七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~    作:HAL1993

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第4話~魔法生物学教授と~

 夕食後ルネは使い魔の不死鳥と共にバネッサ=オールディスの教授室へと向かっていた。事前の約束で使い魔の不死鳥クリスタと共に訪問することになっていたのだが。

 ルネは正直今の彼女と会うべきか迷っていた。トロール騒ぎの後、教授の精神状態が想像できるからである。

 

 しかし約束をすっぽかすわけにはいかない。

 これは重要な約束だ。今日の試験を突破できればキンバリーで魔法生物を自由に扱うことができるのだから。

 ルネは今後研究のために多種多様な魔法生物を扱う予定なのだが、学校側から配給される実験体では足りないし確保までに時間がかかるのが明白だった。

 この障害をなくすためには魔法生物学科教授、つまりバネッサ=オールディスの許しが必要となる。

 彼女に認められれば購入も繁殖も報告書を出せば自由にできた。

 

 校則の通じない迷宮内では許可なしの魔法生物の取り扱いが数多いが、主に校舎内の工房を拠点とするルネにはどうしても彼女の許可がいるのだ。

 誤魔化そうと思えばできないこともなさそうだが、そのために労力を使うよりも研究に努めたい彼は真面目に許可を貰うつもりなのである。

 

 そのための準備は既に十分すぎるほどしてきた。

 要求されたレポートはずっと前に提出してあるし、その他必要書類も渡してある。

 入試の際に魔法生物の解剖学に関する口頭試問も行ったし、実技試験として調教も行い、また魔法生物の治癒の実技試験も行った。

 

 内容的には魔法生物医の資格認定試験と遜色ないものである。

 学生の身分で、学校から口出しされずに自由に魔法生物を扱うというのはそれだけ難しいということだ。更に最終試験としてバネッサはルネの使い魔を見せるよう言ってきたのだった。

 ルネはこれまで通り文句一つ言わず与えられたハードルを飛び越えるために予定をこなす。

 

 場所は魔法生物学科の教室の隣だ。この授業では基本的に実習を重視しているので屋外の作業スペースをメインに内容が展開されるのだが、知識を深めるための座学や試験がないわけでもない。

 彼女の教授室の近くまで来ると魔法生物学科の専門研究生達が死んだ表情で廊下に立っていた。

 

 七年の勉学を終え、キンバリーを卒業した後もこの学校に残り神秘を研究するルネの偉大な先輩達である。

 研究をしつつ、それぞれの教授を補佐する助手としても働く彼らは現在教授室や助手室、研究室から避難していた。

 それぞれ腕には貴重な資料や道具、論文が抱えられている。

 

 そしてオールディス教授の部屋からは絶叫というか唸り声というか、とにかく彼女の怒声と部屋を壊して暴れ回る音が響いていた。

 学科の恥を外に出さないためか、魔法生物学科の管理するエリア以外には音や振動が伝わらないように専門研究生達が魔法で結界を張っているようだが、それすら揺らし破壊しかねないほどにバネッサは暴れ回っていた。

 

 専門研究生達はうんざりした表情を浮かべている。

 魔法生物学の研鑽を積み、この学問を発展させていくことは魔法生物学専門研究生達の重要な任務だが、それと同じくらいにバネッサ=オールディス教授の世話をするのも彼らの重要な任務なのであった。

 その対象が今絶好調に不機嫌である。暴れ回る猛獣に手の打ちようがない調教師に似た諦観だ。

 

 ルネも「クソが!」やら「なんでアタシが責任取るんだよ!」という叫びと轟音の響く部屋に入りたくはない。

 入りたくはないのだが、行かないといけない。

 専門研究生達の心配そうな眼差しの中でルネは部屋の扉をノックした。

 途端にその扉が砕け、中から巨大な手が伸びてくる。

 

 ルネは寸前にそれを察知し、全身に魔力を満たすと白鳥ほどの大きさの不死鳥を抱え、軽い動きで巨大な爪の生えた巨大な手を避けた。

 クエエ!? と不死鳥が鳴く。

 彼女を安心させるように胴を撫でながらルネは素早く動いた。扉から飛び出してきた筋肉の塊と、先ほどまで扉があった空間との間にできた隙間から一瞬で転がり込むように教授室に入る。

 

「失礼します。オールディス先生。ルネ=サリヴァーンです」

 

 そして軽い動きで佇まいを直すと室内で暴れ回っていたバネッサ=オールディス教授と対面した。

 そこにいたのは薄い布地の上着にボロボロのズボン、そして汚れた白衣を羽織った教員とは思えないラフな服装の女性である。

 しかし彼女の服装より何より目につくのは彼女の手だ。

 

「ん? ああ、そーいや呼び出してたな。(わり)(わり)ぃ」

 

 その形は人のそれではない。人一人を握りつぶせるほどに大きな掌に、そこから広げられた巨大な指。その先端に鋭く光る指と同じように大きい爪。

 腕の筋骨も禍々しく質感を変えており、肩の辺りでようやく人間らしさを取り戻していた。

 

 バネッサ=オールディスは気軽そうに魔人のような巨大な腕を振りながら、それを元の人の形に戻していく。めきめきと骨と肉が軋む音が室内に響き、数秒でしなやかな女性の腕と手に戻った。

 そしてきょろきょろと部屋の中を見回し、その惨状に舌打ちする。教授室どころか壁を突き破り、隣の助手の部屋なども破壊が広がっていた。

 

「ちッ……ちょっと待ってろ」

 

 バネッサは腰のベルトから杖を抜いて呪文を唱え、自分が壊したり滅茶苦茶にしたりした部屋の調度品などを直していく。

 ルネは部屋を飛び交う木片などを避けながら修理されるのを待った。

 最後の机の破片が元の位置に戻ると、ぽわりと柔らかな照明が灯る。

 

「よしこれで終了っと……おい! 外に持ち出したやつをさっさと戻せ!」

「へーい」

 

 部屋の修理を終えたバネッサは扉の外に顔を出すと、人の形に戻した両手をばんばん叩きながら待機していた研究生達に怒鳴った。

 彼らは慣れっこの様子で室内に入り、避難させていた貴重品を片付けの魔法のように的確に元あった位置に戻していく。

 いそいそと片付けていく研究生達を横目にバネッサは自分の椅子にどかんと座るとルネを手招きした。

 

 机の前にやってきたルネへ、バネッサは明らかに相手を驚かすようなタイミングでばっと身を乗り出して彼の肩に留まる不死鳥を眺めた。

 黒々とした丸い瞳は全く揺るがず、クリスタは鳴き声一つ上げずに静かにバネッサを見返す。

 あえて驚かせた魔法生物学の教授は再びどかりと椅子に座った。

 

「ふん。しっかり躾けてあるみたいだな。しかも原種かよ。生意気な奴だな」 

「ええ、彼らはとても気難しく生意気ですね。でもなかなか愛嬌のある子達なんですよ?」

 

 不死鳥は本来なら異界である蝕む火焔の炉(ルフトマーズ)の生態系に属する生物だ。異世界からこちらの世界にやってきた外来種である。

 ただ、その中でも特殊な立ち位置にいた。

 

 異界からやってきた生物はこちらの世界の規律にまず晒され、元の世界で振るっていたその力の大半を失うか、あまりに弱い生物の場合は「渡り」をした段階で絶命してしまうものもいる。

 

 そんななかで不死鳥は異界本来の力を全く失わずに飛来する。

 火さえあれば永遠に生き続けるというその名の通りの不死の力である。この不死性による不変であるがゆえに、異なる世界に渡った際の規律の修正もほぼ通じないというのが通説だ。

 

「そして美しい生き物です。永遠と輝く太陽のように。異界の神をも惚れさせるのも納得です」

 

 彼らは辺り一面に火が広がる蝕む火焔の炉(ルフトマーズ)においてはまさに永遠の存在であった。その異界の神すら愛してやまない美しい赤と黄金の鳥である。

 

 ルネが手を伸ばすとクリスタはぴょんぴょんと跳ねてそこを伝い、指先まで移動した。細い指をぎゅっと掴む金色の足だがルネには重みも痛みも全くない。

 クリスタは自慢するかのように赤く美しい翼を広げ、また黄金の尾羽を見せつけるようにくるりと回った。

 

 確かにルネの言う通りだった。汚れ一つない赤は美しさそのものである。

 研究生達は感嘆し、バネッサも否定はしなかった。

 不死鳥を愛おしそうに眺めるルネにバネッサはやれやれと肩をすくめる。

 

「生意気なのは不死鳥の方じゃねえよ、天才さん。ま、それは良いとして。魔法生物の扱いについては何ら問題ないようだな」

「ええ、魔法による支配でない完全な飼育下にある不死鳥は初めて見ました」

「つーか、こいつ以外いねえよ」

 

 片付けながら口を挟んできた研究生にバネッサが反応した。

 

 不死鳥の飼育は不可能と言われているのだから。

 誇り高く、また小規模ながら相手を延々と焼き尽くす異界の炎を呼び起こせることから、世界規模での危険はないものの個人で付き合うには厄介な相手だからである。

 不死鳥の不死性を研究しようとしてその炎に焼き殺された魔法使いは数多い。

 魔法使い達が魔法で操った不死鳥と、この世界の鳥を無理矢理に掛け合わせた第二世代の不死鳥が辛うじて飼育可能と言われていた。

 

 しかしルネのクリスタはそうした交配を経ていない。異界から飛来した不死鳥そのものである。

 その体の美しさが証明だった。

 望まぬ不死鳥の子は雌雄問わず醜くなるし、また親鳥も黒ずんだ赤の汚い鳥に変わってしまう。

 クリスタにはそんな汚れは一つとしてなかった。

 

「出したレポートも読ませてもらったし、まあこれは試験でも何でもないが、アタシの一撃を避けたところを見てもいざという時の魔法生物の扱いについて異論はない。そーいやパレードの騒ぎの時にも暴れかけた奴らを鎮めたそうだな。それも加点で合格だ。校内で自由に魔法生物を扱うことを認めてやるよ。おめでとさん」

 

 バネッサは研究生に書類を持ってくるよう指示を出し、彼らが用意するまで椅子にふんぞり返って待った。

 そして机の上にペンや書類一式が用意されると「じゃあ書きますかねえ」と言ってサインを始めるが。

 ふとそこで手の動きが止まった。

 

「──いや、もう一つだけ試験をやってもらおうかな」

 

 ペンをころりと机の上に転がすとにやにや笑いながら彼女はルネを見つめる。

 嫌な予感がした。それは研究生達も同じであったようだ。ルネの後ろでざわりと雰囲気が変わった。

 

「今回、暴走したトロールについての調査だ。どうしてあれが暴れたのか調べてきな」

 

 そう指示したバネッサに研究生達が遠慮がちに言った。

 

「そ、それは……」

「本来我々がやるべきことでは……」

 

 研究生達がそう具申する中でバネッサは言い放つ。

 

「こーゆーのには第三者の視点ってのが必要だろ?」

「──許可ちらつかせて第三者もクソもないと思いますが」

 

 魔法生物学科の研究生達は教授の奴隷ではあるものの発言の自由はあった。何とか思い留まらせようとする彼らだがバネッサは全く止まる気配がない。

 机をばんばん叩きながら口調を荒げた。

 

「あ~! うるさいうるさい! お前ら調べても特に何も分からなかったんだろ!? アタシもこーゆー調査は得意じゃないし、この天才様なら何か分かるかもしれねぇだろ!」

 

 今回の入学式で起こったトロール騒ぎで魔法生物学科はエスメラルダ校長から状況報告を求められていた。

 しかしこれといって今のところ原因らしい原因が分かっていないのだ。

 あのトロールが魔法生物学科の預かりで校内で荷役に就いていた個体であるのは間違いない。

 健康状態は悪くないし、極端に反抗的な個体でもなかったはずなのである。

 それがよりによって入学式のパレードで新入生を前にして暴走し、怪我人まで出してしまったのだ。

 

 キンバリーとしてはどうしてこうなったのか解明しないといけないのだが、魔法生物学科は完全に行き詰っていた。

 初日で行き詰るも何もないかもしれないが、彼らは直感でここから先にはいけないと予感していたのである。

 

 ルネはその試験を受けるとも受けないとも言っていないが、研究生の一人から渡された資料に目を通す。

 確かに魔法薬を盛られて行動がおかしくなっていたわけでもないし、また魔法使いによって魔法で操られていたわけでもなさそうだった。

 

「さっさと殺処分しろって意見もあるがな。このままじゃアタシらが十割で悪いってことになっちまう。それだけは避けたい」

 

 バネッサが先ほど荒れていた理由である。

 自分だけの責任にされるのがどうしても我慢ならない。口ぶりから全く責任がないとは思っていないようだが、納得できないことは極力なくしたいと思っているようだった。

 

「管理の生徒や研究生をトロールの近くに配置していなかったのはこちら側のミスですが、あのトロールが暴走するわけがないんだ」

 

 研究生達も自分達に全く過失がないとは思っていないようだったが、何の解明もなしに全ての責任を取らされるのは嫌であるようだった。

 そのために即刻殺処分論を退け、魔法生物学科はトロールの調査を行っていたのである。

 殺処分後の解剖で分かることもあるかもしれないが、生きている間にしか分からないこともある。この点が彼らにトロールの殺処分の判断を留まらせていた。

 

 これが生徒の過失によって起きた事故なら真っ先に魔法生物学科は対象を殺処分にする立場になるのだが、珍しく今回は事件解明の旗振りをすることになったのだ。

 慣れないことをやっているのも先行きが暗い理由かもしれない。

 

「──ほぼ同時刻に新入生の女子一人が悪戯を受け、魔法でパレードの前までは走らされたそうですが」

「お嬢ちゃん一人走り寄った程度で暴れさせるような調教はしてねえよ。新入生の魔法程度でそれを狂わされたってことなら余計にアタシらが文句言われるだろーが」

 

 資料に書いていなかったことをルネが伝えるとバネッサは面白くなさそうに反論する。

 文句云々はともかく、ルネも新入生による悪戯という線はないように思っていたので「確かにそうですね」と彼女に同意してこの話を終えた。

 

「調査に期限はあるのでしょうか」

 

 そう言いながら借りた資料を研究生に返す。研究生はぎょっとした顔でルネを見た。

 

「え、やるのかい?」

「そうこなくっちゃな! さっすが天才様よ!」

 

 バネッサはぱちぱちとわざとらしい拍手をした。

 

「とりあえず一か月だ。来月末に報告しな」

「かしこまりました。内容としましてはトロールについてだけでよろしいのでしょうか」

 

 もしいるのなら犯人探しもするのかという意図の質問だった。

 そう尋ねるとバネッサは考えた。腕を組み、天井を見上げる。

 

「あー、そうだな。トロールに関してだけだ。校長様も犯人を見つけ出したところで『それを防げなかったお前達が悪い』ってだけになるだろうしな」

 

 ルネは意外そうな顔をした。徹底的に調べ上げろとでも言われるのかと思っていたのだが。

 

「ま、分かったらそれに越したことはねえけどな。アタシも新入生にそこまでさせる気はない。課題を出すにも限度ってもんがあるのさ。今回の課題の限度はトロールに関してだけだ。この課題で見たいのはお前の調査能力について、ってことで。試験用紙の上にない現実の問題に対してどう対応するのか見せてもらおうかって感じだな」

 

 バネッサはそう試験内容を説明した。

 ルネはじっと彼女を見つめる。

 トロールについてはどう問題が起きたのかは全く分かっていないようだったが、関係者については心当たりがあるのだろうか。

 口振りからすると何となくそんな感じがした。ルネのその疑惑の眼差しをバネッサは睨み返す。

 

「んな目で見るな。余計なことじゃなくて、課題にだけ頭を働かせな。ほら、さっさと行け」

 

 しっしと手で退室を促されたのでルネは一礼すると教授室を出て行った。

 

 

 

「よろしいのですか教授?」

 

 ルネが退室した後に研究生の一人がバネッサに尋ねた。

 

「あ? あっちがやるって言ったんだから何も問題ないだろ。あいつもやる自信がなきゃ受けなかっただろうしな」

 

 引き出しから酒瓶を取り出し、口でコルクを噛んで引き抜く。研究生がさっとグラスを手渡すとバネッサはそこに酒瓶の中身を注ぎ、一気に呷った。

 

「サリヴァーンの書いた『人工霊体精製術』は読んだか?」

 

 グラスの端をぺろりと舐め、生徒にそう質問するとバネッサはもう一杯酒瓶の中身をグラスに注いだ。

 研究生達は互いに顔を見合わせ、代表として一人が答えた。

 

「いえ、まだですが──呪文学に関する著作では?」

「じゃあ今度の課題図書にしてやるよ。あいつはこの本の中で主に霊体を人工的に作る方法について語っているが、一章を割いていかに霊体を利用して生命を操るのかについても語ってるんだ。

 魔犬(ワーグ)を作る時みたいなただの魔力干渉じゃねえ。あいつは霊体を介して生命の肉体に手を出すことができるんだ。あの淫魔(サルヴァドーリ)がやってる合成獣(キメラ)どころじゃねえぞ。あの一族は淫魔(サキュバス)の子宮で子種に利用した生物の性質や肉体を魔法的に無理矢理に縫い合わせているだけだからな。一般的に思われているほど自由度は高くないんだ。一方あいつのは生命のあり方そのものを変えちまう。自由自在に」

 

 興奮して自分が話していることに気づいたのかバネッサは二度グラスの中身を空にする。

 

「そんなことが可能なのでしょうか」

 

 バネッサが話せるタイミングで研究生が尋ねた。

 

「実例はある。異端(グノーシス)共だ。あいつらは異界の神の加護を受けることで肉体を変容させやがる。魔法生物学上の理論ではあり得ねえ変化すら起こしちまうのは知ってるだろ?」

「変異した異端(グノーシス)は真っ先に焼却処分にされますので実物を見たことはありませんが、異端狩り(グノーシスハンター)の報告書に記載されているものでは見たことがあります。確かにあれほどの変化を及ぼすのは魔法使いの技術では不可能ですが──」

 

 研究生はここまで口にして、ふと思い至った。

 

「──『かつてこの世界にいたという神はこのように力を使っていたのかもしれない』」

 

 呪文学の教授がルネを評した際の文言である。バネッサはグラスを指し棒のようにその研究生に向け、彼の発言を肯定した。

 

「ババアがサリヴァーンを分析した時に使った言葉だな。あれが出た時には誰もが褒めすぎだと言ったもんだが、あのババアは過度な表現を使わねえ。神に例えるのが的確な表現だと思ったんだろうよ。事実あれは神の御業だ。サリヴァーンの専門の一つは異界だから、異界の神の力を研究した結果、あいつらがどうやってこっちの人間に影響を出しているのか気づいたんだろ」

 

 ざわりと研究生達が興奮する。

 

「神の力、すなわち異端(グノーシス)に授ける神の加護についてですね。つまり彼の説では異端(グノーシス)の霊体に影響を与えているということですか……確か異界の神の加護については天文学においても諸説あるのでは?」

「神の加護については異界の神に近い強力な使徒共を通じて与えているという説が主流だ。ただ霊体に影響を与えているのか肉体に影響を与えているのか、具体的にどうやっているのかは分かっていないし、異論もある。そういった使徒を介さない異端(グノーシス)の肉体の変質も多数確認されているからな」

「確か寄生生物という説もある。驕れる緑の庭(ハデイアユピトル)獣の大地(ガノサタン)は人体に寄生する使徒を送り込んでくるだろう?」

「だが他の異界にはあまり見られない。それはその二つの異界が有機物の生命体を主軸に置いているからだろう」

「絶大な神の力によるものでは?」

「なら連中はわざわざ使徒共を送ってくることはあるまい。その絶大な力をこちらに向ければ良いだけのことだからな。何かしら理由があるんだろう。わざわざ使徒を送り、異端(グノーシス)を作らないといけない理由が」

「そこまでだ。魔法生物学から外れてるぞ、お前ら」

 

 バネッサは面倒そうに手をぱんぱんと叩き議論を始めた研究生達を止めた。

 静かになった彼らに呆れた目を向けつつ酒瓶をグラスに傾けるが中身が出てこない。バネッサは酒瓶を放り投げ、それを研究生が受け取って処分する。

 

「ま、その神の御業のお手並みは今回で分かるだろ」

「それで。誰がやったのか心当たりがあるのでしょうか」

「ん~。まあ教師の誰かだろうな」

 

 教授の口調から察していた研究生が尋ねるとバネッサは隠しもせずに答えた。

 

「勘だけどな。今回の殺処分、やたらと要望が多かっただろ? だから教師の誰かが煽ってるんだろうなと思っただけだ」

「そーいえばそうですね」

「普段殺処分については魔法生物学科(うちら)しかやる気出さないっていうのに」

 

 キンバリー魔法学校は治安の悪い学校ではあるが殺処分で興奮するような蛮族はいない。盛り上がるのは解剖の検体が増える魔法生物学科くらいであった。

 それが今回は何故だか殺処分の声が大きく上がってた。入学式でトラブルを起こしたということもあるのだろうが、にしても多いようにバネッサには感じ取れていたのだ。

 

「教師の誰かが関わってるのは間違いないんだろうが、目的も何やったのかもよく分からないんだよな~。面倒ごとを避けたいから殺処分ってのは分かるんだが」

「先生、また他の先生の気に障るようなことされたんですか?」

「だったら容疑者は山ほどいやがるな。アッハッハッハ!」

 

 豪快に笑う教授に研究生達は嘆息するばかりである。

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