七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~    作:HAL1993

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第33話~紹介~

 翌朝。早い時間にオリバーは使い魔を用いてミシェーラを呼び出した。場所は校舎内の、人気のない廊下の隅だ。

 誰もいないことを、特にルネがいないことを確認してオリバーは昨夜体験したことを、もちろん同志達に関する話は抜きにして彼女に打ち明けた。

 するとミシェーラも安堵したように自身も同じような体験をしたことを話す。

 

「実家を頼り、縁ある上級生と話をしていた時のことですわ。オリバー、あなたの時と同じようにカティ達が不死鳥の団に入ることに言及した途端に会話ができなくなってしまったのです」

「なるほど。確かに俺の時と同じだ」

「──やはり、これは」

「ああ、ルネの呪文だろう。といっても仕組みも何も分かったものじゃないが。あの時、俺もそれを疑って魔法の気配を探ってみたが、何も分からなかった。だがここまでおかしなことになるのは呪文以外あり得ない。

 おそらく不死鳥の団のメンバーについて知ろうとすると、思考や認識が妨害されるんだろう。従兄(あに)従姉(あね)の様子から察するに、そうとしか考えられない」

 

 二人は揃って宙に視線を向けた。今もなおルネの呪文は効果を発揮しているはずなのだ。魔力の糸か霧が漂っていて、特定の会話や考えに干渉しているはずなのである。

 が、その存在を二人は感じ取れなかった。自分達に能力がないのか、相手に能力がありすぎるのか。そこは廊下の天井が見えるばかりである。

 

 同時に視線を戻した二人は互いに呆れ半分、驚愕半分といった様子だった。

 

「恐ろしい技術ですわ。あたくし達は例外的にカティ達のことだけは分かるようですが、他の団員候補者については全く分かりません。忘却呪文の応用か、それとももっと他の技術なのか」

「それがあるだろうという想像しかできないというのは歯痒いな。しかし、これでどうして新聞部や上級生達が全く情報を掴んでいないのかが分かった。

 もし正確な情報が目の前にあってもそれを認識できなければ何の意味もない。だから誰も不死鳥の団員について知らないし、知ろうとすると頭がそれを拒否してしまうんだろう。

 俺達が例外になっているからカティ達については知っているが、それすら他の生徒達は分からないんだ」

「おかげさまであたくしがおかしくなってしまったのかと思いましたが、オリバー、あなたがいてくれて本当に良かったですわ」

 

 戸惑うミシェーラに同意したオリバー。そんな彼にミシェーラは珍しく不安げな目を見せ、しばらくして緊張や不安が解けたように息を吐いた。

 ほっとする。まさにそのような調子でオリバーに本音を口にしたのである。そんな様子にオリバーも微笑みを浮かべた。

 

「俺もだ。あの二人がおかしくなった時は、むしろ俺が変になったのかと思ったよ。でも違った。こんな状況は魔法使いといえどそうそうお目にかかれることじゃないが、孤独じゃないと知るのはそれを経験するよりもずっと良いものだ」

 

 互いにようやく仲間に出会えたかのような安心感を覚えていたようだ。会話の通じない異国から戻ってきた感覚である。

 かといってできることはないが。

 あると仮定しかできない呪文に対して、二人がどうこうできる権限も能力もなかった。相変わらず無茶をするルネに振り回されるばかりだ。

 

「しかし、恐ろしいとしか言えませんわね。これほどの力を持つ魔法使いがあたくし達と親しくしようとしていることも。自らの派閥を作ろうとしていることも。どんな集団になることやら。

 ──彼がカティやナナオに妙な影響を与えなければ良いのですが」

「二人が決めたことだ。もし何かあっても、その時は友人として助けに行けば良いさ」

「そう、ですわね。あたくしも友として二人の決断を見守るとしましょう」

 

 ひとまずは友人達の意思を尊重することに決めたオリバー達は食堂へと向かう。朝食の時間は始まったばかりだが、既にそこにはカティ達と席を同じくするルネがいた。

 彼はいつも通りの微笑みを浮かべ、無言の魔法で二人の席を引く。

 

「おはようございます二人とも。どうぞ、今日はパンケーキがおすすめだそうですよ」

 

 きっと指を一つならせば、そのおすすめのパンケーキが一瞬でテーブルの上に現れるのだろう。そう思いながら、オリバーとミシェーラは席に着いた。

 

「おはよう。ならそれを頼もう」

「おはようございます、ルネ。あたくしもそうしますわ」

 

 そしてルネの魔法に身を任せた。想像通り、彼が指を鳴らした瞬間にふわふわのパンケーキが現れる。

 食欲を誘う甘い香りが立ち込めるが、なかなか二人の口元は緩まなかった。

 

 そんな二人を見て、ルネは微笑みながら甘いパンケーキとシロップを楽しんだ。特に他意のない笑みである。

 甘くて美味しいな。今日はなんて素晴らしい朝なんだろう。友達と一緒に朝食を楽しめるなんて。

 ただただそう思っていた。

 

 嬉しそうにパンケーキを食べ進めるルネを見て、好奇心に駆られたピートが尋ねる。

 

「今日は本物か?」

「いいえ。申し訳ありませんが、本体は今フォルギェーリ先生と一緒にいます」

 

 カチリ、カチリと幾つか部品が外れる音がしたかと思ったら、くるりとルネの頭が一回転して外れた。

 ぎょっとする同席者達の目は気にせず、自動人形ルネはそれを手に取ってテーブルの上に置く。そんな状態でも自動人形ルネは会話ができた。

 

 生き物としか思えないような口の動きで言い出しっぺのピートに話しかける。

 

「いかがでしょうか」

「あ、ああ。よく分かった。分かったから早く戻せ」

 

 気味悪そうにピートは言った。普通人出身だからというわけではなく、オリバー達も頭だけの同級生と会話するのを不気味がっている。彼らの周囲の生徒達も食事の手を止め、頭を取り外した同級生に目を丸くして注目していた。

 

 しかし当の本人はそんな雰囲気には興味がないようだ。ただピートの反応に不思議そうにしつつも彼の言うことに従った。

 

「ええ、Mr.(ミスター)レストン。すぐに」

 

 気軽に置いた頭部を同じように気軽に首に戻す自動人形ルネ。頭は先ほどとは逆向きに回転し、首にしっかりと嵌まると固定音が鳴った。

 

「忙しい奴だな」

「ええ、おかげさまで毎日がとても充実していますよ」

 

 ガイの嫌味を全く悪い風に受け取らず、むしろ称賛のように受け取るルネはやはり彼にとって苦手な相手であるらしい。ガイはそれ以上なにも言えず、ジュースを一気に飲み干した。

 

 ルネ=サリヴァーンは実に多忙な生徒だ。友人達との朝食の場にいると同時に複数の教授達と朝食を共にしているし、また幾つもの工房で多数の研究を進める立場にいた。

 入学式から二ヶ月程度しか経過していないわけだが、校舎の廊下でルネと何度もすれ違うのはもはやキンバリーの日常となっている。一日に十数回も彼と同じ姿をした存在と会うのだ。

 

 もちろんルネが何度も廊下を往復しているのではない。彼と、無数にいる彼の自動人形(オートマトン)達があっちに行ったり、こっちに行ったりしているのである。

 

 確実にルネはキンバリーに根づいていた。その存在は呪詛の増殖に例えられる。校舎をうろつく無数のルネが増える呪詛のようであるということだ。

 増えた呪詛は呪いを強め、やがて宿主を殺してしまう。呪術の常識である。

 

 そんな揶揄をルネは喜んでいた。キンバリーを殺すことができるのなら魔法使いとしてこれほどの喜びはないからである。

 それだけ自分の実力が認められている。同級生や上級生達の悪口を彼はそのように受け取っていた。

 

 そして実際のところ彼は呪詛が潜むようにひっそりと活動していたのだから。誰もルネの勧誘活動の詳細を知らない。そのほとんどがもう終わっていることも。

 

 

 

 それから数日後。

 カティ、ナナオ、ミリガン、そしてオリバー達は放課後にある教室で待つように言われた。

 そう、この日は不死鳥の団の結成日なのだ。そのパーティーを開くとのことでオリバー達も招待を受けたのである。

 ルネは約束に時間ぴったりに現れた。床から伸びてきた黒い壁、転移門の中からだ。普段一つも着崩さない制服は今日も完璧に整っている。

 

 そして転移門から出てきた途端、ルネは嬉しそうに両手を広げて友人達に言った。

 

「ごきげんよう、みなさん。今日という日が訪れたことを感謝します。この日を境に呪文は晴れ、不死鳥の団はキンバリーへと知れ渡るのですから。

 では歓迎しましょう。我が団員とその友人達を」

 

 いつも通りの微笑みと親しげな挨拶も欠かさずに、集まった顔ぶれを眺めて星空のような転移門を背に立つ。きらきらと輝く青い瞳のルネは神秘の番人、もしくは案内人といった風である。

 

 不思議と詐欺師のようには見えなかった。見かけ倒しではないことを彼らが知っているからだろうか。それともきらきらと輝く青い瞳が独特の凄みを見せていたからだろうか。

 

 その雰囲気に圧倒される前にオリバーが早々に言った。 

 

「やあ、ルネ。誘ってもらって嬉しいが、今日は君達のグループの集まりだろう。俺達も良いのか?」

 

 結局オリバーとミシェーラ、ガイとピートは不死鳥の団に入らなかった。しかしルネはそんなことを気にした様子もなく誘ってきたのである。

 今もオリバー達を部外者であると思っていないのか、彼らの遠慮を単なる社交辞令と受け取って答えた。

 

「ええ、構いませんよ。君達は私の、そしてMs.(ミズ)アールト、Ms.(ミズ)ヒビヤのお友達なのですから」

「・・・・・・ずいぶんと開放的なんだな。呪文を使ってでも情報漏洩を防いでいたのに」

 

 ぽつりとオリバーが口にした嫌味にルネは嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「おや、やはり鋭い人ですね。私の秘匿の呪文に気づいていましたか。Ms.(ミズ)マクファーレンもお気づきのようですね。とても素晴らしい。まあ、呪文に勘づいたということは、こっそりと不死鳥の団について調べようとしていたということなのでしょうが。

 ではそんなお二人に質問しましょうか。本日の参加人数についてです。何名が参加するか、お訊きしてもよろしいですか?」

 

 喜びの笑みから挑戦的な笑顔に変わる。密かに調べていた件については何一つとして気にしていない様子だった。

 

 しかし、オリバーもミシェーラも答えられなかった。

 

「あたくし達の負けですわ。カティ達以外のメンバーについては一つとして分かりませんでしたもの」

「俺もだ。君の勝ちだよ」

「おやおや。勝ち負けの話をしたつもりはなかったのですが。しかしお二人がそう言うのでしたら、遠慮なく勝利をいただくとしましょうか。

 では贈り物も受け取ったところで、会場に案内しますのでこちらへどうぞ」

 

 ルネは品良く口元に笑みを浮かべると、踵を返して転移門の中へと入っていった。

 何のことやら分からないガイやピートにルネの秘匿呪文について話しつつ、オリバー達も黒い壁の中へと飛び込んだ。

 

 到着は一瞬だった。音一つない星空に囲まれた空間を数歩進んだところで出口が開いている。

 そこを通ると広間に着いた。二十名近くが入れる広さの会場にテーブルが並べられ、その上には食事が用意されている。

 

 立食パーティーの形式であるようだ。椅子は部屋の隅に幾つか置かれているだけである。料理も片手で食べられるものばかりだった。

 その点はややナナオが不満そうだったが、飾り付けや照明の加減など良い雰囲気の会場だ。ルネへの好感度は別にしてその点は誰もが共有していた。

 

「ここは……」

「例の二層に造った城だな」

「ええ、ようこそ私達の夜明けの城へ」

 

 オリバー達が窓の外を眺めるとそこには山地が広がっていた。窓越しでも分かる。空気には独特の魔力を感じた。

 どうやらここは例の第二層に造った城の一室であるらしい。これがつい先日、一時間足らずでできた建物なのか。改めて見ると一つの手抜きもない完璧な建築に見える。

 

 きょろきょろと辺りを見回すオリバー達を微笑ましく見つめていたルネだが、予定があるのかくるりと踵を返して彼らから離れた。

 

「さて。他の入団予定者の方々はこれから迎えに行きますので、みなさんはどうぞゆったりお待ちください」

 

 そう言うとルネは転移門に再び入っていく。カティ達はその姿が完全にいなくなった瞬間に話し始めた。

 

「・・・・・・しかし、秘密を守る呪文ねえ。というかお前ら、気づいてたんなら教えてくれよ」

「そうだぞ。ボクらだけ仲間外れか」

 

 ガイとピートがまずそう言った。彼らはルネの秘匿の呪文について何一つ知らなかったし、知らされていなかったのである。

 

 オリバーとミシェーラは呪文の存在について察していたもののそのことをガイやピートに告げなかったし、カティ達に答えを聞くこともしなかったからである。

 

 二人は申し訳なさそうに言った。

 

「すまない、ガイ。だが確証がなかったんだ。『この日を境に呪文は晴れ』とルネが言い出すまではな」

「あたくし達もどう説明して良いのか分からなかったのですわ。どんな呪文なのか全く見当がつかなかったのですから」

 

 そして彼らの視線がカティ、ナナオ、そしてミリガンに向けられる。要するに説明してくれという眼差しである。

 

 そんな視線を受けてカティは慌てて首を横に振った。

 

「わ、私はなにも分からないよ。ルネが呪文を使ったって。入団のことについて話すと、その人がぼんやりするってことしか聞いてないもん。それに、まさかオリバー達にまで呪文をかけてたなんて知らなかったんだから」

「拙者も何も言えぬ。さっぱり理解できぬことゆえ」

「はは。そう焦らなくても良いと思うよ、二人とも。ま、私も専門外だからよく分からないんだけどね」

 

 説明を放棄したカティとナナオにミリガンは苦笑する。といっても彼女も詳しい話はできないのか肩を竦めた。

 

「どうやら異界関係の研究成果らしいよ。元々は異端(グノーシス)の信仰を阻害するための技術だとか。ミーム? だとか何とか言ってたね」

「そんなものよく学校が許可しましたね」

 

 ピートの発言にミリガンが解説を加える。

 

「ギルクリスト先生から許可をもらったらしいよ。まあ、あの人すら首を傾げる呪文だったそうだからね。教師達も文句の言いようがなかったんだろう。それがここのルールだ」

 

 例え教師であっても理屈が分からない魔法現象に関しては文句のつけようがない。キンバリーの暗黙のルールについて軽く触れたところで転移門が床から現れた。

 

「ところでカティ。他のメンバーについては知らされているのか?」

「ううん。当日のお楽しみだってルネが」

 

 ふと気になったことを問いかけたオリバーにカティが答える。誰が入団するのか彼女も知らないのだ。オリバーの視線を受けたナナオもミリガンも首を横に振った。

 

「私達以外の入団者をいったいどういった基準で選んだのか。実に興味深いね」

 

 ミリガンの発言にオリバーも内心頷いた。

 ルネは優れた能力を有する同志達に一切の関心を寄せなかったのだ。もし今回の入団者の傾向から何かを見出だせれば次やその先の募集時には誰か同志を送り込めるかもしれないし、彼の思想や傾向を探る良い機会にもなる。

 

 パーティーの参加前には考えてもいなかったことを思いつき、興味を持ったオリバーはじっと転移門を見つめた。彼以外のメンバーも純粋に好奇心で転移門から現れる人物を待つ。

 

 てっきり見ず知らずの生徒が出てくるのかと思いきや、門を通ってきたのは知った顔であった。

 

「・・・・・・あ」

 

 出てきた少女はカティ達と視線が合い、気まずそうな声を出す。金髪の小柄な同級生アステリア=マックリーである。その後ろには彼女の友人達が四人いた。

 つまりパレードの時にカティに悪戯を仕掛けた五人だ。といってもその件は今やなかったことになっている。

 

 結局カティが呪文でパレードへ走らされた件はミリガンの自白で有耶無耶になってしまったため、彼女らが罰則を受けることはなかったのだ。

 

 それはどうかと思ったオリバー達は一度告発を勧めたがカティはそうしなかった。馬車の中でルネの覇気を受けて腰を抜かした彼女達を見て、もうあれ以上の罰は不要と思ったのだ。

 

 カティがそう言うならとオリバー達は納得したが、彼女含めて今緊張が走っているのはこうして直接顔を会わせるのは初めてだったからである。

 迷宮での救出劇の際もカティ以外のメンバーは彼女らと会っていないし、円形闘技場(コロシアム)の事件の時にも少し顔を見た程度だった。

 

 アステリア達も申し訳なさそうで、またぎこちない。そんな彼女らの後ろからひょこりとルネが顔を出した。

 

「では他の方々も呼んできますからもう少しお待ちくださいね」

 

 そう言うと再び転移門へと消えていく。何一つフォローもせずに。そんな必要はないと思ったのか、「仲良くしてくださいね」の一言もなかった。

 

 しばし会場に沈黙が流れたが、カティが意を決してアステリア達に話しかけた。

 

「えっと・・・・・・あなた達も入団するんだよね」

 

 マックリーは頷き、頭を抱えて言った。

 

「──ええ、そうよ。居場所がなくなったもの。脅されたとはいえ、あいつに協力しちゃったわけだから。

 保守派の方には戻れないし、かといって人権派にも入れないし」

「そんな時に彼の方から誘ってきたんだよ。『私の不死鳥の団に入りませんか』って」

 

 友人が付け加えた言葉にマックリーは強く反応する。

 

「入りませんかって、そもそもはあいつのせいで立場がなくなっちゃったんじゃない! トロールの時だって『ちょっと脅かすだけですから』としか言ってなかったじゃないの! 雷で丸焦げにするなんて聞いてないわよ! 迷宮での大事件だってそうよ! 全員ぶっ倒すだなんて知るわけないじゃない! 私達は人質になってたのよ!? あいつが何するかなんて、分からないわよ!」

 

 キー! とアステリアは怒鳴り始めた。その様子を呆然と見ていたカティ達の反応を受けてか、慌てて友人達が彼女を宥める。

 

「で、でもさ。サリヴァーンの派閥に入るよって言ったら実家の方は喜んでくれたよ?」

「そ、そうそう」「もしかしたらあのサリヴァーンの血を家に入れられるかもしれないし」「だ、だからそんなに怒らないでアステリア」

 

 そうわいわいと騒ぐアステリア達にガイははっきりと言い放った。

 

「いや、そもそもお前らのせいだろ。こいつに後ろから魔法をかけたんだからな」

 

 当然の注意であるが、しかしオリバーやミシェーラは心配する。相手は怒り狂った少女だ。真実が良い結果をもたらすとは限らないのである。

 例えばカティに責任転嫁をする、など。どういった反応を見せるか予想ができないのだ。

 

 しかしガイの一言で逆上するかと思いきや、アステリアはぴたりと動きを止めた。

 

「──確かに」

 

 そう呟いて、諦めた笑みを見せた彼女は膝から崩れ落ちる。慌てて友人達は彼女に寄り添った。

 

「だ、大丈夫かよ」

 

 あまりの情緒不安定さにガイの方が不安そうな顔になる。アステリアの友人達も彼を責められないので、ただ彼女の頭や肩を擦るしかできなかった。

 

「まあ、カティのせいにしないだけマシか」「自己責任だという良識くらいはあるようですわね」「騒がしいがな」

 

 オリバー、ミシェーラ、ピートはひとまず安堵する。自分達を巻き込んで大騒ぎするかと思っていたからだ。

 

「よーし──ねえ、こうやって話すのは初めてだよね。Ms.(ミズ)マックリー。迷宮でルネが助けてた時にはあんまり話せなかったもんね」

 

 一方カティは意を決して彼女達に近寄り、アステリアの視線に合わせて屈む。項垂れていたアステリアは顔を上げるが、カティと目が合いそうになると視線を外した。

 ただ黙っているのはまずいと思ったのか気まずそうに答える。

 

「──そうね。Ms.(ミズ)アールト」

 

 それ以上に会話は進まなかった。アステリアに話す積極性がなかったからである。おどおどして、言いにくそうにしていた。

 

 カティはまるで小動物に接するように優しく尋ねる。

 

「あの時のことを今さら蒸し返すつもりはないけど、一応どうしてあんなことをしたのか訊いても良いかな?」

 

 そう問われ、アステリアは気まずそうにしつつもカティの視線に耐えかねて正直に答えた。

 

「・・・・・・私の家は保守派の家柄だから。人権派の魔法使いは恥だって教わって」

 

 それを聞いて、彼女を見るガイ達の目が厳しくなる。が、カティは友人達が何か口にする前にアステリアに言った。

 

「なら直接言ってくれれば良かったのに。そうしたらルネの仲間にはならなかったかもよ?」

「う、うぅ。それは」

 

 肩を縮めて答えに窮した小柄な少女にカティは苦笑する。

 

 考えてみれば、彼女だけではなく自分もあの事件がなければルネの派閥に入ることにはなっていなかったかもしれない。マルコを助けることもできなかったかもしれないし、そもそも彼の異常に気づくこともなかったかもしれない。

 結果的にルネと関わり、マルコの命を繋ぐことができたのは目の前の少女が原因だとしたら、いずれ自分は彼女に感謝するのか、それとも恨むのか。

 

 カティは今すぐその答えを出せなかったが、しかし今は不思議と怒りなどの負の感情は思い浮かばなかった。全ては今後のことなのだ。今、考えるべきではないし答えを出す必要もないだろう。

 そう思ったカティはひとまずは目の前の相手との関係の修復を望むことにした。

 

 立ち上がるとただ手を伸ばし、屈んだままのアステリアに話しかける。

 

「とりあえず、これからは仲良くやろっか。私はカティ=アールト。よろしくね」

 

 彼女はカティの手を見て目を丸くしたが、立ち上がると申しわけなさそうにしつつもその手を取った。

 

「アステリア=マックリー」

 

 そして、そう一言だけ名乗った。

 そこでガイがわざとらしく咳払いする。

 

「おほん! ──何か他に言うことはないのかよ」

 

 小声だったが、アステリア達の耳にははっきりと届いた。もちろんその意味も。

 

「ガ~イ」

 

 暗に謝罪を要求するガイをカティは注意するが。「そうね」とアステリアが肯定的な反応を見せたため、全員の視線がじっと彼女に向けられる。

 

 アステリアはカティと目を合わせ、言った。

 

「そうよね、Ms.(ミズ)アールト。だってこれからは同じ団員だもの。その辺りをはっきりとさせないといけないのは当然よ。

 それに私達はもう保守派の連中のところには戻らないんだし。もう派閥とかもどうでも良いわ」

「「「「あ、アステリア・・・・・・」」」」

 

 決心を固めたアステリアを四人の友人達が見守る。そして、アステリアはカティに頭を下げた。

 

「悪かったわ、Ms.(ミズ)アールト。あの時は後ろから魔法を使って。卑怯だったし、危険だった。ごめんなさい」

「「「「ごめんなさい」」」」

 

 そう謝罪すると、四人も合わせて謝った。口だけの軽い言葉でない。迷宮での救出劇の際に自分達へ言いたいことを堪え、ただ心配してくれたカティへの心からの謝罪だった。

 

 カティはそれを受け止め、頷く。

 

「その謝罪、受け入れます。じゃあ、これからはよろしくね」

 

 そして柔和な笑みを浮かべた。その寛容さは殺伐とした保守派に長らく所属していたアステリア達には新鮮だった。戸惑いつつも、新しい関係の始まりを感じるほどには。

 互いに顔を見合わせ、どう反応して良いのかどぎまぎとしていた。

 

 そんな風に彼女らがカティに感化されているのを見て、オリバー達はひと安心した。ようやく入学式での一件が全て片付いた、そんな気がしたからだ。

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