中に仕掛けられていた逆さ呪文の魔法陣や天井への意識を逸らす結界、またこの会場を見せないようにする不可視の結界は素晴らしく巧妙でした。式が退屈で天井を見上げた生徒でも決してこの会場は見えなかったでしょう。ギルクリスト先生の手によるものですね。しかし私は先輩達のこそこそ話がどうしても気になって仕方ありませんでしたが」
自分のペースで行動したり話しすぎたりしたと思い、小休止の意味を込めて口の中を白ブドウのジュースで湿らせた。
「君達をここに引き寄せたのは、先ほどの騒ぎで出会った縁をあの場限りで終わらせたいと考えている人は少ないかと思いまして。広い会場で声を上げて探すよりもこの方が良いでしょう」
「噂以上の使い手だな、君は」
「ふふ。私の実力の一片でもありませんよ。これくらいなら」
そう笑みを浮かべ冗談めかしてそう言うと、ルネはテーブルの同級生達を見回して言った。
「改めまして私はルネ=サリヴァーンです。幾つか著作を出していますので私の名前をご存知の人もいらっしゃるかもしれませんが……」
「知っているどころの騒ぎではありませんわ
ルネが自己紹介を始めると、不自然に途切れさせない位置でミシェーラがそれを止めた。
ルネの視線が彼女に向く。そして会話の主導権を彼女に渡した。
「
「あなたのような才能を囲っておきたくなる気持ちは分かりますわ。さて、このまま自己紹介を続けてもよろしいのですが、その前にあたくしから一つ提案があるのですが聞いてくださいまして?」
何の提案だろうかと首を傾げていると
「医務室まであの子を迎えに行きませんこと? 元々怪我は
そう提案した。ルネも彼女のことは気がかりだったのだ。
「確かに。では使い魔を医務室に向かわせましょうか」
「そっとしといてやったらどうだ。入学早々に大好きなトロールに襲われたんだ。傷は治してもらっても精神的に参っているんじゃないか」
ルネが杖を振ろうとすると普通人出身の眼鏡の少年がぶっきらぼうに止める。
ルネは使い魔の不死鳥クリスタを呼び出しそうになったが、杖先に少し火を灯しただけですぐに消した。ぽふんと煙だけ出る。
呼び出しが途中で終わったのでクリスタは小首をかしげているかもしれない。もしくはまだ寝ているかだが。
「襲われた? ふむ。私は最初から全部見ていたわけではないのですが、どういうことでしょう」
杖を振って煙を消しながら、腰のケースに杖を戻してルネはそう尋ねる。
「あの子、魔法でパレードの前まで走らされたんだ。そこに操られたトロールが暴れて──といった感じだ」
ルネの疑問にオリバーが説明する。
「あのトロールが
ルネが更に疑問を口にすると、オリバーが彼の耳の近くで囁いた。
「あの子はその直前までトロールの人権について話していたんだ。それも人権派の立場からかなりはっきりとな。それで保守派の新入生がちょっかいを出したんだろう」
亜人種に対する魔法使いのスタンスは二つに分けられる。
一つは保守派。これまでと同じように魔法の発展等を絶対視し、魔法使い至上主義を掲げ大法廷が認めた亜人種──エルフ、ドワーフ、ケンタウロス──以外の人権を認めない派閥。
もう一つは人権派。大法廷が認めた亜人種だけでなく亜人種全体、また魔法生物全体の権利を認めるべきと考える派閥。
ルネは優しそうな巻き毛の少女を思い出す。
なるほど。トロールの人権について話していたのか。なら攻撃も納得であるとルネは思った。
「そうでしたか。しかしだからといって魔法をかけられて良いわけではありませんね」
攻撃をされた理由については納得だが、それが正当であるとルネは認めなかった。
亜人種の中でもゴブリン、
こういった亜人種に人権を与えるべきと公に話せば、特に保守派の多いキンバリーで話せば攻撃対象にもなり得る。
だから攻撃をされた理由についてルネは納得していたが、もちろんそれであの巻き毛の少女が攻撃を受けて良いという理由には直結しない。
「ああ、確かにそうだ」
「その通りですわ。
ルネがそう言ったことでオリバーとミシェーラは安心したように見えた。
巻き毛の少女が攻撃を受けた理由を聞いて、ルネが不快そうな顔をしたので彼が巻き毛の少女の決定的な敵でないことを確信する。
もしルネが巻き毛の少女に対する攻撃を肯定的に受け止めていたら、どうにかしてルネを彼女から遠ざけていただろう。
「しかし、だとするとこのまま一人の時間を大切にさせるべきか、それとも気分転換に私達が役立つべきか。悩みどころですね」
「ボクは放っておくべきと思う」
「あたくしは一人にすべきではないと思いますわ。
眼鏡の少年とミシェーラの意見が食い違った。オリバーも長身の少年も判断を決めかねていると、先ほどから興味深そうに辺りを見回していたサムライ少女がふと頭上にある床を見上げ、不意に言った。
「ふむ。どうやら悩む必要はなさそうでござる」
全員の視線がサムライ少女と同じ方向を向くと、そこには巻き毛の少女が困惑した様子でほぼ無人の大講堂を歩き回っていた。
大講堂には校長と数名の教員しかいない。他の教員と新入生は全員天井に移動したのだが、それを知らぬ少女は式典がもう終わったのかと不安げに思っていると、彼女に気づいた校長が杖剣を一振りした。
巻き毛の少女の体はすぐに浮き上がり、天井へと落ちてくる。
「あわわわッ!?」
「任せてください」
ばたばた慌てながら落ちてきた巻き毛の少女をルネの魔力が捉えた。杖も呪文もなく、視線だけでルネは力を使い、空けておいた椅子へと彼女を導く。
隣のサムライ少女が笑って巻き毛の少女を受け入れた。
「はは。ご本人、たった今お帰りでござる」
更にルネが指を鳴らすと先ほどのように巻き毛の少女の前の皿に料理が取り分けられ、グラスにジュースが注がれる。
「もういいのか? 怪我はないだろうけど、その。なんだ」
「あ──ううん、大丈夫。医務室にいるよりもこっちにいた方が気分も晴れるだろうって校医の先生も言ってくれたし」
長身の少年が遠慮がちに尋ねたが、巻き毛の少女は空元気に答えた。
まだ彼女の中で全てが解決していないことを悟られまいと、また話題に出されまいと巻き毛の少女は続けて言った。テーブルの面々を見て、感謝を口にする。
「それよりも。みんなありがとう。助けてくれて。それだけはすぐに伝えたくって」
巻き毛の少女の言葉に誰も言葉を返さなかったが、微笑みが受け入れを表していた。
「では改めて。我々の幸運な入学と早速の不運な出会いを祝して」
ルネが仕切り直しと言わんばかりにグラスを掲げる。
「乾杯」
七人の声が重なった。
こうして奇妙な縁で繋がった面々は周りに遅れて食事を始めるのだった。