意識が覚醒する。そうなったってことは、今まで気絶でもしていたってことなのか。まだ少し寝ボケ気味な脳みそを奮い立たせて、あれやこれや思い出そうとする。…そうだよ、魔女と戦ってたんだ。そんで…、私と魔女の攻撃がぶつかって…。
(とにかく起きなきゃな…!)
何はともあれ確認だ。状況を把握しなきゃいかん。そう思って身体を起こしていくけど、なんだか妙に重さを感じて、少しだけ手間取った。ざぁーっと音を立てて、積もった砂が落ちる。重さの原因はこれか。私の上に、随分砂が乗っていた。
「………」
あの時お互いの攻撃がぶつかって、その衝撃で吹っ飛ばされて、その辺の砂を引っ被ったんだろう。体は少し痛むけど、その程度で済んだのは魔法少女様様と言うべきなのか。
服や髪についた砂を払って、地面に立つ。結界を見渡す。魔女は居なかった。
(逃げた?…無いか。仕留めたと思い込んで、どっか行っちまったかな)
それとも…
(あの人の方に行った…?)
だとしたらマズい。使い魔を引き付けてもらってて、ただでさえ手一杯のはず。そこに親玉なんて来ちまったら…。戻らなきゃ。そう思って走り出した時だった。
ドバァッと盛大に吹き上がる地面の砂が、私の行く手を塞いだ。何だよと思ってよく見れば、さっきの魔女がそこに居た。
ザリ…ザリ…!
見つけたぞとでも言いたげだ。私が姿を見せるのを待ってたんだな。というか、その巨体を隠せるだけの深さがあるのか、この地面は。いや、当たり前か。結界は棲家で、魔女は創造主。自宅くらい、自分の都合の良いように作る。
(心配が杞憂に終わったのは良しとして)
いや、良かない。さっきのカチ合いで魔力を使い過ぎた。倒せるならと思って多めに込めたのにこれだよ。チラッとソウルジェムを確認すると、案の定濁っていた。
「やるしかないか」
静かに呟いて、気持ちを切り替える。まぁ、やるっつっても倒すってわけじゃない。そもそも、さっきのぶつかり合いで目立った傷も付けられていない時点で、私一人で勝てる相手じゃないのはハッキリしてる。無理をしてでも、味方に合流するんだ。二人ならまだどうにか出来る。はず。
魔女が次々放ってくる砂をどうにか避けながら、魔女の横側を通り抜けようと走る。地面の砂が舞い上がるけど、どうせ私を隠してはくれない。気にせず走った。
「んっ!」
逃げようとしたのが分かったのか、魔女が私の進路を塞ぐように腕を振り下ろした。何とか踏み止まる。当たらずに済んだぞ、バカめ!
内心小馬鹿にしながら、降ろされた腕に飛び乗る。勝った。これは勝った。そう確信して、脚に力を込めて勢い良く飛ぶと同時に、まんまと出し抜かれた、お間抜けな魔女様の御尊顔でも拝んでやろうと、頭を後ろに向けたその瞬間、顔に何かぶつかった。
「んぶぇ」なんてアホ丸出しな声を出しながら、自身が落下する感覚を覚える。次の瞬間には柔いんだか硬いんだかな感触。地面に落ちたんだ。ダメージはあるけど、無事っちゃ無事だ。良かったよ、砂だらけの結界で。
「んん"……何だっつーのほんと…」
呻き声を上げながら立ち上がる。いや、原因は分かってる。ぶつかって来たのは多分顔だ。でも魔女のじゃない。あの瞬間、私は見た。奴の肩の辺りだ。目を凝らして、さっき飛び乗った腕から肩へと視線を移す。
やっぱり居た。魔女と同じく砂で出来た、芋虫のような体躯。使い魔だ。奴が狙い澄ましたみたいに、私の顔にあのジャリジャリしたドタマをすっ飛ばしやがったんだ。
(過ぎたことは仕方ねえ。魔力は取っときたかったけど、一発ブチ込んでその隙に…!)
そう思って得物を構えるけど、魔女の方が早く動いて、砂で腕ごと弾かれた。これってもしかしなくても…
「詰んだかな」
冷や汗を流して後ずさる。魔女は私に再び武器を構えさせまいと、威圧するみたいに砂を巻き上げ始める。ついでに使い魔も魔女から下りて、こっちににじり寄ってくる。体を軽くクネらせて、心なしか嬉しそう。よかったな!
「良いわけないじゃん!!」
半ばヤケになって天に吠えても、誰も応えるわけがない。あーダメ。もう死ぬ。死んじゃう。魔女は攻撃体制に入ってるし、使い魔は嬉しさのあまりか、奇妙な小躍りを始めている。何だアイツは…
そうして諦めの境地に完全に至ろうとした時、私と魔女の間に何か割り込んできた。洒落たデザインのフレームと、嵌め込まれた硝子。そしてその中に灯る明かり。カンテラだ。しかも見覚えのあるやつ。
これから起きることを察して、腕で顔を庇う。次の瞬間カンテラは勢い良く爆ぜて、中に詰まった魔力があちこちに散らばる。あろうことか私の方にも飛んできて、その熱を伝えて来た。
「あっつ…!や、あつ、熱い!!」
堪らず勢いよく後ろに転がって、服や髪が燃えていないか確認する。とりあえず問題無いこと、命拾いしたことに対して深く溜め息を吐いた、その直後。
「生きてますこと?」
「死んでるように見える?」
「そうなってたかもしれませんでしょ」
「…ああそうだよ」
軽口を言い合って、話しかけて来たやつの方を見る。ここに来たってことは、使い魔は倒すなり撒くなりしたってことか。
灰色がかった紫色の髪。ふわふわ波打ったロングヘアーを、右サイドで結んである髪型。フード付きのマントを纏って、パープル系のカラーで統一されてる衣装は、コスプレなんかじゃない。魔法少女の証だ。
フリルが使われたゆったりめの衣装だけど、魔法少女って言葉のイメージに反して派手じゃない。でも似合ってるんだよね。
神浜に来て1年くらい。今やすっかり見慣れた顔が、そこにはあった。私が「先輩」と呼ぶ、魔法少女の姿が。