トゥインクルとレジェンドリーグは基本的に土日開催である。
故にレースに出走したウマ娘とその担当トレーナーは月曜日には振替休日として、授業を含めて休みとなる。
他の担当ウマ娘は予め用意された練習メニューを基に自己練習となる。
土曜日にあったレースはマルゼンにとって今年最初のレースだった。
つい一か月前に有マ記念が終わり、それに出走したブルボンの三年契約は終了した。
ブルボンとテイオーが今年からレジェンドリーグ入りとなり、その先輩であるマルゼンがチームの先陣を切るレースに出走したのだ。
レジェンドリーグは本戦が夏と冬の二回あり、その予選を何レースか行いレーティングポイントを稼ぐ。
レジェンドは1600~2500までとされ(短距離と超長距離は不人気の為、レジェンドでは採用されていない)、本戦の距離は一週間前の抽選で決まる。
前回の冬の勝者はナリタブライアンで、2500の中山のレースだった。
現在レジェンドリーグは三強と言われ、2200~2400までの王者であるシンボリルドルフ、2500最強のブライアン、1600~1800最強のマルゼン。
この距離が選ばれるとこの三人の誰かが勝つのがここ数年の結果だ。
2000は魔境と呼ばれ、選ばれるたびに勝者が変わる。前々回の夏の2000はサイレンススズカが勝った。
タマは前回のレートが19位だったためにギリギリ出走が叶わなかった。
そんなこんなで最初のレースを危なげなく勝ったマルゼンとそのトレーナーは本日、久しぶりのゆっくりとした休日を過ごしていた。
「ふぅ……ちゅかれた……」
リビングにあるソファーに腰かけ、トレーナーは深いため息を吐く。
5人も担当していると休む暇も無く、デスクワーク、練習、挨拶回り、視察諸々とやることが多すぎる。
そのため、このレースの後の振替休日が唯一の癒しであった。
朝早くから起きて掃除に洗濯に買い物にと、気が付けば夕方に迫ろうかという時間であった。
「まったく休んだ気がしないなぁ……」
そう嘆いていると、インターホンが鳴る。
「ハァ~イ、貴方のマルゼンスキーよ♪」
弾けんばかりの笑顔を見せつけるのはマルゼン。
彼女に疲れなど無いのかもしれない。
「どうしたの? まあ上がっていきな」
「ありがとっ!」
沢山の買い物袋を抱えたマルゼンを室内に促し、どうして来たのか尋ねる。
「お疲れのトレーナーくんを労って、あたしが晩御飯を御馳走するわ!」
「ほんと!?」
これから飯作らないといけないなぁ、とめんどうくさがっていたトレーナーのテンションが爆上がりした瞬間である。
「ちなみに三つの選択肢があるわ」
「三つ?」
スリーピースでニッコリ笑う。
「『男の胃袋奪い上げ♡肉じゃがコース』と『マンネリ打破の刺激を貴方に☆イタ飯コース』と『普通の晩御飯』よ。どれがいい?」
(イタ飯って……久しぶりに聞いたな。肉じゃがをチョイスするのが如何にも彼女らしいなぁ)
マルゼン知識・彼女は男はみんな肉じゃがで相手に惚れると思っている。
「て、手間を掛けさせるのも悪いから普通でお願いします」
「あらそう? べっつに構わないのにん」
(にん?)
羽織っていたカーディガンを脱ぎ、ノースリーブの縦セーターにエプロンを着ける。
豊満な胸と。細い腰にぱっつんぱっつんのジーンズな彼女は妙に色っぽい。
キッチンに立ち、鼻歌を歌いながら良い臭いを漂わせる。その後ろ姿だけで百人中九十九人ぐらいの男は惚れてしまうだろう。
「はい、お☆待☆た☆せ☆」
ハンバーグに各種サラダに生姜焼きにと、量もさることながら彼女は彼を小学生かなにかと勘違いしているようなラインナップである。
「美味しそうだね、いただきます」
「うふふ、はいアーン」
「(君もか……)あーん」
モグモグと食べながらも、二人は他愛無い会話をする。
それはまるで長年連れ添った末にゴールインした新婚みたいな雰囲気だった。
「――ごちそうさま、本当に美味しかったよ」
「うふふふふ、ありがとっ」
二人は満腹のまま、寄り添って丁度テレビでやっていた映画を見る。
「もう少ししたらお風呂も沸くわ、その後はマッサージしてあげるわ」
「一方的じゃあ悪いから私からもするよ」
肩が触れ合い、二人の顔も赤く染まっていく。
何となく吸い寄せられるかのように顔を近づけていく二人。
「ま、マルゼン……」「と、トレーナーくん……」
『ピンポーン』
再びインターホンが鳴り、バッと離れる二人。
「で、出てくるよ!」
照れ隠しの様に駆け出すトレーナー。
「もう、タイミングチョベリバよ!」
逃げ切ろうとラストスパートを掛けたマルゼンスキー。しかし後方から先行追い込み勢が迫ってきていた。
やって来たのは他の四人であった。
「こんな時間にどうしたの?」
来てしまったものは仕方ないので四人も部屋に上げる。
「外泊届は出してきました~、トレーナーさん今日は私たちを泊めてください」
代表してクリークが外泊届の証明を見せつける。
(何かメモがあるな……何々、『怖かったから止められなかった、頑張って! 寮長一同』)
とんでもない嗅覚でマルゼンが行動を起こしたのを嗅ぎつけた四人は、とんでもない形相でフジキセキとヒシアマゾンに迫ったのだ。
ちなみに外泊するにはこの二人の許可が必要である(レースによる遠征は別)。
なんのこっちゃ分かっていない彼を無視して、五人はひそひそと話し合う。
(もう! 邪魔は禁止って話でしょ!!)
(あんなぁ、その前に抜け駆け禁止やろうがい!!)
(ステータス『動揺』を確認、後ろめたいと判断します)
(みんなが学園でお弁当なのにこれはやりすぎですよぉ)
(抜け目なさすぎだよぉ、こう見えてもボク怒ってるからね!)
「ねえ、お風呂入ってきていい?」
「「「「「!?」」」」」
その時五人に電流が走る。
(((((これは、背中を流すチャンス!!)))))
今、熾烈なレースが開催されようとしていた。