1-1 彼女の朝
自分は今、夢を見ている。それを自覚したのは初めてだった。珍しいこともあるんだな。
『無事ですか?貴女、見ない顔ですわね。この街の方?』
『んだよあんた…違ったらどうだってんだよ』
これは先輩と初めて会った日のこと。思えばこの時も魔女に苦戦してたっけな。そんで先輩に助けてもらった。
『あら、貴女この前の。奇遇ですこと』
流石夢と言うべきか、急に場面が変わった。何日か後にまた先輩に会った時だ。この日は早く神浜に慣れようとして、あちこちブラついてた。この時、前に助けてもらったことに感謝した。そしたら…
『……意外と律儀』
こう言われた。大事だろ、お礼は。この後も何回か一緒に戦ったり、ばったり遭遇したりがあって、自然と交流も増えてったんだよな。で、ある時、いっそ組んでみないかって提案されて、OKして…。
そんなこともあったなーなんて浸ってると、また急に別の場面になった。…これは今まで、何度か夢に見たことがある。秋の日なのか、紅葉が舞ってる。空はどこまでも青くて、良い天気。でも私は、この景色が嫌いだった。
『大丈夫…。大丈夫だからね…だって…』
苦しそうな、でも何処か芯の強さを感じさせる声が聞こえた。親子らしき二人が倒れてる。母親は血を吐いていて、娘はそんな母親を見て泣いてる。夢だからなのか、娘に語りかけている言葉を、上手く聴き取れない。
母親が娘の頭を撫でる。死にそうだってのに、娘へ向ける顔はとても穏やかで、優しい。この人が自分の子供を心底愛してるんだなってことが、よく分かる。
『お母さんは…あなたのこと、ずーっと…』
最後まで微笑んだまま、やがて女性は目を閉じて動かなくなった。それを見て、胸の奥が酷く締め付けられる。だから嫌なんだ、この光景を見るのは。あの時自分に力があればって、悲しくて悔しくて仕方なくなるから。
母親は文字通り私のお母さんで、娘は幼い頃の私。この場面はつまり、そういうこと。私のお母さんが、亡くなった時のことだった。
「………」
目が覚めた。夢のせいで、気分は最悪。こんな気持ちで朝を過ごすのかと思うと、憂鬱でならない。それでも学校には行かなきゃならないんだからと、身支度の為に起きる。
まずはスマホを手に取って、ホーム画面へ。メッセージが届いていた。
「…」
送り主の名前を見て、また少し嫌な気分になる。その人は何も悪くないのに。結局返信をする気にはなれなくて、メッセージを一瞥するだけで終わり。いつものことだ。晴れない気分のまま、私は制服を手に取った。