吸血鬼流、ニンニクの食べ方 作:フィルフィル(フルフル)
「『不可能を可能に』と昨日言ったのは誰だったかしら?」
「分かりませんお嬢様」
肩に一匹の蝙蝠を乗せる一人の少女が叫び声をあげると、隣で静かに頭を下げていたメイドが淡々と答える。しかしそんなつれない態度に構わず、少女は――ネメア続けた。
「――そう!!私よ!!」
「よかったですお嬢様。私は知っておりましたが、まさか記憶喪失になられたのかと思いました。杞憂に終わり残念です」
答え知ってるならさっきの『分かりません』はなんだったんだテメェと言う蝙蝠の目線を華麗にメイドは受け流す。それを知ってか知らずか、大きく自分を指差すと、ネメアは次いで目の前の机の上に置いてある物へ指を向けた。
そこへ置いてあったのは、吸血鬼に取って致死となるモノ――ニンニク。
「今から、私はこれを食べるわ」
「お嬢様の死体は棺桶にしまう形でよろしくでしょうか?」
「勿論よ!」
肩から投げられる、『ボケがボケとして成立してねぇ……』と言う戦慄の視線を受けながらネメアは皿からニンニクを手に取った。
「……」
それを少女はジッと見つめると――。
「…………」
見つめると――。
「………………」
見つめ……。
「……………………」
…………。
「――きゅう」
……倒れた。
「死亡推定時刻、午前六時四十三分。死因は吸血鬼性ニンニクアレルギーと思われます。オーダー」
『従者の所業じゃないな』と、最早感心を抱いていた蝙蝠は、いつの間にか危険地帯から飛び立ち天井に吊られているようだった。
ちなみに彼女は全国蝙蝠危機感知選手権なら一位を取れる自信があったりする。大体の蝙蝠は第一回の『致死性の魔術が直撃した時の対処法』で脱落すること間違いなしなので当たり前だろう。
ゆらゆらと揺れてそこらじゅうに超音波を撒き散らしながら、妄想の勝利に浸っていると、どこからかメイドが担架を持ち込んできた。
そして、えっほえっほとメイドが担架でご主人を運び出していくのを見ながら、蝙蝠はしばらく熟考した後、寝ることにした。
◆◇
「……ん」
「――チッ」
目が覚めたネメアの目の前から、突き付けられていた短剣がスッと消えた。
パチパチと何度か目を瞬くと、隣で自分を見守る愛しのメイドの姿を認めた。青色の瞳はいつも通りの冷静さを持ってネメアを見つめている。
そして、そのままベッドから飛び起きる。ネメアはいつの間にか着せ替えられたネグリジェをはためかせながら床へ足を着き、同時にメイドへ指を突き付けた。
「――お尻ペンペンの刑よ!リーア!」
「納得がいきませんお嬢様」
その後、目覚めた蝙蝠は食料探しにうろうろと屋敷をさ迷う最中、なにやら歓喜の声をあげているリーアに遭遇し絶叫した。