黒江ちゃんが実装されるので初投稿です。
「はい。じゃ、始めますわよー」
「……………」
各々好きに返事して、いそいそ作業に取り掛かる。私は何も言わないけども。
居るのは外で、場所は庭。言わずもがなの、先輩の家。
「……………」
「?」
「あー…?なに。気になんの、それ」
頷くシーがジッと見るのは、スコップだった。両手で使う、ちょっと重たい大きめのやつ。
「〜」
「あ、そう…。まぁ、後でね。後で」
「………」
興味津々らしいけど、とりあえずまだ使わない。やたらと触らないように、私が持って、側に置いとく。
「どうするんですか、まず」
「広めに囲います。レンガでね」
「えっと…めり込ませる?」
「ええ。頼みます」
「雑草が伸びてない分マシですわね」とか、色々雑談しながら作業する先輩達。そこに混ざる小さいやつを、私は黙って注視する。
「……………」
チビっ子。あの小学生。
家出宣言から一日。自分の家には、帰ってない。
「……なんですか」
「いや……」
こっちの視線に気付いたのか、チビっ子の方も私を見た。目線を逸らして、適当に答える。
「帰りませんよ。私…」
「なんでもねーっつーの…」
「帰りませんからね」
わかったって…。二回も聞かせんな、めんどくせえ。
「ほら、赤さん。スコップ入れてください。囲いましたので」
「あー……。はいはい」
「ほったらかしてイチャつきます?隣の方と」
「よかったな、今日の私が寛大で」
「ありがたいお話ですこと」
おう、精々ありがたがれ。今日は一々取り合わねーわ。シーを使った弄りにはな。
仕方ねーから、ブロックで囲われた庭の地面に、持ったスコップを突き立てる。更に刃を足蹴にしたら、土に深く沈み込む。
(納得できねーってんだよ。私は…!)
まったくさ、なんでこんなんなっちまったんだか…。
私の愚痴は、こうして庭の土を掘り返してることに対してじゃない。自宅に戻りゃあしなかった、増えた同居人へのもんだから。
正直、なんでもよかったよ。最初はさ。でもね…。
(話、聞いちまったしさ)
そうなんだよな。そこからだ。気が変わったのは。
昨日行った工匠区。先輩と尋ねた、チビッ子の家。そこで聞いてきた話が、私をこんな気分にさせた。
『趣味の話ですか?あいつの』
『ええ…』
年長さんに送られて、チビっ子の家に行ってきた私達。いきなり知らねえ学生二人がやってきて、あいつの親御さん達は困惑してた。
それでも事情を説明したら、じゃあお話をってことで、家の中に入れてもらえて。何があったか早速聞いたら、アニメだ漫画だなんだって…。
『その…妻が、見つけたんです。掃除で、あの子の部屋に入った時』
『そこに置いてあるのが、そうです…』
『………』
私達二人と、テーブルを挟んで対面に居る、親二人。四人共が、カーペットの上に座ってた。
チビっ子の母親が視線を向けた、テーブルの隅。先輩が「失礼します」って断って手元に寄せたものは、アニメの情報誌。
中身を見せてもらったけど、どこもかしこも、アニメのイラストばっかりで。私の知らない世界だった。
『他にも、グッズや漫画本、ライトノベル等、色々と見つかって』
『それは、娘さんの部屋を探ったと?』
『はい…。あの子にも、プライベートがあるんだし、いけないと分かってはいたんですが…』
『では、何故』
質問に、「それは…」って、言葉を濁した父親。喋りづらそうにした彼に、先輩が言った。
『あの、言いにくいことでしたら、無理には。事情というのがありましょう』
それでいいって、私も思った。話を聞きに来たっても、無理に聞き出すことでもないし。ましてや、会ったばかりの他人が相手じゃね。
『…………』
『ねえ、ここは…』
『うん…。いえ。お話し、しておこうと思います』
だけど思い切ってくれた両親は、娘に何があったのか、話してくれる気になって。
『よろしいんですか、本当に。打ち明けづらいのであれば…』
『それは…確かにそうなんです。ですが』
『お二人には、ご迷惑をかけてしまってますから…。それならせめて、娘が出てった理由だけでも、お話するのが筋だと思って』
そう言って、話し始めたチビっ子の両親。帰った娘が初めてキレて、家出までいったその理由を。
聞き流そうと思ってた。正直、最初の内は。
先輩は「二人の納得」とか言ってたけど、ぶっちゃけチビッ子の好きにすりゃいいって、その時はそう思ってたし。
先輩がどう判断したって、私がそっちに合わせりゃいいって、考えてた。
でも、変わった。こんな状況、良くないなって。あの人達の話を聞き終わった時には、そう思ってた。
「………………」
「赤さん、ちょっと。手が止まってますわよ」
「もやしっ子かー?赤ちん」
「うるせーの…」
浸り過ぎて、作業を忘れちまったか。注意も煽りも適当に流して、土にスコップを刺していく。
「な?こうやって、土にこれ刺して、こう、ボコッと」
「?」
「私の真似すりゃあいいからさ。ほら、ブスッと」
「〜」
「うん、すっげー豪快。でも違くてね?」
シーにやり方を教えるけど、加減ってのを知らないのか、スコップぶち込んだらめっちゃ深く突き刺さった。あのー、柄の先端しか見えてねーんだけど。
概ね私のお手本通りにやってんのに、その結果がやたらパワフルじゃねーかよ。
「まぁ、うん…。いいかな。お前はやんなくて…」
「?」
可愛いね…。首、コテンって傾げるの…。あーもう…。
よっこらしょって、深々刺さったスコップのやつを引き抜きながら、先輩に話しかける。
『先輩。先輩って』
『………なんですか。わざわざこんな』
私からのテレパシーを受け取って、呆れたような顔でこっちを見てくる。しゃーねえじゃんよ。チビっ子の居る場で喋りたくないし。
『チビっ子のこと。ほんとにいいわけ?』
『いいもなにも、暫く家に置くってことになったでしょう』
そうなんだよなぁ。
あいつの親から話を聞いて、帰ってきて。そんで最後には、ここに泊めることになって。
だけどなぁ。決まったことだっつってお前、なぁ。
『あんなに心配してたじゃん。あいつの両親』
『ええ。それはもう』
自分達が娘を怒らせたことの後悔だとか、目の届かない場所に居ることの不安だとか、後はまぁ、あいつの趣味に対しての考えだとか、色々なこと、聞いたけど。
私が常に感じてたのは、あの両親の、チビっ子への気持ち。なんつーか、好きなんだなって分かったよ。
愛情なんだろ。つまりはさ。
……「あの子はあの歳でも聡い子でー」とか、「学校でも成績優秀でー」とか、自慢話も、多少はあった気がするけども。
『だったら、やっぱ帰らせた方が』
『ご両親の話を報せた上で、ですか?』
『そうだよ。だからさ…』
『まーたこっ酷く言われますわよ。昨日みたいに』
『……………』
言葉に詰まる。痛いところを…。
先輩の言ってることは事実で、前日にチビっ子の家から帰った私は、あいつに教えてやろうとした。
「お前の両親があんなこと言ったのには訳があって、お前って娘を思ってたからなんだぞ」って。
だけどチビっ子のやつ、よっぽど腹に据えかねたんだか、私の話は聞こうとしなくて。
「聞きたくないです」、「余計なお世話」、「絶対帰らない」、「うるさい」、「バカ」と、まぁ取り付く島がねーっつーのか…。
『そもそもこういったことは、当人同士で面と向かって語り合うべきものじゃありません?』
『それは…』
『彼女が向き合う気になったのなら、その時はご両親だって、きっと理由を話すでしょうに』
分かってる。分かってるけどさ。
だって、その……。家族のことじゃん…。
『………。気にしますのね。やけに』
『あ?』
『貴女のことじゃありませんのに』
『…………』
『いいのですけどね。なんでも…』
ああ、そう…。まぁ、そうだよな。
口が悪くて、態度も悪くて。どこか冷めてて、面倒くさがり。それが私ってやつだもんな。らしくねーんだ、こんなのは。
我ながら、なんか言い訳みたい。それは誰に対してなのか。何に対してなのか。
「ふー。まぁ、こんなものですか」
「あ、終わりー?」
「ええ。続きは明日ということで」
そんなこと考えてる間に、庭での作業はひとまず終了。これから色々やるらしいけど、今日のところはここまでらしい。
「つかさー、こんな疲れることしなくても、赤ちんのブキでボーン!ってやっちゃえばよくね?」
「庭 吹っ飛ぶわ、バカ」
「……………」
なんかこっちをチラチラ見てくるチビっ子を視界の片隅に入れながら、後片付け。制服が汚れてないかよく確認して、室内へ。
その後は解散ってことになって、マジ子と年長さんは帰っていった。
「……………」
「……………」
時間は進んで、すっかり夜。で、今は入浴中。
この家の風呂はそこそこ広くて、二、三人纏めて入っても、窮屈には感じない。その分掃除にかかる時間も、それなりではあるんだけど。
そんな浴室の中に、今日は私以外に一人。
要するに、まぁ。風呂で一緒だった。私と、チビっ子は。
「………………あの」
「んー…?」
話しかけられる。お互い一言も喋らないから、浴室の中は静かで、だからチビっ子の声はよく聞こえた。
「…すいませんでした」
「なにが」
「昨日とか、お昼頃とか…。強く当たっちゃって…」
「あー…」
謝ってくれるんだ。私らみたいな年頃なら、「自分は悪くない」なんて、突っ張ったりもしそうなのに。
「なんか意外」
「なんですか、それ…。私にだって、罪悪感くらいありますっ」
「ふうん?」
「言ったじゃないですか。口の悪さに悩んでるって…。もー…」
口の辺りまで湯船に浸かって、ブクブク泡立たせるチビっ子。ムスッとした顔。ちょっと拗ねたかな。
「ぷふー…」
あ、浮上した、浮上。ブクブクはお終い?
「……悪いなって、思ってますよ。お父さんにも、お母さんにも…」
「じゃ、帰る?」
「それとこれとは別ですっ」
「えー」
さっきよりむくれて、またブクブク。さっきより激しくて、ブクってかボコって感じ。ボコボコ。
「心配してたんだぞー、親御さん。慣れない場所でちゃんと寝られるかな、とか。自分達と喧嘩したこと気にして、落ち込んでないかなー、とか」
「そーですかっ」
「フンッ」って、そっぽ向く。一日経って頭も冷えたかと思ったけど、そう簡単な話じゃないのか。
でもなぁ。なんだろう。単に、強がってるだけにも見えるような、ね。
「大事に思ってるんだって。お前のことさ」
「………」
知り合ったばっかで信頼もクソもないはずなのに、それでも最後には、預ける決心してくれたんだぞ?愛娘を、私達に。
『あの子の…、思うようにさせてあげて下さい』
『正直、とても心配です…。すごく不安で、仕方ない。でも…』
「でも、私達もいけなかったんですから」って、あの人達はそう言ってた。
自分達に今出来るのは、あの子を信じて待つことだから。
だから娘を、お願いします。
ここまで言う人達がさ、好きじゃないわけないんだよ。自分達の、娘のことを。
(だから、繋がっててほしいって…)
仲が悪いとかじゃないなら。お互い、気持ちが通ってるなら。一緒がいいじゃん。親子だろ?
人生、何が起こるかわからなくて、ある日いきなり、失くすことってあるから。親兄弟も、もしかしたら。
そうなった時、ギスったままでお別れなんて、そんなの酷い。想ってるだけ、辛くはなるけど…。
「だからお前も、家族は大事にした方が」
「家族だから、許してやれって言うんです?」
「や、違くて…。でも、やっぱりちゃんと」
「許せないこともありますよ。家族だって!それだけのことしたんです!私に!」
チビっ子の、語気が強くなる。私はまた、地雷を踏んじまったらしい。
「なんですか。私のことばっかり…。大体、貴女はどうなんですか」
「どうって」
「家族、ちゃんと居るんですよね!」
「それは…」
「なのに、この家に居るんでしょ。聞きましたもん。先輩さんとは、家族じゃないって」
「…………」
いや、うん…。それは、確かにそうなんだけどさ。でも、それには私なりの理由があって…
「変ですよ。訳わかんないですよ。この街に家があって、家族も居て。でも、そこから離れてるんでしょ?別の人と住んでるんでしょ?」
「ワケがなきゃ、そんなことしません」
「別に聞きませんけど、あれですよ。逃げてるって言いませんか、それ!」
「だったら、人のこと言えないですよ。バカじゃないですか!?バーカ!バーカ!」
すっかり頭に血がのぼって、あれこれ捲し立ててくるチビっ子。そんな彼女に、私はとうとう、何も返せなくなった。
だって、こいつに今言われたこと全部、その通りだって思っちまったから。
家から逃げた。家族から逃げた。
父親からも、あの人からも、そして、あの子からも。
何日、何周、何ヶ月…。いつまでも向き合おうとしないで、我儘だけで飛び出した。
そんな女が偉そうに、家族がどうだの、親がどうだの、他所の事情に口出しなんて…。
そうだよな。そんなこと、私が言っていいわけ…
「大体、貴女 無関係でしょ!それを…!」
「………………」
「あっ………」
「…………」
「あっ…えっと…。その、すいません…!私、また…」
思う存分吐き出して、ようやく少し落ち着いたのか、声が小さくなるチビっ子。
横で色々謝ってくれてるのに、今の私には、それをまともに耳に入れることは出来なかった。
自己嫌悪にどっぷりハマって、他には何も考えられなかったから…。
「失礼しまーす……って、なんですの。辛気臭い空気で」
「あっ…その、実は……って…」
「?なんですの。そんな、ジッと…」
「お母さんよりおっきい…」
「コメントに困りますわよ、それは…」
こんな二人のやり取りも、私と自分の胸を触って比べて、「え、あの…歳上、ですよね…?私よりも小…」なんて、驚いてるチビっ子のことも。
全部が全部、気にならなかった。それくらいには、浸かってた。泥沼みたいな、自分の世界に。
「………なに?」
「…トイレ」
「なんて?」
「着いてきて下さい…トイレ」
日付も変わって、時刻は深夜。モヤモヤしたまま寝床に入って数時間。シー共々、お子様に叩き起こされたと思ったらこれだよ。
「あ、勘違いしないでくださいよ。いつもは行けます。一人で行けます。おトイレくらい…!」
「行けよ、じゃあ…」
「知らないお家のトイレですよ!?暗いし、二階からじゃちょっと遠いし…!」
「うん」
「だから…!その、ですねー…!」
顔赤くして、モジモジ、ユラユラ。なんだってーのよ。
「うー……!怖いんですよぉ!だから、一緒に来てください!」
「えぇー…」
小学生ったって、六年生だろ お前…。それってつまり、来年 中学生になるんだぞ…?
「なんですか。小学生舐めてるんですか!?」
「いや、別に…。あーもう、やっぱ帰れってお前…」
「帰りません!舐めてるんですか!?」
そこは譲らねーのかよ…。めんどくせーなこいつ…。
「舐めてるんですか!?」
「あーもうわかった。わかったって…」
ほら行くぞ〜って、仕方ないから着いてこうとする私。でもチビっ子は、私の寝巻きの裾を掴んで引き止める。
「手も繋いで下さい!舐めてるんですか!?」
「や、語彙力!頼んでんの?喧嘩売ってんの?どっちよ!」
「〜!」
「うわっ。もー、怒るな怒るな…。部屋で待ってろお前は…」
手をしっかり握ってやると、私に引っ付いてたシーが怒りだす。すぐ戻るからって宥めてみても、全く効果無しだった。
「あの…、早く…!漏れます!漏れます!」
「えー、ちょっと待てってお前…!」
「〜!!」
「漏れ…漏れ…」
「あー、はいはいって!もー…!ほら、シー。これでいいだろ。お前も来い!」
こんな時間に、掃除するハメになるのは困る。シーの手も握ってやって、両手に花でトイレへGO。
や、こんな嬉しくねえ花ある?
トイレに到着した後は、近くでシーと二人して待機。
チビっ子のやつはその間も、「ちゃんと居る?居ますよね!?」ってしつこかった。
最高学年ったって、小学生は小学生。まだまだ子供ってことなのか。風呂で私を凹ませた奴と、同じ人とは思えない。
眠気をどうにか堪えながら、あくびを漏らして、私は待った。
マギレコ本編の出来事
作戦が成功し、水名女学園で月夜を捕まえることに成功した、鶴乃とフェリシア。途中で逃走を許すという事態があったものの、偶然居合わせた魔法少女の助力もあり、うわさについて聞き出すことに成功。電波少女が「二葉さな」という女学生であることを知った二人は、「暁美ほむら」と名乗る魔法少女を伴って、いろは達と合流することに。
・結界へと足を踏み入れる いろは、まどか、ほむらの三人は、さなと、ウワサである「アイ」、そしてマギウスの一人であるアリナ・グレイと邂逅する。ドッペルを発動するアリナに圧倒されるいろは達だったが、さなの「アイと別れて結界を出る」という選択の後、アイを撃破し、脱出する。アイの最後の望みを自ら叶えたさなは、いろは達と一緒に行くことを選択した。
・脱出した先のヘリポートにて、黒羽根、天音姉妹、アリナと戦ういろは達。手塩にかけて育てた魔女をフェリシアに潰され怒り狂うアリナだったが、現れたみふゆの説得により、羽根達共々去って行く。マミを探す為、また神浜に来るという まどか、ほむら。その時はまた友達として力を貸すと約束し、二人を見送ったいろは達。さな は やちよの勧めにより、みかづき荘で共に暮らすことに。