タルトイベ復刻&新イベ開催の予告が来たので初投稿です。
「おい、あいつら来てるか!?」
「確認するまでもないですわ!」
あぁそうかい。確かに、後ろから足音聞こえるもんな。今の私達と同じように、走ってるやつが。
(私らは飯の買い物に来ただけだろうが、くそ…!)
あーもう、面倒だな…!疲れるったらない。どうしてこんなことする羽目になったんだ。
(そんなもん、お前…)
チラッと隣に視線を移して、私よりほんの少しだけ遅れて走る、小さい背丈のそいつを見る。
そう、こいつだ。この、ついさっき知り合ったばっかりのチビっ子。こいつとの出会いが、この状況を作った原因だった。
雁首揃えて、買い物しに出てきた私達。取るに足らない雑談を肴に道中を消化しながら、目的地ももうすぐってとこまで来た。
「今日はなに作んのー?」
「ん…実は、決めてないの。これっていうの」
「マジぃ?」
「マジ…」
ちょっと申し訳なさそうな年長さん。別に気にすることもないのになぁ。
「とりあえず、考える。お店、行ってから」
「そっかー。あ、でもさ!ねんちょーさんのご飯ってなんでもおいしーよね!じゃーいっか!」
「そう…?」
「そー!」
まぁ、うん。それは同意。これまで何回か飯作ってくれたんだけど、どれもうめーことうめーこと。
なんかもう、今までの冷食生活に満足してた自分が、とんだピエロに思えてくる。本当に…。
「…お前も食う?」
「?」
「飯だよ、晩飯」
「………?」
シーに聞いてみたけど、返ってきたのは変なリアクション。あれ、なんだこれ…。こっちの言葉が伝わってないってわけじゃなさそうだけど。
いや、そもそも飯を知らないとか…?人間ではないんだろうし、おかしかないか…。
「?」
「ん。なんでもない」
ちょっと考え込んだ私を不思議に感じたのか、シーが制服を引っ張ってくる。軽く流しておいた。
飯を食わないならそれでいい。その分食費も浮くし。
…別に、一緒に食えなくて少し残念だなとか、そんなこと思ってない。
「着いた。ここ」
年長さんが、すぐ間近にある店を指差す。目的の場所に着いたらしい。
中央区に食材なんて買いに来たことなかったから、少し新鮮だな。
「つーか、人通り多いなー」
「近いから。ご飯の時間」
「んー…。魔女が活発化する時間を考えたら、少し危ないかもしれませんわね」
「だいじょーぶ!アタシたち居るんだから!」
「疲れてんだよなぁ。出来りゃあなんも無いほうがな…」
魔法少女としてどうなのって感じだけど、その前に人間だし。
特に今日はシー絡みで精神的にも、ちょっとね。つーわけで。
「何も起こりませんよーに。お願い神様」
細やかな願いを込めてそう呟いた、その直後。
「うっ」
「わぷっ」
前の方から何か突っ込んできて、私の隙だらけな体にダイブ。軽く呻き声が出ちまった。
てか、「わぷっ」って。どう考えても人の声。じゃあ今し方、私に一発かましてくれやがったのは…
「………子供?」
「うぅ…。すいません。前を見てなくて…」
私やシーよりも低い背丈。学校の制服は着てるけど、中高生には見えない。下校してからの帰宅途中なのか、鞄を手に提げてる。
「赤ちん、だいじょぶだった?」
「まぁ、それは…」
「〜!」
「わっ…なんですかこの人」
「あーもう、シー。やめろって」
私に危害を加えたって判断したのか、シーがチビっ子に食ってかかろうとするから、それを抑える。
こんな往来で面倒起こそうとしないの。余計疲れるだろ。
「あの…本当にすみませんでした。私、悪気があったわけじゃなくて…」
「大丈夫。気にしなくてもよろしいですわよ。このお姉さん慣れてますから、こういうのは」
「そうなんですか…」
適当なこと言うのやめてもらっていい?知らないチビっ子も真に受けてるじゃねーか。
「って、あの、そうじゃないんです…!私 急いでて…!」
「はぁ」
チビっ子が焦りだす。まぁ、わざとじゃないってんならそれでいい。私から特になにか言うことがあるわけでもないし。
「次から気を付けな」って、道を開けてやろうとした。
「見つけたぁー!くぉーらぁ!待ちなさいってんでしょーが!!」
そこに聞こえてきた、誰かの大声。
「ぴっ!」
「おっ?え、ちょ、なになになに」
それを聞いて、ビクッとしたチビっ子。後ろを振り返る動きに合わせて、私達の視線も、同じ方向に動いた。
「コラー!ちっこいのー!人のもんはちゃんと返しなさいよー!」
「ま、待ってぇ〜…!」
「あーもー、足痛いっすよ〜…」
見ると、遠くの方から誰かが走ってくるのが見える。人数は五人。
先頭のやつが声張り上げて走ってるもんだから、他の通行人がびっくりして道を開けてる。
「なんだありゃ」
「えっと、私、あの変な人達に追われてて」
「変て」
「しつこく追いかけてきて、困ってます…」
「ふーん…」
なんでそうなったかは知らないけど、大変だな。複数人で一人をってのは、なんか穏やかじゃない感じがする。
(イジメかなんかかな。でもなぁー…)
言っちゃあ悪いけど、私達には何の関係も無いんだよな。仲裁するって手もあるけど、事情によっちゃあ私らにはどうしようもないだろうし。
後ろめたい感覚はあるけど、ここはこのチビっ子が無事に逃げおおせるのを願って、このまま行かせてやるのが一番なんじゃ…。
「はーい。じゃ、アタシらと一緒に買いもんしよーねー」
「え」
なんて考えてる間に、マジ子のやつがチビっ子の手を握って、二人して店の中に入っていった。
一瞬呆けてそれを見送った私達だったけど、慌てて後を追う。
「あ!隊長、子供がお店の中に!」
「しかも、一緒に入ってったのって…」
「分かってるわよ!この前のやつらじゃない!まさか、性懲りも無く私達の邪魔を…!」
「や、ただの偶然ですよ流石に…」
チビっ子を追いかけてきたやつらがなんかゴチャゴチャ言ってるけど、距離が遠くてよく聞こえなかった。
「ねー、おやつ買っていー?」
「んー…。あんまり沢山は…」
「や、ちげーだろ。どうでもいいんだよ菓子は」
「えー!」
人の多い店の中を、私達とチビっ子とで連れ立って歩く。肉、野菜、魚、調味料、その他諸々、手に取って吟味しながら、年長さんがカートに入れていく。
買い物は年長さんや先輩に任せて、手持ち無沙汰な私は、マジ子に話しかけた。
「なに考えてんだ お前。その子、引っ張って来ちまって…」
「赤ちんもシーちゃんぶら下げてんじゃん。似たよーなもんだって」
「違うと思いますけど…」
「え、あれー!?」
ちげーだろって言おうとしたところに、まさかのチビっ子からの発言。碌に説明も無いまんま買い物に付き合わされてんだから、この子も困るよな。
「ごめんなー。このおねーちゃん、バカだから」
「はぁ…」
「や、だってさー!かわいそーじゃん、なんか。こんなちっちゃい子、皆で追っかけて!」
「そりゃまぁ、そうだけどなぁ」
「助けてあげたかったの!アタシだって、ちゃんとおねーさんがデキるってとこ、マジで見しちゃるから!」
「おねーさん」
歳上らしく振る舞いたかったってか。マジ子には姉ちゃんが居るから、そう思う時もあるって感じなんかね。
そんなに良い立場でもないんだけどな。姉だの兄だのって。
「じゃ、どうするよ。もし、さっきのやつらが店ん中入ってきたら」
「…………」
「おい?」
「…………頑張る!」
「おい」
特に考えてないんかい!
これは出せねーな。頼りになる歳上感…。
「後は、何か買いますか?」
「んー。とりあえず、これくらいで…」
「では、お会計に」
おっと。そうこうしてる間に、買い物は終わりそう。カートを覗くと、肉が多めに入ってる。今日は肉料理か?
「じゃあ、レジ…行ってくる」
「マジ子さん。買ったものを袋に入れるの、手伝ってくださいます?」
「あいあーい。あ、でもこの子は…」
「赤さんに任せればよろしいでしょう。シーさんとイチャついてて、暇そうですし」
「あーはいはい。そーですねー。はぁ…」
もう今日は一々ツッコんでやらねえ。いいから早く金払ってこいって。
「じゃ、出口付近で待ってるか」
「あ、はい…」
レジに向かった三人と別れて、チビっ子とシーと一緒に歩きだす。
「手は?」
「いいですっ」
「あ、そう…」
マジ子とは繋いだまんまだったのにな。もしかしてあいつに気を遣ったとか?
(んなわけないか)
下手に離れないで、私らと居た方が安全。さっきはそう判断したからとか、そんなんだろ。この子は追われてる身なんだし。
何故かまた不機嫌になりだしたシーを宥めながら、三人で出口付近に向かった。
…で、会計を済ませた面子と合流して、その後 何事もなく帰宅…とはいかなかったわけで。
薄々そんな気はしてたけど、店を出たところで、チビっ子の追手達が襲来。どうも、店の近くに待機して張ってたらしい。
そりゃそうだよなぁって思いつつ、そのままチビっ子を連れて、私達は逃走開始。どうにか先輩の家に逃げ帰ろうってことになっちまった。
そんで、今現在。私達は、追手五人組に追い付かれそうになってる。
最初はそこそこの人混みが奴らの動きを阻害してくれてたんだけど、中央区から離れてくにつれて、段々と人の数も減ってきて、それで…。
そもそもこっちは荷物抱えてんだから、それに気ぃ遣ってちゃんと走れないんだよ。
「あーもー!なんでこーなんのー!?」
「いいから走りなさいな!もっと早く!」
「あの…!食べ物があるからいけないんじゃ…!」
「だからって、捨てられませんわよ!勿体ないでしょう!」
「ん…!成し遂げる。逃げるのも、食材を持ち帰るのも…!」
そんな意気込むことでもないだろ。そりゃあこっちは金払って買ってるんだから、無駄にするのは嫌だけども。
「ほらー!もうパンピーは遮っちゃくれないのよ!大人しく止まんなさーい!」
「隊長、私らもパンピーです!」
「そりゃそうねー!」
追手達も、こっちが不利なのを理解してるみたい。若干漫才染みてるやり取りなのは置いといて。
てか、隊長ってなんだ隊長って。あいつらも私達と同じで、あだ名で呼び合ってんのか?
「えーい、焦れったいわね!アンタ達!幸い、もう人は居ないわ!変身よ!」
「えっ」
「いやー、それは流石に…」
「サクッと用件済ませば問題無いわよ!いいから早く!」
「変身」。その言葉が気に掛かって、チラチラって後ろを見る。走りながら何度か振り返ってる辺り、先輩達も同じらしい。
そんな私達に答えを突き付けるみたいに、追手の五人が一瞬だけ、光に包まれる。
そうして光が収まった時、やつらの姿は変わってた。それも、見覚えのある、白と黒のローブみたいな衣装に。
「っ!お前ら、まさか!」
「なによ!ようやく気付いたの!ニブいやつらねー!」
思えば、何処か既視感があると思ってた。一番やる気を出して追ってくるやつの口調も、その後から付いてくるやつらの態度も。
そんで、納得がいった。どうして、そこまで歳が離れてもなさそうなやつを隊長なんて呼んでるのかってのも。
「あー!あんたら!『テセウスの暗さ』じゃん!」
「マ・ギ・ウ・ス!マギウスの翼よ!」
「そう、それー!」
マギウスの翼。マギウスって呼ばれてるトップに従って、解放とかいう名目で、この街にウワサなんて危ないもんをバラ撒く、テロリスト擬き。
しかも今私達を追いかけてきてるのは、前に観覧車草原で出会って一悶着あった、特務隊とやらだ。
(や、確かに探してたっちゃあ探してたんだけどさぁ!)
だからって、なにもこんな時じゃなくていいだろ!こちとら、今日はもう帰って飯食おうってんだぞ!
「チッ…。めんどくせぇ…!」
「お互い様よ、そんなの!二人、やつらの前方に回り込む!」
『了解!』
「あ、こいつら!」
白ローブが命令を出して、部下の内二人がジャンプ。私達の頭上を通り過ぎて着地。
そのせいで進路を塞がれて、私達は足を止めざるを得なかった。
「ふふーん!押さえたわよ!前と同じね!」
「ぬー…。やられましたわね…」
「ぬあー…!こっちもさっさと変身しちゃえばよかったー!」
こっちがローブ共の素顔を、さっきまで知らなかったってのが痛かったな…。私達は追手が普通の人間だと思い込んで、人の居ない場所まで来ても変身することが出来なかった。
素性を隠すのは有効だってのがよく分かったよ、クソったれ。
「さ!いつ人が来るか分からないし、率直に言いましょっか」
「………」
「そこのチビっ子!返しなさいよね!私達から盗ったものを!」
「うー…」
「教わらなかったの。人のものを盗ったらいけませんって!」
盗ったものだぁ?つまりこの子は、それが原因でこいつらに追われてたってことか。
「どーせ碌なもんじゃねーんだろ」
「失礼ねー!とても重要なものよ!私達の理想を叶える為の!」
「そもそも、構成員の風貌からして怪しげな組織が、幼い子供を盗人呼ばわりするというのはこう、些か…」
「怪しげってなによ!崇高だっつってんでしょ!つーかアンタ、前もそんな感じで煽ってきたわよね!?」
「あの程度の挑発に乗ってきた貴女が悪いのでは…?」
「ぬぐっ…!言い返せない…!」
先輩の見立て通り、熱しやすいやつだ。いっそこのままグダグダやって、状況打開までの時間を稼ぐのもいいかな。でもなぁ。こっちが保つかどうか…。腹もだいぶ減ってきたし。
(こんな時に限って、打開してくれそうなやつは何故か居ないのがさぁ)
内心そう呟いて、いつの間にか自由になってた片腕を見る。
店を出てせっせか走ってる時もシーはしがみ付いてたはずなのに、なんかいつの間にか居なくなってたんだよな。わけの分からんやつだよ、本当に。
(いっそ今、シーのこと聞いてみんのもありかなぁ?)
そう考えはしたけど、難しいかとも思う。
ウワサに関する情報はやつらにとっても重要なもんだろうし、聞いてもまた部下の妨害が入るかも…。
先輩が言ってた、戦闘になってでも吐かせるって手も、変身すら隙になる現状じゃ無理くさい。うーん、どうしたら…。
「あーもう!それで?どうなのよチビっこいの!返すの?返すでしょ?返しなさい!人来たら困るからホラ!早く!」
焦りながら、チビっ子にやたら催促する白ローブ。
気持ちは分かる。今は幸い誰も通ったりしてないけど、ここ別に路地裏とか、そういう人が来なさそうな場所ってわけじゃないし…。
「………うるさいです」
ん?今なにかボソッと…?
「ん!なんて?チビっ子!」
「うるさいって言いました。白い変な人」
「変っ…!?」
ここに来て、ハキハキと声を出して喋りだすチビっ子。今までずっと静かにしててからのこの発言だから、正直ギョッとした。
「さっきからチビ、チビ、チビって。それしか言えないんですか?語彙力クソ雑魚ウーマンですか、貴女」
「え…ちょっと待って、いきなり口悪いじゃない、アンタ…」
「だからなんですか。大体、安直なんですよ。私が小学生で背も低いからって、チビとか豆とか粒とか…!」
「待って?言ってない。言ってないから、豆も粒も」
……………。
「そもそもですよ?貴女達が返せって言ってるものだって、私が帰り道で偶然拾ったものです。そこに貴女達が来て、訳が分からないでいる私に碌な説明も無いまま、返せ返せって…」
「いや、でもー、その…ね?私達、あれと同じものを幾つか運搬しててー、それで一つ落としちゃったっていうか…」
「そんなに大事なものなら、最大限注意を払って、絶対に落とさないように運ぶべきなんですよ。正直困っちゃいます。そっちの不手際をこっちが悪いみたいに」
「すいません…」
あ、あれー!?
や、どした急にお前!?可愛いナリしてめっちゃネチネチ言うじゃん、この子…。まさかキレた?キレたのか?
自分より歳上の、それも複数人に追い回されて、その上別の集団に連れ回された挙句のこの状況だもんなぁ…。
天下のチビっ子様と言えど、流石に腹に据えかねたとかそういう…?
「とにかくですね、私今、ちょっと怒ってるんです」
「え、はい…」
「だから帰る前に、ちょっとだけ八つ当たりしちゃいます」
「え」
「ごめんなさい」
そう言った次の瞬間、チビっ子の全身が眩しく発光した。おいおいマジかよ、この光って…!
「うっそ!マジでぇ!?」
「この子、まさか…!」
やがて光が収まって、チビっ子の姿が露わになる。
一般的な服装とは大きく掛け離れた、一見コスプレにしか見えない、その衣装。
普通の人ならともかく、私達みたいな奴らにはとっくに見慣れたそれが、示す答えは…。
「お前、魔法少女だったのかよぉ!?」
腹も鳴りだす夕暮れ時に、ボディにボスっと突撃食らって出会ったあの子は魔法少女。
なんてこったよ。イベント目白押しじゃんね、今日。全く嬉しくねーけど。
何も起きませんよーにってお願いしただろ、神様。あれか。普段信仰もクソもない小娘風情が、調子のいいことを抜かすなってことか。
「行きますよ」
「え、待って待って!ちょ、待っ!落ち着いて…!」
歳上の静止の声をあっさり無視して、チビっ子魔法少女、跳躍。「トンッ」ていう軽い音とは裏腹に、かなりの速度で白ローブの懐に突っ込んだ。
「えいっ」
反応が遅れた白ローブの土手っ腹に、チビっ子の飛び蹴りが見事に炸裂。細い身体をしていても、そこは魔法少女。勢いの乗った、重い一撃だった。
「ぐっふ……。ゔぅ″え″え″え″え″え″え″え″……!」
白ローブが、青い顔で地面にぶっ倒れる。口から涎も垂らしちまって、マジで辛そう。
「た、隊長ぉぉぉ!だいじょぶですかぁ!?」
「うひゃ〜、痛そぉ…」
「いやもう、ほんと…ダメそう…。ダメこれ…」
これには流石に、敵ながら哀れみを覚えずにはいられないっつーか…。部下達も引いてんぞ。
「ど、どーしましょ…。隊長がぁ」
「とりあえず、えーとっ……!お、大人しくしてー!」
黒ローブの一人が、チビっ子に向けて鎖を伸ばす。以前 私達にやったみたいに、あの子を拘束するつもりなんだろう。
不意打ち気味とはいえ、自分達の指揮官をあっさりノされたことに、危機感を覚えたか。
「はっ」
「っ!?」
だけど、チビっ子の方はそれをものともしてない。
振り向き様に腕を振るった瞬間、黒ローブの鎖はその繋がりを断たれて、もう遠くの相手には届かないくらいの短さにされちまった。
「ええええ……。マジスゲー。切れちゃったよ、鎖…」
「私、見えた…。袖。服の袖だった」
「なるほど…。あの衣服そのものが、彼女の武器ということ…」
うへぇ。なんか無駄に長い袖だと思ったら…。よく斬れる服て。危ねーだろそれ。
「わああああ…!切られたぁ!切られたって、私の鎖!」
「待て、落ち着けって!……んー…。これ、旗色悪くねっすか…?」
「隊長はあっという間にノビたし、数でも劣っちゃってますもんね…」
「か、帰る…?」
「うん。そうするしか…」
黒ローブ達が話し合って、帰る方向に意見が纏まりかける。これ以上やり合うのはマズいって判断したのかな。
それがいい。人の怒りってのは恐ろしいもんだし。例え、か弱い女の子のものであっても。
「あれ。帰っちゃうんですか。私としては、まだ少し発散し足りないような感じで」
「え、あっ…た、退却!退却ゥー!!」
「すみませんでしたー!!」
「じゃ、そういうことっすから。私らこの辺で…!」
チビっ子の恐ろしい言葉を聞いて、ローブ達は完全に撤退を決定。未だにグロッキーな白ローブをサッと回収して、各々散って去っていった。
『……………』
一気に静かになった、さっきまでのバトルフィールド。
チビっ子が変身を解いて元の制服姿に戻るのを、私達のチームの誰も、一言も発しないまま見守った。
「ふー…。やりすぎちゃったかな…」
チビっ子が、ポソッと呟く。うん、まぁ…。インパクトはあったよ、とりあえず。
あの蹴りにはぶっちゃけ引いたけど、そこはその…。追い回した翼のやつらも悪かったってことで…。
「あの、すみませんでした。私…」
「へ?あ、え、あ、うん?なんで?」
「ちょっと怒っちゃって、勝手なこと…。皆さん、私が巻き込んじゃったようなものなのに」
「いえ、別に…」
申し訳なさそうに、シュンとするチビっ子。さっきの戦いぶりや口の苛烈さはどこ行ったんだってくらい、気弱そうな雰囲気。
「お相手の顔も割れましたし」って話す先輩の顔は、気まずそうだった。うん。気持ちは分かるよ、なんとなく。
「というかですね、あのー…」
「?はい」
「体を動かしてお疲れのところ申し訳ないのですが、少しお話というか、追われることになった経緯等、詳しくお伺いしたいのですけども…」
「いいですけど、でも…」
「でも?」
「もう暗いです…。お父さんとお母さん、心配しちゃうかも」
あー…。うん。そうだよな。さっき確か、小学生とかって言ってたもん。この時間にはとっくに家に帰ってるか。だったら…。
「ねね、お家は?」
「え。工匠区ですけど…」
「あら、東にお住まいですのね」
「…なら、どうだっていうんですか」
先輩の一言を聞いて、ムッとした顔になる。ん…なんかヤバいか…?
「いえ、その…。てっきり、南辺りにお住まいなのかと」
「南」
「ほら、制服が」
「あー、そういうことですか。すいません、喧嘩腰になっちゃって…」
「いえ…。こちらこそ、誤解を招きかねない発言を…」
二人して、お互いに謝る。
んー…。なんだろう。結構地雷を抱えてるっつーか、気難しい子なのかなぁ。
「まぁ、とりあえずさ。諸々の話は道中にしようじゃん?」
「道中って…」
「家まで送るってこと。頼むわ、年長さん」
「ん…車、出すね」
年長さんがサクッと変身を完了して、車を生成する。
流石にこれにはびっくりって顔のチビっ子を一緒に乗せて、車は発進。その後は工匠区にあるっていう家に着くまで、全員で色々と話しながら過ごした。
実家は工匠区だとか、南凪自由学園初等部所属の、小学六年生だとか。
両親と自身の三人家族で、神浜生まれの神浜育ちで、とか。まぁ色々。
魔法少女になったのは、何ヶ月か前のこと。
実は夕方の買い物の時から、私達が揃って自分と同じ指輪をしてるもんだから、もしかして…って思ってはいたらしい。
ちょっとした事で怒りっぽくなるのが悩みで、さっきいきなり口が悪くなったのもそのせいなんだとか。うん…納得。
自分に迫ってきた五人組はなんだったのか。彼女らが名乗った、マギウスの翼とは。私達が何故、やつらと関わりを持っているのか。
その辺りのことはまた後日、詳しく説明することを約束して、チビっ子と連絡先を交換。自宅まで無事に送り届けた後、私達も先輩の家に戻った。
買い物に付き添うだけだったはずが、訳有りの女の子と出会っちまって、何故かバタバタ走らされて。
こんなことはこれっきりにしてもらいたい。心の底からそう願って、美味い飯を空きっ腹にブチ込んだ。
「今日からしばらく、お世話になります!」
「や、貴女、お家は…?」
「家出です!」
それが、翌日になって早速先輩の家にやって来たチビっ子の、やけに堂々と放った台詞だった。
えぇ………。
マギレコ本編の出来事
・料理中のやちよといろは。玉ねぎを剥くのをサボるフェリシア、アイスを持参して現れた鶴乃も交えて、夕飯作りは進む。そんな光景を眺めるいろはは、自分達がまるで家族みたいだと、笑顔を浮かべた。