知られることのない話   作:まるイワ

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気付けばマギレコ4周年が近いので初投稿です。


第3章:神浜うわさファイト
3-1 ほんの少し近付いて


 

 

「………?」

 

 

自室の扉が開く音が微かに聞こえて、目が覚めた。部屋は暗い。どうやら、まだまだ夜は明けていないみたい。

 

睡眠欲という原始的なものにどうにか抗いながら、部屋の出入り口がある方を見る。ドアは開いていて、誰か立っている。誰かと言っても、この家に住んでいる人間なんて、私と、後もう一人しかいないのだけれど。

 

 

「どーかしまして、赤さん…」

 

 

眠気からか、少しふにゃふにゃした声音で話しかけた。良かった。照明でも点灯していようものなら、恐らくだらしなくなっているであろう顔を、見られていたかもしれない。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

お互いに何も言わない。多分この子は今、葛藤してる。というか、恥ずかしくて言い出せないとか、そんな感じ。こういう時の彼女は大抵そう。

 

 

「……一緒に寝ていいか」

 

「……」

 

 

私は何も言わないで、ベッドにスペースを空けて、掛け布団をめくった。おずおずとした態度で、赤さんが寝床に入ってくる。私は、赤さんに背を向けた体勢になった。多分、彼女もそうしてる。

 

 

「……ごめん」

 

「いえ…」

 

 

ややあって、謝られた。特に気にはしないけど、ここ最近の彼女はずっとこう。夜遅くに私の部屋に来て、一緒に寝て起きている。

 

 

(あんな目に遭えば、まぁ無理もないのでしょうか…)

 

 

原因はなんとなく分かる。前に海浜公園で経験した、あの謎の少女との戦いだ。謎の結界。圧倒的な強さ。完敗を喫した私達…。あの存在に恐怖を抱いてしまって、一人では夜を明かせなくなったとしても、致し方ないこと。

 

 

(しかも赤さんの場合は、アレもありますものねー…)

 

 

最後にあの謎の女の子がやらかしていった、赤さんへの情熱的なキス。あんなことされたら、良くも悪くも印象には残るでしょう。初めてなら尚更。

 

要は傷付いてしまったのかも。あの戦いが色んな意味で彼女に深い爪跡を残して、それで心がまいってしまったから、赤さんは今、こんなことをしてるのでは…。

 

 

(でも、私にはどうすることも……)

 

 

ただでさえ微妙な距離感の同居人に、自分が一体何をしてやれるっていうのか。少しモヤっとした気持ちのまま、目を閉じた。

 

 

 

 

 

「先輩は…」

 

「ん…?」

 

 

言葉も無くなって、もう寝たのかと思った矢先に、話しかけてきた赤さん。私も、いい加減に寝直したいんですけど…。

 

 

「その……さ。何で、魔法少女になったの」

 

 

何で。何で、ですか。んー…。教えるのは構わない。構わないけれど。

 

 

「どうして?」

 

「……」

 

 

あまり大きな声を出したくないこともあって、静かに問いかけた。こんな突っ込んだこと、今まで聞いてこなかったから、素直に気になった。

 

 

「…わかんない」

 

「ん?」

 

「なんか…なんか、わかんないけど…急にそんな気になったっつーか…」

 

 

はっきりした理由は無い、と。いや、もしかしたら、上手く言葉に出来ないだけなのかもしれない。それくらい複雑だから、「わからない」と言うしかないのでしょうか。

 

 

「いや、別に言いたくなかったら…あれだけど…」

 

「いいですわよ、教えても」

 

「え…」

 

「でも交換条件。私にも、貴女になにか質問させて」

 

「………」

 

 

だんまり。あのね、折角少し踏み入ることが出来たのに、ここまで来て尻込みなんて許しませんわよ。

 

 

「自分だけ近寄って、相手には近付いて欲しくないなんて、ズルいですわよ」

 

「……わかった…」

 

 

駄目かなって思ったけど、勇気を出してくれたらしい。まるで背を押したような、お尻を叩いたような、そんな気分。

 

 

「はい。じゃあ…なんで魔法少女に、ですね」

 

「ん…」

 

「面白くもない話ですけど…私、両親が厳しくて」

 

「うん…」

 

 

話し始める、私の事情。側から見れば、下らないかもしれないけれど。

 

 

「何をしても、褒めてなんてくれなかった。結果を出せても、出せなくても、待ってたのは厳しい言葉だけ。でもそれだけ、私に期待をかけてくれていたのかなって…まぁ、何となくわかってましたけど」

 

「……」

 

「でも、そんなことが何年も続くんですもの。だから私、両親には優しくなって欲しかった。賞を取れたら褒めてほしい…良い成績が残せたら、一緒に笑い合ってほしい…そんな風に思ってた」

 

「そんな時に、あのキュゥべえに出会って、契約しました。私に優しくなって欲しいって、そう願って…」

 

「……そっか」

 

「ええ……」

 

 

まだ続きはあるけれど、これ以上は、私の傷に触れることになる。話したくない。少なくとも、今は。

 

 

「じゃあ、私が聞く番」

 

「え、あ……うん」

 

 

だから、強引に話を切り替えた。少し、申し訳なく思う。

 

 

「赤さんは……どうして、お家に帰らないんですの?」

 

「…邪魔だった?」

 

「違うの。ただ、理由が知りたいだけ」

 

「そう…」

 

 

別に追い出す気は無い。というか、この広めな家で一人になっちゃうと、ほら。私がアレですし。

 

 

「つまんねえ話だぞ」

 

「構いません」

 

「笑わない?」

 

「決して」

 

 

つまらないというなら、私の話も同じでしょうから。

 

 

「………親」

 

「うん」

 

「親が…嫌で。…でも、親は悪くなくてさ。私が、その…一方的に嫌がってる」

 

「そう」

 

「だから、帰りたくないっつーか…」

 

 

思わぬ共通点。お互い、親のことで苦い思いをしてる。それが分かっただけでも、こうして二人、踏み込んでみた甲斐があったのかしらね。

 

 

「なるほど、わかりました。…ありがとう、話してくれて」

 

「…別に」

 

「じゃ…そろそろ寝ましょ。朝、起きられなくなっちゃう」

 

「ん…」

 

 

声量の小さな会話も終わりを告げて、今度こそお互い無言になる。赤さんも眠くなっていたのか、すぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。

 

 

 

少しだけ心が近付いたような気がして、そのことに嬉しさのような何かを感じながら、私も眠った。

 





マギレコ本編の出来事

・第3章【神浜うわさファイル】開始前。
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