先輩のイメージ画像が活動報告にて見られるので初投稿です。
水名神社で、世にも奇妙なという表現では済まされない出来事を経験した、その翌日。私達は、とあるお店へ買い物へ来ていた。そして今、私と赤さんは会計を済ませたところ。
「買い忘れとかありません?」
「んー…ちっと待て」
赤さんが、事前にスマホに書き込んでいたメモと、買い物袋に入っている品物とを交互に見ながら、確認を取っている。少し買い過ぎたでしょうか。
でも、今日はお得もお得なポイント10倍デーなのですから、いつもより多めにもなろうというものです。
「マジ子さん、まだ戻りませんのね」
「本いっぱい買うっつってたし、まぁ選んでんだろ。色々」
栄総合の後輩に勧められたものも一緒に買いたいって言ってましたわね。マジカルきりんだか、かりんだかいうやつ。
買い物を終えたら一階に集合と言ってあるけど、未だに姿が見えないってことは、赤さんの言う通りなのかも。少し、待たされることになりそう。
「ただ待ってんのもなんだよな。あれ食べる?」
「あれって」
買い物袋をガサゴソ漁って、赤さんは買ったものを取り出す。私に差し出されたそれからは、食欲をそそる、良い香りがしている。
「あら、いけない人。買い食いなんて」
「いつもやってる」
「それもそうですわね」
一応形だけ注意してから、差し出されたものを受け取る。でも、これも赤さんの言う通り。買い食いなんてもう何度もしてきたのだから、今更というやつですわよね。
お嬢様学校に通っている娘が言うことではありませんけれど、でも、小腹が空いているのです。それを堂々と自分の金で買った品物で満たす事を、誰が咎められるというのでしょう。
「買えてよかったよな、コロッケ」
「ええ。ラッキーでしたわね」
このお店には、今まで何度か食料を買いに来たことがあるけれど、なんと言ってもお惣菜が美味しいのだ。特にコロッケは人気で、すぐに売り切れることも珍しくない。
私達が入店した途端にタイムセールが始まったものだから、それはもう慌てて売り場まで走って、何とか人数分確保した。マジ子さんはさっさと書籍の売り場まで行ってしまったけど。
「じゃ、いただきます」
「んむ」
赤さんと二人して、コロッケをいただく。出来てからそこまで時間が経っていないのか、暖かくて、サクサク、ホクホクで…。嗚呼、食欲が満たされていくのを感じます…。
なんて浸ってる間に、コロッケを食べ終わってしまった。まだ足りないなと思うけれど、夕食はこれからだ。我慢しましょう。
「ごちそうさまでした。やっぱり美味しいですわね、ここのは」
「ん。なんか、今日のは特別美味いって感じ」
「赤さんのが出来立てだったとか?」
「そうじゃなくて、なんつーかさ…んーと…」
「はい」
言い淀む赤さん。腕を組んで、ちょっと恥ずかしそうな顔をしてる。
「あれよ。日常の味がする…っつーかぁ」
「日常の味」
「ん…。なんか、『あぁ、自分はここに帰ってこられたんだなー』みたいな?」
「はぁ」
「安心したんだよね、なんかさ。だって、ほら。私達、昨日は」
「あぁ…」
赤さんの言わんとしていることが分かった。成る程。あんなことを経験したのだから、そんな風にも感じるでしょう。つまりは、生を実感したということなのかもしれません。
無理もないでしょう。昨日の戦い、下手をすれば私達は今頃、この世を去っていたかもしれないのですから。
「ほんと、何だったんだろうな。アレ……」
「んー………」
唸りながら、昨日のことを振り返る。うわさ。そしてその影に隠れた、魔女とは違う怪物達…。何故か私達を助けた、あの謎の女の子…。
「自然発生したものなのか、それとも人為的な何かなのか。はっきりした所は分かりません。ですが…」
「うん」
「私には、全て繋がっているように感じられるのです。噂話から始まり、あの怪物や女の子、妙な結界のことまで」
「それって?」
それはどういうことで、そう思う根拠は何かって聞いているのでしょう。もちろん、私なりの理由はありますとも。
「色々とありますけど…まずは結界ですかね。あの怪物達の時も、女の子の時も、あの妙な結界が展開されたという点は同じです。ただの偶然とは思えませんわ」
「それは私も思った。…ってことはさ」
「ええ。同類である可能性が高いでしょうね。信じ難いことではありますけど…」
でも、お仲間だというのなら、あの女の子が私達を助けたことへの謎が、益々深まる。獲物の取り合いだとか、ただ単に両者の仲が良くないからとか、推測だけなら幾らでもできますけどね…。
「それと、考えてもみて下さい。今回の噂話にしても、何かおかしいですわよ」
「うわさって、そういうもんじゃないの?ちょっと信じられない感じの…」
「幸せ過ぎて、帰って来られなくなるんですわよ?無事に戻って来た人が居ないのであれば、どうしてうわさになんてなるんです」
「あー、成る程ね。帰ろうとしても、偽物が逃してくれないだろうしなぁ」
「加えて、時刻が夜という、隠れた条件まである。これで自然にうわさとして広まりましたというのは、少々無理がありませんか?」
「んー…………」
火のないところに煙は立たぬとも言います。今回のうわさを広めることは一般人には不可能だと考えるなら、あの怪物達を、ひいては うわさそのものを操っている者が居ると考えるのが自然かも。
「二度あることは三度ある。もしかしたら、今後もああいう存在と関わることになるのかもしれませんわよ」
「えー…。私は魔女だけでたくさんなんだけどなぁ…」
だいぶげんなりしている。うわさの内容にせよ怪物の強さにせよ、厄介極まりないのだから、その気持ちも分かる。しかも赤さんは、どうやらあの女の子に執着されているようですから、尚更でしょうね。
「先輩みたいに、偽物っても、家族を躊躇無しで爆破しちゃうような、ぶっといハートの持ち主なら平気だろうけどさー…」
「あ、ちょっと。どういうことですのそれ!まるで私が冷血な人間みたいに…」
「赤ちん、せんぱーい!お待たせー!」
なんて失礼な。一言物申してやろうと思った矢先に、マジ子さんの明るい声が聞こえた。姿を探すと、こっちに向かって来ているのを見つけた。
「やー、ごめーん。待っちゃったん?」
「少し。でも、気にしてませんわよ」
「ホント?よかったー。も、気になるのいっぱいあってさー。選ぶのチョー迷った!マジきりの他にもさ、デカゴンボールとか、初恋はミルキーウェイとかー」
「あー分かったって。とりあえずこれ食って落ち着け」
「ん!コロッケ?くれるん?やったー!」
赤さんが渡したコロッケに、早速かぶりつくマジ子さん。昨日の今日だっていうのに、全くお元気な人。
全員が買い物を終えて揃ったのだから、もうこの店に居る必要はない。嬉しそうにコロッケを頬張るマジ子さんを伴って、私達は帰路に着くことにした。
店を出て、我が家に向けて歩を進める。この後はもう解散することになっているけれど、途中までは一緒に帰りたいとマジ子さんが言うから、そうしている。
「家帰ったら読むの?漫画」
「まーねー。とりあえずマジきりは早く読んでみて、後輩にカンソー聞かせてあげるんだー」
「仲が良さそうで何よりですわね。……あら、電話?」
ポケットにしまってあるスマホが震えて、誰かから連絡が来たことを報せてくる。
「出たら?気にしないし」
「どうも。………あ」
お言葉に甘えて、電話に出ようとする。画面に表示された名前は、とても身近なものだった。
「…はい、私です」
『おお。よかった、出てくれて』
つい昨日、聞いた声。あれは偽物だったし、声色も少し厳しい感じだったけど。
「少々、お久しぶりですかね。お父様」
『そうだな。連絡はしようと思っていたんだけど、あれこれと仕事が重なって…』
「いえ、いいのです。お父様が多忙なのは知っていますもの。仕方のないことですわ」
『本当か?いやぁ、そう言って貰えるとありがたい。やっぱり、優しい子だね』
「っ………」
優しい声色と、朗らかな雰囲気で、父はそう言う。こうやって話していると、私がしでかしてしまったことを、改めて思い知らされる。自分が、両親を変えてしまったのだと。
昨日、変わる前の両親と話したからなのでしょうか。本物の親の声を聞くと、胸の奥が、やけに締め付けられる。
「そんなことありませんわ。普通です。普通」
『そうかなぁ。あ、それよりどうだ?一人暮らしの方は。不便なこととか…』
「ええ。満足しています。それに、その…」
『ん?』
「今は、一人暮らしではなくて。一人、住まわせてますわ。えっと、事情があって」
『ほう』
「あ、女の子…私より歳下の子ですから。その、危ないことなどはないかな、と…」
『…………』
「それに、もう一人、他校の知り合いも出来まして。今はその方も含めて、三人で過ごす時間も増えたんです」
いずれは話さなきゃならないことだから、思い切って打ち明けてみた。でも、どうなんでしょう。親としては、やっぱり心配だったりとか…
『そうか…!いやぁよかった。寂しい思いをさせているかと思ったけど、それなら安心だな。その歳下の子にしても、色々とあるんだろう。仲良くしてあげなさい』
「………ええ」
杞憂だった。まぁ、そうなりますわよね。何せ、私に優しいんですから…。私が、そうなるようにしてしまったんだから。
「え、なになに。アタシらの話してる?」
「あー…まぁ、そうですけど」
『ん?もしかして、今も一緒に居るのか?他の二人とも』
「それは…はい」
『それは丁度いいな。娘の大切な友人なんだ。ここは一つ、父親として挨拶でも』
「や、別に友達ってわけでは…。まぁ、いいですわ。わかりました」
「はい」と、マジ子さんに自分のスマホを渡す。お父様が挨拶したがっていると話すと、彼女は喜んで通話を変わった。
「はーい、もしもしー!アタシ、マジ子って言いまーす!先輩と仲良くやらしてもらっててぇ」
『あ、これはどうも。娘がお世話になっております。あの子の父として、お礼を言わせて頂きたく…』
「いやいやぁ、そんな!むしろこっちがメンドー見てもらってばっかなんすよー。この間なんてぇ…」
マジ子さんと父の話が弾んでいる。これが以前の父だったなら、こうは行かなかったんでしょうね。
そう考えたところで、昨日の神社のことを思い出す。あの夕暮れの景色の中で、偽りの両親と話した時のことを。
『なに?一人、お前の家に住まわせている?』
『ええ、まぁ…。そういうことになりまして』
『そんなことをして…。危険な人だったらどうするの』
『それはあまり心配ないかと…。同じ学生の身ですし』
『学生?だからといって、詳しい理由も話さず、他人の家に居座ろうとするなんて、怪しいだろう。不良というやつじゃないのか?』
『聞いてる限り、口や態度も悪いみたいですし、育ちが良くないんですよ、きっと。ねぇ、そんな人と付き合うって、悪いことよ』
『……確かに、お行儀の良い子とは言えませんけど、何もそこまで…。私の家に住んでいるのだって、きっと本人なりのワケが…!』
『さっき話題に出した他校の知り合いとやらも、どうやらクセの強い人物みたいだな。そういうものはお前に悪影響だ。友達付き合いをするにしても、相手はよく選んでから…』
『っ…………!』
赤さんのことも、マジ子さんのことも、何も知りもしないくせに、よくもまぁ好き勝手に次々と仰って。
二人のことを何も知らないのは、私も同じ。だけど、彼女達を悪く言われるのは、親だとしても心外だ。私から少し話を聞いただけのクセに、まるで彼女らの全てを分かったような物言いをして。
友達…なのかは分からないけれど、少なくとも私達はチームで、仲間なのだ。それを貶されたのなら、腹だって立つ。
(で、終いには壊れた機械みたいに、「ここでずっと一緒に居よう」ばかり言うようになって…)
両親が、もう戻らない過去の性格で現れて、しかもそんなことになったのであれば、最早それを本物だと思うことは出来ない。変身して、溜まった怒りを発散させるつもりで、偽物達を爆破してやった。
赤さん達には適当に話して済ませたことだったけど、それが真実だった。
「……………」
「どったの。なんか顔しかめてるけど」
「どうもしませんっ」
「?そう…」
赤さんは、さっき店で私が偽物をサクッと倒したみたいに言っていたけど、そんなことはない。だってそうでしょう。私の家族ですわよ?
偽物だからって、両親の姿をしているものを自分の手でやっつけて、何も思わないわけがないでしょう。その事に対する罪悪感だって、ちゃんとあったのですから。二人を悪く言われて苛立ったのは事実だけど、それはそれ。
だけど、それを言葉にしたりしない。私個人のことだもの。わざわざ言うようなものじゃない。
あの子達を貶されて腹が立ったのも、口には出してやらない。私にとって、チームメイト達が大きな存在になってきてる気がして、何やら照れ臭いから。
自分のスマホがマジ子さんから赤さんに渡ったのを見ながら、私はそんなことを考えていた。
マギレコ本編の出来事
・鶴乃と別行動を取り、途中で出会ったやちよと一緒に魔女を追い、とある店へ辿り着いたいろは。撃破することに成功し、店を去ろうとするも、タイムセールスタート。ポイント10倍デー。
買い物を手伝ってほしいと頼むやちよは、タイムセールという言葉から、口寄せ神社のうわさには、時間帯も関係しているのではと閃く。今すぐ水名神社に向かおうといろはに提案されるものの、やちよには考えがあるらしく、決行は明日ということになった。