「まあまあ! かわいいでちゅねぇぇぇぇぇ♡」
「……」
子供が着けるような前掛け、そして死にそうな目がトレーナーの状況のヤバさを如実に表していた。
「じゃあ次は卵焼きでちゅよ~、はいあーん」
「……あーん」
デスクに置かれた彩り鮮やかなお弁当の数々、それを丁寧に一口分ずつトレーナーの口に運んでいくクリーク。
タマの様な一点もの構成とは打って変わり種類と量で攻めてきた彼女は、何故か箸を渡すことは無かった。
唖然とする彼を無視して用意した前掛けを着け、満面の笑みで箸を運んでいく彼女はよく言えば母親、悪く言えば頭のオカシイ奴である。
普段は気が利き、優しい彼女は何処に行ってしまったのか?
基本的にはウマ娘たちの好きにやらせてあげたいトレーナーは、一時の恥と自身に言い聞かせて我慢する。
「あら、頬に米粒が付いちゃってまちゅね~。――ぱく」
「……ありがとう」
わざと付けた様にも見えたが、きちんと指で取って食べたのでぎりぎり許そう。一瞬顔を近づけてきたのを見逃さなかった。絶対直接食べる気であった。
必至に虚無の時間を過ごし、彼は思いはせる。
クリークはそう言えば昔から甘やかしてくる娘であったな――。
あの時、彼は憔悴していた。
マルゼン、タマと二年連続クラシック年を棒に振るってしまった醜態に、自身の無能さに。
「大丈夫ですよ~、私がトレーナーさんにクラシックのトロフィーをプレゼントしますから~」
落ち込む彼の頭をなでなでし、優しい笑みを向けるクリーク。
その笑顔に救われた彼は上二人のノウハウを基にクリークを導いていった。
しかし頼もしくなっていくトレーナーに戸惑ってしまったのはクリークの方であった。
自分が導く、自分が一流のトレーナーにすると張り切っていた彼女は、いつの間にかそのギャップにやられ不調に陥ってしまった。
不調のまま皐月ダービーと出場が叶わなかった。
既に有望さが知れ渡っていたクリークの醜態は、そのままトレーナーの悪評に代わる。
自分が一流にすると誓ったのに、結果は自分のせいで二流以下と言うバッシングを受けるハメになってしまった。
しかしマルゼン、タマを受け持つ彼は折れなかった。
そしてギリギリで滑り込んだ菊花、彼女は勝った。
「クリークちゃん、パーペキよ!!」
「やるやん! ウチらの敵討ちご苦労やで!!」
先輩二人が褒めてくれた。
「――ふう、クリーク……ありがとう」
「――っ! トレーナーさん!!」
初めて見せたトレーナーの安堵の笑みと、心からの感謝に感極まった彼女は彼に抱き着いた。
「クリークちゃん、それはナッシングね」
「やめーや! ウチらのモノやでアホ!!」
さっきとは真逆に怖い顔をする二人。
「トレーナーさん! これからも……トレーナーさん? トレーナーさん!!」
「ちょっ、トレーナーくん!?」
「あかんでこれ! 顔真っ青や!!」
抱きしめる力が強すぎて、そのまま病院送りになったのは良い思い出だ。
――とそんな感じでいろいろあったな。
なぜか彼女とだけは立場が逆転することが多々あるが、それも悪い気はしない。
「これが最後でちゅよ~。はい、お口をフキフキしましょうね~」
「……(漸く終わったか)」
口を拭かれながら、彼は膨れたお腹を撫でる。
「どうでしたか~?」
「うん美味しかったよ、量も味も栄養バランスも完璧だった」
そう言って彼はクリークの頭を撫でた。
「むう」
「ははっ」
彼女はよく頭を撫でてくる割には、撫でられるのには慣れないようだ。
「トレーナーさんさえ良かったら……毎日作りますよ~」
スタミナ抜群の彼女はスパートを掛けるのは誰よりも早い。
「毎日こんなに作られたら食費に影響出るから別にいいよ」
「……そうですか……お金は……大事ですもんね……」
クリーク、同棲アピール失敗。