七つの魔剣が支配する~夜明けの魔法使い~    作:HAL1993

56 / 64
第56話〜決戦直前〜

「次、来ます!」「ちっとも終わらんな!」

 

 生徒会所属の上級生達は押し寄せるようにやってきた合成獣(キメラ)達の対処に追われていた。

 当然彼らは違和感に気づいている。つい先ほどまでは自分達が縄張りを犯した個体のみに襲われていたにも関わらず、今やそんなもの関係なしに合成獣(キメラ)が集まってくるのだから。

 

「これは、目的地に近いってことなんですかね!?」

 

 前衛を任された上級生の一人がすばしっこく動き回りつつ、怪物の巨体を杖剣で斬り裂いていく。傷は浅くはないが深くもない程度だった。

 

「だとしても不自然だ」

 

 それに気を取られた合成獣(キメラ)の脳天にレセディ=イングウェの蹴りが突き刺さる。頭蓋を砕かれ、脳を潰された魔獣の耳から血が流れた。

 

「あまりにも数が多すぎる。これは──操られているな」

 

 その目からはっきりと生気が消える前にレセディは次の獲物を狙う。鋭い杖剣捌きと、同じような鋭さを持つ蹴りこそ彼女の武器である。

 そんなレセディの能力を最大限発揮させるためにも彼女の部下達は合成獣(キメラ)の気をそらしつつ、彼らもまた油断ならない刃や呪文を扱った。

 

「サルヴァドーリがそうさせているのか──それともサリヴァーンか」

 

 レセディの鋭い眼差しは合成獣(キメラ)達の向こうにいる、かつての仲間へと向けられている。その隣にいるであろう新入生にも。

 

「多分あの新入生ね。リアはもう、そんなことできないだろうから」

「おそらく。だが今になってそんな真似をしてきたということは、あれにとって不都合が起きているんだろう」

 

 レセディの足と刃が振るわれ、そしてティム=リントンの毒が怪物達の命を奪うのを見ながらアルヴィン=ゴッドフレイとカルロス=ウィットロウは前進していた。

 

「あの子が思っていたよりも、あたし達の進みが早かったのかしら」

「だとしたら、ウォーカー先輩に頭が上がらないな。いつものことだが」

「そうね。あの人はいつもお世話になりっぱなし」

 

 ゴッドフレイの手にはケビン=ウォーカーの手帳が握られている。中身は現在の三層の様子を事細かに記したものだ。

 ルネによって重傷を負わされ、二層に放り投げられた先輩から手渡された大切な情報である。

 

 恐ろしい力によって体を砕かれ、更に高速飛行で三層から二層へと運ばれたウォーカーには何よりも治療が必要だった。その手をいったん止めさせてまで彼はゴッドフレイに手帳を預けたのだ。

 

「ははっ。先輩は、後輩を助けるもんだろ? 君らが、ずっとやってきたことじゃないか」

 

 そう言ったウォーカーの笑顔を思い出し、ゴッドフレイの手に力が入る。痛みに耐えて自分に希望を託してくれたその顔を。

 

 感謝しかなかった。

 また今、自分達の代わりに合成獣(キメラ)と戦ってくれている仲間達にも同じ思いを抱く。

 

 今、ゴッドフレイとカルロスは体に魔力を漲らせていた。全ては決戦のために。これから行く先で待つ魔法使いのために。

 

 

 

 自動人形ルネは水上で胡座を組んで同級生達の健闘を眺めていた。

 オリバー、ナナオ、ミシェーラ、カティはどうにか水の上で立っていられるが、ガイ、ピートは足を濡らしてばかりだ。

 

「うおッ」「またか!」

「あはは。また盛大に沈んだねえ、君たち。大丈夫かい?」

 

 ミリガンは陸に戻って後者の二人を受け持っていた。浅瀬でガイ達に初歩の初歩を教えている。近くにはフードで顔を隠した付き添いの自動人形ルネ達も待機していた。

 

 一方で顔を出している自動人形ルネはカティ達を担当した。陸から離れたところに彼女らを立たせている。失敗すれば沼底まで沈むであろう位置だった。

 四人の付き添いの自動人形達は陸で待っている。ガイ達の付き添いと並んで佇んでいた。

 

「よいしょ」

 

 指導役の自動人形ルネが水面で立ち上がる。もちろんそのズボンには水の染み一つない。

 軽く立ち上がったのと同じように軽い足取りで、彼は水の上で直立不動となっている四人の同級生達の周りをくるくると歩き回った。

 

「ふむふむ、なるほどなるほど」

 

 彼らの表情が曇る。まじまじとルネに観察されているのが嫌なのではない。彼が歩くたびにわざと立てている波が四人の領域魔法の集中を妨げるのだ。ただでさえ立っているだけでも疲れるというのに。

 

「……あ、あまり虐めないでほしいでござる」

「……なかなか上手く、いきませんわね」

「……Ms.(ミズ)マックリー達はそれなりにできていたようだが、カティ、ナナオ、君らは?」

「……私、呪文の方はやってるけど、歩法とか領域魔法はそんなにだから。一瞬足場にするくらいならできるのに。こうやって立ち続けるのはちょっと」

「……拙者も、壁走りはやっているのでござるが、こう立っているだけというのはどうも」

 

 カティ達はただ地面の上で立っているよりも遥かに力を使っていた。足から水面に魔力を流し、自身が落ちないように支えているのだから。

 自動人形ルネはそんな四人の苦悶の顔を眺めながら言った。

 

「水であれ、壁であれ、空であれ。そこを踏みたいのであれば頼るべくは自身の魔力だけでなく、その場の魔力も扱いましょう。

 そして場の魔力と自身の魔力をしっかりと結び、私達の体を安定させるのです。この繋がりが弱いと簡単に踏み外してしまいますよ。こんな風に」

「むうッ!?」「ッ!?」「おッ!?」「きゃあッ!」

 

 自動人形ルネが水面を爪先で叩いた瞬間、カティ達は同時に水の中に落ちてしまった。水面との魔力的な繋がりを切られたことで水上歩行ができなくなったのだ。一気に肩まで沼に浸かった。

 

 その沈む体を月に届け(リーチフォーザムーン)が受け止め、再度水上に戻す。濡れた体も彼の無言の魔法によって乾いた。

 

 四人はまるで子猫のように自動人形ルネの魔法に持ち上げられている。むすっとした顔をしているが、自分達の実力不足である点は否定できないので無言でいるしかないのだ。

 

「私の領域魔法の上に戻しますので魔力は使わなくて大丈夫ですよ」

 

 それを可愛らしく思いながら、自動人形ルネはカティ達を水面に戻した。自身の魔力を用いて確かな足場を作ったところへ。

 もう彼らは不安を覚えなかった。決して落ちない足元を手に入れたのだから。

 

 落ち着いたカティ達にルネの指導が入る。

 

「もし魔力の繋がりが切れてしまっても焦ってはいけません。慌てて呪文に頼るのではなく再び領域魔法を用いましょう」

 

 そう言った彼の足が水に沈む。腰まで一気に落ちたが、それ以上は沈まなかった。カティ達は一気に肩まで落ちた場所だというのに。

 明らかに何かが沈没を妨げていた。ルネの話からそれは領域魔法なのだろうとは想像ができる。

 

「沈んだら終わりと思ってしまうかもしれませんが、そんなことはありません。歩法は歩く技術です。それはどこでだって同じなのですから。どこでも歩けると思いましょう。こんな風に」

 

 自動人形ルネが腰まで水に浸かった状態からまるで階段を使うように水中を上って水面まで戻ってきた。そして、そのまま空すら上っていく。

 踏み立つ虚空(スカイウォーク)の実演だ。二歩ですら並外れた才能が必要であるというのに、彼の歩みは十歩を超えていた。

 

 四人がその姿を見上げていると自動人形ルネは飛び降りるように水上へと戻ってくる。降り立った際に水は一つとして揺れなかった。

 

「では、その辺りを意識してまた一歩踏み出してください。そこから私の領域魔法はなくなります」

 

 彼の指示通りにカティ達が一歩踏み出し、再度訓練は始まる。

 といっても光景は変わり映えしなかった。意識的に自分の魔力と水に含まれる魔力を繋げようとしても、さっきと変わらずどうにか水上で立つ姿になるだけである。

 その様子を自動人形ルネは四人の周りを歩きながら観察した。

 

「君らはまだ足から無造作に魔力を流して、それを足場にしているに過ぎません。それも綱渡りのような細い足場です。だから立っているだけで疲れてしまうのでしょう。綱から落ちないために集中力を使っているのですから。

 今の状態ですと水上での走りも戦闘も、その細い足場でしか君達は動けません。これが不利であるのはよく分かるかと思います。

 ではどうすべきなのか、えい」

「ほわわわッ!? ちょ、ルネ!?」

 

 話の途中で、不意に自動人形ルネがカティの肩を押す。ぐらりとその体が揺れた。途端に彼女はばたばたと両手を羽ばたくように動かし、慌てて何度も水面を蹴って安定を取り戻す。

 

 間の抜けた動きだったが、そうしなければ水面に落ちてまた沈んでいただろう。カティは息を荒くして自動人形ルネを睨んだ。

 

「ふーッ、ふーッ……」

「そんなに怖い顔をしないでください。代わりに、どうぞ私を突き飛ばしてください」

 

 彼はカティの前に立って、両手を広げて目を閉じた。

 

「大丈夫なの?」

「もちろん。踏み立つ湖面(レイクウォーク)の模範の一つを見せるだけですから」

「じゃ、遠慮なく。えい」

 

 先ほどの恨みからか、不意をつくようにカティは唐突に自動人形ルネを突き飛ばす。

 そのまま彼の体は後ろに倒れ込んだ。

 

 しかし、水の中へと沈むことはなかった。自動人形ルネは仰向けになって瘴気に覆われた天井を見上げている。その背中は水面についてはいるが、沈んではいなかった。

 

「歩法ということで足や足元だけを意識することが多いですが、実は意識すべきは全身なのです。全身で魔力を用いて、水面であれ壁面であれ空中であれ、そこにある魔力と繋がって体を支えます。足から魔力を放出し、足だけで体を支えるのではありません。体からの魔力を繋ぎ、体全てで支えます。

 魔力を扱う際のイメージはまさに今の私の姿のように全身を預けるようなものですね。細い足場に立つのではなく、こんな風にどっしりと構えるのです」

 

 自動人形ルネはそのまま水上を転げ回る。まるでカーペットの上を寝転がる子供のように。だが、その体は全く水中に落ちない。

 

「足だけを気にしていたら姿勢が少し崩れただけでパニックを起こしてしまうでしょうし、足ばかりを気にすると動きに安定感が出ません。しかし体全体から魔力を使っていればどんな姿勢でも水面にい続けることができますし、どんな動きも安定して行えます」

 

 そして転がりながら手を使い、水面を叩いて軽い身のこなしで立ち上がった。全く疲れた様子もなく指導は続く。

 

「もちろんただ全身から魔力を垂れ流すのではありません。それだと無駄に魔力を消費してしまいますし、魔力を感じ取る魔法生物を不必要に呼び寄せてしまいます。

 全身の魔力を使うということでまず量を頭に思い浮かべてしまうかもしれませんが、周囲の魔力と繋がって私達の体を支えるのに必要な分だけを扱えば良いのです。その量は多くはありません。ごく少量で十分です。

 その量を知るための感覚を得るには練習で体得していくしかありません。魔力の感覚を鍛え、体を支えるのに必要な魔力がどれほどかを瞬時に判断するのです。

 では、その辺りを意識してやってみましょうか。まずは魔力量を気にせずに全身から魔力を流してみてください。ご安心を。魔法生物は寄せつけませんし、疲労で落ちそうになれば手助けしますので。量を使ってから、それを減らしていくようにしましょう」

 

 そう言うと再度カティ達の観察に回る。四人は彼の指導に従い、また魔力に集中するのだった。

 

 

 

 おおよそ三時間の練習の結果、カティ達はそう苦労することもなく水面を歩くことができるようになっていた。

 疲労や魔力の消費も少ない。走ることはまだ難しかったが、自動人形ルネを先頭に水の上を散歩することくらいはできるようになった。

 

「むむ、これはなんという大きさ」

 

 ナナオが何かに気づいたのか真下の水中を覗き込んでいる。隣りにいたカティも同じように水の中を見つめ、その中を泳ぐ大柄な魚に気づいた。

 

「あ、ホントだね。あれは豚鯉(ボアカープ)かな。連合(ユニオン)中の川とか湖にいる鯉だよ。私の故郷じゃあんまりいないんだけど、こっちとかだと食べるんじゃなかったかな」

「なんと、あれが鯉と。拙者の故郷のものとは大きさが段違いにござる。しかし、こちらでも鯉を食うとは」

「へえ、日の国(ヤマツ)でも食べるんだ。結構食文化は違うと思ってたんだけど、似てるところもあるんだね」

「……ふうむ。どんな味にござろう」

「あ、ちょっと待って。ルネからあんまり離れちゃだめだよ」

 

 ナナオとカティは前者は食欲、後者は知的好奇心という違いはあったが、二人とも水中を泳ぐ大きな魚を歩いて追っていた。

 そんな姿をオリバー、ミシェーラは微笑ましく見守っている。

 

 一方でガイ達はようやく浅瀬から離れることができたようだった。先ほどカティ達が練習をしていた場所で同じように水上歩行の練習に取り組んでいる。

 

「彼らも素晴らしいですね。実に覚えが良い」

 

 遠巻きにミリガンの指導を眺めながら自動人形ルネが嬉しそうに呟いた。

 同じ光景を見つめ、そして自分達の現状を見据えながらミシェーラが彼の呟きに続く。

 

「今更ですが、少しばかり先の予習をしてしまいましたわね」

「確かに。授業でもこの手の内容が出るのはもう少し先だろう。ただ有意義な時間だったのは間違いない」

 

 オリバーは友人の言葉に同意しつつも、自分達の足元を見て断言した。沈まなくなった足取りは確かな経験であり財産なのだから。文字通り一歩先の技術を手に入れたのだ。

 

「そうですわね。体全てから魔力を使い、足のみではなく全体を支えると。正直、これまではどうしても足ばかり意識していました。その点を改善できたのは良かったですわ」

 

 友人達の感想を聞き、自動人形ルネは嬉しそうに微笑む。 

 

「君達の糧になれて私も嬉しいですよ。ぜひ今日の意識を忘れずにこれからも練習してください。歩法とは足ばかりに集中するものではないと。領域魔法の一分野であると。

 そうして周囲への魔法干渉を覚えれば、いずれは何にも邪魔されない歩みを手に入れられるでしょう。例え火の中であれ水の中であれ、君達の道を邪魔するものはないのです」

 

 そして宙を跳ね回りながら友人達を激励する。高みを目指し、道を進んでゆけと。

 溢れんばかりの才能と行動力でそれを有言実行している少年の口から発せられたのだ。実に説得力のある言葉だった。 

 

「ルネ、この鯉を捕まえられるでござるか? 釣ろうにも釣り竿もなく」

 

 ふとナナオの声が遠くから聞こえた。声の出所を探してみると、ずっと豚鯉(ボアカープ)を追っていたのか三人とかなり距離が離れている。彼女は手を振りながらルネを呼んでいた。

 同じようにカティも手を振ってルネを呼んでいる。

 

「お願い、手を貸して。ナナオったら潜って捕まえようとしたんだから」

 

 そんな二人の様子に笑みを浮かべつつ、自動人形ルネも手を振って応えた。

 

「ええ、もちろん。拠点に戻ったらフライにしてみんなで食べましょうか」

 

 そうして彼はすぐにカティ達の方へと向かった。追い回されてパニックに陥っている巨大鯉は四方八方に逃げているが、ルネ=サリヴァーンの敵ではなかった。

 彼の月に届け(リーチフォーザムーン)があっという間に豚鯉(ボアカープ)を捕らえ、その大きな体を水上まで持ち上げる。

 豚鯉(ボアカープ)は口をパクパクと動かし、必死に暴れるがルネの力は巨体とはいえ鯉では振りほどけなかった。

 

 その暴れっぷりをナナオは興味深そうに見つめている。その視線に気づいたルネが提案した。

 

「持ってみますか?」

「ぜひにも!」

「では、どうぞ」

 

 差し出されたナナオの両腕の上に自動人形ルネは豚鯉(ボアカープ)を下ろす。

 

「ふ。む、むむむ。むむむむむ」

 

 ナナオは大きく揺れる湿った体を抱きかかえ、その力強さで同じように体と声を揺らした。

 しばらく彼女は巨体の鯉と格闘するが、いっこうに大人しくならない。そろそろ水飛沫と沼の臭いが気になってくる頃でもあった。

 

「る、ルネ。そろそろ十分にござる」

「はい、分かりました」

 

 再度月に届け(リーチフォーザムーン)豚鯉(ボアカープ)を捉え、その体を浮かび上がらせる。

 そこに自動人形ルネは魔法を追加した。

 

「ここで〆ると鮮度が落ちてしまいますので拠点まで持って帰りましょうか」

 

 じたばたする巨鯉に彼が杖を向けると、その先から溢れ出た水が浮かぶ巨大魚を丸ごと包みこんだ。

 こうしてできた水球は簡易的な生け簀である。今までの暴れっぷりが嘘であるかのように豚鯉(ボアカープ)は水球の中で大人しくなった。

 

「どうしたの、この子」

 

 カティが静まり返った豚鯉(ボアカープ)の顔を覗き込む。それに反応すら見せず、この魚はただ水の中を漂うだけだった。

 隣で杖を腰に収めた自動人形ルネも同じように水球の中を覗く。その表面を指で指して言った。

  

「暴れて身が痛まないように鎮静呪文を水に含ませてます。これで暴れさせず、また生きたまま運搬ができるようになるのですよ。

 ちなみにサリヴァーン商会が運ぶ活魚はこれを魔道工学的に再現した魔法道具を利用しています。このおかげで凍結呪文を利用した流通よりもより高品質な魚介類を市場に提供できるようになったのです」

「へえ、そうなんだ」

 

 興味深そうにカティは水球を指で撫でる。水滴一つすら彼女の指先につかないが、ほのかに魔力は感じ取れた。

 滑らかなその表面を食い入るように見つめる。生物を鎮める手段は幾つでも知っておきたい彼女にとってはこれも貴重な資料なのだ。

 

 勉強熱心な友人に感心しつつ、自動人形ルネは陸を指差す。

 

「そろそろ拠点へ戻りましょうか」

 

 そして陸の方へと向かった。

 まるで風船を連れ歩くように自動人形ルネは巨大鯉が入った水球を引き連れて歩いていく。カティ達はその後を追った。

 

 お祭りからの帰り道の光景のようだ。出店で購入したものを手に歩く父親と、その娘達。

 なんて、のどかなのだろうか。三人を後ろから眺めていたオリバーとミシェーラはそんな感想を抱いた。

 

「そうだ、ちょっとこの水球を持ってみませんか? 単純な魔力制御で浮かぶようにしてあるだけですから簡単に持ち上がりますよ」

 

 カティがルネと水球を交互に見比べて感想を口にする。

 

「……私達にそんな制御ができるの?」

「もちろん。そう難しくありませんから」

「ほんとに〜?」 

 

 首を傾げつつ、カティはルネと交代して杖を掲げた。ルネの魔力の代わりにカティの魔力が水球と繋がり。

 

「お、お、お。できた!」

 

 バランスを取ろうとカティは最初身構えていたが、ただ魔力を注ぐだけで勝手に水球の方が安定してくれるので安堵の声を上げた。

 杖先をくるくると回し、その動きに合わせてゆっくりと揺らめく水球を楽しむ。

 

「おお、これは見事。では次は拙者にも」

「うん。はい、どうぞ」

「うむ──おお、確かに何もせずとも水の玉が落ちぬ。なんと奇っ怪な」

 

 カティとナナオは交互に水球を持ち上げた。風船を頭上で弾いて遊ぶ子供のように。

 その光景は本当にただのどかな一場面でしかなかった。

 そして。

 

 

 

「生徒会、予定領域内に進入」

再現人形(ダミー)サルヴァドーリ、工房外へ出ます」

「少しお待ちください。泥中を潜航し、予定領域へ進行する反応を確認しました。これは、サイラス=リヴァーモア使役の骨の使い魔です」

 

 自動人形ルネがクリストファー船内で人造人間(ホムンクルス)達の報告を聞いていた 

 船長席前の投影図にはオフィーリアの工房付近にたどり着いた生徒会と、彼らを出迎える再現人形のオフィーリアの反応が示されている。

 それらに加え、泥の中を使い魔に乗って移動中のサイラス=リヴァーモアも表示されていた。

 

 諦めずに再度介入してくるつもりのようだ。生徒会と共闘するつもりだろうか。それとも単体の戦力として動くつもりか。

 どちらにせよ少なくともゴッドフレイ達と争うことはなく、自身の妨害をすることは間違いなかった。

 

 自動人形ルネはしばし考え、指示を出した。

 

「リヴァーモア先輩のことは気にせずに状況を進めます。記録用自動人形(オートマトン)、撮影用自動人形(オートマトン)の最終チェックに入ってください」

「了解」

再現人形(ダミー)からの記録伝達速度は?」

「良好です」

「撮影用自動人形(オートマトン)、問題なく稼働中です。映像が前に出ます」

 

 船橋前面にオフィーリア工房前の映像が大きく映し出される。投影された景色には乱れも遅延もなかった。拠点に映像を送るための設備も問題はなさそうだ。

 

「映像、各検出器の記録も問題ありません」

 

 そして再現人形(ダミー)オフィーリアが記録した情報も滞りなく送られてきていた。これらを記録する機能も問題ない。

 

 つまり何も問題はない。自動人形ルネはその結果に満足気に頷くと宣言した。

 

「結構。では私達はゆったりさせてもらいましょうか」

「了解」

 

 彼と人造人間(ホムンクルス)達はそれぞれリラックスした体勢で椅子に座り直し、手持ちの器に盛られた豚鯉(ボアカープ)のフライを食べ始めた。

 一口サイズのそれを指で摘まんで口に放り込めば、臭みのない濃厚な白身の味が口の中に広がる。発泡リンゴ水(サイダー)で油を流せば何度でも新鮮にその味を楽しめた。 

 

 観戦の素晴らしいお供である。ただし観るのは箒競技の試合などではない。一人の魔法使いの、人生の集大成の再現だ。

 もっともルネにとってはどちらも大差ないのだったが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。