あのアニメ版いろはちゃんが実装されるので初投稿です。
「………」
風呂上がり。電気が落ちたリビングで、なんとなくボーッと過ごしてた。ソファに背中を預けながら。
外から漏れる月明かりだけが、室内をうっすら照らしてた。
「……………」
TVの音も、談笑する住人達の声も、今は無い。仮にここに全員居たって、何も話しゃあしないだろうけど。今日って日には、特に。
時計を見れば、そろそろいい時間。このままここに居ても仕方ないから、歯を磨いてから、二階に上がる。
リビングから出て行く時に目をやった庭は、何もないままだった。「これだけでも」ってことで植えられた、あのカイワレみたいなもの以外は、なにも。
「………」
「………」
階段を登り切ったところで、知った顔に出くわす。おチビのやつだ。
だけどお互い、何も言わない。一瞬目が合ったくらいで、ただすれ違って終わり。
「……………」
後ろから、階段を下りる音が聞こえる。またトイレでも行くのか。
随分ゆったり下りてるみたいだけど、やっぱ一人で行くのは怖いのかな。
でも、それを気にしてやれる余裕が、今の私にはない。後ろを振り返ることもないままで、部屋に戻った。
「………はぁ」
部屋の扉を閉め切って、溜息吐いてベッドの淵に座る。ちょっと乱暴にやったせいで、ギシッて音が鳴ったけど。
「……………」
自然と顔が俯いて、部屋に敷いたカーペットが目に入る。この家に居座ることになった数日後、先輩と街に出掛けて買ったやつ。
普段は部屋を明るい印象にするそれも、日の光やら照明やらがないんじゃあ、その効力を発揮しない。今の私の心だって、多分 動かしてくれない。
「…っ」
ボスッっと、ベッドから音がする。私が、グーで叩いた音。
「………っ!」
また叩いて、ボスッと鳴る。今度は、もっと大きい音で。
そうやって、自分の気が済むまで叩く。ボスボス、ボスボス。自分の中にあるものを、正しく吐き出せないやり方。不健全だと思った。
「〜!!」
最後に一発。思いっきり力を込めて、叩いた。だけどまだまだ収まらなくて、そのまま拳を握り込む。それくらい、私の心はささくれ立ってるってこと。
どうして、こんな気持ちになる…。
いや。原因は分かってるんだ。私のせい。自分のせい。もっと言えば、私とチビの、二人のせい。
私達が反発し合って、だからマジ子は傷付いた。結果 私も今こうやって、嫌な気分になっちまってんだ。
『マジ子…?おい、マジ子って。なぁ!』
『マジ子さん!マジ子さん!?』
血塗れのマジ子がフラついて、ブッ倒れた。その時、私もチビもイヤに慌てた声が出たのを、はっきり覚えてる。
あの時私達は、一般人に飛び降りをさせた魔女を倒しに、ビルの屋上に行って。…で、まぁ…。結果的に魔女は倒せたんだけど。
(…けど……。けどさ……!)
終わってみれば、私達はボロクソ。マジ子のやつに至っちゃあ、私とチビより酷かった。
顔も、手も、髪も脚も、何処を見ても傷だらけ。制服だって血が滲みまくってて、痛々しいとかいうもんじゃない。
そしてあいつをあんな姿にさせたのは、紛れもなく私達で…
「くっそ…!」
握り拳に、力が入る。痛いくらいに、ギリギリッて。
言い合ってる時じゃなかった。反発してる場合じゃなかった。幾ら私が、チビのことには納得してないからったって。
「…………」
魔法少女の戦いは、どんな時も命がけ。魔女も、使い魔も強いこの街では、尚更。分かってたはずだろ、そんなこと。なのに、こんな。
(弛んだのか、私が…!)
チームを組んで、戦って。そうするようになってから、傷付くことってそうそうなくて。
だから、なのか。そうやって過ごす内に、慣れが来たか。殺し合いだってこと、魔女も必死だってこと、全部忘れて。
「数が居るから大丈夫だろ」「どうせ今日も楽に終わるよな」って、どっかでそう思ってたんじゃないのか?
「っ…!!」
手に続いて、歯も食いしばる。歯同士が擦れて、音が鳴った。
イライラする。ほんとに。自分がマジで、そんなこと考えてるんじゃないかと思うと。
『わるいの、アタシだけじゃないもんねー』
『二人も、わるいもん』
情けないって、思う。
上辺だけでも仲良く出来ない。チビのことへの蟠りを隠すことも出来ないから、不和を呼んだ。
その結果、私達はマジ子に何させた?尻拭いだよ。それも二人分。体がズタズタになるオマケ付きで。
悔しいって、思う。
マジ子の言うことは間違ってなくて、あいつの言う悪かったところを、私は分かっていたはずなのに。チビだって、多分そうだろ。
そして、なによりも。
「なんで、嫌だって思ってんだ…。私…」
結界の中で私達を庇って、魔女の攻撃を受けたとき。戦いの後で、あいつがパタッと倒れたとき。
それを見せられて、私は酷く揺さぶられた。思考が止まって、胸の辺りが締め付けられたみたいになって…。
マジ子が怪我したんだって。まさか、このままくたばるんじゃって、そう考えたとき。
そんなの嫌だって、思った。ダメだって、すごく思った。どうしてだろう。
(あいつは、ただのチームメイト。戦いなんだから、傷付くのも当たり前…)
庇ってくれたのも、自分が一番傷付いてまで、突破口を開いたのも。言っちまえば、あいつが勝手にしたことだ。だったら、私がこんな気持ちになる必要なんて…。
(………………)
なんて、そう考えられたらよかった。でも、納得いかない。許されない気がしたんだよ。他の誰かじゃない、何者かに。
「…はぁぁぁぁぁ………」
深い溜息が出る。中に溜まって、でも何処にも吐き出せないものが、口から溢れてきたみたいに。
結局、私はどう思ってるんだろう。今回のこと。
(情けない…)
間違いない。今日の私、文句無しにダサかった。自分の不満を隠せない。捨てられない。そのせいで…。
(悔しい…)
これも、うん。間違いない。
チームなら、組んでるんなら。マジ子一人に、無茶をやらせちゃいけなかった。面倒を見させて、要らない大怪我まで負わせて。
(クッソ腹立つ…!)
これも。魔女に対してとかってよりも、あんな無様をやらかしちまった、私自身に対して。知らない内に弛みまくった、私のめでたい頭に対して。
(それから…)
それから…。なんだろう。思ったこと。ボロボロのあいつを見て、感じたこと…。
(……………)
……わからない。この気持ちを、私はどう呼んだらいいのか。罪悪感とか、ショックとか。それっぽいのは、浮かんでくるけど。
そもそも、その正体が分かったとして、どうだってーのか…。それを感じたのは、どうしてなのか…。
「……また、わかんねーのかよ…」
苛立ちを乗せて、呟く。いい加減にしてくれよ。もう何度目だよ。何回ここにブチ当たった?
自分のことだろ。なんで分からない。内側にあって目に見えなくても、感情ってのは私のもんだろ。だったら見せろ。はっきりさせろよ、いい加減。
私はこんなに、お前に向き合ってるんだろうが。
「……………」
なんて、何かに向かってキレてみたって、返事なんか返ってくるとか、そんなわけなくて。
結局、何も分からない。知ることも出来ないままじゃねーかよ。私…。
(……………)
分からない…そうだ、分からないっつったら…
「あいつ…」
そういえばって、マジ子に言われたことを思い出す。
フラついて、倒れて。それに驚いた私達が、マジ子に近付いて。その時に、あいつが呟いたこと。
『ねー、赤ちん…?』
『アタシがさー……?…バカって言われんの…ヤだーって、言ったら……』
『笑う…?』
そう言った後、あいつは気を失った。
私とチビはその後軽くパニクッて、どうすりゃいいのかあーだこーだ言い合ってたから、その言葉の意味を考えてる余裕は無かったんだけど。
「………ヤだ、かぁ」
あいつがあの時、何を思って私にあんなことを言ったのかは、分からない。
でも、あの時のあいつは、きっと真剣だった。おちゃらけであんな質問したんじゃないんだって、そう思う。
(気にしてたのかな…。あいつ…)
じゃなきゃ、聞かないか。「笑う?」なんて…。
確かに、あいつはバカだと思う。今でも勉強教わってるし、自分でも「アタシ、バカだしなー」みたいに言うし。
…でも もしかして、それはあいつなりの自虐で、本人は、それを気にしてるんだとしたら…?
常日頃、私や皆からバカバカ言われて、それでも笑ってて。だけどその分、裏で傷付いてるんだとしたら…?
「だから、聞いたの…?」
そこまで考えて、気付く。
私、何回言ってきたっけ…?今までどんだけ、あいつにバカって言ってきて…
「っ………」
なんだよ、それ…。つまりなにか。私はマジ子の身よりもずっと前から、心を傷付けてたってこと…?
「酷すぎんだろ…」
酷いのは、勿論 私。「なら言えよ」とか、「今までごめん」とか、ただそれだけ言えば済む話なんだけど。
だからって、人のコンプレックスをザクザク斬りつけるようなことしてたんだって、分かっちゃあ…。
「どうすりゃいいんだ…」
謝罪…そう、謝罪だよ。とにかく詫びなければならない。となれば、どうだ。土下座…土下座か?土下座しかあるまい。
このドタマ、神浜の大地にブチ込み、沈みこむくらいの土下座を見せてかなきゃいけねえ。更に、ヤツの好物のタコ焼きと、欲しがってた限定スイーツとやらを自費で買ってきて。
そんで…えーっと…。
「……なぁ、どうするよ。お前なら…」
答えるはずのないやつに、答えを求めて聞いてみる。
つって、どうせまた、質問の意味は分かってないんだろうけど。
「?」
後ろを向けば、案の定。最早見慣れた、不思議そうに首を傾げる仕草の女。神出鬼没のシーが、そこに居た。
「……さっきぶり」
「………」
「えっと…。ありがと。傷」
「?」
「治してくれたろ…。さっき」
とりあえず、礼を言っておく。
さっきってのは、夕方のこと。魔女を倒した、その後に起きた話だった。
『っ…どうする、これ…!とりあえず、傷 どうにかしないと…!』
『でも、治癒魔法なんて使えないですよね!?』
『私はな!』
『や、私もですけど…!』
マジ子が倒れた後、私達は考えた。ビルから出るのは当然として、マジ子の傷はどうすんのかって。
私達のはまぁ、最悪放置でも問題ない。けど、マジ子だけはダメ。出来た傷がデカ過ぎた。
『血も結構出てるし、長いこと放置するとマズいぞ…』
『だったら、もう病院しかないですよ…。マジ子さんの家族にも、報せが行ったりするでしょうけど…』
『背に腹はってやつね…』
あんまり事は大きくしたくないんだけど、状況が状況。マジ子の家族や、各所へのカバーストーリーも用意しなきゃで面倒だけど、仕方なかった。
『決まったんなら、急ぐぞ。救急には私が電話かけるから、お前は荷物全部持て』
後は先輩達に連絡取って、病院で合流出来るようにして、それから…。
そう忙しなくあれこれ考えてる時に、シーのやつは現れて。
『うわ!ちょっ、いつから居たんですか!?』
『つか、どこ行ってたんだよ今まで!』
『〜!』
私達のツッコミもガン無視で、だけど私をまじまじ見たシーは、涙目になって慌てだして…。
『もがっ!ちょ、やめろって!今じゃれ合ってる場合じゃ…!』
『〜!〜!』
『や、光ってる!なんか光ってるって!お前まじで何すん…!』
そんで私の顔をこう、ムギュッと両手で挟み込んできたと思えば、魔力を使い始めてさ。
『!赤い人の傷が…!』
『痛みが引いてく…。お前、これ…』
『?』
『治癒魔法!?』
なんで私に使ったんだとか、そもそも何時身につけたんだとか、そんなことはどうでもいい。
その時大事だったのは、治癒が使えるやつが居るってこと。ただ、それだけだったんだから。
『え!なんですかその嫌そうな顔!?』
『いや、ちょ…!頼むって!ホントお願い!ヤバいから!一刻を争うから!』
『……………』
………まぁ、ちょっとだけ難航したんだけど。説得とか、そういう方面で。
『わかった!じゃあホラ、お前の好きなとこにキスでもなんでもしていいから!だから二人のことも治しむぐっ』
『〜!』
『はっや。食い気味に口に行きましたよこの人…あ、人じゃないのか』
…………………。
……悪いのは私じゃない。私以外に魔法を使いたがらなかった、シーのやつがいけない。そういうことで。
「………………」
「………………」
まぁ、そんな感じで、マジ子の傷も綺麗さっぱり消えて、私達は無事 帰宅することが出来たんだけども。
「………」
それはいい。いいよ。感謝してる。カバーストーリーは要らなかったし、マジ子の家族に、心配かける事もなかった。
…でもね。でもだよ。
「〜」
「っ」
「〜……?」
私に触れようとするシーの手を、体を軽く引いて避ける。悲しそうな顔をするのを見てると、申し訳ない気分になるけど…。
「触るのはいいよ。今日は本当に助かったから。好きにしな」
「………」
「でもその代わり、一つ答えて。いい?」
「〜」
シーが頷く。それを見て私も、「ん」って、両手を適当に差し出す。一応、お好きにどうぞのサインのつもり。
「〜♪」
「んー…」
その両手を、寄ってきたシーが、同じく両手でそっと手に取る。
私の両の手の甲が、シーの両の手の平で、シーの指で包まれる。まるで、宝物を扱うみたいに、優しい手つきで。
「………♪」
「…………」
そのまま私の手を顔まで持っていって、ほっぺたに当てがう。幸せそうに微笑んで、頬擦りなんかやってみせて。
「………」
そんなシーを見る内に、土下座がどうとか暴走しかけた私の頭も、すっかり冷えて元通り。
そろそろ、いいかな。
「……お前さ」
「?」
私がしたかった、質問。シーのやつに、一つ聞いときたかったこと。
「なんで……居なくなった?さっき。あの、夕方のとき」
「………」
お互い、真っ直ぐ見つめ合う。シーの目の中に、小さく私が映ってるのが、よく見えた。
「や、ちがうの。アレよ。責めてるとか、そういうんじゃなくてさ…」
「…………」
「でもお前、ホラ。強いじゃん。だったらさ、あの時…結界で魔女と戦う時も、居てくれたら…」
「…………」
「そしたら……」
そしたら、私らが言い争うこともなくて、無駄にダメージ受けることもなかったワケじゃん?
それにさ、ホラ…。
「えっと……」
マジ子も、さ。あんなに、ズタボロになることもなくて……
「だから…」
……私が今、こんなグチャグチャな気持ちになることだって
「っ…………」
「………」
…どうしてだろう。言葉が、出なくなっていく。今さっき、落ち着いたばっかりだったはずが。
伝えたいことは分かってるのに。はっきりしてるはずなのに。
なのに、言えない。どうしてだか、つっかえちゃって。口から出てってくれないんだよ。
「…………」
「…………」
シーは、待っててくれてるのに。私が何も言えないでいる、この瞬間にも、ずーっと。
「……………」
それが申し訳なくなって、とうとう顔を俯かせる。両手もシーの顔から離して、ダラッと放り出す。
「………………」
いい。もういいよ。やめにする。
ごめん。聞きたいって言っといて、何も言えない。ワケの分からんヤツで、ごめん。
そう、切り出そうとしたとき。
「………」
「あ………」
柔らかくて、暖かいものに、私の頭が包まれる。二本の腕と、大きい胸。
シーに抱きしめられたんだって、少し遅れて理解した。
「っ…」
「………」
シーの体温。感触。香り。それらを感じてる内に、なんかすっげえ安心しちゃって。
辛いのに、だけど、意味わかんないくらいホッとして。
「…………」
「っ!!」
終いに、優しく頭を撫でられたら、そしたらなんか、私、もうダメだった。
「っ……!なんで……っ!」
「………」
「なんでっ……!なんでぇ……!」
言いながら、シーの体を叩いていく。グーの形で、何度も、何度も。力は、全く入ってないけど。
「なんでっ…!!」
また一度、シーを叩いた。今度は、少しだけ力を込めて。
「なんで」の、その先。
「あの時、居てくれなかったんだよ。」
その一言だけ、結局言えずに。
どうして、言えなかったのか。
それは多分、言っちまったら、認めることになるからだ。
囮のはず。仲間ではないはずのこいつを、当てにしていたってこと。
戦いの為に、便利に使う気だったってこと。
「お前が居れば、楽だったのに」
そんな情けない考えが、私の中にあったってことを。
それは、恥だと思うから。だから私は、ちっぽけな意地とプライドで、その言葉だけは飲み込んでみせて。
目から溢れて来そうな何かも、必死に抑えて堰き止めた。
シーの胸の中。色んな気持ちがない混ぜで、子供みたいにぐずる私を、部屋に飾ったゼラニウムが、嘲笑って見てる気がした。
ほんと…。
ダッサいんだからなぁ…。私…
マギレコ本編の出来事
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