七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~    作:HAL1993

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第42話〜一年生最強決定戦〜

 その日の授業が全て終わり、夕食頃の食堂。ルネは友人達と同じ食卓を囲んでいた。

 周囲が彼を見る目はいつも良いものというわけではないが、その日はいつも以上に敵対心を剥き出しにした視線が多かった。

 

 今日行われた魔道工学の授業のせいである。カティ達の後に他の新入生達を相手に二回授業をしたわけだが、もちろん内容は同じであり、大勢の生徒達が魔法トラップの被害に遭ったのだ。

 毒蛇に噛まれ、煙に目をやられるなどなど。食堂の中の新入生達の多くが被害者だった。助手とはいえルネへの好感度は下がる一方である。

 

「あんな拷問みたいな授業組んで」

 

 パイを口に放り込みながらカティが恨み言を呟いた。食事を始めてから彼女はそればかりである。彼女自身は蛇を操り、自身や友人達を噛まないようにさせていたわけだが。

 彼女が手助けできなかった生徒が大半なのである。カティの発言に同意しているのか、じろりとルネを睨む視線は減らなかった。

 

 そんな目をルネが気にすることもなく、彼はお茶を一口飲むと言った。

 

「授業の終わりにも言いましたが、フォルギェーリ先生も同じような授業をされます。私はその点に敬意を払っているだけなのです」

「そんなところを真似なくても良いでしょって言ってるの! 倶楽部でも団でもあんな指導してないでしょ、ルネは」

「しかし私は先生の助手として授業に参加していたのです。先生の意図を汲むのは当然のことでしょう」

「うっ……でも、ちょっと手心くらい」

「先生方はみなさん教育に真剣なのです。助手の私が手を抜くわけにはいきません」

「うう……」

 

 今まで言われ放題だったルネに反論されるとカティは何も言えなくなる。周囲の不満げな生徒達もだ。

 例外中の例外だが、ルネは新入生でありながら今後魔道工学の授業でフォルギェーリ教授の助手として活動するのである。となれば当然教授の方針に従うわけだ。

 

 だからといって納得できないのが人の心である。オリバー達も何も言わないが、今後の魔道工学の授業への不安は拭いきれなかった。

 イカれた師匠と弟子が織りなす摩訶不思議な授業を不安に思わない生徒はいない。

 

「ちなみに一番優秀だったのは君達の回ですよ。他の回だと時限反応型を見つけられずに発動させてしまったこともありましたし、三つの時限型を解体できたのも君達の回だけでした。素晴らしいですよ。よくできました」

「どうも」「ありがとうございます」

 

 ルネの称賛にオリバー達が適当な応えを返した。

 

 しかし、ルネはそんなこと気にしていなかった。授業終わりに伝えたように今日の授業はフォルギェーリ教授の真似をしただけであり、教授の授業内容も今日のそれと変わらないからである。

 恨まれる対象が教授に変わるだけであることをルネは知っているのだ。ゆえに彼はいつも通り席に着き、教え子であるカティから散々恨み言を聞いても気にしないわけである。

 

 ルネはぶつぶつと未だ文句を口にするカティを横目にぽつりと呟いた。

 

「──ところで。昼食時に決まったイベントについてなのですが」

 

 その声を聞き取った生徒達は一斉にルネから視線を外す。先ほどの怒りがどこへいったのかと言わんばかりの素早い動きだった。

 

 そんな周囲の様子にルネは寂しそうに息を吐く。

 

 同級生達の一過性の怒りよりもルネには気になることがあったのだ。一年生最強決定戦である。今日の昼休みから始まったイベントだ。

 内容はシンプル。誰が一年生の中で一番強いのかを決める戦いである。内容はメダルの争奪戦であり、七日間の間に参加者のメダルを数多く勝ち取った生徒が最強ということになる。

 決闘場所は校舎でも迷宮でも問わない、キンバリーらしい自由なスタイルの戦いだ。

 

 もちろんそんなイベントがあればルネは真っ先に参加を表明するのだが。今回は蚊帳の外である。なにせ一年生最強決定戦の参加者を募ったのが昼食時に彼が食堂から出ていった後なのだから。

 

 この決定戦を言い出したトゥリオ=ロッシという靴国(ユタリ)人の同級生は明らかにイベントからルネを除外できるようなタイミングを狙っていたのだ。

 加えてそのことに文句を言う参加者は誰もいなかったのである。むしろ彼がいなくて良かったと思っている生徒が大半だった。

 

 もし参加していたら彼が決定戦を荒らすのは必至だったからだ。

 つまり最強決定戦と銘打っておきながら主催であるロッシを含め自覚しているのである。本当に最強なのは誰なのかを。

 今回は彼にイベントを無茶苦茶にされたくない。実質二番手決定戦と後ろ指さされても良いのでルネを除外したかったのだ。

 

 ルネはただただ寂しかった。強い疎外感を覚えていた。

 もちろん彼も誰が最強であるのかは知っているが、それを証明する機会を逃す性格ではないのだ。しかし既に決定戦は始まってしまっているし、その場にいなかったのが悪いと言われればそれまでである。

 

「しかし、君らも出るとは意外です。Mr.(ミスター)ホーン、Ms.(ミズ)マクファーレン」

 

 ──卑怯な手に出たトゥリオ=ロッシの名前は覚えておくことにするとして。ルネは参加者である友人達に視線を向けた。

 ナナオ、オリバー、ミシェーラである。決闘を好むナナオは参加してもおかしくないとは思っていたが、オリバーとミシェーラは意外だった。

 特にオリバーである。こんな目立つイベントに参加するとは思っていなかった。目立ってはいけない生徒であろうに。

 

「同学年との試合を避ける理由もないからな」

「あたくしも同じですわ」

 

 返ってきた答えにルネは言った。

 

「そうですか。なら私の参加もお昼の時に言っていただければ良かったのに」

 

 最強決定戦を言い出した時に誰もこの場にルネがいないということを言わなかった。それはオリバー達もである。そのことを指摘するとオリバーが小声で反論した。

 

「……君も分かっているだろう。Mr.(ミスター)ロッシは君の参加を望んでいないから君が出ていった後にこの決定戦を言い出したんだ。仮に俺達が何か申し立てても適当にあしらわれただろう」

「……確かに。未練がましいことを言ってしまいました。申し訳ありません」

  

 ルネはあっさりと撤退する。オリバー達を問い詰めたいわけでもなかったし、彼の言うとおりだったからだ。 

 自分を入れたくないのならキンバリー生として何があってもそれを貫き通すはずなのだから。今更何を言っても無駄だろう。

 例えあの場を離れなくても、いずれ似たような状況をロッシは狙っていたはずである。彼の意図を事前に知っていなければ先手を打つことはできないのだ。

 

 もちろんルネは関心もない一人の靴国(ユタリ)人の思考を調べておくほど暇ではない。このことがなければロッシを意識することもなかっただろう。

 それこそ助手としての作業もあれば学生としての研究もあるし、他にも数々の役目があるのだから。

 

「今回はおとなしく君達を応援させてもらうとしましょうか──ふむ」

 

 もはや自分にできることは除外されたことである種の優越感を得るくらいだろうかとルネは思ったが、ふと思いついた。

 ロッシがキンバリー生として自分の阻害を貫き通すのなら、自分もキンバリー生として参加の意思を貫き通しても良いのではないかと。

 

 沈んだ調子から突如普段の微笑みを見せたことでルネが何かを思いついたのだと友人達は悟った。

 

「何をするつもりだ?」「ルネ、何をするつもりですの」

 

 オリバー達の問いかけにルネは微笑みを見せるだけだった。その様子を周囲の生徒達も見ていた。ルネ=サリヴァーンが何かするつもりだと。

 

 大勢の生徒が思ったのはロッシへの襲撃である。言い出しっぺである彼を脅し、参加を認めさせるのではないかと。

 それを危惧した複数の生徒が彼に警告した。何人もの友人達から連絡を受けたロッシは尻尾を巻いて逃げるような真似はしなかったが、その夜は杖剣を片手に自室を出ないようにするのだった。

 

「あのイカれ野郎が。来るなら来いや」

 

 そう決心を口にして徹夜をしたが。しかしルネは姿を見せなかった。何度か眠気に負けそうになりつつもロッシは待ったが、あの怪物はやってこなかったのだ。

 

「はぁ──なんや、来ぃへんやないの」

 

 そう思って寝ぼけ眼を擦りながら遅めに校舎へと入ったロッシだったが。そこで聞いたのは昨夜起きた迷宮での襲撃事件だった。

 

 

 

 前日の夕食後。訝しげな友人達の眼差しに送り出されたルネは食堂を出ると大勢の生徒達に声をかけた。

 もちろん全員が最強決定戦の参加者だ。例えそれまで全く話したことのない生徒であっても彼は気軽に近寄った。

 

「ごきげんよう、Mr.(ミスター)ハリス。これから私と決闘はいかがでしょうか」

 

 突如目の前に現れた小柄な少年の呼びかけに彼よりもずっと背の高いハリスはびくりと震える。まさか自分に声をかけてくるとはと緊張が走った。

 同じくらいに周囲も緊迫する。ルネが何をするのか、またハリスがどう答えるのか。廊下の真ん中で行われたやり取りに注目が集まった。

 

 ハリスは息を詰まらせながら、どうにかして返事をする。

 

「──いや、遠慮する」

 

 そう言いながら彼は警戒した。何かしてくるのではないかと。杖を意識する。

 周囲の生徒達も緊張した。ルネが手を出すのではないかと思ったからだ。

 

 しかし答えを聞いたルネの対応は誰の予想とも違っていた。

 

「そうですか。それは残念です。ではまた」

 

 短いやり取りを終えるとルネはハリスに背を向け去っていった。あっさりと諦めたものだと誰もが思っていた。

 

 だが結果的に彼は何一つとして諦めていなかったのである。

 その日の夜、ハリスは資料の収集のために迷宮一層に入っていた。研究に使う素材集めである。

 

 そこにまたルネが現れた。夕食後の時と同じくハリスに全く気づかれずに。迷宮に灯る僅かなランプの下に佇んでいた。

 

 その姿を見て集めた素材を入れた籠を取り落とすハリス。転がり落ちる鉱石などには目もくれず、ルネは杖剣に手をかけた。

 

雷光疾りて!(トニトウルス)

 

 それを見たハリスも杖剣を抜いて真っ先に呪文を唱える。攻撃性のある呪文の中でも速い雷撃呪文だ。

 牽制の雷撃が着弾したかも確認せず、彼は隣の通路へと身を投げた。とにかくこの場から逃げ出したかったからなのだが。

 

 ふと追い風を背に感じ、更に全身をそよ風に撫でられるような感触を覚えた。

 気にせずそのまま数歩走ったと思ったらハリスの体から力が抜ける。何かと反射的に振り返るが、そこには何もいなかった。

 

 気のせいか。急いで逃げないと。そんな思いのまままた走りだそうとすると、目の前にはいつの間にかルネがいた。

 硬直するハリスの体。力んだからか、途端に全身に刻まれた裂傷から血が噴き出した。突如の出血にハリスは目を見開くが喉も斬られていたため声が出ない。

 

 逃げようという心が後ずさりさせ、立ち向かおうとする勇気が一歩足を進ませ、どちらに行くでもなく彼は倒れた。

 じわりと血が床ににじみ出る。影のように広がったその上でハリスはぴくりともしない。

 

 ルネは杖剣を鞘に納めると、無言で魔力を操り目当てのものを引き寄せた。メダルだ。彼のポケットから飛び出し、ルネの手元へと魔法で引き寄せられた。

 

 そのメダルを手に取って指先でピンと弾く。宙をくるくると舞う丸い形を目で追い、掴み取った。

 そのままポケットにしまうとルネはその場から立ち去る。これと同じことを彼はこの夜の間にあと三度繰り返した。

 

 

 

 そして翌朝。

 四名の一年生が一層を探索中に重傷を負って現在医務室で寝かされていると、全員が最強決定戦の参加者であるともロッシは聞いた。

 

 ロッシは強張った笑みを浮かべると食堂を見渡す。下手人が誰なのかはすぐに見当がついたからだ。

 

 そして彼は今、ここで友人達と朝食の席についていた。その姿を見たロッシはそそくさと食堂から出た。この場にいて彼に何かされないという保証がなかったからである。

 

「ルネ、君は何をしたんだ」

 

 昨夜、一年生が四人襲撃を受けた。それも最強決定戦に名乗りを上げていた生徒であると。

 その話を聞いたオリバー達は朝食の席を同じくするルネを問い詰める。昨夜のあれがあった直後の事件だ。当然犯人はルネであると確信していた。

 

 彼はやったともやっていないとも口にしなかったが、何も言わずにテーブルに四枚のメダルを置いた。

 オリバーはそれらを手に取る。魔法で作られたそれぞれ意匠の違う四枚のメダルは、今回の最強決定戦のために参加者が各自で作ったものであった。

 

「これは……君が襲った生徒のか」

 

 ルネは頷き、オリバーから四枚のメダルを返してもらう。それらを指の上で器用に転がした。くるりくるりと指の上で左右にメダルが転がる。

 その動きを見つめながらルネは釈明した。

 

「はい。しかし襲ったわけではありません。ちゃんと決闘を申し込んで、その後に頂いたものですから」

 

 突如決闘と言い出したルネにオリバーは呆気に取られる。どうにか彼の意図を探ろうと会話を続けた。

 

「決闘? かなりの傷だと聞いているぞ」

「はい。今日一日はベッドでお休みいただくくらいは攻撃しましたので」

 

 しかし、会話をしてもルネの目的がさっぱり掴めない。ミシェーラははっきりと尋ねた。

 

「あなたは今回の決定戦には参加していないでしょう。そんなものを集めてどうするのですか」

 

 参加者でなければ意味を持たない何の変哲もないメダルである。もちろん希少価値なんてどれにもなかった。

 指の上で転がすメダルを眺めながら、ルネは不思議そうに答えた。

 

「いえ、別に。これといって何かをするつもりはありません。ただ綺麗なものを持っているなと思っただけです。そしてこれが欲しいから決闘をしただけなのです。

 決闘をする自由は誰にだってあるはずでしょう? 校舎内であろうと迷宮であろうと。例えイベントの参加者でなくても決闘はどこでもできるはずです。

 だから私は決闘をしただけなのです。綺麗なメダルを持っている人達と、ね」

 

 ルネは自慢げだ。しかし周囲は絶句した。

 

 彼は一年生最強決定戦に参加するつもりはない。それはそうなのだろう。が、メダルは欲しがった。ただメダルが欲しいだけなのだ。

 ルネは今後しばらく彼の口癖となることをここで初めて言った。

 

「メダルをお持ちのみなさん。さあ、私と決闘しましょう──つまりはそういうことなのです」

 

 言葉を失う友人達の前でただルネは微笑むばかりだった。

 

 

 

 その後、ルネの決闘の誘いに乗る生徒は最初は全くいなかった。例え彼に校舎で声をかけられても無視するか断る生徒ばかりだった。

 当然である。ルネは最強決定戦の参加者でもなんでもないのだから。ましてやハリスら四人の末路を見れば彼と関わりたくないと思うのが当然だった。

 

 ゆえに断られ、ルネもその場では退いたが。後に全員を迷宮で襲った。

 

 校舎においては互いの同意がなければ決闘はできない。審判を立てて、不殺の呪文を用いて殺傷能力を抑えた上での決闘だ。

 この形式ではもちろん一方が拒否すれば決闘にはならない。キンバリーといえどもそれがルールだった。

 

 しかし迷宮では違った。ほぼ無法地帯である迷宮内においては審判の必要もないし、同意というのもいちいち確認する必要もない。

 ゆえにルネは校舎で決闘を断った生徒達を迷宮内で襲った。ハリス達の時のように半ば強引に決闘という形に持ち込んで。

 

 しかもルネは迷宮で襲った生徒達を敢えて重傷にさせていた。一日はベッドから動けなくなるような負傷である。

 医務室は負傷者で大賑わいだ。一日で癒える程度の傷を絶妙につけられた患者達の対応に校医達は追われていた。

 

 ルネの友人達はここ最近毎朝ルネの所業の噂を食堂で聞くのが日課となっている。昨日は何人やられたのか、どうやられたのかなどなど。

 周囲の視線が痛いどころかもはやルネを見ないようにしているなかでオリバーは深いため息と共に言った。

 

「君ならあっさりと勝つこともできるだろうに。校舎で誘いを断ったらどうなるかを知らしめるために、か」

 

 迷宮で大怪我を負うのが嫌なら校舎で決闘を受けろと。つまりはそういう脅しである。

 

「ふふ。昨日はメダルを五枚も稼ぎました。あと残りは僅かですよ」

 

 オリバーの発言にルネは否定も肯定もしなかった。ティーカップ片手に、にこにこと微笑む顔は何一つ悪びれたものを見せていない。

 

 見せているのは肩から腰にかけて巻かれた太いベルトだ。まるでドラゴンの鱗のようにびっしりとメダルが縫いつけられているベルトである。

 ルネはその中の五枚を指差した。それらが昨夜得たものなのだろうとオリバー達は推察する。

 

 ベルトにつけられたメダルの中にはオリバー、ミシェーラ、ナナオのものも入っていた。彼らは校舎で決闘の誘いを受け、敗れたのだ。

 

 断れば迷宮でどんな目に遭わされるか分からないのである。

 友人だからという理由で手加減してくれるだろうという期待をオリバー達はルネに抱いていない。ゆえに彼が言うままに決闘を行い、メダルを献上することになったわけだ。

 

 呆れているオリバーやミシェーラだが、もちろん彼らもわざと負けたわけではない。普通に決闘をし、負けたのである。

 困った人物だが、ルネの実力は本物なのだ。ゆえに最強決定戦から外されたわけなのだが。

 

 誰もが彼の困った部分を過小評価していたらしい。まさかメダルを目当てに参加者へ決闘を申し込む真似をするとは。しかも断られないように脅しもかけてくるだなんて。

 

 部外者ではあるが、今や事実上彼は最強決定戦に参加しているようなものだった。しかもメダルの獲得数でいえばどの参加者よりも上である。

 

 このイベントにおいて参加者ではない彼が手にしたメダルは何の意味も持たないが、彼の強さの印象はより濃くなっていく。

 それこそ彼の狙いなのだろう。ゲームから外されたが、最強は自分なのだという。

 

「こうなると最初から参加させておいた方が良かったのかもな」

「そうだとしても結局はこうなったでしょう。ルネの一強ですわ」 

 

 オリバーとミシェーラはもはや言葉もなく、ただルネが集めたメダルをぼんやりと眺めるだけだった。 

 

 ルネの暴挙は決定戦の参加者にとっては鬱陶しいの一言だったが、それを止めさせることは誰にもできなかった。

 言葉で伝えても聞かないのはよく分かっていた。「止めてくれ」と頼んでも「嫌だ」と返ってくるばかりなのだから。

 

 なら彼と同じように暴力で対抗しようとしても、それこそ彼の狙いなのだ。迷宮内だろうが校舎だろうが、どのタイミングで襲撃を受けてもむしろ好都合とばかりにルネはそれらを受け入れていた。 

 そして返り討ちにし、メダルの枚数を増やしていた。

 

 紅茶を一口飲んだルネは目を閉じる。自身の圧倒的な勝利と強さを痛感していたのだ。

 

 ルネ=サリヴァーン、無敵! 無敵! 無敵!

 

 目を閉じれば、そんな喝采が聞こえるほどに。

 

 もちろん同級生達はそんなことは言わず、ただ虚ろな目で彼を見つめるばかりである。しかしそれこそが喝采と同義であるとルネは受け取っていたので厄介なのだ。

 

 もはや一年生最強決定戦はルネという捕食者に食い荒らされ、原形を留めていない。ルネの暴走で誰もがやる気をなくし、二位決定戦すら行われていなかった。

 ただただ他の参加者達はこのイベントが終わるのを待っていた。始まって三日でこれである。どうか終わってくれ、と。

 

 しかしルネはそれで良いと思っていた。何故ならこれは最強決定戦なのだから。

 一番強い一年生が決まれば良いのであって他は関係ないのである。自分が一番である。それを確認し、周知できさえすればルネにとってはどうでも良かったのだった。

 

 といっても参加者達の中で倦怠感が蔓延ってきたのをルネも感じ取っている。では、そろそろ一年生最強決定戦というこの催しに止めを刺さなければと決意した。

 

 そのためには参加者全員を倒さなければ。

 

 ルネが倒していない参加者は二人いる。

 一人はジョセフ=オルブライト。異端狩り(グノーシスハンター)を多数輩出する武闘派魔法使いの名家オルブライト一族の出だ。

 戦って楽しそうな魔法使いであるがゆえに最後の方に残していたのである。あのオルブライトの出身者なのだから楽しめる戦いをしてくれるだろうという期待からだった。

 

 そして最後の一人はトゥリオ=ロッシだ。ルネは彼を最後に取っておいていた。彼を倒し、一年最強決定戦を終わらせるとしよう。

 

 ルネはティーカップを置いた。食事に手は出していないが、その表情は満足気である。

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