副反応が割と軽いもので済んで一安心なので初投稿です。
「お母…さん……?」
夕陽が照らす中、自分の目の前に居る人に、なんとか呼びかける。未だに驚きが尾を引いてるからか、上手く声を出せなかった。
「ふふっ。はーい、お母さんです」
そんな私を、まるで包み込むように優しく微笑みかけて、返事をしてくれた。こうして面と向かいながら声を聞くと、本当に目の前にお母さんが居るんだって分かる。
「っ……」
ヤバい。何がヤバいって、今にも涙が溢れ出しそうなのが。まだ目の前に居るお母さんが何なのかも分かってないのに。本物かも疑わしい、得体の知れない何かだって、頭じゃ理解してるのに。
なのに、どうしようもなく安心しちまって、しかも嬉しさまで感じてる自分が居る。どうしようもないくらい、そうなんだって分かっちまう。
「あれ。どうしたの?なんか、辛そうだよ?」
「いや、その…違うから。そういうんじゃなくてさ…」
「違わないの。お母さん、分かるんだからね、ちゃんと」
「や、だから……えと……」
見抜かれてる。強がりで違うって否定してみても、私の気持ちを見破ってくる。私のこと、よく見てるんだ。それはやっぱり、母親だからなのかな…。
「いいの。隠さなくても。ほら、何かしんどいことあるなら、話してみて?こっち来てさ」
「……いいよ、別に…。その、だって、本物かどうかも、わからんし…」
「んー?お母さんがってこと?」
「だってそうじゃん。お母さんは、本当なら今はその……もう……」
記憶と感情を揺さぶられ続けながら、何とか理性的に考えようとする。そうだよ。私のお母さんは、あの日確かに死んだ。命を落として、帰らぬ人になったんだ。だから今こうやって、私の目の前に現れるってのはおかしいだろ…?
「それって、そんなに大事かな?」
「………」
「確かに、お母さんは死んじゃったよね。あの日に、あなたを庇って」
「……うん」
「でも、それでもこうやってまた会えたよ。すっごく不思議だし、理屈なんて分からない。でも、いいんじゃないかな?それで」
「そう…かなぁ」
「うん。説明のつかない奇跡みたいなことだって、この世界にはあると思うんだ、お母さんは」
私と話しながら、お母さんの方から近付いてくる。相手に警戒心なんて抱かせないような、柔和な笑顔を浮かべながら。
「だから、細かいことなんて気にしなくていいの。この場所で、あなたとお母さんはまた会えた。それだけで充分。ね?」
「………うん」
すぐ近くまで来たお母さんが、小さい子供に諭すみたいに語りかけてくる。細かいこと、か。そうかもしれない。魔法少女とか魔女とか、普通ならあり得ないような世界で生きてるんだし、今起きてる現象に疑問を持つ方がおかしいのかも…。
「それで?」
「うん?」
「結局、私の可愛い可愛い一人娘は、何を抱え込んでるのかなーって」
「あ…」
「話してみる気になった?」
そういや、そんな話をしてたんだったか。
「ううん。つか、別に悩みとか辛いとか、そういうんじゃないから」
「あ、そうなの?」
「うん。あれ、あの……泣きそう、だったから」
「それは、お母さんに会えて?」
「会えたのもそうだし…声聞けたし、話せたし。そしたらさ…」
それは今だってそう。我慢してるけど、少し油断したら目に涙が溜まりそうになる。
「いいよ」
「?」
「だから、ほら。我慢しないで、泣いたっていいんだから。お母さんに抱き着いて、目一杯さ」
両腕を広げて、そう言ってくれる。母親の懐に抱き着いて、わんわん声をあげて泣く。小さい頃に腐るほどやったことだ。記憶が思い起こされて、それが酷く懐かしく感じられて、一層泣きそうになる。でも…
「いや…いいっ」
「え、なんでさ?遠慮しなくていいよ?」
「私だって、あの頃よりは子供じゃなくなったんだよ。少しは強くなったってとこ、見せとかないとさ」
でなきゃ、いつまでもピーピー泣いてばっかりの、弱虫なチビっ子のままだと思われちまう。幾らお母さん相手だからって、それはなんか…癪だ。
「もー。強がっちゃって」
「…んなことないよ。これが普通なの、今の私は」
「んー、そっかぁ」
「そうなの」
「ふふ。じゃあさ、そんな今のあなたのこと、お母さん、聞きたいな」
「えー?何それ」
「だって気になるもん。学校ではどうかなーとか、友達出来たのかなーとかさ。ね、いいでしょ?」
「えー、面倒くせー…」
そう言いつつも、悪い気はしてない。多分、私は今笑ってると思う。お母さんと話せてることが、本当に嬉しくて。
「会えなかった分、いっぱい話そうね、お母さんと」
「うん。私も……そうしたい」
ちょっと照れ臭かったけど、本音を素直に口にした。せっかく会えたんだもんな。話したいことは、話しておかないと。
(そういや、あの二人はどうなったんだろう。……いや。今は別にいいか、そんなこと…)
ふと、先輩とマジ子のことが思い浮かんだけど、すぐに頭の片隅に追いやってしまった。今はただ、お母さんとの時間を大切にしたい。何よりも尊くて幸せな、この時間を。
うわさを調べる為に、夜の神社でお参りをしていたはずが、気付けば何故か夕方のような景色になっていた。それだけじゃなく、一緒に居たはずの、赤さんとマジ子さんが見当たらない。一体何処へ行ってしまったのか。
でもそれよりも、もっと驚くべきことが、今の私にはあった。先程、チームメイト達の姿を探していたところに、いきなり現れたのだ。神浜から離れた地で暮らしているはずの、私の両親が。何やら向こうから話しかけて来たので、とりあえず応じてはいるけれど…。
「どうしたんだ。折角、久しぶりに親子水入らずなんだぞ。もっと楽にしなさい」
「いえ、その…大丈夫です。充分にリラックスしておりますわよ、お父様」
「ん、そうか。でもそれにしては、何か態度が硬くないか?」
「まぁまぁ貴方。この子が言うんですから、きっと本当に大丈夫なんでしょう」
「む…。それなら、まぁいいか」
「ええ、よろしいのですわお父様。ええ…」
「?」
今でもたまに連絡を取り合う相手なのだから、今更直にあったくらいで緊張なんかしない。ただ、今の私は少し戸惑っているから、少々よそよそしい態度になってしまってるだけ。
(お父様もお母様も、なにか様子がおかしいですわね…。いえ、というよりも、これではまるで…)
「そういえば、どうだ、学校の方は。成績を落としたりはしていないか?」
「え?あ、あぁ…成績、ですか」
考えごとをしているところに、お父様が問いかけてくる。いけない。少し反応が遅れてしまった。
「ええと、特に問題はありませんわ。難しい内容の授業もたまにはありますけど、分からないまま放置するようなことはしていませんから」
「ん、そうか。それなら何よりだ」
「ただ、勉強というのは、私だけが勤しんでいるものではありませんから、その…学年内や校内で上位に食い込む結果を残せているというわけではなくて」
「それは、例えば定期考査とか、そういうもののこと?」
「はい…。先生からは、変わらず良い成績だと、お褒めの言葉を頂いてますけれど」
「なら、問題はないだろう。良い成績を維持できているのなら、特に言うことは無い。」
「はぁ…」
「とはいっても、成績上位者になれるような結果を残せるなら、それに越したことはないからな。単に良い点を取ったからと慢心せず、これからも励むように」
「それは……はい…」
「本当は貴女に習い事の一つでもさせたかったのだけど…。でも、勉強に集中したいからって、貴女は言っていたものね。頑張りなさい」
「あぁ…。そんなことも、ありましたわね…」
少し懐かしい。確か、高等部に上がる少し前のことだったか。
「……ん?」
と、そこまで考えて、何か違和感を覚えた。
(その頃は、私はもう願いを叶えて、魔法少女になった後だったはず…)
それで、願いの影響で優しくなった両親は、私のお願いを聞き入れてくれた。お願いというか、実は適当に理由をでっち上げて言ったことなんだけれど。
幾らやっても褒めてもらえないのなら、習い事なんてもうやりたくない。うんざりだって、そんな幼稚なことを思って。
(でも、何故その時のことを、お母様は知っているのでしょう)
いや、知っていること自体はおかしくはない。おかしいのは、接し方。さっきから感じていたことだけど、お父様もお母様も、私への態度や言動がまるで、私が魔法少女になる前のそれみたいだから。
私の願いの影響を受ける前の両親が、影響を受けた後にあった出来事を話題に出している。何だこのチグハグな様子は。
(一応、今起こっている現象自体は、うわさの内容と一致しますが…)
確かに両親の名前を書きはしたものの、私は人柄や性格までは指定していない。そんなことが出来るのかもわからないのだし。
……そりゃあ、出来ればもう一度くらい、契約する前の両親に会ってみたいなぁとは思ったけど。
(まさか、うわさが私の心理を汲み取ったとか…?)
そんな都合の良いことがあるのだろうか。それに、この推測は些か強引なのでは。だって、それではまるで、うわさというもの自体が意思を持っているかのような…。
それとも、そういった細かい要素を含めて、「会いたい人に会わせる」ということなのか…。それでも、それをどうやって…という疑問は残るけれど。
「ちょっと、どうしたの?さっきから難しい顔をして」
「一言も喋らずに、黙ってばかりじゃないか。もしかして、先程の成績の話に、何か思うところでもあるのか?」
「あ、いえ、その。何でもありませんわ。そうではなくてですね…」
もっと色々と考えなきゃいけないはずのに、両親への対応をせざるを得なくなって、その時間も取れなくしまった。
投げかけられる言葉は厳しさを感じさせるものばかりなのに、それに不思議と安心を覚えてしまう私だった。
「んでさーぁ?そこで赤ちんが言うわけ。アタシはすっげえバカだからムリだーって。ヒドくなぁい?」
「そうかい。まぁ、あんたもそういうとこあるからね。相変わらず両親もお姉ちゃんも困らせてんじゃないのかい?」
「んーなことないってー!…ない、と思うよ、うん」
お参りした時は夜だったはずなのに、いつの間にか夕方になってた。最近はお日様が登るのも、沈むのも早いんだね。お参りしてる間に朝になって、そんで夕方になったってことだもん。
「あ!てかさ、今夕方ってことは、知らん間にガッコー終わってたってことじゃん!ヤベー、サボっちゃったよ…!」
「なんだ、そんなことかい」
「そんなことじゃないってー!メッチャ怒られんじゃん、先生にも、姉ちゃんにもさー!どんだけばーちゃんと話してたんだよアタシ!」
最初は赤ちんも先輩も居ないから、ヤベー、どうすっぺって思ってたけど、なんか遠くに住んでるはずのばーちゃんがいきなり出てきたから、嬉しくなってさっきからずっと話してた。
なんで嬉しかったかっつーと、アタシが絵馬に書いた名前が、ばーちゃんの名前だったから。ってことはさ、うわさは本当だったってことじゃん!マジヤベー!
あ、もちろん、メッチャ久しぶりにばーちゃんに会えたのも嬉しいんだけど。
「だからさ、気にしなくていいんだって、そんなこと。だってあんた、これからずっとここに居るんだから」
「はへ?」
ばーちゃんがなんか変なこと言い出した。なんだろ。ギャグなんかな?
「それ、神社で暮らすってこと?いやーばーちゃん、それはちょっとムリだって」
「なんでさ?」
「つーかさ、神社ったって、もう住んでる人居るわけじゃん?その人がオッケーしないでしょー」
ばーちゃんと一緒に居られるのはいいけど、お坊さんとか巫女さんとか、その辺にメーワクかけらんないもんね。
「長い休み来たら遊びに行くからさ、とりあえずそれで勘弁してくんない?ばーちゃんも自分ちの方がいいよね?」
「何言ってんだい。ここより良い場所なんてあるわけないだろ。だから、あんたもここで…」
「あ、つかさー」
「?なんだい」
「や、ばーちゃんって、ぶっちゃけニセモノじゃん?だから、ここに住むもクソもないっつーか」
「………は?」
ばーちゃんが驚いてる。流石にいきなりすぎたかなー、言うの。でも、さっき話しはじめた時から、ずーっと感じてたことなんだもん。ちゃんと言わなきゃダメだよね。
「なんだい、いきなり…。そんなわけないだろ。それとも婆ちゃんの顔、忘れたってのかい」
「そゆんじゃなくてー…。でもさ、なんかわかったんだって!イキリョー?とかゲンエー?とかっていうのかわかんないけど、『あー、これホンモノのばーちゃんじゃないんだなー』って」
「そ、そんないい加減なもんでかい…」
ばーちゃん…いや、ニセモノなんだから、ニセばーちゃんだ。ニセばーちゃんはそう言うけど、だってマジでそうだなってカクシンしたんだもん。ショーコはなんも無いけど、これはマジだと思う。
「っちゅーワケだから…!」
「えっ」
アタシは魔法少女に変身して、武器のアタッシュケースを思いっきり振りかぶった。ニセばーちゃんが、いきなりのことでビックリしてる。
「え、あの、ちょっと!なに!何するつもりなんだい、あんた!」
「しゃらーっぷ!アタシをダマそーとする、悪ーいニセモノにはオシオキだぁー!」
「だっ!騙すなんて、馬鹿言うんじゃないよ!大体、私が偽物だっていう証拠はあんのかい!?」
「あー、それ聞いちゃう?ショーコ…ショーコかぁー…」
いやー、そこつっつかれちゃったかー。ないんだよねぇ、残念ながら。
「んー……」
「ほら見な。無いんだろ、そんなもん!だったら今すぐこんな悪ふざけはやめて、ずっとここに…」
「よーい、っしょ!!」
「ぶぅっ」
ニセばーちゃんが何か言ってる気がしたけど、それを気にしないで、アタシはケースを思いっきり振り抜いた。顔にモロにブチ当たって、ニセモノはカラダごとグルグル回ってブッ飛んで、地面にベチャってなった。
「う…うぅ…。あ……あんたァ……なんで…」
「はえ?」
倒したと思ったけど、意外とガンジョーみたい。ゾンビみたいに這ったまま、ニセモノが話しかけてきた。
「こんな酷いことして…!証拠は、無いんじゃなかったのかい……。なのに…何で、こんな…!」
「ショーコ?うん。ないよ、そんなん」
「だったら、何で…どうして…」
「ショーコはないよ。ショーコはね」
「だから!どういうことなんだいそりゃ……!あんたには、代わりに信用できる何かがあったとでも言うんかい!」
「おっ。ふっふーん…!実はそーなんだよねぇー」
「……!」
ニセモノが目をカッと開いて、すんごい驚いてる。そりゃそーだよね。アタシをダマそうとしたのに、それをあっさり見破られたんだもん。そーなっちゃうのも、まぁ仕方ないよ。
「それは……それはなんだい…!?確かな証拠も、証明も無いのに信じられるものだって…?一体なんだってんだい!!」
むー。そこまで必死に聞かれちゃー仕方ない。教えてあげようかな。メイドさんのおみやげってやつだね!聞いておどろけよー!
「んなの決まってるじゃん。それはー…」
「それはァ……!?」
「それはああああああ!」
「そ…それはァァァ……!?」
タメるのと同時に、前に何かで見た、カッコいいポーズをうろ覚えでキメながら、目線はニセモノに。顔は自分じゃ見えないけど、まぁキリッと!そんで、今だー!
「勘」
「……………」
アタシのコンシンの一言を聞いたニセモノが、口をあんぐり開けて、ボーゼンとしてる。いやあ、自分で言うのもなんだけど、カンペキにキマったもんね。ああなっちゃうのもトーゼンなのかも。
そしたらニセモノが体をフラッとさせて、次のシュンカンにはスゥーっとスケるみたいにして消えちゃった。
最後に、「なんなんだいこのバカは…」とか言ってる気がしたけど、よく聞こえなかった。
「んー……どうすっかなー、これから」
うわさが本当なのはわかったけど、肝心の、「会える人」ってのはニセモノだった。ちょっとザンネンだけど、そのことを赤ちんと先輩にも言ってあげなきゃ。二人も絵馬に名前書いてお参りしたんだから、アタシと同じようなことになってると思うし。
「でも、まわりに誰もいないんだよねー…。マジでどーやって見つけたら…」
何とかなんないかなって思って、もっかいまわりを見てみた。そしたら…
「あれ…赤ちん?」
さっきまでだーれもいなかったのに、いつの間にか赤ちんが遠くで地面に座ってて、誰かと話してる。しかも、すごく楽しそうに。
(赤ちん、笑ってる…)
赤ちんのあんな顔、初めて見た。アタシ達といる時は、いっつもキホンぶすーっとした顔のままなのに…。
「って、そんなバーイじゃないじゃん!赤ちん助けなきゃ!」
このままじゃ赤ちんがニセモノにダマされて、アタシみたいに神社に住めって言われちゃう。そんなのダメだよ!
チームの一員として仲間を助ける為に、アタシは赤ちんのところへ走った。
マギレコ本編の出来事
・いろはが鶴乃と別れて、電車で帰宅。電車内から外を見ていると、ビルの上に神社があるのを発見。そんな中、いろはのソウルジェムは、更に濁りを増していた。