七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~ 作:HAL1993
迷宮三層にて。異形の怪物達が沼地を進んでいく。上の層を目指して。
彼らは群れてはいるが、その姿に統一性はほとんどなかった。数多くの魔法生物の特徴を繋ぎ合わせた体を揺らして駆けていく。
目的は一つだ。母の願いのためにこの醜い生き物達は動いていた。泥を飛ばして、ただ与えられた命令を実行するために走った。
そんな化け物達の行軍を上空から不死鳥クリスタが監視している。赤い翼はこの瘴気の中でも平然と飛べた。そして足輪型の魔法道具が真下の光景を彼女の主人に届ける。
ルネである。
彼はオフィーリアの工房の片隅で使い魔からの情報を受け取っていた。手にした水晶板には移動する
その光景に対して特に感想はないようだ。水晶板をなぞり、また別の映像を呼び出した。
映っているのは迷宮の地図だ。そこを移動する光点が幾つも表示されている。
再度移動する
ルネが確認したいのは
『呪術的な捕捉は完了、と。クリスタ、戻ってください』
そう使い魔契約を通じて不死鳥に命じた。
すぐに今まで微動だにしていなかった映像が大きくずれ、ただの沼地を映したところで何も映らなくなる。クリスタが飛び方を変え、水晶板と魔法道具の繋がりを切ったからだ。
光点が点滅する地図もルネは水晶板から消した。彼が見なくても
ルネ本体はまた別の映像を水晶板に映した。生真面目そうな黒髪の少年の姿が流れる。じっと、その真っ直ぐな眼差しへと映像は集中した。
『君の隣に胸を張って座れるようになるまでには、このくらいの苦労があっていいんだ』
少年の目から穏やかに言葉を紡ぐ口へと映像の焦点が切り替わる。視線が変わったのだ。
そして、困惑気味の心の声が文章として画面に表示された。『こいつは、何を、考えているの?』と。
そんな可愛らしい疑問を見つけ、ルネの口元に微笑みが浮かんだ。そして水晶板から顔を上げ、この部屋の主へと視線を向けた。
オフィーリア=サルヴァドーリ。彼女はルネに見向きもせず、工房内で作業を進めていた。
「あなたは今、何を、考えているの?」
ルネはゆっくりとそう口に出した。が、オフィーリアは無反応である。魔法薬の調合の手を止めない。
「こんな時期があなたにもあったのですね、先輩──それも今となっては、ですが」
その反応は分かりきっていたことなのだろう。無視されたことを気にもせずルネの視線が水晶板へと戻った。そして淡々と映像を進めていく。
この映像そのものは目的ではなく霊魂解析作業の副産物だ。
とはいえ、かつて彼女が何を考えてどう思っていたのかを知るのは大切なことである。それらが今の彼女を作っているのだから。
そして、夜明けの城のルネの工房にて。
木枠にはめ込まれた水晶板に表示されているのは複数の光点だ。二層に侵入してきた
城塞の探知術式も彼らを捉えていた。その結果は水晶板に並んで表示される。どちらも全く同じ位置情報を表していた。
その二つを確認した
更に城内に魔法道具による音声を流す。
『警告 三層からの魔獣の侵入を確認 団員は指示があるまで各工房にて待機してください 警告 三層から魔獣の侵入を確認 団員は各工房にて指示があるまで待機してください』
城内の監視映像を眺めると談話室などの工房外にいた団員達は大人しく自身の工房へ戻っていった。手元の魔法道具を見つめながらちゃんと警報に従っている。
戦闘好きのメンバーが獲物を狙って城外へ飛び出していくということもなかった。団員達の行動にルネは頷きつつ別の指示も出す。
「
城塞を囲う岩山には
なので彼らを従わせるのは簡単だった。狩りへと飛び立とうとしていた戦士達を呼び止め、村から出ないように告げるだけである。
その命令に対して不満は一つも出なかった。ただ彼らはルネに従うだけなのだから。
この怪物達のターゲットは下級生達だ。既に何名か襲われ、捕らえられていた。
水晶板には触手の怪物に取り込まれる同級生の姿が映っている。ルネはその光景をただ見守っているばかりだ。感情に揺らぎはなく、光点を眺めるのと同じ表情で捕らえられる同級生達を見つめていた。
しかし水晶板に別の反応を見つけると困惑の表情を浮かべる。カティ達だ。
正確にいえばカティに支給した水晶板の反応がある。ということはオリバー達も含めて全員が一緒にいるはず。
予定では一層でステイシー達と決闘しているのではなかったのだろうか。
彼女の水晶板にも警告が届いているはずだが、校舎に向かうでもなく城に向かう様子もない。
「
この魔法道具を通じて呼びかけてもカティは答えなかった。どうやら想定外のことが起きたようだ。
反応があった場所を再確認する。そして二層の地図に表示される情報を見たルネが困った表情を浮かべた。
一層寄りの場所にしては危険地域に立ち入っていたからだ。カティが応答しないのはその関係なのだろう。
といっても対処はシンプルである。
夜明けの城の
三層からの回収物の解析作業である。工房内の保存容器に収められていたのは幾つもの臓器だった。脳、心臓、子宮などなど。
容器を設備に接続すれば解析が始まる。魔法使いにとって秘匿されるべき術式、つまりは
まさに機械的に行われる作業風景を
あとは
これで魔法使いの全てが分かる。ルネが取り組んでいるのはそんな仕事だった。
どんちゃん騒ぎの翌日にカティ達は更にどんちゃん騒ぎをした。場所はもちろん迷宮一層の自分達の拠点である。彼女らを出迎えるのは柔らかい魔法の照明と心地良い環境だった。
家具はどれも高級品ばかり。魔法使いの住居というよりは上質な宿泊施設といった雰囲気である。工房としての稼働はまだできないが、暮らす分には何の不自由もしなかった。
翌朝にはトロールのマルコも工房へと
「急にごめんね」
「ウ。気にするナ。カティと一緒なら良イ」
突然の移動を謝るカティだが、マルコにとっては二層だろうが一層だろうがどちらでも良かったようだ。彼女と一緒にいられるのならどこでも良いのだから。
同時に研究設備も搬入され、その設置のためにカティ達とマルコは散歩に出かけることになった。
フードを目深に被った同じ背格好の
「作業完了は二時間後ですので」
「分かった。それじゃ、しばらく散策してるね」
「気をつけて」
カティ達を見送った
「なんか至れり尽くせりって感じだな」
「これで裏がないのが恐ろしい」
出発してすぐにガイとピートが振り返りながら感想を言った。
「ああいう仕事が好きなんだよ。ものを作ったり、つけたりって作業がね。先生達の助手も楽しくやってるみたいだし」
先頭を行くカティは団員として見てきたルネの姿を二人に伝える。自分達で言っておきながら「ふーん」とガイとピートは関心なさそうな返答をした。
あんまりな反応にオリバーは苦笑しつつフォローする。
「それができるというのが彼には幸せなんだろう。無償で魔道倶楽部や不死鳥の団をやっているのと同じだよ。自身の優れた技術を使うのが彼にとっては何よりの幸福なんだ」
「そう。ルネ、村長と同ジ。仕事が好キ。良イ村長」
オリバーの感想にマルコが反応した。思いがけない相手の言葉にオリバーはつい見つめてしまう。
マルコは視線の合った彼に言った。
「食ウ、寝ルが好きな村長もいるけド、ルネは違ウ。村のためによく働ク。だからオレも働ク」
そして腰に差したピッケルをコツンと軽く叩く。
以前は腰布程度の衣服しかなかったマルコだが今は特注の装備を着ていた。キンバリーの制服と同じような魔法素材を用いた強靭な服だ。複数のポケットがついたジャケットにズボン、大きな背嚢に立派なブーツも履いている。
カティの護衛兼助手としての制服だ。もちろん彼が身につけているものは全てルネが作り、与えたものである。
その行為をマルコは村長のようと表現した。リーダーとしての仕事をしているという意味なのだろう。
「確かにルネは並外れて強く、賢い。良い村長かもな──多少落ち着きは欲しいが」
オリバーの評がメンバーの総意だった。苦笑と共にしばし沈黙が流れる。
「ところでマルコ、お前また喋りが上手くなったよな。練習頑張ってるのか?」
気まずい静かさを打ち破るためにもガイが話題を切り替えた。ピートもそれに乗る。
「そういえばそうだな。最初の頃はたどたどしかったけど、今はほとんど聞き取れる。よく勉強しているんだな」
「あー、それは……」
気まずそうなカティに対しマルコは素直に笑って答えた。
「これもルネのおかゲ。勉強、教えてもらってル。それと話しやすくなル薬も貰ってル」
「そ、そうか。そりゃ良かったな」
勉強はともかく、いったいどんな薬を処方されているのか。メンバーの視線がカティに向けられた。
彼女は友人達の目線に答える。
「変なものじゃないよ。喉や舌の筋肉の動きを発話しやすいように調整するだけのものだから」
「味は甘イ。飲むと少シ、口とか顎が痒くなル。でも、すぐに何でもなくなル」
顎や喉の辺りを指で掻きながらマルコは言った。それに微笑みを見せた後でオリバーは小声でカティに尋ねた。
「そうか──それは、ルネがそう言っているんだな?」
「──そうだけど……でも、実際マルコも流暢に話せるようになったし……この間は算数の勉強だって見てくれてたもん……それにマルコにはお休みとお給料だってあるんだよ。ちゃんと立派な」
人間社会で働く亜人種は例外なく搾取されていた。例えば工場で働くゴブリンである。彼らは長時間労働と低賃金で毎日を過ごしている。
マルコと同じトロールもそうだ。休みどころか普段の労働環境すら劣悪なものばかりである。
しかし彼は違う。カティの護衛兼助手として快適な待遇が与えられていた。工場で働く人間よりもずっと良い暮らしができるくらいのものだ。
「……ルネはマルコを大切にしてくれてる。実験体とかじゃなくて、一つの命として。それだけは本当だと思ってる」
友人達がルネを疑うのは分かるが、そこは理解してほしかった。板挟みになるカティはどんどんと声が細くなっていった。
「カティ?」
「ん。大丈夫」
内緒話に耳をそばだてる気はなかったマルコだが彼女の様子には不安げになる。カティは彼を安心させるように笑みを見せた。
しばし彼を見上げ、そして視線を仲間達の方に戻す。
「いつか亜人種が全部こうなれば良いってルネは言ってた。私達の社会に溶け込んでって。マルコはそのモデルだって。
確かにそれぞれの亜人種の文化をもっと大切にしてほしいなとは思うけど。少なくともこの学校の人達みたいな酷い扱いは、マルコには絶対にしないよ」
カティははっきりとルネを庇った。彼女と議論するつもりのなかったオリバー達は申し訳なさそうになる。
「すまない。確かに実験動物の扱いではないな」
「彼の真意は分かりませんが、トラブルもないのに否定的に見すぎるのもよくありませんわね」
どうも彼に関しては温情や優しさといった評価が出しにくくなる。それだけのことをルネはしてきたわけだが、少なくともマルコについてはこれ以上の人体実験をするつもりはなさそうだった。
「私もごめんね。ちょっとムキになっちゃった。
ルネが魔法使いらしいのはそうだと思うんだけど、マルコに関しては他の魔法使い達よりはずっとマシって言いたかったんだ」
「しかし、給料ねえ。なあマルコ、どんだけあいつから貰ってるんだ?」
しんみりした空気を変えるべくガイが再度会話に入る。マルコも乗ってきた。
「これくらイ」
「マジかよ。そんなに?」
「ちゃんと働いてるかラ。仕事も危険。使い道も教えてもらってル。何度か街にも行っタ。ルネに連れてってもらっテ。カティも一緒に何度か。
今度、注文した服が届ク予定。俺の服、全部特注しないとダメだかラ。それだけが不満。お金もかかル」
「洋服屋さん、びっくりしてたよね。採寸するのも大変そうだったし。あと無駄遣いはダメだからね」
「分かってル。特注はもうしなイ。給料ガ……あんなになくなルなんて……」
「食事代とかお家賃がかからなくて良かったね、マルコ。でなきゃしばらくご飯抜きだったよ」
「反省してル」
買い物をするトロール。おつかいでも護衛でもなく、彼が買い物をするのだ。そんな光景はおとぎ話ですら描かれない。
しかも仕立て屋で服を特注するとは。それを他の魔法使いが知ったらどんな顔をするか。
特に保守派の巣窟であるキンバリーにおいて大胆な行動である。過激な生徒、教師には決して良くは思われないはずだ。
だが、そんなことをルネは気に介すつもりはないのだろう。もし非難されても無視して微笑む彼の顔がオリバーは思い描けた。
自分にも指導者としてそれだけの強さがあればという思いもまた浮かぶが、彼の所業を思い出してすぐに打ち消した。決して憧れるべき相手ではないからだ。
しかし、と自虐的にもなる。既に自分は手を汚しているのだから。グレンヴィルの血で。
これから更に血を塗り重ねていくことになるだろう。敵の血も、味方の血も含めて。
そんな人間がルネを卑下して良いのだろうか。内心オリバーは戸惑った。自分はルネよりも一歩抜きん出ていると自覚したからである。
一人の人間を殺した自分に対してルネは亜人種一人を救ったのだ。悪を計る天秤はどちらに傾くのか。
その戸惑いを悟られないようにするためにもオリバーは友人達と共に歩いた。そうすると心の乱れも落ち着いていくからだ。
できればずっとこうありたい。剣花団のオリバー=ホーンでありたいと。そう思ってやまなかった。
しばらく散策していると、不意にオリバー達は通路の奥から吹く風を身に受けた。それまで周囲に漂っていた石の迷路の閉鎖的などんよりとした空気とは違うものを風は運んでくる。
湿った空気と濃い植物の臭いだ。くんくんと慣れ親しんだそれを嗅ぎ取ったカティが足を止めた。
「二層が近いね。ちょっと歩きすぎたかな」
「確かに。引き返しましょうか。戻った頃にはルネの仕事も終わっていることでしょうし」
同じく立ち止まったミシェーラがそう提案する。そのことに異論はなかったのか全員が来た道を戻り始めた。
「なあ、二層ってやっぱりここと違うのか?」
歩きながらガイはカティに尋ねる。二層を拠点とするグループに所属する彼女に。
「うん、全然違うよ。分かりやすくいうと森、かな。ここよりもずっと広くて魔法植物と魔法生物の楽園って感じ。私もまだ単独行動はしたことないけど危ないってことは分かるよ」
「森って、マジかよ」
「うんうん。そうだよねー。そう思うよねー」
目を丸くするガイにカティは優越感を抱いた。彼が知らないことを自分は知っているのだと。
「あいつがいなきゃ一人でいられない癖に、よくもそんな偉そうに言えたもんだな」
そんな態度が気に食わなかったのかガイは嫌味を口にする。
二人はしばし見つめ合うとどちらも杖剣を抜いてちゃんばらを始めた。通路を真っ直ぐ進む友人達の前後左右を縦横無尽に動き回りながら杖剣をぶつけ合う。
カティ達のじゃれ合いをオリバー達は優しい目で見つめていた。ピートは鬱陶しそうに睨んでいたが。
「随分と楽しそうね」
そんな彼らに通路の先から声がかけられた。
途端にそれまでふざけていたカティの動きにキレが生まれ、素早く声のした方へと杖剣を向ける。更にマルコが前に出て、左腕に装備した盾を構えた。
それはオリバーやミシェーラからしても的確な動きだった。適切な魔法使いとしての警戒態勢だ。切り替わったかのような友人の反応に驚きつつも彼らも声の主へと視線を移す。
視線の先。カティ達の進行方向に待ち構えていたのは小柄な金髪の女生徒と、彼女に付き従う男子生徒だった。ルネに情報を貰っていたステイシー=コーンウォリスとフェイ=ウィロックである。
二人はカティの素早い動きとマルコの警戒に驚いたが、すぐに彼女の素性──ルネの弟子であることを察して対話を選んだ。
ステイシーは杖にも杖剣にも手をかけず、攻撃の意志はないと両手を相手に見せつつ言った。
「驚かせたわね。でもあんた達を襲うつもりはないから、ひとまず杖を下ろしてもらえる? まずは話をさせて」
「カティ」
「……あ、うん。マルコも、今は大丈夫だよ」
「分かっタ」
オリバーに呼ばれ、カティはようやく杖剣を収めた。手慣れた様子の納刀だ。マルコも構えは解いた。
「ミシェーラ以外は初対面ね。私はステイシー=コーンウォリス、こっちはフェイ=ウィロック。で、用があるのはその三人よ」
ステイシーはオリバー、ナナオ、ミシェーラと指差し、そして最強決定戦のメダルを取り出す。
「もちろん、まだ持ってるわよね。これをあんた達からかっさらうために、私はずっと待ってたんだから」
彼女が手にしたメダルを見て、オリバー達は目を細めた。
最強決定戦──いまやそんなものあったなという雰囲気だ。
このイベント、確かに終了ということにはなっていない。主催者であるトゥリオ=ロッシが先日校舎にて重傷の姿で発見されて以降の展開は何もなかったからだ。
そんなこんなですっかり形骸化したイベントであるが、オリバーとミシェーラは念のために持ち合わせていたようだ。ステイシーの問いに頷いた。
しかし、ナナオはというと。思い出したかのようにポケットを何度も弄り、途端に申し訳なさそうな表情になる。
「……不覚。どうやら部屋においてきたようで」
それを見たステイシーはため息を吐きつつ、自身のメダルをしまった。
「別に後払いで良いわよ。証人は何人もいるわけだしね」
そしてガイ、カティ、ピートに視線を向ける。突然の決闘の申し込みに彼らは困惑している様子だった。どうするのかという視線をオリバー達に向ける。
「分かった。それで、どういう形でやるんだ?」
断る、ということを彼らはしなかった。まだ続いているゲームであるわけだし、ステイシー達の挑戦を断る理由もなかったからだ。
ステイシーはフェイの肩に手を置き、自信たっぷりに言った。
「ルールは三対二で良いわ。私とこいつ、それとあんた達よ」
その提案にオリバー達は顔を見合わせる。まさかの選択だったからだ。キンバリー生がわざわざ自分から不利な方を選ぶだなんて。
例え一人の差でも不利は不利なのだ。余程腕に自信があるのか。
「──何か武器があるんだろうな」
呟いたオリバーにミシェーラは頷く。
「ええ、おそらくは決闘の形式自体がそれかと。覚えている限り、二人はずっと主従に近い関係にありました。連携は得意のはずです」
「なら、それにそのまま乗るのは得策ではないが……」
親戚ゆえに二人の関係性をミシェーラはよく知っていた。
幼い頃から二人でいるところをよく見ていたのだ。その年月が今回は相手にとって有利に働くわけである。
オリバーはその点がどうしても気になった。分かった上で、相手の思惑通りに動くべきなのかと。
しかしミシェーラの反応は正反対だった。口元に不敵な笑みを浮かべ、オリバーに言った。
「あら、面白そうだとは思いませんか? あたくし達の時間と、あの二人の時間を比べ合うのは」
不利上等。困難に立ち向かうことこそ魔法使いの誉れと言わんばかりの笑みである。
それだけではなく、彼女は信じているのだ。例え相手が年単位の関係を築いていたとしても数ヶ月の自分達の関係性が届かないわけではないと。
となるとオリバーも拒否するわけにはいかなくなる。彼もミシェーラと同意見だったからだ。
「ナナオはどう思う」
「面白そうでござる!」
「そうか──なら、そのルールで受けよう。
隣のナナオにオリバーが尋ねれば待ちきれない様子で答えが返ってきた。ともすれば断る理由はない。同意の旨を相手に伝えた。
「じゃ、早速始めましょうか」
ステイシーが、ミシェーラに似た笑みを浮かべて一歩前に進み出る。
迷宮一層の通路は細道ばかりではない。今、彼らがいる場所は広い道だった。決闘を始めても問題ないくらいには。
そして五人が杖剣に手をかけたところで、彼らに声がかけられた。
「雑魚にしては面白いことをする。俺も加わってやろう」