七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~    作:HAL1993

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第46話〜アイディア〜

 カティ=アールトは上機嫌で夜明けの城の廊下を進んでいた。行き先はルネの工房である。目的は彼女がこれから設立するグループについての報告だ。

 

 あの話し合いの次の日の夜、カティはオリバー達と工房の下見に行っていた。広々とした生活スペースに研究設備が入る予定の場所も。

 

 最初はちょっと見学する程度のつもりだったが、彼女らは結局そこで泊まってしまったのである。工房としての稼働はまだできなかったが、家具や食料などは既に搬入が終わっており拠点としては十分に使えたからだ。

 

 そんな楽しい見学気分のまま倉庫の食べ物を使い料理を沢山作ってパーティーをし、カードゲームなどの遊びもやった。まるで五歳の子供に戻ったような気分で。

 

 そして、その場で集まりの名前も決まった。

 

「──剣花団、か」 

 

 杖剣を掲げ、円陣を組んだ時を思い出す。少し恥ずかしいが、しかし確かに心に残っているあの瞬間を。胸にぽわりと灯った温かさは何にも変えがたいものだった。

 

 気恥ずかしさに口元が緩むが、他の団員に見られると余計に恥ずかしくなる。周りには誰もいないが、気をつけながらカティはルネの工房の前まで到着した。

 

 ルネにわがままを言って良かった。そう思いながら、決まった名前を伝えるためにルネの工房の扉をノックする。

 

「ルネ。私、カティだよ。入っても良い?」

「どうぞ」

 

 落ち着いた声が扉の奥から返ってくる。

 

「それじゃあ、失礼しまーす」

 

 既に何度も入っている部屋だ。勝手知ったるといわんばかりにカティは気軽に扉を開けた。

 

「いらっしゃい」

 

 椅子に腰掛けていたルネは今まで見ていた水晶板をテーブルに置き、入室したカティを迎える。

 

 夜明けの城のルネの工房の最初の部屋は執務室だ。団長として団員やその他の来客を迎える部屋である。実際の工房は奥に続く部屋からだった。

 なのでこの執務室には魔法の気配はあまりしない。本と紅茶の優しい香が漂う落ち着いた場所だった。

 

 他に来客もいなく、部屋にはルネだけ。きょろきょろを室内を見回してそれを確認したカティは尋ねる。

 

「お疲れ様。今、話しても大丈夫?」

 

 ルネが置いた水晶板に視線が移った。ルネはそれをより自分から遠ざけて答える。

 

「ええ、構いませんよ。どういったご用件でしょうか」

 

 重要な作業中ではなかったようだ。安心してカティは言った。

 

「前に話していた私達のグループの名前。決まったから伝えに来たんだ」

 

 剣花団。その名前を伝える。  

 

「ありがとうございます。今、その名称を登録しました。以降は剣花団名義で物品購入などを行いますね」

 

 そう受け答え、ルネはにっこりと微笑む。

 その表情は人間的ではあったが、しかしそれが彼の正体を示すものではないことをカティはよく知っていた。

 つい好奇心で彼女は尋ねる。

 

「今日は自動人形(オートマトン)の方?」

「ええ、そうですよ」

 

 きりきりと音を鳴らし、ルネの頭が首の上を回った。一回転したところで慌ててカティが止める。

 

「外さなくて良いからね」

「おや、そうですか。証拠を見せようかと思ったのですが」

「大丈夫だから。友達の頭が取れるところなんてそんなに見たくないもん」

「そうでしたか。では」

 

 回った分だけ頭は逆回転した。その間、気味が悪いとカティは目を逸していた。カチリと固定音が鳴り、それを合図にカティはルネに視線を戻す。

 

「忙しいんだね」

「いつものことです」

 

 淡々と答えるルネにカティはもどかしさを覚えた。自分達はルネにあらゆることを求めるのに彼は一切そうしないことに。

 寂しかった。彼との人間的な関係を感じられなくて。ルネは望みを言えばそれを叶えてくれる機械ではないのだし、自分は一方的に機械を利用する魔法使いではないのだから。

 

「……何か、手伝えることってあるかな? いつもお世話になりっぱなしだもん。団員として、団長さんをお手伝いしたいよ」

 

 だからそんな言葉が口を出た。

 どの口で言うのだろうかとカティは瞬間的に自己嫌悪に陥る。ルネの手助けだなんて。彼が今やっているだろう作業の触りすら自分には理解できないであろうに。

 

 しかしルネはそんな嘲りはしない。

 

「では今開発中の魔法道具の名前のアイディアを頂いてもよろしいでしょうか」

 

 あっさりと頼みごとをしてくれた。素材採集でもなく実験の助手でもなくアイディア出しではあったが。それも既に作っている魔法道具の。

 きっとそれが今思いつく作業だったのだろう。「手伝いたい」とせがむ子供に親が与える簡単な作業だ。

 

「う、うん。まかせて!」

 

 しかし、カティにはそれが嬉しく思えた。ルネが答えてくれただけで嬉しかったのである。親が子供に頼むように与えられる作業にも気遣いが溢れていたとしても。

 

「ではそちらにどうぞ。私も失礼しますね」

「うん」

 

 カティは来客用のソファに座った。ルネも彼女の対面するソファに腰掛ける。それと同時に二人の前のテーブルにはお茶とお菓子が現れた。

 ひとまず互いにお茶を一口飲んだ。

 

「それで、今何を作ってるの?」

「設計図はお見せすることができないのですが。そうですね。簡単にいえば命を作る魔法道具でしょうか」

 

 手に取ったカップを置き、カティは聞き返す。

 

「……命を? 作る?」

「はい。最近手に入れた素材を使えばそれができるのです。生物的な両親の交わりからではなく、霊魂を利用した出産が。必要なのは血液や魔力などの両親の霊魂を抽出できるものだけです。それらさえあれば後は魔法道具が子供を作ります」

 

 まるで生地を型に流し込めばケーキができるかのような説明ぶりだ。

 しかし生き物はお菓子ではないのである。半ば信じられない様子でカティは尋ねた。

 

「そんなことが、できるの?」

「ええ、もちろん。霊魂は生命の本質が詰まったものです。私達の生き物としての特徴や記憶などは霊魂に保存されます。つまり両親の霊魂を利用すれば、二人の特徴を組み合わせた子供ができるわけです。今開発中の魔法道具はそれを可能とするものなのです」

 

 不死鳥の団に入ってから格段と魔法使いとして成長したカティだが、流石にこの話は面食らった。特に生き物の営みを研究する彼女にとってはその一部が大きく変わるのだから。

 

 以前の彼女なら驚きのあまり発狂していたかもしれないが今は違った。ルネが何を言っているのかが分かるからである。

 

「なるほど。霊魂から情報を取り出して、それをもとに霊体的肉体的にも二人の特徴を合わせた命を作り出すってことね。確かにあなたの霊体学と錬金術の技術ならそれも可能でしょう。

 ──生命に対する侮辱を感じるけど、何のためにそんなことを?」

 

 ただし分かるからといって賛同しているわけではない。まるで命を道具のように生産する手段だからだ。命とはそうあるべきものだろうか、そんな疑問が拭えない。

 なので技術的には称賛しつつも不快感を示しカティは質問を重ねた。対してルネは気軽に答える。

 

「色々とです。例えばまず魔法使いの後継や血統の維持に活用できます。魔法道具の使用によって誰の負担にもならない安定した子作りが可能になったのです。近親間での交配やペースの早い妊娠を続けてきた彼らのせいとはいえ、不妊や流産に悩む家系は多いですからね。きっと彼らに役に立ってくれるはず。

 他には人間以外の生き物にも応用ができます。彼らにも霊魂はありますから。例えば絶滅危惧種の繁殖などでしょうか。これまでどれだけ飼育下での繁殖が失敗してきたか、君はよく知っているでしょう?」

 

 魔法使いに付き纏う悩みと魔法生物達が迎えている危機を引き合いに出されるとカティも完全な否定はできなくなった。

 魔道と血統はイコールであることが多く、血筋を残すのは魔法使いにとっては研究と同じくらいに重要なことであるし、世界から消えようとしている生き物達の繁殖もまたカティにとっては課題だからだ。

 

 確かにルネの魔法道具が完成すればこれらの問題に役立てるかもしれない。が、やはりカティには引っかかるところが多かったようだ。ソファの背にふんぞり返り、天井を見上げながら困ったように言った。

 

「家を続けることも、魔法生物の繁殖が大変なのも知ってるよ。でも魔法道具任せの繁殖ね~」

 

 厄介なのは魔法生物の繁殖も完全な自然の状態で行っているわけではないところだ。保護区内での見守りから施設での繁殖など、魔法使いの手が入っているところは多々あるのである。

 

 それでも魔法生物の保護は失敗することが多かった。ルネの魔法道具が開発されれば問題解決に光明が見えるかもしれない。

 

「……でも、まだできてないものにそこまで否定的にならなくても良いか」

 

 その点に賭け、カティは自己主張を一度取り下げることにした。 

 そもそも自分が手伝いたいと言い出したことなのだから。今の段階で意見を言うべきことでもないだろう、完成した段階でも意見は言えるのだからと。 

 

 姿勢を戻し、ルネと向き合った。

 

代わりの母(ヴィカリアマーテル)とか」

「なるほど、なるほど。母親らしさを表した名前ですね。となると出産機(マキナプルペリウム)などはいかがでしょうか」

「──ルネのネーミングセンスって意外とそのまんまだよね。神の目(トラルファマドール)とか巨獣種(べへモト)障壁とかさ」

「そうでしょうか」

「そうだよ。凄い技術なんだから、もっと凄い名前をつけた方が良いって。うーんと、他には……」

 

 カティは頭を捻り、幾つか名前を提案する。ルネはそれらを聞くたびに頷きながら記憶していった。

 そのことを彼女は楽しく、嬉しく思っていた。ルネが自分に耳を傾けてくれることが。

 

 だからだろうか。彼女の中で育ちつつある才覚が閃きをもたらした。母つまり女性という性別を思い浮かべた時にある考えを思いついたのだ。

 といってもあくまで閃きであるためそのまま頭の中に仕舞いこもうと思ったが、カティは楽しく話している気分のまま口に出した。

 

「そうだ、ルネ。今思いついたことがあるんだけど。例えばさ、ピートの──」

「ほうほう」

 

 それを聞いてルネは嬉しく思った。愛弟子がなかなかに面白い発想をしたからである。

 意外にも思ったが、これも成長だろうかと感慨深くもなった。友人の能力を利用した機能だなんて。

 

「どう、かな? ただの閃きって感じなんだけど」

「とても素晴らしいと思いますよ。良い想像力です」 

「えへへ。ありがとう」

 

 ルネに褒められてカティは照れを隠せなかった。頬を赤くし、誤魔化しの細かい動作が増える。

 それをルネは微笑ましく見つめた。見つめながらも頭は働かせる。カティ発案の機能は面白く、また魔法道具に必要であると思ったからだ。

 

 それからしばらく魔法道具の名称のアイディア出しを続け、また雑談もし、一時間以上が経った頃。ルネは話を切り上げるためにもスケジュールの話を持ち出した。

 

「──では最後に君達の工房の稼働日についてですが、この日もパーティーをしてはいかがでしょうか。先走ってもうやってしまったようですが、もう一度行っても問題ないでしょう」

「あ、あはは。ごめんね。なら遠慮なくみんなで楽しませてもらうね」

 

 苦笑しつつもカティはルネの好意を受け取る。ルネも微笑みを浮かべた。予定日が彼の中でも決まったからである。

 

 

 

「──というわけですので、君らもこの日に合わせて動くと良いでしょう」

 

 魔道倶楽部で使用する迷宮一層の施設にて。ステイシー、フェイの両名に自動人形(オートマトン)ルネが日程を伝える。ミシェーラ達が迷宮に入る日だ。

 

 ルネの手によって崩壊状態ではあるものの最強決定戦は現在も続いている。つまり参加者である二人が、同じく参加者であるミシェーラに決闘を申し込んでも何ら問題ないのだ。

 

「ありがとう、って言っても良いのかしら。こんなものまでもらって」

 

 ステイシーはルネからもらった地図を見つめる。メンバーの行動範囲が示されたものだ。当日はこの辺りで待ち伏せをすればミシェーラ達に会えるだろうという予想図である。

 

「それが君が魔道倶楽部で願ったものなのですから。私はその願いに応じた指導をしたまでです」

「ふーん……ま、そういうことにしておいてあげるわ。ありがとう」

 

 何かしらの意図を読み取ろうとしたステイシーだが、何も見えなかったためルネの言葉通りにひとまずは受け取ることにした。

 

「俺からも礼を言わせてほしい。お前のおかげでこいつの番犬として更なる力を手に入れたんだからな」

 

 フェイは自身の手を見つめる。すると彼の指が人のものから太い獣の指と爪に変化し、再び人の指に戻った。その間に満月はなく、またフェイの表情も変わらない。

 手の握り開きを繰り返し、ルネに視線を移した。

 

「ところで、こいつを学会誌に報告すればかなりの評価を得られると思うが……本当に俺達がメインで発表しても良いのか? 発想もほとんどお前のものなのに」

「実際に努力し、手に入れたのは君達ですから。私と魔道倶楽部には謝辞で触れていただくだけで結構です。

 ではこれで。また魔道倶楽部が必要になりましたらいつでもお声がけください」

 

 それだけ告げるとルネは部屋の外へと向かう。その背にステイシーが声をかけた。

 

「これから何か予定でもあるの?」

「約束がありまして。それを果たしに行くだけです。決闘、頑張ってくださいね。応援していますから」

 

 振り返ってそう告げると、くるりと踵を返して部屋から出ていく。

 ステイシーとフェイの魔道倶楽部はこれで一旦終了となった。ミシェーラに勝てる力はついたとルネも彼女らも判断したからである。次があるかないかは二人次第だった。

 

「……結局、最初から最後までさっぱり理解できない奴だったわね」

 

 ルネが立ち去った部屋でステイシーは呟く。そして三ヶ月ほど訓練を重ねた部屋を見回し、決意を胸にフェイに告げた。

 

「やるわよ、フェイ」

「ああ」

 

 同じ心でフェイも応える。必ず結果を出すのだと。

 

 

 

「……ったく。あーもー、腹立つわ」

 

 トゥリオ=ロッシは校舎へと目指して迷宮一層の石の通路を進んでいた。その足取りは重く、力ない様子である。いつもの軽い雰囲気はなかった。

 

 そんな彼に自動人形(オートマトン)ルネが声をかける。

 

「こんばんはMr.(ミスター)ロッシ」

 

 ぴたりとロッシの歩みが止まった。彼はため息を吐き、震える手で頭の後ろを掻く。

 

「随分とお早い取り立てやな、ジブン」

 

 十歩ほど先に突如現れたルネの姿を見て、ロッシは表情を険しくした。ルネの目的が分かっていたからである。

 彼はにこにこと微笑みながらロッシへ歩み寄った。敵意一つ感じさせない優しげな雰囲気で。

 

 しかし発言は全く優しいものではなかった。微笑んだ口元で残酷な事実を告げる。

 

Mr.(ミスター)ホーンとやり合うまで。そう約束していたはずです。それを、私は果たしに来ました」

「はは。そう簡単に──」

 

 次の瞬間にロッシの体は宙に持ち上げられて天井に叩きつけられた。そのまま床にも打ちつけられる。どちらも天井や床が砕けるほどの怪力によって。

 

 そうするためにルネが何かしたようには見えなかった。ただ歩み寄っているだけだ。

 しかしロッシは一つの備えもできずにただされるがままだ。〆られる魚のように痛めつけられた。

 

 どさりと体が床を転がる。そこに更に力が加わった。身動ぎすら許さない重圧が。

 

 月に届け(リーチフォーザムーン)。心の赴くままに力を操り、ロッシを釣り上げられた魚の末路にしたルネの技術である。

 これを扱うのに一声すらいらない。ただ心で思うだけである。トゥリオ=ロッシを床や天井に投げつけたい、押さえつけたい。

 その意思に魔力が応え、実現したのだ。

 

「──ッ、……チッ」

 

 ルネがそう思っただけでロッシは反撃能力を失った。彼も気づかぬ間に頭と胸に大きな衝撃が加わり、数秒意識も飛んだのだ。

 重圧によって床に這いつくばったまま立ち上がることもままならない。腕どころか指も動かないため杖剣すら抜けなかった。

 

 ルネは床に押しつけられたロッシの隣で足を止める。じっと彼を見下ろした。侮蔑の眼差しではない。楽しげな光が目に宿っていた。

 しばし彼は呪文を必要としない領域魔法によって抵抗を試みるロッシを観察していたが、彼の魔力が拘束に対して何もできないのを確認すると視線を通路の先に向ける。ロッシがやってきた方向だ。

 

Mr.(ミスター)ホーンとの決闘は楽しめましたか?」

 

 そんな簡単な問いかけにロッシは答えを返せない。床に押さえつけられ、言葉すら出ないからだ。顔をルネの方へと向けることさえできない。

 今、ロッシはひたすらに石の床を睨んでいた。睨みつけたい相手を見上げることも許されないのだから。    

 

 そうさせているルネは答えを期待していなかったのだろう。ロッシの返事を待つ様子もなく話を続けた。

 

「今日はMr.(ミスター)ホーンの圧勝でしたが、君もより我流を深めれば今後はより良い試合ができるでしょう。君ならクーツ流を主軸にしたものが良いかもしれませんね。もしお力添えが必要ならぜひとも魔道倶楽部にお越しください」

 

 そして、じっと彼を見下ろす。

 その視線が見つめるのはロッシというよりは彼の魔力だ。それは高らかに叫んでいる。「クソッタレ」と。

 

 魔力からロッシの感情を読み取ったルネは微笑んだ。そしてその体に青ざめた雷撃を注ぎ込む。破壊を召喚し、雷の姿を与えた魔法使いの夜明け(ドーンオブウィザード)だ。

 

 指先から放たれたルネの破壊の雷撃がロッシの全身を焼く。皮膚の一片、筋繊維の一本へとしっかりと破壊の雷が通っていった。

 

「ッ、ぐ、あァあッ!」

 

 体をじっくりと焼かれているロッシは口から小さな呻きを漏らす。

 本当ならもっと絶叫してもおかしくない痛みのはずだが。そんな無様は晒せないという強い意志によって辛うじて呻きを出す程度で収まっていた。

 

 ささやかな抵抗のつもりなのだろう。

 しかしルネはそこに不満はなかった。痛みを叫ぼうが耐えようが、重要なのはロッシを痛めつけているという一点だったからだ。

 

 ルネは攻撃する相手の反応にいちいち興奮するような性格ではない。ロッシが破壊の雷に痛めつけられていることが分かれば十分なのである。  

 むしろ静かなのは良かった。遮音の処置が不要になるからだ。

 

 そんなすれ違いがあるとは知らず、とうとうロッシは呻きを口にすることすらできなくなった。意識を失ったからだ。

 その時点でルネはようやく雷撃を止めた。おおよそ五分間の攻撃だった。 

 

「では私の勝ちということで」

 

 ロッシのローブの内ポケットからメダルが飛び出してくる。魔力で手繰り寄せたそれをルネは掴み取った。

 そして指先でくるくるとそれを回しながら、返事のないロッシへと声をかける。

 

「約束は果たしました。しかし、一つだけ嘘をついてしまいました。それだけ謝らせてください。『仕留めるのは最後にしてあげます』と。嘘になってしまいましたね。申し訳ありません。

 ──最後は君ですよ。Mr.(ミスター)オルブライト」

 

 そして視線を通路の先に向けた。そこに隠れている人物に。ずっと今までのやり取りを傍観していた同級生へとルネは警告の声をかけたが。

 

 返ってきたのは沈黙だった。無反応。彼の視線の先にはただただ薄暗い迷宮の石の壁があるばかりだ。

 

「おやおや。あっさりと退きましたか。流石は異端狩り(グノーシスハンター)の家の人だ、よく教育が行き届いています」

 

 隠れているのでもだんまりを決め込んでいるわけでもない。不意打ちをする前に気づかれたことを察した相手が撤退したのである。

 去っていく同級生の姿は、彼がどれだけ隠そうともルネは魔力を頼って感知することができた。

 どうやらこのまま校舎へと戻るつもりのようだ。そう分かった時点で感知も打ち切る。

 

「良かった」

 

 そして、ルネは一言感想を呟いた。

 あのまま遭遇戦をしたくなかったからこそルネは警告を口にしたのだ。

 

 何せここで彼を打ち倒せば最強決定戦が終わってしまうからである。それはしたくなかった。ステイシーとフェイにはまだやりたいことがあるわけであるし、彼自身にもやりたいことがあったからだ。

 

 全ては明後日だ。最強決定戦の最終日であり、剣花団のパーティーの翌日でもあり、ステイシー達が動く日でもある。

 そして彼女が活動を始める日でもあった。

 

 全ては順調だ。そう満足しながらルネは気絶したロッシを魔法で浮かせる。そして校舎を目指して進み始めた。

 丁寧な魔法だったが、迷宮から出た後で適当に校舎に放っておくつもりだった。彼が傷だらけになった姿はきっとメダルを縫いつけたベルトと同じくらい自身の価値になるからである。

 

 これで今後は楽しそうなイベントから外されることはないだろう。そうしたらどうなるのか、ロッシを見たらよく分かることだからだ。

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