七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~    作:HAL1993

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第37話~ゴシップ~

 錬金術学科教授であるダリウス=グレンヴィルが失踪して四ヶ月以上が経過した。タイミングとしては不死鳥の団を結成して少し経った後だ。

 授業にも姿を現さず、また校内にも迷宮内にも姿がなかった。

 

 まあ、死んだのだろう。

 

 記事の「失踪」という文字を見て、ルネはそれらを頭の中で「死亡」と置き換えていた。

 姿を消してからもう四ヶ月だ。それほどの長期間の消息不明となれば死亡判断をしても良いだろう。

 

 いつの間にかふらっと姿を消して、同じように戻ってくる風来坊のような魔法使いもいることにはいるが、少なくともグレンヴィルはそうではなかった。どこか旅に出る場合にはその申請をし、代理の教員を立ててから出発する性格だ。

 

 そんな人となりであるとルネは思っていたし、その評価は学校側も同じであった。現に失踪直後の錬金術学科は大騒ぎであり、未だに彼の生きた姿も死んだ体も見つけられずにいた。

 

 第三新聞部の記事はそういった状況で書かれた完全な憶測である。憶測だ。ルネは彼が姿を消したことに何も関係していないのだから。

 そもそも興味がなかった。錬金術系の授業を全て免除されているルネにとって、錬金術学科もグレンヴィル教授も会う機会すらないのだから。

 

 ルネは自分のことを書いた記事をじっと読んでいく。彼が加害者であるという証拠については何も書いていない文章であったが、しかし第三新聞部がそのように書き立てるのも分からなくはないとルネ自身は思っていた。

 動機面では無根拠ではなかったからだ。なにせダリウス=グレンヴィルと直近でトラブルを起こしたのは自分だけなのだから。

 

 記事にもそれが書いてあった。

 マルコの件である。確かに図示すればルネとグレンヴィル教授は対立軸にあった。実際マルコの檻の前で決闘直前までいったのも事実である。

 ルネ本人としては他の教員が来るまでの時間稼ぎとしか考えていなかったものの、部外者から見れば教師と揉めたとしか見えないだろうし、事実マルコの生死で揉めていたわけであるが。

 

 しかもグレンヴィル教授はミリガンの自白後に校長からの叱責やオールディス教授からの散々の罵倒を受けていた。魔法生物学科からトロールを盗み、入学式パレードを結果的に妨害したからである。

 その恨みからルネを攻撃し、彼に返り討ちにあったのでは? と記事は締めていた。ルネ=サリヴァーンの実績や能力ならそれが可能であろうと。

 

「光栄ですね」

 

 ルネはゴシップ誌からの評価にそうぽつりと呟くと新聞を折り畳んでテーブルの上に置いた。他の記事には関心がないのか別の新聞紙を取るとそれを読み進めていく。

 

 一方で彼の呟きを聞き取ったカティ達は視線を彼の方へと向けた。ちらりとルネの顔を見て、そしてテーブルの上に置いた新聞紙に目がいく。

 大きく書かれた見出しにメンバーの表情が強張った。グレンヴィル教授が姿を消してから内心彼らも思っていたのだ。「犯人はルネなのでは?」と。

 

「ね、ねえルネ?」

 

 カティが恐る恐る声をかけた。その意図を察したオリバー達はびっくりした目で彼女を見るが、しかし彼らも関心があるのか止めることはしない。

 また近くのテーブルにいた同級生達もだ。いつの間にか彼らはそれぞれの雑談を止め、聞き耳を立てていた。

 大勢がじっと状況を伺う。

 

「はい、何でしょう」

 

 そんな周囲の張り詰めた雰囲気に関心のないルネは新聞から顔を上げ、おっとりとした返事と共にカティの方へ顔を向けた。

 ニュースへの関心はそれで失せたのか、それまで目を通していた新聞紙を畳むと第三新聞部発行のものの上に置く。

 

「えっと、その」

 

 彼女が言い淀んでいるのと視線から何を言いたいのか察したのだろう。ルネは微笑んで言った。

 

「私は何もしていませんよ」

「ほんとに?」

「もちろん。団を結成してから教授にはお会いしていませんから。正確にはマルコの檻の前で会ってからでしょうか。私はあの先生の顔を見ていません。校舎でも迷宮の中でも」

 

 事実を述べた後にルネは再度事実を述べる。

 

「ただ教授に危害を加える能力が私にある点については私も否定はしませんが。また教授が私を恨んでいたこともそうだろうとは思います。もしかしたら何かしらの報復を考えていたのかもしれません。これは記事の通り憶測ですが。私もゴシップは嫌いではありませんから」

 

 しかし、とルネは言った。

 

「もしも復讐心からあの先生が私を迷宮内で襲ったとして。そして私がそれを返り討ちにしたとして。

 どうして私がそれを隠さなければならないのでしょうか。もしも私がそうしたら先生の死体を背負って校長室にまで行きます。そしてありのままを校長先生にお伝えします。

 それで済む話です。わざわざ隠す必要はありません。そうではありませんか?」

 

 襲われたのだから返り討ちにした。もしそうならその通りに報告すれば良いだけである。

 それならキンバリーは「反撃された側が悪い」と判断を下すだろう。例え教師と生徒であったとしても。生徒が教師を殺したとしても。

 

 カティ達はありありとその光景が思い描けた。校長の前にグレンヴィルの死体を抱えてきた彼の姿が。

 そして学校がルネを許す場面が。キンバリーに入学して半年経てば、ここがそういうところであると彼らにもよく分かっていた。

 

「そう、だよね……って言うのも変かな」

 

 身を守るために人を殺したら、素直にそれを報告する。それが他人への良い評価であろうかと思い、カティは首を傾げたが。

 

「変ではありません。私への正しい言葉ですよ」

 

 ルネは喜んでその評価を受け入れた。そんな人物に教えを請うているカティはぎこちない笑みを浮かべる。

 ついでにカティは訊ねた。

 

「なら、ルネは先生がどうなったと思うの?」

「殺されたのでしょう」

 

 あまりにあっさりとした答えに質問者であるカティだけでなくオリバー達も、もっといえば周囲で聞き耳を立てていた同級生達もむせ返った。

 下品に吹き出した紅茶を上品に拭ったミシェーラがルネを諭す。

 

「そう滅多なことを言うものではありませんわ、ルネ」

 

 彼女の窘めにルネは不思議そうな顔をした。

 

「事実なのでは? 四ヶ月も姿を見せていないのですよ。となると亡くなったと考えるのが自然です。

 またあの人の力量から迷宮で事故死したとも思えませんから、誰かに殺されたと考えてもおかしくはないでしょう。そうではありませんか? Ms.(ミズ)マクファーレン」

「──ッ」

 

 話を振られたミシェーラは答えられなかった。周囲にマクファーレン家の長女が賛同したと言質を取られるわけにはいかなかったからである。

 それに下手なことを言って余計な問題に首を突っ込むことも遠慮したかった。

 

 仮に……そう、仮にダリウス=グレンヴィルが何者かに殺されたとして。それを表明することは、その殺人者の気を惹くようなものである。

 妙な詮索をして寿命を縮めるつもりは彼女にはなかったのだ。

 

 その点ミシェーラはルネ=サリヴァーンが羨ましく思った。彼は自由だった。自分が殺したなら堂々とすると宣言しても、またグレンヴィル教授が誰かに殺されただろうと口にしたところで誰も彼を止められないからだ。

 

 ルネはミシェーラが口ごもったことが不思議だったようだ。が、それ以上問い質すことはしなかった。

 

「ただの噂話です。真面目に答えてもしかたないかもしれませんね」

 

 会話に乗ってきてくれなかったのを少し寂しそうにして話を終える。

 

「もし、ルネが言うようにあの先生が殺されたとして──」

 

 周囲もしんと黙ったと思いきや、ふとピートが口を開いた。それは単なる好奇心からだったのだろう。

 この天才がどのような答えを口にするのかを聞きたかった。そんな軽い気持ちだった。

 

「ルネ。お前は誰がやったと思う?」

 

 ミシェーラやオリバーが止める間もなく彼は訊ねた。そして、ルネはまたあっさりと答えた。

 

「グレンヴィル先生を恨んでいる人でしょうね。また殺したことを隠さないといけない人でしょう。となると先生ではないかもしれません。どの先生も正当な殺害理由を考えてから実行に移すでしょうから。

 それが建前であれ本心であれ、いずれ露見するリスクを考えれば隠すという選択肢はなくなるはずです。ここの先生達は優秀な方ばかりですから。殺害計画を考え、またそれを正当化する方法も考えるでしょう。

 となると生徒か部外者に殺されたのかもしれません。恨まれるに事欠かない性格の方のようでしたからね」

「確かに。そんな胡散臭い噂はボクもよく聞いたが……ッ」

 

ルネを止められなかった二人は、代わりにピートを止めた。慌てて彼の口を抑える。

 

「今の段階で迂闊なことを言うものではありませんわ」「ああ、そうだ。君達の会話はあまりにも踏み込み過ぎている」

 

ルネは何を言ったところで自分で対処できるだろうがピートは違うのだ。そんな事情を何一つ考えないルネにオリバーとミシェーラは鋭い視線を向けた。

 この少年を巻き込むなと。

 

「ごめんね。最初に私が変なこと訊いちゃったから」

 

 二人の口調の強さにカティがしゅんとする。そもそもの会話の発端は自分だからだ。

 

「カティ……」「いや、君は……」

 

 彼女が出てくるとオリバーとミシェーラもそれ以上は強く言えなくなった。追求した手前、どうしたものかと困った顔になる。

 

 そんな光景を見てルネは「ふふっ」と小さく笑った。

 

Ms.(ミズ)アールト。せっかく私のせいになっていたのに自分から名乗り出なくても良かったのですよ。それが君の良い点なのでしょうが。

 グレンヴィル先生を手にかけた方もそうです。どうして私のせいにしなかったのでしょうか。こんなにも罪を擦りつけやすい人物がここいるというのに。恨まれているタイミングといい、実力といい、先生を殺したと言われてもしかたのない魔法使いだと思いますが」

「こちらに話題を振らないでくださいまし」「楽しんでるだろう、君」

「分かりましたか」

 

 楽しそうにルネがそう答えると二人は呆れた視線でルネを見つめた。そんな目を受け、話に夢中で前のめりになっていたルネはゆったりと椅子に座り直して言う。オリバー達だけでなく、周囲の生徒達にも。

 

「無責任なことを言って申し訳ありません。実際のところグレンヴィル先生が今どうなっているのか私にはさっぱり分からないのです。

 ただの噂話ですよ。そもそものきっかけはこのゴシップ誌なのですから。どうぞ聞き流してください」

 

 一人そう言い終えると、ルネはまた別の新聞を手に取ってそれを読み始めた。

 はあ、と誰もがため息を吐いて朝食に戻っていく。朝っぱらから疲れさせる面倒な奴だ、と。

 

 ルネは新聞記事を読みながら、ふと気づいた。

 正直なところグレンヴィルがいようともいなくなろうとも彼の中に関心は一つもなかったのだが。自分で話題にして思った。少し調べてみるのも良いのかもしれない。

 

 つい数ヶ月前まで敵対していた仲である。

 それに本当に事故死した可能性だってあるのだ。グレンヴィルを見つけ、迷宮から死体を引き上げてあげようという善意くらいは彼の中にあった。

 もし部外者の犯行ならそれはそれで面白いし、生徒であればもっと面白い。

 

 好奇心をくすぐられた。いや、自らくすぐったと表現すべきか。

 

 カティ達の指導だけでなく、自身の研究や狩りなどルネにはやるべきことは多い。しかし、その片手間に錬金術教授の失踪について調べてみるのも良い気分転換になるだろう。

 

 教師達もまだ本格的に調査へ乗り出していない事件である。何かしら結果を出せばそれなりに評価してくれるはずだ。そんな軽い気持ちでルネは決めた。

 トロール騒ぎの謎解きの後はグレンヴィル失踪事件について調べてみよう。自分なら、きっと結果にたどり着くはずだ。

 

 

 

「おはよう。すまない、遅れた」「……すまない」「悪りぃな」

 

 翌朝。食堂に少し遅れてやってきたオリバー、ピート、ガイの声に先に食事を取っていたルネと女子達が顔を上げる。

 彼らが遅れるのは珍しいことだった。このメンバーはほとんど同時に、一緒に食事をすることが多いのだから。

 ルネの視線はまずオリバーに向いてすぐにピートへと注がれた。

 途端に彼の目が黒い瞬膜に覆われる。神の目(トラルファマドール)だ。あらゆるものを見透かす、ルネの神秘の目である。

 

「な、何だ」

 

 彼の夜空のような視線にピートは居心地悪そうにする。不気味な目とはいえ少し見つめられたくらいでピートも過剰反応のように思えたが、そんな嫌がる様子を見てもルネは凝視を止めない。

 

 そうなると異常である。しかし、その無礼を注意する声が出る前にルネは微笑んで言った。

 

「──両極往来者(リバーシ)ですか。遅れた理由はそれですね。

 しかし、おめでとうございます。珍しい体質に目覚めましたね。その能力はきっと君の役に立ってくれることでしょう」

 

 そして瞬きと共に神の目(トラルファマドール)が目尻に収納される。いつもの青い瞳に戻ったルネと目を見開くピート。

 二人以外のメンバーはびっくりした様子で視線を彼らの間で行き来させた。いつも通り落ち着いたルネとびっくりした顔のピートの顔を。

 

 彼らが何かを言う前にルネは左右の目尻を両手で揉み始めた。少し痒みが出たようだ。そうやって対処しながら昨日のことを思い返し、説明を続ける。

 

「昨夜は良い月が出ていた夜でした。その影響もあったのでしょうか。骨格などが完全に女性のものになっているようですね」

「……オマエ、見たのか!? ボクの服の下を!?」

 

 突然のルネの指摘に硬直していたピートだが、はっとすると慌てて自分の体を隠すように抱きしめた。その反応に彼は不思議そうな顔を見せる。どうして恥ずかしがるのかよく分からなかったようだ。

 痒みの収まった目から手を離し、首を傾げつつも彼は訂正した。

 

「いえ、見たのはもっと奥ですよ。肋骨の広がり方、幅広い骨盤、そして子宮。それらを見なければ。

 その結果、君に起きたのは完全な両極往来者(リバーシ)の変化だと分かりました。いや、良かったです。中途半端な変化だと体に強い不快感などがあるのですが、どうやらそうではなさそうですから。

 ──強いていうなら魔力流に滞りがあるくらいでしょうか。骨格や臓器の位置が少し変わったことで魔力流の位置も変化があります。神秘神経系がそれに慣れていないのでしょう。

 しかしそのままにはしておけません。平時においても神秘神経系の混乱は体調不良の原因になりますし、その状態で魔法行使をすると最悪立っていられなくなります。早めに滞りを解消しておくべきでしょう」

 

 つらつらと淀みなく診察結果をピートに伝えるルネ。しかし、ぎゅっと自分の体を抱きしめるピートはルネを睨むばかりだ。

 ルネにとってはただの診察なのだろうが、突然透視されたピートはかなり気分を害したようである。それすらルネは症状であると口にした。

 

「いつもより怒りっぽいのも魔力流の不調が精神面にまで影響を及ぼしていることの証左です。速やかな治療が必要ですね。となると優れた魔力流の知見を持つ魔法使いが必要です。私のような」

 

 じっとルネはピートを見つめた。今度は透視でもなんでもないただの青い瞳だったが。彼は全く警戒心を解かなかった。

 席を立ち、近くにいたオリバーの後ろに隠れる。

 

「助けろオリバー! ルネに解剖される!」

「ぴ、ピート?」

「やはり普段よりかなり感情が昂ぶっているようですね。私ならその症状を数分で治せますよ。さあ、Mr.(ミスター)レストン。こちらへどうぞ。少し触らせていただければそれで十分ですから」

「いい! オマエには頼りたくない! この変態!」

「おやおや。見た目と同じように可愛らしい悪態ですね」

「うるっさい!」

 

 ぎゃーぎゃー騒ぐピートと彼に接触を図り続けるルネ。その間にオリバーが立たされ、困った顔で二人を見つめた。

 他のメンバーは大声を出すピートに驚いているのか状況を伺うばかりだ。

 

「二人とも止めてくれ。ピートは落ち着いて。俺の肩を掴んでいても良いから。

 ……それとルネも。今はピートに構わないでやってくれるか。君の目の良さは認めるが、少しはピートのプライバシーというものも考えてやってくれ。特に両極往来者(リバーシ)のような能力に目覚めた時は」

「では、アドバイスだけ。治療を受けないのであれば今日は自室か医務室で体を休めた方が良いと思いますよ。体調が悪いのは事実ですし、魔法行使で気絶する可能性も本当のことですから」

「いや。俺達が見ておく。だから君は安心してくれ」

「そうですか。では君達におまかせするとしましょう」

 

 あっさりと諦めたと思いきや、ルネは席を立った。

 

「では、また。箒術の授業でお会いしましょう」

 

 彼は多忙な生徒である。ふらっと現れ、あっという間に去っていくことは日常茶飯事であった。

 しかし、今日は少し居心地の悪さを感じたのかもしれない。自分を睨みつけるピートのために姿を消したのだろうか、とオリバー達は考えた。

 

「ところでピート。いちおう俺達も確認するが、その、ルネの言う通りなんだな? 完全に性が反転したと? 無礼を承知で訊くが、下もか?」

 

 ルネが食堂から出ていった後でオリバーはピートに訊いた。彼は素直に頷く。ルネがいなくなったことで少し落ち着いたようだった。ちょっと後悔した口ぶりで話し始める。

 

「それにアイツが言っていたのも正解だ。起きてからからずっと調子がおかしいんだ。体調も、気分も。……ルネに悪いことしたかな。本当のことを言ってただけなのに」

「いや、不調で機嫌が悪かったことを差し引いてもルネは無礼だった。君が怒ってもおかしくはない」

「そうかな」

「そうさ。だからこれ以上気分を悪くしないでくれ」

「……なあ、これはいったいどんな体質なんだ?」

 

 

 

 両極往来者(リバーシ)については今頃オリバー、ミシェーラがピート達に解説している頃だろう。ルネは食堂から出るとそう考えながらおっとりした足取りで校庭へと向かった。箒術の授業が行われる場所へ。

 

 まさかピートが両極往来者(リバーシ)であったとは。彼とおおよそ半年接していたルネも発現するまで気がつかなかった。

 似た体質の魔法使いは発現前の徴候などを機敏に察知するらしいが、ルネはひとまず安堵する。

 幸か不幸かとりあえず自身の関心を一時的にピートに逸らすことができて良かったとルネは思っていた。

 

 ピートの両極往来者(リバーシ)については多少驚きはしたが、本当に関心があったわけではないのだ。

 もちろん全く興味がないわけではないが。魔法界でも発言することの少ない体質だ。ただしこの体質そのものに関心がないのは事実である。

 サンプルという意味ではサリヴァーン家はこの血統を複数確保していた。この体質の魔法使い一族を幾つか買い取っている。

 そのうえで比較対象はあって困ることはないが、剥き出しの好奇心を向けるほどではない。

 

 また、ルネはこの体質で得られる感覚以上に魔法的な変化に鋭い。

 男女の体に変化する体質は、つまり変化という魔法において重要な感覚を何度も体感できるという大きな利点があった。

 魔法使いは変化を操る。何もないところから炎や雷を呼び出すことも、地面から壁を作り出すこともそうだ。魔力を頼り、何かを変化させているのだ。

 

 両極往来者(リバーシ)の魔法使いは男から、女へ。また女から男へと魔法的に体が変化する。これらの往復の中で彼らは体が組み変わる魔法的な変化を意識、無意識に感じ取っているのである。

 この特異体質の保有者に優れた魔法使いが多いのは、肉体の魔法的な変化の経験を多く得ることで魔法を操る際の変化にも長けるようになるからというのが通説だ。

 その他、性差によって得意な魔法の属性が変わるなど魔法にバリエーションが発生することも利点だ。

 

 しかしルネはこの体質の恩恵以上に変化を器用に操ることができた。自らの探求の果てに彼はどんな魔法も呪文や杖を使わずに自由自在であるのだから。

 それにこの体質並みに体を変化させることもルネはできた。男だろうが女だろうが、別の生き物だろうが自由である。

 そんなルネにとって両極往来者(リバーシ)は珍しさ以外の価値がない。また血をコレクションする趣味があるわけではないので、珍しさそのものに関心があるわけでもないのだ。

 

 仮にピートのこの特異体質に価値をつけるのなら彼の身辺調査を徹底的にやってからだ。

 一応調べておこうか。血縁に本当に魔法使いがいないかを。

 それ用に人員を割くことは歩きながらでもできた。ルネは多忙な生徒であるが、常に限界でいるわけではない。ある程度の余裕は常に持っているのだ。

 善は急げだ。余剰の自動人形(オートマトン)ルネや人造人間(ホムンクルス)達を使い、ピート=レストンの血統の調査を始めた。

 その中に魔法使いがいるかいないかで彼の体質には大きな価値の差が出るのだから。

 

 瞬きの間に指示を出し、両極往来者(リバーシ)についての思考はそこで終わった。

 となると次はこれを考えざるを得ない。昨夜からどうしても気になっていることがあったのだ。

 とても、とても慎重にならなければならない事案だった。彼に興味を抱いたことを気づかれてはならない。

 おかげであの場では注意をピートだけに向け続けることが難しくなり、隠した好奇心を賢い彼に悟られないように席を立ったのだが。

 

 ルネは思いを馳せた。オリバー=ホーンへ。彼と、彼の仲間達だ。ダリウス=グレンヴィル殺害の主犯達である。

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