七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~    作:HAL1993

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第34話~桃色の霧~

「では、みなさま。今夜私達の団がこうして始まったことを祝して。乾杯」

「「「「乾杯」」」」

 

 シンプルな挨拶の後に、酒精のない甘い果物のジュースが入ったグラスが掲げられる。団員ではないオリバー達も場に合わせてグラスを持った。

 

 そしてパーティー開催の宣言がされた同時に小皿と料理の皿が浮き上がり、参加者達に給仕を始める。同時に団員達もそれぞれ落ち着いた様子で会話を始めた。

 

 ルネがあの後に連れてきた団員は九人。三年生二人と二年生二人、後は一年生という構成だった。四年生以上の生徒はミリガンだけである。

 

 彼女はこの場の最上級生らしく積極的に団員同士の会話を取り持っていた。比較的人当たりの良い魔女でもあるからか、団員達はミリガンを介してリラックスした様子で自己紹介や互いの魔道について語り合っている。

 

 オリバー達は一応部外者であるためその会話の輪の中には入らなかったが、メンバーの観察はしていた。

 その結果、ルネがどういった傾向でこのメンバーを集めたのかが何となく分かった。

 

 まず家柄やコネなどではない。

 確かに団員達の中にはオリバー達も知る名門の家柄の出身者も何名かいた。魔法植物学の名門であるメンデル一族出身の一年女子や、魔道工学の大家でありフォルギェーリ教授の親戚筋でもあるモンテゼーモロ家三男の二年生男子など。

 彼らはミシェーラと同じように一族の優れた血統を受け継いでおり、下級生ながら既に洗練された独特な魔法使いとしての雰囲気を纏っていた。

 

 しかし団員は彼らのような魔法使いばかりではない。カティやアステリア達のように一般的な家系の出身者が大半だった。何か特殊な技能などを有している様子もない。

 

 どうやら血縁や能力の有無で集めたわけではないらしい。それよりも魔道への真剣さ、忠誠心、憧れといった点を重視しているようだった。

 

 このメンバーの共通点はほとんどの場合がそれである。名門の出身だろうが、平凡な家系の出であろうが、志す魔道がある点だった。

 しかも真剣に魔道を求めているような人物ばかりだ。例え一族の伝統を破壊するような憧れであっても。

 

 それは裏を返せば魔に呑まれる可能性が高いということだが、むしろその強い憧れをルネは求めているようだった。目指す魔道のせいで「家から勘当されている」と語る団員には「そんな方にこそ、この場を提供したかったのです」と嬉しそうに話していたからだ。

 

 その点でいえばアステリア達が例外であった。ミリガンにもカティにも、またナナオにも強い憧れがある。

 

「やっぱりカビやキノコって良いよね。知ってる? 彼らはとっても小さな存在が手を取り合ってできているんだ。僕らもそうあるべきだよね。繋がるべきなんだ」

「・・・・・・だからご両親が寝ている間に背中をくっつけたの?」

「うん。パパとママは仲良しだもん。そうすればもっと仲良くなるかなって思ったんだけど」

「よく家を追い出されなかったわね」

「半分同じようなものだよ。でもルネに拾ってもらったし、彼に支援もしてもらえるようになった。

 今まではこの世界をどうにかして魔法菌類で覆い尽くしてみんなと繋がろうかと思っていたんだけど、それよりも菌類ばかりの異界を見つけてそこに移住した方が良いと思い直してね。ルネも言っていたけどそっちの方が現実的だ」

「そ、そうなのかしら?」

「そうだよ。だってルネがいるこの世界を征服するよりも、無数にある異界からキノコやカビばかりの世界を見つける方が良いでしょ。

 向こうに行くためにも僕は今よりももっと知識や力をつけないといけないけど、ルネがいればそれもできる気がするんだ」

「ま、まあ。そうかしら」

「そうだよ」

 

 半ば流れで入団することになったアステリア達はやや引き気味の姿勢で団員達の話を聞いていた。会話よりも食事の方に手が向いている。

 それでもしっかりと話を真面目に聞いているのは彼女らの素朴さゆえだった。

 

 派手な催しではなかったが、団員達はそれぞれの自己紹介を終えるとあっさりと打ち解けた。強い憧れがあるという似た者同士を集めたからか、互いに共感することが多かったようだ。

 

「お話の途中ですが、失礼します。みなさん、ご注目を」

 

 そして、ひとしきり話を終えた頃にルネが手に持ったグラスを鳴らす。綺麗なガラスの音に団員達は視線を向けた。

 ルネは彼らの顔を眺め、嬉しそうに話し出す。

 

「みなさんがさっそく仲良しになってくれてとても嬉しいですよ。これからの私達の団の未来が見えるようです」 

 

 感動した面持ちのルネは頷きながら話を続ける。

 

「ここにいる方々はそれぞれ志す魔道があります。私は私の魔道を目指すと同時に、みなさんが想う魔道を進んでいく手助けもしていきたいのです。それが全て魔道のためになると信じているからです。以前集会でお話しした通りですね。

 この夜明けの城も工房も、そのために用意させていただきました。どうぞ存分にご利用ください」

 

 そう言い終わるとルネに感謝の拍手が送られた。自分達のリーダーへの尊敬の証でもある。ルネは目を細め、しっかりと仲間達の拍手を受ける。

 その敬意の音を彼は一つも聞き逃さなかった。彼は魔力を頼って、それを可能にすることができたのだ。

 

 パチパチパチ、と拍手が終わったところでルネはまた口を開いた。

 

「それともう一つ、みなさんに援助の提案をします。ただし強制ではありませんので断っても構いません。後日、気が変わったということで再度頼んでもらっても構いません。

 これは集会でもみなさんを勧誘した時にも話さなかったことです。とても、とても特別なものなのですから」

 

 彼にしては慎重に提案する。既に優れた設備をもらっている団員達はこの他のものは何だろうかと話の続きを待った。

 

「みなさんに私が差し上げたいのは、これです」

 

 ルネが何かを受け止めるように手を広げる。すると突然彼の手の平に切り傷が走った。ばっさりと刃物で切ったような傷だ。

 しかし傷から流れるのは血ではない。桃色の霧だった。傷口からゆらゆらと立ち上ってくる。その中には照明を反射してきらきらと光が見えた。

 

 ある程度の大きさになると、開いた傷は消える。すぐに癒したとはいえ、いきなりの自傷に目を見開く団員達。それはカティもオリバー達もそうだった。

 

 無言の魔法使用で傷をつけたことは何となく予想ができたが。

 しかし桃色の霧の正体は全く不明だった。予想すらできない。何かしら金銭的な価値があるものなのか、それとも独特な魔法素材か何かなのか。

 

 ルネはより注目を浴びるために手の中の霧を掲げる。そうされても桃色の霧は散らず、彼の手の中にあった。まるでピンクの綿菓子である。もちろんただの菓子などではないのだろうが。

 

 そして彼は説明を始める。いつも通りの落ち着いた口調で。

 

「私の手の中にあるピンクのふわふわは私の血と霊体から絞り出した私の感性、その複製です。いわばセンスの塊とでも言いましょうか。

 これらを他者に与えることを私は継承と呼んでいます。きっとみなさんのためになるものですよ」

 

 ルネの解説はほとんどまず答えを先に述べることから始まるが、だからといってすぐに理解できるものではない。

 まず彼の行いのほとんどが周りからすると先進的過ぎであり、答えを口に出されたところで理解が及ばないからである。

 

「感性? センス? 継承?」

「ええ、その通りですよ。Ms.(ミズ)アールト」

 

 オウムが主人の言葉を真似るようについ喋ったカティにルネは微笑んだ。疑問の提示は重要だからである。

 

「つまりルネの魔力運用に関する感覚ということですか?」

 

 団員の一人がそう問いかける。ルネは頷いた。

 途端にそれまで落ち着いていた会場がざわりとする。魔法使いにとってセンスといえば魔力をいかに動かすかということを表していた。魔力運用、魔力出力などだ。

 つまりはあの桃色の霧の正体はルネが魔力を扱う体感の塊ということになる。魔法史に残る天才の体感だ。

 

 じっと桃色の霧を値踏みする視線が増える。そして、意を決したように一人の団員がルネに尋ねた。

 

「・・・・・・もしかしてその霧を吸収すれば、あなたの魔力運用の感覚が手に入るの?」

「正確に言うなら似た感覚ですね。私の感覚そのものを得られるわけではありません。君達を私と同じように変容させるには、これはあまりにも薄いのですから。継承で可能なのは、あくまで君達が本来持っていた感覚に影響を与える程度に過ぎません。

 しかし私の感覚の影響を受けるというのはそれなりに利点があるかと思います。なにせ私は優れた魔法使いとして知られていますから」

 

 彼は胸を張って気さくに答え、手の中の桃色の霧をふわふわと触りながら説明を続ける。

 

「また魔力に関することだけではなく意念(イメージ)についても私と似た感覚が手に入ります。

 私たち魔法使いにとって感覚というものは魔力の流れを操る感覚だけではなく、魔法を創造するための意念(イメージ)にも大きく関わってくることはもちろんご存じかと思います。もっといえば感覚が意念(イメージ)を形作るのです。

 そして魔法とは魔法使いがそれぞれの感覚によって働かせた魔力を用いて、それぞれの感覚によって作り出した意念(イメージ)を現実に呼び出す行為です。

 ──つまりはこの桃色の霧を使えば、私と似た感覚で魔法が使えるようになるということですね」

 

 ルネはややもったいぶって再度桃色の霧の塊を掲げた。その動きに会場の全員は釘付けとなる。

 彼の手の中にあるものを取り込めば、彼と同じように──天才と同じように魔法が使えるようになるのだと彼らは考えていた。それがどれだけ価値あることか。

 

 実力不足を感じている学生にとってはまたとない機会だ。簡単に力が手に入るのだから。

 だが彼らはルネの答えを聞いても歓喜の声を上げなかった。桃色の霧に群がるようなこともしない。

 

 ただじっと団長の手の中にある桃色の塊を見つめ、時折隣の団員達と目を合わせた。

 彼らも餌を前にした害獣ではないのだ。目の前の餌に毒があることを疑うくらいの考えは持っていた。こんな美味しい話があるのか、と躊躇いを覚えたのである。

 

 魔法界においてそういったものには何らかのリスクがあるはずなのだ。一方的な利益なんてあるはずもない。

 

「素晴らしいですね。賢いみなさんを私はとても好ましく思いますよ。もちろんすぐにこれを欲しいと思った方も素晴らしいと思います。どんなリスクにも挑戦するその心は魔法使いにとって重要ですから」

 

 ルネはそんな緊張した雰囲気に笑みを浮かべた。彼にとってこれは期待していた反応であったらしい。不安げな団員達に彼は言った。

 

「肝心なのは私と似た感覚であるという点です。同じではありません。もし同じ感覚を得ようとしたら負担を強いてしまいます。今の私の技術では。不要なものをみなさんに与えてしまうのです。みなさんの魂魄に」

 

 一拍置いて、彼は言った。

 

魂魄融合(ソウルマージ)という用語はご存じでしょうか」

 

 ルネの問いかけにほとんどの生徒は首を傾げる。その点について勉強不足であると彼は思わなかったようだ。むしろ想像通りであるのかルネは彼らのために説明した。

 

「そう難しい言葉ではありません。文字通りに魂を融合させる技術です。他人の魂魄を取り込み、その魂魄の持ち主の経験や性質を自らのものにする魔法ですよ。

 分かりやすくいえば、他人の魂を自身に融合させてその人の力を使えるようになります。かつて祖種という亜人種が使っていたものです」

 

 初めて知った単語にぼんやりとした反応を見せる団員達へルネは問いかける。

 

「さて、みなさんは不思議に思いませんか? どうしてそんな便利な技術が現在に普及していないのか。魂を取り込むだけで、どんな力も技術も私達のものになるのです。

 しかし魂魄融合(ソウルマージ)そのものは祖種特有の技術であるとはいえ、魔法使いは彼らの技術を魔法文化に取り込めませんでした。では現在の魔法使いがこの技術に縁遠くなってしまったのはどうしてでしょうか」

 

 ルネと目の合った団員が自信なさげに答えた。

 

「……難しいから、かな」

「ええ、第一の理由ですね。そもそも魂を複製したり、取り込んだりという技術がかなり難しいのです。魂魄を扱う技術は霊体を扱うそれをよりも難しく、分かりにくいのです。

 祖種が魂を扱えたのは彼らの人間性が薄く、自他を分ける感覚が希薄だったからなのでしょうが──長くなるので、今はその話は深く言いません。

 では、第二の理由はなんでしょうか」

 

 更なる質問に前髪で目元が隠れている長身の少女が挙手する。

 

「ではMs.(ミズ)メンデル、お願いします」

 

 ルネが指名すると彼女はすらすらと答えを述べた。

 

「危ないから。魂魄融合(ソウルマージ)を行うと、異なる魂魄同士が反発しあってその生命体の中に激しい拒絶反応が起こる。そうなると肉体、霊体、また魂魄そのものにも深い損傷ができてしまう」

「はい。その通りですね。Ms.(ミズ)メンデル、ありがとうございます」

 

 ルネは長い前髪の少女に礼を言うと解説を続ける。

 

「実のところ現在を生きている私達の魂は他人の魂を受け入れるようにできていません。私の魂は私だけのものであり、みなさんの魂はみなさんだけのものです。そこに他人の魂を融合させるのはそもそも無理をしているのです。

 ゆえに魂魄融合(ソウルマージ)は私達に大きな負担をかけます。Ms.(ミズ)メンデルの答え通りです。

 異なる魂を無理に結合させようとする際の負荷で魂、霊体、肉体の全てに損傷を与えます。本来混じり合わないはずの他人の感情や記憶が、私達の魂の中に入り込むことによって自己の喪失が起こり魂が傷つきますし、そこから霊体の不調、また魂の損傷に連鎖した全身の酷い苦痛などなど。症状は数えきれません。

 その結果として魂魄融合(ソウルマージ)は広まりませんでした。高い技量を要するうえに優れた知識を取り込めるといってもあまりにもリスクが高いからです」

 

 彼の視線は団員達から自分の手の中にある桃色の霧に移った。そのふわふわを大切そうに抱える。

 

「しかしこれは違います。魂ではなく血と霊体から取り出した私の感覚に過ぎません。この継承においては知識や技能の習得はできず、私の感覚が分かるようになるだけです。

 なのでこの霧を得ても、すぐさまみなさんの力になるわけではありません。みなさんが努力した時に、私の優れた感覚がみなさんを助けてくれるだけなのです。

 だからこそ魂魄融合(ソウルマージ)よりも安全であり、目標を達成しているのですが。

 思うに知識、技能習得という観点から言うと魂魄融合(ソウルマージ)は不必要なものまで混ぜ合わせているのです。例えばその人の感情や記憶ですね。私はそれらを人間性と総称しています。

 人間性は現在の生命の魂魄を構成する重要な一つなのですが、ただ知識や技能を習得したいだけの我々には不要ですし、我々の魂に傷をつけるものです。

 残念ながら今の私の能力では魂魄から知識・技能と人間性を切り分けることはできません。未だ私の魂への解釈は完全ではないのです。

 しかし肉体と霊体に関しては到達しています。だからこそ二つからこの霧を作り出すことができたのです」

 

 団員達はルネの話を聞いてぞくりとした。

 彼と同じにはなれないが、似たものにはなれる。天才の才能に近づける。特にマルコの件でルネの才能を近くで見続けてきたカティは特にその価値に震えた。

 

 同じになれればもっと良いかもしれないが、似た感覚を得られるだけでもどれだけ価値があることか。魔法の天才の感覚である。

 

 この桃色の綿菓子のようなものを取り込めば天才に近づける。才能の援助である。ある意味、資金などよりも必要とする生徒が多いものだった。

 

「どうやらがっかりさせずに済んだようですね。

 これから私は団長としてみなさんを徹底してサポートしていくつもりです。そのためには資産も能力も存分に使います。だから、どうかこの団に入ったことに誇りを持ってください。そして明日から魔道を突き進むために頑張っていきましょう」

 

 ルネは団員達の反応に満足だったようだ。手の中の桃色の霧を消して彼が杖を振ると会場の出入り口に厚めの本が積まれたテーブルが現れた。

 

「ご清聴ありがとうございました。

 では、本日の集まりはこれでお開きとしましょう。会場の外にいる自動人形(オートマトン)達がみなさんをそれぞれのお部屋にご案内します。

 またこの件についてはいつでもご相談ください。詳細はあそこの本にも書いていますが、疑問点がありましたらいつでも質問してください。私はみなさんの団長なのですから」

 

 才能の援助に関して本を持ち帰らない団員はいなかった。その内容は簡易的な説明文などではなく「継承と簒奪─霊体、血液からの魔法的感覚の抽出法について─」と題の書かれた論文だ。

 カティも受け取ると廊下を歩きながら中身にじっと目を凝らしていた。

 

 その様子から今すぐにでも、あのピンクの霧を欲しがりそうな様子にオリバーは注意を促す。

 

「──カティ、これが魂魄融合(ソウルマージ)に近い技術ならやはり危険性は考えられるし、その資料にない副作用があるかもしれないんだ」

 

 もちろんオリバーも本を速読し、不完全であるからこそ一つの副作用もないという解説への疑問をカティに伝えた。

 彼女は本から顔を上げ、じっとオリバーを見つめる。彼と同じように心配そうな目をする友人達も、である。 

 

「分かってるよ。でもあれを取り込めば手っ取り早く力が手に入るんだよね。だってルネが魔法を使う時の感覚だよ? 杖も、呪文もいらない天才の感覚が・・・・・・似たものだったとしても、絶対に欲しいよ」

 

 友を見るカティの目は上達への渇望でぎらついていた。ここキンバリーでやっていくには、ルネが与えてくれる力が必要なのだから。ルネはそれを与えてくれるというのだ。

 だとしたら求めないという選択肢は今のところのカティにはなかった。

 

 

 

 すっかり空になった会場でルネはその場の名残りを楽しんでいた。人の残り香、食事の香りなどなど。しかしいつまでもこのままにしておくことはなかった。

 特に呪文を唱えることもなく、皿が浮き上がって部屋を出ていく。またテーブルなども隊列をなして外へ出ていった。

 あっという間に会場から物がなくなり照明も消える。部屋は暗がりになった。

 カーテンを開け、窓を開くと庭が見える。丁寧に作られた、小綺麗な庭だ。魔道の探求に一休みすることも、あそこで考えを巡らせながら散策することもできるように作った場所である。

 

 魔法使いの研究施設として一部の隙もなくなるように設計した城塞なのだ。きっと団員全員がここを好きになってくれるだろうとルネは想像していた。

 

 外は部屋と同じくらいに暗かった。やや冷えた風が心地良く室内に入ってくる。

 

 本来ならこの第二層は天井にある人工太陽のおかげで地上のように日が落ちることがないのだが、この城塞がある領域内では迷宮外と同じスケジュールで朝と夜が巡っていた。

 朝が来てこその夜であり、また夜があってこその朝だとルネは思っていたからである。それに迷宮外の環境に合わせた方が体調にも良い。四六時中太陽が出たままの環境はよろしくないのだ。魔法使いにとっても、城塞外の岩山で過ごす紅王鳥(ガルダ)達にとっても。

 

 ルネは窓枠に手を置き、じっと景色を眺めた。今頃、団員達は自分が渡した本を読み耽っていることだろう。

 それをどう受け取るかは団員達に委ねるが、自分の能力はきっと彼らのためになる。ルネはそう信じてやまなかった。

 

 長いこと外を見ていると光が闇を塗り替えるように現れる。

 夜明けだ。ルネは明るい日差しに目を細める。しかしその光に負けないくらいに目は輝いていた。青い瞳が美しく照っていた。

 

 団員達のほとんどは夜の状態にある。閉塞感、停滞感などなど。つまり行き詰まっているのだ。魔道への忠実さに加え、ルネはそんな状況も加味して団員を選別していた。

 

 何より、どうにかして夜明けを迎えたい。道を開きたい。

 言い訳をせず、そこに突き進んでいきたい。夜を知っているからこそ夜明けを見たい。

 探求心とでも表現すべきか。そんな心持ちの団員ばかりを集めたつもりだった。

 

「どうか、みなさん夜を進んでください。きっと私がみなさんの夜明けになりますから」

 

 さあ、太陽が上ったのならまた新しい一日が始まる。ルネはそれが楽しみでしかたがなかった。今日も良い日になる。そんな確信が常に彼にはあったからだ。

 

 ルネは窓を閉め、会場を出て行った。その足取りは優雅で軽やかだ。

 ここキンバリーにおいて彼は今、一人ではないのである。これから大勢の仲間達と共に魔道を歩んでいくのだから。

 それを邪魔する者は誰もいない。誰一人として。

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