七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~ 作:HAL1993
「──ということがあったの」
「なるほど。そういうことでした、か」
報告を終えたカティ達は、自動人形ルネの反応を見た。
そこにはオルブライトへの怒りはない。しかしいつもの温和な微笑みもなかった。
ただ、がっかりした顔があった。
カティの話を、杖先を指でカリカリと掻きながら失望した様子で聞いていたのである。基本的に微笑みを絶やさない彼にしては珍しい態度だった。
「ごめんなさい、ルネ。あなたに鍛えてもらったのにこんな形になって」
自身に失望していると思ったカティは謝罪を口にする。
「ん? ……あぁ。君のことではありません」
いつもの微笑みを取り戻した自動人形ルネは教え子を勘違いさせたことに気づいて言った。そしてオルブライトを指差す。
「私は、彼にがっかりしているのです」
しかし、と続けた。
「彼が閃光球を使った際には随分と気を抜いてしまったようですね。君が反省すべきはそこだけでしょう」
「う。ご、ごめんなさい」
そこにステイシーが口を挟む。
「そうよ。あいつを見逃すだなんて」「いえ。それは関係ありません」
彼女の発言を自動人形ルネはすぐに否定した。
「
ステイシー達を注意する一方で彼は弄んでいた杖を唐突に鋭く振り、倒れているオルブライトに向ける。無言で放たれた魔法がその体を吹き飛ばした。
カティ達は目を見開く。追い打ちかと思いきや。
「……ぐッ」
オルブライトの体は地面を転がることはなく、軽い身のこなしで立ち上がっていた。
「こんな風に反撃を許さないことだってできるわけです。集中を手放さなければ」
気絶から回復したオルブライトはルネ達から機会を伺っていたわけだが、当然ルネはそれに気づいており、彼がこっそり杖に手をかける前に魔法を使ったのだ。
しかし自動人形ルネに彼と魔法戦闘をするつもりはないらしい。それ以上彼に攻撃を加えなかった。
ただがっかりした様子を隠さずに言う。
「ああ、
仲間のために殿を務めたダレーの乱、大司祭を討ち取ったブールの都市戦──どれだけの強敵、難敵と戦い、その強さと勇敢さを示してきたことでしょうか」
「そうか、それは光栄だな。それで?」
何が言いたいのか。オルブライトの厳しい視線がルネに向けられた。
どうにかオリバー達に向けていた鋭い眼光や口調は維持していたが、そんな見た目よりも彼には余裕がない。痛みを誤魔化しているだけで落下時の負傷は癒えていないのだから。
『鎖骨に肋骨、額もいっているようだ。腹もまずいな。力が上手く入らん』
荒くなる息をどうにか抑えながら体調を確認する。骨、筋肉の損傷具合を魔力を頼って調べた。
結果、今すぐにでも治癒呪文が必要であると分かったわけだが。もちろんそれをルネがさせてくれるとは思っていない。手持ちの魔法薬を飲む間もなさそうだった。
万事休す。しかし諦めるわけにはいかなかった。何故なら自分はオルブライトなのだから。どんな手を使ってでも、ここを切り抜けなければならない。
「答える前に一つだけ。
この状況、どうしようもないことは君にも分かっているはずです。でしたら少し落ち着いてみてはいかがですか? 私も今は話しているだけですし」
そんな彼の焦りと頭の回転はルネにも見て取れていた。オルブライトの目が何か助けを探すために泳ぎ始めたのが分かったからだ。
しかしどれだけ手札を睨んでもカードが悪ければ役が揃わないのと同じで、今のオルブライトにできることはない。彼にできるのはフォールドか、後は自棄になってテーブルに乗って暴れ回るくらいである。
前者はできない。そして、後者は不可能。オルブライトの瞳がますます揺れた。
変わらない様子に、これ以上何を言ってもしかたがないかと思った自動人形ルネはオルブライトの問いに答える。
「話を戻しますと──オルブライトがこんなのだとは思っていませんでした。私は今、とても落胆しています。君をそんな風にしたオルブライトに。
だってそうでしょう? 息子が使用人にチェスで負けたくらいで発狂するだなんて。君の一族の伝説も何かしらの小細工があるのではないかと勘ぐってしまいます。今、君がやったことのようにね」
「オルブライトは、負けるわけには、いかない」
オルブライトの言葉は硬い。それは自分の口から思ったことを出しているというよりは義務的に発しているようだった。
ルネは納得できずにその点を追求する。
「勝ちを意識するのは構いません。敗北と死が等号である
しかしそうであるなら勝利に意地汚くなるのは
「──それが、魔道の旧家ということなのですわ。ルネ」
オルブライトの代わりにミシェーラが諭すように答えた。彼と同じ旧家の出身者という立場からの言葉である。
理不尽が日常にまで侵食しているのが我々なのだと。
あらゆることに常勝でなければならないオルブライトも、ステイシーを妹と呼べない自分も、マクファーレンを父親として呼べないステイシーも同じなのだと。
そんなミシェーラに自動人形ルネは軽蔑の目を向けた。オルブライトにも同じものを向ける。その二つに思ったことを口にする。
「なるほど。古臭い家柄らしい。長く続きすぎて、求める魔道がぼやけてしまったのでしょう。本質を忘れた家柄ほど厄介なことはありません。魔道から外れていても、そうではないと信じてしまうのだから」
穏やかな声音ではあったが、言葉には強い不快感が現れている。彼は負の感情を滅多に見せないためミシェーラ達は驚く。
自動人形ルネはなおも続けた。
「魔道は目的です。探求や鍛錬の先にあるものあって責任転嫁をするようなものではありません。仮に君らの人生がどうしようもないのであれば、それは魔道がどうしようもないのではなく、君か君のご家族がどうしようもないというだけなのです。
ただそれを認めたくないから『これも魔道のせい』『あれも魔道のせい』とするのでしょう。多くの魔法使いはただ言い訳がほしいだけなのですから。しかし、そんなものが魔道であるはずがありません。
言い訳をして、いったい私達はどこにたどり着けるというのでしょうか。先へ進むのは正当化に励んだ者ではなく、自らを鍛錬して力を得たものなのですから」
きっぱりと彼は否定した。オルブライトに刻まれた両親の怒りもミシェーラの諦観も。
知らぬ癖に、と二人は思った。
長く続いた魔法族の出である彼らからすればルネは魔法社会の新参者も新参者である。魔法使いを知らない者が何を語るのかと。
「なら、どちらが正しいか決めるか」
「おやおや──来てしまいましたか」
頭に渦巻く怒りを力に変えたオルブライトが杖剣を構えた。怒気によって一時的に痛みを忘れるほどであったが、自動人形ルネの関心は唐突に彼から森の方へと変わる。森の奥の方を見つめ、杖剣を向けるオルブライトに見向きもしなかった。
その態度に苛立ったオルブライトは声を荒げる。
「決闘を受けるのか、受けないのか!?」
そこでやっとルネはこの同級生を見た。
「では、あれらをどうにかできたら受けましょうか」
オルブライトからの決闘の申し出を無視したルネの視線をマルコは追っていた。信頼する相手の動きをつい真似してしまったのだが。
そのお陰で彼の視線の先──森のずっと先から、何かがこちらに来ているのに気づく。大きな何かが。自分よりもずっと大柄な何かが枝を折りながら向かってきていると。
ぱきりと鳴り続ける小さな音と森の揺れに、森で暮らすトロールならではの感覚が教えてくれる。敵襲だ、と。
「カティ、何か、来ル」
「え? どっち?」
「あっち」
ルネ達の方に気を取られていたカティだが、マルコの進言で双眼鏡を彼が示した方に向ける。
すぐに魔法道具は彼らを捉えた。木々の間をすり抜けながらも迫る異形の怪物達を。明確に自分達の方に進んでいる。
魔法道具が見つけたその姿を確認し、カティは絶句した。それは見たこともない、全身から肉色の触手を生やした獣だったからだ。
そして仲間達に危険な相手の接近を告げる間もなく、それらは森から飛び出してきた。巨体にも関わらず素早い動きでカティ達を取り囲む。
数は七頭。全長二十フィートの体に余すところなく触手を生やしていて、脚は三対六本、地竜に似ていた。しかし他は全く違う。
咄嗟にカティ達は移動した。頼りになる相手の近くへと。ルネを頂点に円陣を組み、杖剣を手に包囲に対抗した。マルコも盾と鉈で魔獣を威嚇する。
「魔獣シュブニグラス? いや、そんなわけない。ずっと昔に絶滅したはずだし、蹄でもない。それにもっと大きかったはず」
カティが杖剣片手に相手を分析した。この場を切り抜ける手立てを思いつくためにも。
しかし、やはり既存のどの魔法生物でもないようだった。辛うじて絶滅した神獣の眷属に思い至ったが、外見が似ているだけでそのものではない。
「となると
「その通り。モデルも当てるとは素晴らしい」
彼女が到達した答えにルネは拍手した。何一つ警戒していない彼に全員の視線が向けられる。そして思ったことをカティが代弁する。
「ルネが作ったの?」
「いいえ。しかし、私が関与しているのは確かです。だから彼らは私を襲いません。飼い犬に手を噛まれるつもりはありませんから。そのように仕組みました。私の近くにいる君らもです。しかし」
確かめるようにじっとルネ達を見ていた
捕食者に見つめられ、流石のオルブライトも青褪めた。わなわなと震える口で問う。
「貴様、使い魔は」
「これは私の使い魔ではありません。検出呪文を使っても構いませんよ。先ほど言ったとおりに多少私の手が加わっていますが、私の契約下にも支配下にもいない
それに決闘はまだ始まってもいません。私は君の申し出を受けていませんから。言ったはずです。彼らをどうにかできたら受けましょうか、と」
ルネが言い終えたのを合図にしたかのように
「さ、サリヴァーーーーンッ!!」
彼との距離を詰めながら魔獣は最大の特徴である触手を伸ばす。絶叫しつつ迫る触手をどうにか一本だけ斬り落としたオルブライトだったが、すぐに他の触手に腕と喉を絡め取られて
食われる。そうこの場の誰もが思ったが、
彼を捕まえた一頭だけが森の方へと引き返し、後は一層の方へと向かう。
八人とトロール一人は
「オルブライト殿が」
「よせ、ナナオ」
オルブライトを助け出そうとしたナナオはオリバーに止められていた。十頭近くいた魔獣に対抗できるほど自分達は強くないし、この件にはルネが関わっているからだ。
もしオルブライトを捕まえるのが彼の意思ならナナオが何をしても無駄である。十頭の
「だが、事情は説明してもらえるか。ルネ」
ナナオの肩に手を置きつつ、オリバーはルネに尋ねた。いったい何が起きたのかと。
彼は秘密にすることもせずに素直に答えた。まずカティに言う。
「
「え? えーっと……『三層からの魔獣の侵入を確認』って、これがさっきの?」
「はい。三層から上がってきた魔獣ですね、あれが」
そして彼女は水晶板に表示された通知を読む。三層から魔獣が現れたために退避するようにというメッセージだった。
ルネはくすくすと笑みをこぼす。
「いやはや、君の水晶板の反応が二層から発せられたので驚きましたよ。てっきり一層、それも私の近くにいると思っていましたので。
だから私はマルコが救援球を打ち上げる前から君らを探していたのですよ。
「そもそもあの
当然の質問にもルネは素直に返答した。偽ることが無駄であるように。
「
「
続く追求に、ルネは微笑んだ。
「ところで
突拍子もない話であった。オリバーの好みが何の関係があるのか。意味が分からないメンバーがほとんどだったが、しかしオリバーにとってはそうではなかった。
「……どうして、それを?」
「え、何か知ってるの? オリバー」
「──ちょっと前に迷宮でサルヴァドーリ先輩に出くわした時に、そんな話をしたんだ」
それはロッシと決闘をする前──従兄姉達の工房に着く前のことだ。オリバーはオフィーリア=サルヴァドーリと会っていたのである。
もちろん約束をしていたわけではない。工房への道中で偶然にも遭遇してしまったのだ。迷宮の石材の上に腰かけながら、ぼんやりとしていた彼女に。
何故かオフィーリアはオリバーに声をかけ、話し相手になるように言った。罠の類いではなく、単なる気まぐれであるとオリバーは思ったし、オフィーリアもそうであると思っていたのだが。
『あれからもずっと、迷宮で過ごしていたんですか?』
『何度か校舎にも戻ったわよ。食堂のかぼちゃパイが食べたかったから。あれ、あなたも好き?』
『……。どちらかといえば、タルトの方が好みです』
ルネの話はその時の会話を元にしているに違いなかった。
しかし、どうして彼がそれを知っているのか。まさか、あの時に隠れて見ていたのか。
いや、ルネは
「つまり、あの時の彼女は──彼女では、なかったのか?」
オリバーはそう自分で口にしていて理解できない。どれだけ思い返しても、あの時にいたのはオフィーリア本人としか思えなかったからだ。
声も、動きも、魔力も、
「ええ、その通り」
しかしルネはそれを偽物であると言った。すぐに詳細を説明する。
「あれは
この魔法道具で重要なのは流すという動きです。流れる補助体液から霊魂の情報を吸い上げ、対象を再現します。
容器に保存した血液や臓器などからも霊体の情報は抜き出せるのですが、それらでは読み取れない細やかな情報までも血流を模すことで再現可能です。例えば人間性ですね。つまりは魂です。
魂魄をも再現することによってより緻密な動きを可能としました。だからとても人間っぽく見えたのではありませんか? あれは機械の体というだけで、霊魂学的にはオフィーリア先輩そのものですから。君が勘違いするほどに人間らしく見えたことでしょう」
あれが機械仕掛けの魔法道具だったとルネは言った。あれが? 信じられないオリバーは絶句する。
「そう驚くことではないのでは? 今、君の目の前にいる私も機械仕掛けなのですから。魔法金属製の特殊皮膚の下は同じように魔法金属製の部品でできているのですよ」
黙りこくるオリバーに自動人形ルネは自分の首をキリキリと一周だけ回して見せた。そして逆向きに回る。
その時ですら、彼には目の前の存在が人間にしか見えなかったのである。表情、雰囲気、どう見ても自動人形ルネのそれは人間だった。
なのに人間じゃない。オリバーはそのギャップに面食らってしまった。
「──では、先輩はどうなったのですか?」
言葉が出なくなったオリバーの代わりにミシェーラが質問を引き継いだ。そしてルネは彼女の問いに、これまでと同じように気軽に答えた。
「サルヴァドーリ先輩は死んでいます。私が殺しました」
彼らは期待していたのだ。「彼女を捕らえている」「工房で研究している」と。そんな風に答えてくれることを。
しかしルネの答えは殺害報告だった。あまりの衝撃に誰も二の句が継げない。
聞き返しもしなかった。そんな言葉も出ない。口も頭も固まった。「私が殺した」なんて誰もが意味を理解できる言葉ではあるが、実際に他人の口から発せられると思考が硬直してしまったのだ。
静かな聴衆となった彼らにルネは報告を続ける。
「既に解体作業は済んでいます。脳、心臓、子宮、血液などなど。臓器や血液から霊体関係の情報の吸い出し作業も進んでいますし、生命因子などの肉体面の解析作業も順調に進行中です。そして
そう話している最中に一層から
のしのしと彼らはルネ達の近くを通っていった。やってきた時と同じようにルネ達に関心は持っていない。ただ通り過ぎていく。
その際に彼らは見た。魔獣達がそれぞれ体に何人もの男子生徒達を捕らえられているのを。
大量の触手の下にいるためによく見えなかったが、おそらく下級生だ。彼らは触手の拘束の合間から左手を伸ばして必死に助けを求めていた。
「た、助けて! こっちだ! 助けてくれ!」「頼む、何とかしてくれ!」「おい! こっちだ! こっちだって!」「い、嫌だ! お前ら、助けてくれぇッ!」「おい! どうして無視するんだよ! おいってば!」
そんな幾つもの声が魔獣の足音と共に去っていくのをルネは微笑みながら見送る。まるで子犬の行進を見ているかのように穏やかな顔だった。
助けを呼ぶ声も魔獣の気配も、オルブライトを連れ去った
オリバー達も、オルブライトが攫われるのを見届けたのと同じように何もしなかった。
しかし彼らは決して穏やかな顔をしていない。誰かを見捨てたという罪悪感に満ちていた。
魔獣達が通り過ぎてしばらく経った後、ようやくオリバーが口を開く。
「彼らは──彼らはどうなるんだ、ルネ」
「先輩の工房には男性の魔力を吸収する設備があります。それにかけられるのでしょうね。
無事かどうかは彼らの体力にかかっています。体力が尽きてしまえば死んでしまうでしょう」
作業工程を淡々と説明する自動人形ルネ。目の前の同校生達が死ぬという可能性をあっさりと口にした。自然体な話しぶりで何一つ動揺していない。
質問が終わったと思ったのか、彼は水晶板を手に取って表示されたものを確認し始めた。
どんなおぞましい作業をしているのか。オリバーにはもう想像もできない。
「こんな、こと……」
「オールディス先生を通じて学校側には連絡済みです。サルヴァドーリ先輩に関しても、生徒に多少被害が出る点も含めて止められはしませんでしたよ。校舎に被害を出さないようにという念押しがあった程度でしょうか」
生徒の自由な学びが推奨されているキンバリーではあるが、勝手気ままに行動するのと同じように事前に実験・研究内容を学校へ報告する自由もあった。むしろ報告しておく生徒は多い。
異界関連──特に門を開く場合は絶対に許可が必要だが、それ以外でも他生徒に被害が出る場合には連絡しておくと喜ばれるからだ。
自由主義の校風ではあるが無秩序は好まないのだから。何が起きているのかを知らせておけば学校側もそれなりの対応をしてくれるのである。
もちろん提出した被害予想が酷ければ止められたり、介入されたりするケースもあるが。「重傷者二十数名、死者数名」の予想を出した今回は何も言われなかった。
「魔に呑まれるのも想定内です。そもそも私が殺す前に既に魔に呑まれる一歩手前だったのですから。だからこそ私も手を出したのですが。
よろしければ観測資料をご覧になりますか?」
「いや……いい」
「そうですか──と、失礼。状況を確認させてください」
震える声のオリバーにもいつもの穏やかな口調で説明するとルネは目を水晶板の方に向ける。
そこに映されているのは捕捉した
これから工房での作業が始まる。
収集する資料が数多くあり、自動人形ルネは嬉しくてしかたがなかった。
一方でオリバーは生徒達が連れ去れれた方角を見つめる。申し訳ないという表情で。深い悲しみの顔で。
そして尋ねた。彼らが死んだ時に、殺人者になる少年に。
「君は、どうするんだ。彼らが死んだら」
自動人形ルネは即答した。
「彼らのために祈りましょう。感謝も伝えることでしょう」
「君が殺したのにか?」
「ええ、もちろん」
「それがッ、君の魔道だからか」
怒鳴りたくなるのを抑えて重ねて問う。同じように自動人形ルネは答えた。
「いいえ。彼らが死ぬのは魔道のせいではありません。私のせいなのです。先ほど
「ッ!?」「──オリバー」
祈ると口にした癖に死を悼む気持ちが全くない。彼の口ぶりはまるで足枷に囚われないかのようなものだった。
咄嗟にオリバーはこの人の形をしたモノに呪文を撃ちたくなったが。その思いを察したミシェーラが彼の肩に手を置いたので思い止まった。
彼女の意図としては友人にそんな野蛮なことをさせたくない思いがあり、そしてやってもどうしようもないという諦めもあった。
実際オリバーが思ったように目の前のルネはモノだ。無数にいる
生身ではないのだから攻撃したところで気は晴れないし、そもそも攻撃が通じるかも怪しかった。
彼らの複雑な心情を理解しているのか。そんな二人のやり取りを見つめつつ、ルネは思い出したように言った。
「そうだ。ところで君達は決闘の途中だったのでは? 生徒会がすぐに迷宮を封鎖してしまうでしょうから、その前にいかがでしょう。立会人なら私がやりますよ」
「そんな状況ではないでしょう」
ミシェーラがルネの提案をぴしゃりと断る。彼の視線はステイシーに向いた。
「君は?
「──私も、今は良いわ。ミシェーラの言う通り、そんな状況じゃないし」
互いの確認を取ったルネは提案する。
「では校舎に戻りましょうか」
そう言うなり、先頭を歩き始めた。
「さあ、行きましょう。ところで
「う、うん。ありがと」
「ウ」
先を進むルネに一歩遅れてカティとマルコがついていった。流石に硬い表情をしているが彼から離れる様子はない。
彼らが少し歩いた後に、ようやくオリバー達もついていった。黙ったまま、静かに校舎への帰路についた。