ほんへでは拾わない設定なので初投稿です。
近くて遠くて、出会わない人
「ねー、見てみこれー。ね!」
「あー?」
休日。今日も先輩の家に集まった私達だったけど、何をするわけでもなく、のんべんだらりして過ごしてた。
そんな時、マジ子のやつが無駄にはしゃぎながら、自分のスマホの画面を見せてきた。そこに映ってたものったら…
「なんですこれ。赤ちゃんですけど」
「まさか…マジ子ちゃん、の…?」
「えー!んなわきゃないじゃーん!」
カワイイっしょ〜?なんてニヤニヤしながら、赤ちゃんの画像を更に見せびらかす。まぁ、なぁ。可愛いは可愛いだろ、そりゃあ。
「で、それはなに。出所さんは?」
「親戚!の、子供!去年産まれたんだけど、一歳になった記念にサツエーしたシャシン、見せてもらったんだって。おかーさんがメールで言ってる」
「へー」
は〜。産まれたてのバブちゃんかぁ。その親戚の人も、我が子が可愛いだろうなぁ。
この写真の子は両親からの愛情を受けて、親子の思い出を重ねながら育つんだなって思うと、なんか羨ましいっつーか。色々思い出してこう…ね。
(いや、今はやめとこ)
軽く首を横に振って、気分をリセットする。めでたい話題の時に、こんな気持ちになるもんじゃない。
「なんか、良いですわね。こういうの」
「こういうのって?」
「こうして何かあれば近況を伝え合って、温かい気持ちになって…。赤の他人の私ですらそうなるのですから、マジ子さんのお母様ともなれば尚更」
「そういうもんですかねぇ」
頬杖ついて、チビが言う。まぁ 学生の身じゃ理解しづらいよなぁ、そういうのって。かくいう私も、親戚に対してどうこうなんて気持ちは全然だし。
自分が楽しかったり面白かったり、それが一番大事って年頃ってことなんかな。今はまだ。
「あ、そーだ!シンセキって言えばさー」
「うん?」
「実はカミハマにも居るんだよね、アタシの親戚」
「へー。てことはなに、こっち来てから会ったりとかしたわけ?」
「んーん。どこに住んでるか分かんないから…」
え、なにそれ。住所が分からんってことか?
「その親戚の方がお引越しをして、そのまま…とか?」
「や、それがさー。何年か前までちゃんと親子ソロって暮らしてたみたいなんだけど、なんかいきなり…」
「親子ね。子供の歳は?」
「今は10…2、3とか、そのくらいかも。キレーなキンパツでさ!サイゴに会った時は、ウシさんのぬいぐるみダイジそうにしてて」
「牛」
「家族でボクジョー…だったかな。そこに行った時に買ってもらったやつなんだって!」
宝物…ってやつか。子供らしいじゃん?まぁ、それはそれとしてさ。
「で?結局、その親戚、今はどうしてんだよ?聞く限りじゃ、お子さんはまだ中学に上がったばっかくらいだろ?」
「住所が分からないのでしたら、マジ子さんのご家族にでも尋ねるとか…」
「や、だから!マジで分かんないんだって!アタシのお母さんともたまにレンラク取り合ってたはずなのに、ほんと、なんかいきなりさ…」
「ふーん…」
「まだカミハマに居るんだったら、会ってみたいんだけどな〜。顔見たらゼッタイ分かると思うし!」
『そーいや、チームに入る前に一回だけイッショに遊んだ、ヨーヘイやってるっていう魔法少女がその子にマジ似てたんだよね!タニンの皿煮?ってやつだろーけどさー』
マジ子のやつは、そうやって話を締め括った。なんつーか、元気だといいよな。住所不明なのも、変な理由じゃなきゃいいけど。
「あのさ、みんなのシンセキってどーなん?話してたら、なんかマジで聞いてみたくなっちゃった!」
「んー?」
マジ子の話を聞いてから、少し経った後。年長さんの作った、いわゆる3時のおやつってやつを堪能したところで、マジ子が切り出した。
「そう面白いエピソードがあるわけでもないのですが…」
「いーの!アタシが聞きたいから。センパイのとこってどんな感じ?」
「私の親戚、ですか…」
先輩は閉じた口元に人差し指を添える仕草をしてから、また口を開く。
「その…香春グループって、ご存知ですわよね?」
「さぁ」
「知らないです」
「ハル…ハルマキ?」
「おバカさん達…」
先輩の顰めっ面。失礼だな。なんだよお前、グループだかを一つ知らないくらいで。
「あ…知ってる、と、思う。あれだよね?すっごい、有名な、その…お金持ち?」
「流石年長さん。ええ、そうです。この神浜でも有数の一大グループ。分かりやすく言えば、スーパーセレブといったところでしょうか」
「ふーん…そういや、先輩も金持ちの家だもんな。冷食とか食ってばっかだから忘れてたわ」
「…ま、いいでしょう。事実ですものね」
今は年長さんの美味い飯ばっか食ってるけど、時たまあの味が恋しくなるんだよな。それはともかくとして。
「で、そのグループが親戚ってことなんです?」
「ええ。そこの御令嬢が、私と歳も近くて。通っていらっしゃるのは、聖リリアンナなのですが」
「へー、マジで超お嬢様じゃないですか。すっげー」
「おチビさん貴女、せめてスマホの画面からは目を離して…」
「その…どういう、人。なの?お嬢様…」
「あ、はい。それはもう、所作や言動から育ちの良さが窺い知れる立派な方で…」
『年に一度くらいはお会いする機会もありますし、なによりあの知名度でしょう?マジ子さんのように安否を気にする…ということもありませんわね』
先輩の話は、そんな感じで締められた。話をしている時の先輩は、ちょっと嬉しそうな顔をしてた気がする。
「じゃ、次は年長さん!聞かして聞かして〜!」
「あ、うん…。いい、けど…」
マジ子が体を左右に揺らしながら、話をせがんでる。ちょっとうざったい動き。
私はといえば、ただ話を聞いてるのも暇になってきたから、チビのやってるスマホゲームの画面を眺めてた。
「えと、私…実は、全然会ったこと、ない…」
「シンセキ?一回も?」
「あ、その…一回、だけ。子供が居て、その子…すごい小さい頃、に…」
あー、そういうパターンね。先輩ともマジ子とも違う、交流が極端に少ないやつか。
「でも、その。住んでる、から…ここ。神浜、に」
「あら。でしたら、お会いしに出向いたりとか…?」
「ん…。休みの日に、一回。話も、した。…お子さん、会えなかった…けど」
「あら、それは…」
『出掛けていて会えなかった』って、年長さんは続けた。
どうもその家の子供、最近は休日の外出が増えて、平日には帰りが遅くなることもあるらしい。工匠学舎に通ってるんだそうだけど…。部活動かなにかかね。
「その、プログラム…とか。あと、ロボット…とか。そういうの、好きなんだって。一緒に住んでる、おじいさん…にも。懐いてて」
「ハイテクじいちゃんっ子かぁ〜。アタマよさそ〜!チョークールなテンサイだね!マジで!」
「どーですかねー。案外根暗でオタク気質な陰キャかもしれませんよー」
「もう…。失礼ですわよっ」
「うん…。良い子、だよ。絶対。会ったこと、ないけど。きっと…」
『あんまり、オープンな子じゃないみたい…だから。会ったの、あの子がまだ赤ちゃんの頃…だったし。覚えて、ない…だろう、から』
子供の方には会わないのかって聞いたら返ってきた、年長さんの答えがそれだった。年長さんは、ちょっと寂しそうだったけどね。
「じゃ、次はおチビちゃんのばーん!」
「んー?」
「ちょ、もー!マジでゲームばっかやってないでさー!」
マジ子、先輩、年長さんときて、どうやら次はチビのターンらしい。や、本人まだゲーム弄ってるんだけど。
「ふー。しゃーなしですね。いいですよ、ちょうどデイリー消化のハシゴも、イベ周回も終わりましたし」
息を吐き出したチビはスマホをスリープモードにして、自分の親戚について語った。
「蛇の宮ってとこがあって」
「それ、街の名前ですか?」
「まぁ、そんなようなもんです」
「…っ」
おっと、蛇の宮。蛇の宮と来たか。生まれ故郷の名前を出されて、ちょっと吹き出しそうになったのを抑えた。
「私の親戚の一家が、そこに住んでて」
「うん…」
「住んでるんですよ。はい」
「………え、終わり!?」
「はい」
「マジで!?」
潔いなこの小学生…。まぁ 語るべき思い出も碌に無いってんなら、なんも言えないけどさあ。
「ま、それは冗談として。そこのお宅の人とはあんまり会ったことないんですよね。親戚の集まりに参加してはいたんでしょうけど、気付かなくて」
「お前はその集まりで、ゲームも漫画もアニメも無いもんだから、シャイガールなフリして縮こまってたと」
「………」
図星か…。や、まぁ…。用意された菓子の飲み食いくらいしかすることないかもだしな。話に花を咲かせるのは大体が大人達だから。私にも覚えがある。
「…あ、でも」
「ん。なになに?」
「1…か2回くらいでしたかね。珍しく蛇の宮に集まった時に、会ったことがある人が居て」
「若い人?」
「はい。歳上のお姉さんなんですけど、なんか気まずそうにしてて。母親から、私の面倒見るように頼まれた時も嫌そうで…」
「あー…」
歳下の扱いってどうしたらいいか分かんねんだよな。特にチビみたいなのは。こいつがメンバーになった時期のことを思い出す。
「で、まぁその人の部屋に渋々通されるわけじゃないですか。そしたらその後、特に会話も無くですね」
「うわぁ…」
「ただ、貸してもらったゲームは楽しかったです」
「ゲームって」
「一人用のゲーム機を貸してもらって、それぞれ独りで遊びました。ゲームが好きだったみたいで、ハードもソフトも部屋中にいっぱい…」
そりゃあ…なんとも残念というか、「えぇ…」みたいな…。
「時々私の方チラチラ見てた辺り、本当は二人でやりたかったのかな〜なんて、今になって思ったりしますねえ」
『お互い住んでる場所が遠いし、あのお姉さん個人の連絡先も知りませんからね。確かめようもありませんよ』
チビはそう言ってた。そのゲーム好きの親戚のことは、特にどうとも思ってなさそうに。いつ会うかも分からない人間のことだ。そんなもんかもな…。
「んじゃ、最後ね!赤ちん、どーぞ!」
「私ぃ〜?」
「赤ちんだけ聞かないわけにはいかないっしょ〜!ほーら、マジで答えちゃってって!」
「ん〜…」
皆の親戚話を聞いてたら、なんだかんだでもう夕方だ。
解散の時間も近いし、私には語れるようなエピソードなんてないし、このまま…なんて思ったけど、そうもいかないらしい。
いやぁ、でもなぁ…。んん〜……。
「あれ、どったの?聞かせてよ。赤ちんの親戚のこと」
「………知らねー」
「えー?」
「知らねーの。ねーよ、親戚の思い出なんて!」
話を強引に打ち切って、立ち上がる。ちょうど催してたのもあって、花摘みにでも行くことにした。
「あー!ちょっと!この人逃げる気ですよ!」
「ずーるーいー!赤ちんずーるーいー!」
「あー、はいはい。うるせーうるせー」
お子様二人の抗議の声は適当にあしらって、リビングを出た。
廊下を歩く最中、考える。
(本当に無いんだよなぁ…。親戚の話)
なんでかってそりゃあ、私が幼過ぎて記憶がぼんやりしまくってるのもある。でも、それだけじゃないんだ。
(私の幼少期は…)
親を…、大好きだったお母さんを失って、ひたすら塞ぎ込んでた時間だったんだ。傷ってやつだよ。
そこに触れるようなこと、自分から話したいわけないだろ?
(…や、待てよ?一つだけ…)
目的地を示すドアの前に立ったところで、思い出した。私の、親戚のエピソード。話すことはしないだろうけど、挙げるとすればこれかなっていうもの。
「あれは…葬式…?」
葬式。そう、確か葬式だった。お母さんの。
お母さんを失った直後だったのもあって、私は人目も憚らずにそりゃあもうビービー泣いてた。
心配してくれた人もいたはずなのに、とにかく悲しくて、それを泣き叫んで形にすることしか知らなかった当時の私には、気付くことなんて出来なかったんだろうな。
(でも、一人だけ気付けた…はず)
「泣かないで」って、すっごいか細い声だった。それだけはよく覚えてる。
後は、親。親…のはずだ。親に大事そうに抱っこされてた…ような。髪は黒…?黒…だよな?
正直親戚かどうかも確証はないんだけど、自分とこの子供も連れて葬儀に出てくるってことはまぁ、親戚なんじゃないのかなぁ…。
「だーめだ。思い出せね…」
涙やら鼻水やらで視界もはっきりしなかったし、チラッと顔向けて、またすぐ塞ぎ込んじゃったしなぁ…。
「ん〜…子供の名前、聞かされた気がするんだけどなぁ。なんつったか…」
結局それは思い出せないまま、用を足す為に、私はドアを開けた。
『なんだっけかなぁ…なんかこう、カッコいい名前だったんだよ!こう………「燃え上がれー!!」みたいな!』